名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)1200号 判決 1973年10月23日
原告
鬼頭良助
右訴訟代理人
伊藤公
被告
株式会社前田建築事務所
右代表者
前田稔
被告
前田稔
右両名訴訟代理人
長谷川忠男
主文
一、被告両名は原告に対し各自金三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四六年六月八日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
二、原告のその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを六分し、その一を被告両名の負担とし、その余を原告の負担とする。
四、この判決は原告において金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、第一項にかぎり仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は次のとおり請求の趣旨、請求の原因、被告の主張に対する反論を陳述した。
(請求の趣旨)
被告両名は原告に対し連帯して金一、九六二、八〇〇円及びこれに対する昭和四六年六月八日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
(請求の原因)
一、請負契約の成立
昭和四四年五月頃原告は訴外有限会社北辰建設(以下訴外北辰建設という)との間に左記のとおり建物建築請負契約を締結した。
(一) 建築場所 名古屋市中区大須三丁目一三番一二号
(二) 建物 鉄骨コンクリート造四階建事務所(貸ビル)
建坪一ないし三階各50.16平方メートル
四階26.16平方メートル
合計 176.54平方メートル
(三) 着工予定 昭和四四年八月五日
(四) 完工予定 同年一一月一五日
二、工業監理者の定め
原告は前項の建物建築請負につき、被告前田稔及び被告株式会社前田建築事務所(以下被告会社という)を工事監理者と定めた。右被告会社は一級建築士である被告前田稔が管理する建築工事事務所である。
三、建築工事の不完全履行
前記請負契約に基づき前記訴外北辰建設が着工した建物は昭和四五年二月頃外形上一応完工した。
しかしながら右建築物は設計図に反し
(イ) 北側側面外壁工事が不完全であり
(ロ) 北側側面が地上から垂直に建造されなければならないのに、最上部(14.54メートル)においては10.4センチメートル北側にかたむくような傾斜をなしているため、北側隣地に建物を所有し居住している訴外杉山鍵三郎に対し危険であるとともにその土地侵犯となつている。
四、損害の発生
(一)前項の不完全工事のため第一項の建築地の北側隣地所有者訴外杉山鍵三郎より本件建物につき改築工事請求調停の申立(名古屋簡易裁判所昭和四五年(ノ)第一二〇号)がなされた。
右調停事件につき原告は被告前田稔の出頭を求めて解決の努力をなしたが、同被告の協力が得られないまま左記のごとき調停が成立した。
(イ) 損害金三〇〇、〇〇〇円を支払う。
(ロ) 昭和五〇年四月一二日限り前記三の(ロ)の傾斜壁面を取壊し境界線上垂直な壁面とする。
(二) 前記三の(イ)記載の壁面改修工事を訴外有限会社相互建設になさしめ、その代金として金四六〇、〇〇〇円を支払つた。
五、被告らの責任
被告前田稔は建築士法一八条三号に定める業務執行上の義務を負担しているにもかかわらず、前記設計図に反する工事を漫然看過し、工事施行者に注意も与えず、建築主たる原告になんらの報告もしなかつたもので、被告会社は前記契約にもとづき被告前田稔をして業務を完全に履行させる債務を負担しているのであるから、被告両名は右債務不履行により原告が蒙つた左記の損害につきこれを賠償すべき義務あるものというべきである。
六、金銭賠償の請求
(一) 訴外北辰建設は昭和四五年初頃倒産し、現在営業を廃止している。従つて前記四の(一)の(ロ)につき訴外会社が原告との請負契約上の義務として改修工事をなし得ない。
(二) 従つて原告は他の第三者をして右の改修工事をなさしめるしか方法がない。ところで右改修工事をなすには金一、二〇二、八〇〇円を必要とする。
(三) 従つて、原告は被告両名に対し、右金一、二〇二、八〇〇円と前記四の(一)の(イ)の金三〇〇、〇〇〇円、同(二)の金四六〇、〇〇〇円を合算した金一、九六二、八〇〇円並びにこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四六年六月八日以降完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張に対する反論)
一、建築士法一八条所定の業務執行上の義務は個人たる建築士のものである。
(法人は建築士になれない。)
二、被告会社は建築士法二三条の二、一項三号に基づいて登録されたものであつて、同法二三条一項により一級建築士前田稔その他の建築士を使用して他人の求めに応じ報酬を得て設計を行なうことを業とする法人である。
三、従つて本件工事につき設計及び工事監理につき原告との間に契約を締結した以上、被告会社は原告に対してその使用する建築士たる被告前田稔をして同法一八条に規定する義務を完全に履行させる債務を負担しているものであることは明白である。
それとともに被告前田稔は同法により直接原告に対して同法上の債務を負担しているものである。
四、原告と被告両名間の建築設計、同監理契約関係の存在
(一) 原告は本件建築に先立ち訴外北辰建設との間にその規模間取り等の建物そのものについて及び建築総工事代金等について打合せ交渉をなした。
(二) 右交渉において設計を何人にやらせるかとの点につき原告はその選任を訴外北辰建設に委任し、訴外北辰建設は右委任に基づき被告両名を選任し、被告らに設計図面を作成させた。
(三) 右設計図面につき原告及び訴外北辰建設は検討の結果、右設計に基づき建築に着手することに合意し、同時に右建築工事の監理を被告両名にさせることとし、被告両名はこれを受任したものである。
(四) 右設計に基づき建築するため、昭和四四年七月名古屋市に対し建築確認申請をなすこととなり、右申請に際し原告と被告らとの間の設計及び監理契約を証するため申請書に被告両名は記名捺印したのである。
(五) 被告らの設計及び工事監理に要する費用については訴外北辰建設に対してその交渉決定を委任した。右の経過にかかわらず、被告らは工事監理についての費用報酬を受領していないから、右については責任を負わない旨の被告らの主張は失当である。
五、建築基準法及び建築士法との関係による被告らの工事監理義務
(一) 本件建築は建築士法三条の二、一項一号及び二号に該当する建築物であるから、建築基準法五条の二、二項に該当し、同三項により工事監理者を定めなければ工事をすることができないものである。
(二) 従つて本件建築につきその申請をなす時点において右両法との関係上、被告らは明確に工事監理につき原告とその契約をなし、その責任を負つているものである。
被告ら訴訟代理人は次のとおり請求の趣旨に対する答弁、請求の原因に対する答弁及び被告の主張、原告の主張に対する反論を陳述した。
(請求の趣旨に対する答弁)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(請求の原因に対する答弁)
一、請求原因一は不知。
二、請求原因二のうち、被告会社は一級建築士被告前田稔が管理代表するものであることは認め、その余の事実は否認する。
三、請求原因三は否認。
四、請求原因四のうち、訴外杉山鍵三郎より本件建物につき改築工事請負調停申立がなされたことは認めるが、調停成立の内容については不知。
五、請求原因五は否認
六、請求原因六(一)(二)は不知。同(三)は争う。
(被告の主張)
一、被告前田稔は設計委託を受ける場合、被告会社として委託を受けるのであつて、被告前田稔個人として委託を受けたことはない。設計委託契約の当事者は被告会社であつて、契約の当事者でない被告前田稔に対する請求は失当である。
二、(一)被告会社及び被告前田稔は原告より本件建物について設計工事監理の委託を受けていないから、建築士法一八条三項の責任を負わないのは当然である。すなわち、被告会社は昭和四四年七月七日訴外北辰建設より、本件建物の建築確認申請に必要な書類の作成、その申請手続並びに建方検査(鉄骨が強度上安全か否かの検査)のみの委託を受けたにすぎない。
(二) 被告会社は右委託に基づき、昭和四四年七月九日名古屋市役所換地課において調査をなし、同日訴外北辰建設代表者工藤辰三と現地にのぞみ、現地調査のうえ右書類を作成し、昭和四四年七月一七日建築主事に建築確認の申請をなし、同年八月一四日右申請の許可を受け同年九月二九日建方検査をなし、被告会社の事務は全く完全に終了したのである。
(三) 被告会社は右事務の進行完了の報酬として訴外北辰建設より金六〇、二〇〇円を工事請負金五、五〇〇、〇〇〇円のうちから受取つたにすぎない。被告会社が通常設計委託を受ける場合は建築主より委託を受け、報酬も建築主より受取るのであるが、原告よりは一銭も受取つていない。又その金額も建築設計監理をする場合に比べても格段に安いことから考えても、訴外北辰建設より工事監理を請負つていないこと明白である。(建築設計、工事監理をする場合は工事請負金の五ないし六ぱーセントである。)よつて原告の被告会社、被告前田稔を工事監理者と定めた旨の主張は失当である。
ちなみに、建築士法一八条は建築士の業務について設計を行なう場合と工事監理を行なう場合と別個に規定していることも考えると、建築士が設計の委託のみを受けた場合は工事監理までの責任を負う必要はないと解せられる。
三、本件建物につき原告主張の瑕疵が存するかもしれないが、その瑕疵は被告会社の設計に基づく瑕疵ではなく、訴外北辰建設並びにその下請業者の工事監理に基因するものであつて責任を負わなければならないのは訴外会社、下請業者である。被告会社、被告前田稔が工事監理まで委任を受けていないのは前記のとおりであつて、被告会社、被告前田稔が責任を負わねばならない理由は存しない。
(原告の主張に対する反論)
一、被告会社が一級建築士前田稔を使用して他人の求めに応じて報酬を得て設計、工事監理を行なうことを業とする法人であることは論をまたないが、原告主張のごとく被告会社が本件工事につき設計の依頼を受けたとはいえ、工事監理についてまで依頼を受けていないのであり、原告の工事監理まで契約を締結したとの主張は失当である。
被告会社が工事監理責任を負わない以上、被告会社が被告前田稔をして建築士法一八条三項所定の業務を履行させる債務を負担していないのは当然であり、被告前田稔が責任を負担しないのも当然である。
二、建築士法一八条は建築士の業務執行についての倫理規定であつて建築士が法的責任を負うのは契約責任に基づくのであり、その責任内容は契約の内容如何によるべきである。被告前田稔は被告会社が契約に基づく工事監理責任を負わない以上、建築士法一八条により直接に原告に対しなんらの法的責任を負うことはない。
三、(一) 本件建物の工事の瑕疵は、工事の実施およびその監督上のミスに基因するものであり、工事監理のミスによるものではない。従つて、たとえ、被告会社及び被告前田稔が原告より工事監理までをも委任されたものとしても、被告らには賠償義務はない。
(二) 建築士法二条五項及び一八条二項によれば、建築士として負うべき工事監理責任とは、工事施行者によつて実施され区切りのついた工事を照合し、一致しない場合は工事施行者に注意を与え、その注意を聞かない場合は建築主に報告する義務があるのみである。従つて工事の実施の各工程につき添つて工事施行者の工事の方法等について監督する義務もなく、権限もない。かかる義務を負い、権限を有するのは工事の指導監督者である。(同法二〇条)
(三) 工事監理者の照合は各工事の実施に従い、出来あがつた工事を設計図書どおりに実施されているかどうかを過去において照合するものであつて、その結果設計図書どおりでないと認められる場合、注意報告責任があるのみである。すなわち工事監理者としての建築士の責任は工事の実施に損害が発生しているかどうか確かめることに尽きるものであり、すでに発生している損害を未然に防止する義務があるものではない。工事施行上のミスによる損害と工事監理者の責任とは常に因果関係はないから、発生した損害につき建築士が賠償義務を負う必要はない。
(証拠)<略>
理由
一被告会社が一級建築士である被告前田稔の管理代表するものであることは当事者間に争いがない。
<証拠>を綜合すると、次の事実が認められる。
(一) 原告は昭和四四年五月頃訴外北辰建設との間に原告主張のごとき鉄筋コンクリート四階建事務所建築請負契約を締結し訴外北辰建設の仲介で被告会社(代表者一級建築士被告前田稔)に工事設計及び工事監理を委託し、同年八月六日その旨の記載ある建築確認申請をなし、同月一四日名古屋市建築主事水野誠より確認番号四〇六―二三六号をもつて建築確認通知を受けたこと。
(二) 前記請負契約に基づき訴外北辰建設が着工した建物は昭和四五年二月頃外形上一応完工したが、右建築物は設計図に反し北側側面外壁工事が不完全であり、北側側面が地上から垂直に建造されなければならないのに、最上部(14.64メートル)においては、10.4センチメートル北側に傾むくような傾斜をなしていたこと。
(三) そこで危険を感じた訴外杉山健三郎(北側隣地の建物所有兼居住者)よりその土地侵犯の除去を求める調停申立がなされ(調停申立の事実は当事者間に争いがない)、調停の結果原告は同訴外人に対し損害賠償として金三〇〇、〇〇〇円を支払い、越境したブロック壁を撤去することを約したこと。
以上の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は措信しがたい。すなわち、被告本人前田稔は、被告会社においては訴外北辰建設より設計書の作成と建築に必要な申請手続を依頼されただけで、監理の委任は受けていない。訴外北辰建設代表者工藤辰三は監理は社員である二級建築士の三浦芳人にさせるというのでそれを信用し、市の建築確認を受ける便宜上申請書の工事監理者欄に被告会社の記名押印をして提出したにすぎない旨供述し、工藤証人もこれに照応する証言をなしているのであるが、前記の訴外三浦芳人は建築士事務所登録をしていないことを被告前田稔も了知していたことは、本人尋問において同被告の自認するところであるから、同被告において訴外北辰建設代表者工藤辰三の言をそのまま信じたとは到底解せられず、確認申請書に設計者及び監理者として被告会社の記名捺印をなした以上、被告会社において設計はもとより監理についても委託を受けたものと推認するに十分であつて、被告本人前田稔の供述及び工藤証人の証言は採用できない。
二そこで被告らの主張について逐次考察する。
1 設計委託は被告会社において受けたもので契約の当事者でない被告前田稔に対する請求は失当であるとの主張について
前記認定のとおり原告は訴外北辰建設を介して被告会社との間に設計監理の委託契約を締結したものと認められ、被告前田稔は契約の当事者者でないというべきであるが、被告会社は一級建築士である被告前田稔の管理代表するものであることは、前記のとおり当事者間に争いなく、被告会社の委託を受けた設計監理の業務は一級建築士たる被告前田稔が執行するわけであり、本訴が建築士である被告前田稔の業務執行の不履行を追及するものであることは原告の請求原因よりみて明らかであるから、被告らの右主張は失当である。
2 被告会社及び被告前田稔は原告より設計監理の委託を受けていないとの主張について
前記認定のとおり本件設計及び監理の委託契約は原告と被告会社及び被告前田稔との間に直接なされたものでないとはいえ、訴外北辰建設を介して被告会社との間に設計監理の委託契約がなされた以上、訴外北辰建設は原告を代理して右契約をなしたものと解されるから、原告と被告会社間に右設計及び監理の委託契約が成立したということができ、被告前田稔は契約当事者ではないが、被告会社を管理代表する一級建築士として業務執行に当ることとなること前記のとおりである。
被告らは被告会社において事務遂行完了の報酬として訴外北辰建設より金六〇、二〇〇円を受取つたにすぎないから、訴外北辰建設より監理を請負つていないこと明らかであると主張する。
<証拠>によれば、被告会社において訴外北辰建設に対し「鬼頭良助氏設計監理料」として金五八、二〇〇円、「市役所納金手数料」として金二、〇〇〇円計金六〇、二〇〇円の請求をなし、右金額の領収がなされていることが認められる。右領収書には明らかに設計監理料と記載されており、金六〇、二〇〇円にすぎないから設計料のみであるとの被告らの主張は失当である。被告本人前田稔は工事監理の報酬は通常工事全額の三パーセントくらいであつて、本件工事の請負金額は金五、五〇〇、〇〇〇円であるから金一六五、〇〇〇円である旨供述するが、右供述及びこれに照応する<証拠>をもつてしても前記認定を左右しがたい。
3 本件建物についての瑕疵は訴外北辰建設並びにその下請業者の工事監理に基因するとの主張について
被告会社は設計のほか監理についても委託を受けていると認められること前記のとおりであるから、被告会社の一級建築士である被告前田稔は建築士法一八条により設計及び監理につき業務執行の義務あること明らかであり本件建築工事の瑕疵は訴外北辰建設及びその下請業者の工事施工に基因するとはいえ、一級建築士である被告前田稔が設計どおり工事が進行しているか否かにつき監理義務を尽しておれば、本件工事の瑕疵は直ちに発見でき、訴外北辰建設に注意を与えることにより是正できたものと解せられるから、被告前田稔は監理業務の不履行につきその責を免れえないものというべきである。
なお被告らは建築士法一八条は建築士の業務執行についての倫理規定にすぎない旨主張するが、右はいわゆる手抜工事の防止のため建築士に課せられた業務責任と解すべきである。すなわち建築士が工事監理をも委託された場合においては、設計どおり工事が進行していないと認めるときの工事施行者に対し注意を与える義務、工事施行者が従わないとき建築主にこれを報告する義務は、建築士法一八条によつて建築士に課せられた業務責任というべく、建築士の右義務違背の結果建築主が損害を蒙つた場合には、建築主(本件においては原告)は工事監理契約をなした当事者(本件においては被告会社)に対し、右契約責任を問いうるほか、建築士個人(本件においては被告前田稔)に対しても、その責任を追及しうるものと解せられる。
以上の次第で、被告らの主張はいずれも採用できない。
三ところで、前記認定の本件工事の瑕疵により訴外杉山健三郎より申立てられた調停の結果原告が同訴外人に支払つた金三〇〇、〇〇〇円については、被告前田稔の建築士としてなすべき建築士法上の監理義務不履行と右原告の損害との間に相当因果関係が認められるから、監理につき委託契約を受けた被告会社においても契約責任にもとづき監理不履行の責を負うべきであり、被告両名は各自右原告の損害につき賠償義務あるものというべきである。(原告は連帯請求をなしているが、連帯債務とは認められない。)
しかしながら、原告の主張するその他の損害(原告の請求原因三(イ)の壁面改修工事費用及び同じく四(一)(ロ)の改修に要する費用)については、工事施行者であつた訴外北辰建設に対して請求すべきものであり、被告前田稔の監理義務不履行との間に相当因果関係を認めがたいから、被告会社においても契約責任を負うべきかぎりでなく、結局右損害についての被告両名に対する賠償の請求は失当というべきである。
よつて、原告の本訴請求は被告両名に対し各自前記金三〇〇、〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四六年六月八日以降完済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(黒木美朝)