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名古屋地方裁判所 昭和46年(行ウ)48号 判決 1976年2月25日

名古屋市昭和区御器所一丁目一三番地

原告

住田一義

右訴訟代理人弁護士

原田武彦

名古屋市瑞穂区瑞穂町西藤塚一番の四

被告

昭和税務署長

高橋多嘉司

右指定代理人

伊藤好之

渡邊宗男

山村二郎

大山義隆

杉村功

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告が原告に対し昭和四一年三月一二日付でなした昭和三七年分ないし同三九年分の各所得税更正処分および過少申告加算税賦課決定処分(但し、昭和三八年分については裁決により一部取消後のもの)をいずれも取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は訴外名古屋中税務署長(以下、訴外署長という)に対し、昭和三七年分の所得税につき昭和三八年三月一一日に、昭和三八年分のそれにつき昭和三九年三月一四日に、昭和三九年分のそれにつき昭和四〇年三月一五日にそれぞれ別表(一)(確定申告表)記載のとおり申告したところ、訴外署長は昭和四一年三月一二日付で別表(二)(更正処分表)記載のとおり、各更正処分および過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件課税処分という)をなした。

二、そこで、原告は本件課税処分を不服として昭和四一年三月二三日訴外署長に対し異議申立をなしたが、訴外署長は原告の納税地(昭和四二年七月頃名古屋市昭和区洲原町二丁目六番地へ転居)を所轄する被告昭和税務署長に右異議申立事件を移送し、被告は同年六月二二日付でこれを棄却する決定をなしたので、原告はさらに名古屋国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長は昭和四二年四月二〇日付で別表(三)(裁決明細表)記載のとおり、本件課税処分のうち昭和三八年分につき一部取消し、同三七、三八年分につき棄却する旨の裁決をなした。

三、しかしながら、本件係争年における原告の所得はいずれも各申告額を越えないから、本件課税処分(但し、昭和三八年分については裁決により一部取消後のもの)は違法である。よって、原告は被告に対しその取消を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

請求原因第一、二項の事実は認め、第三項は争う。

(被告の主張)

一、原告は、本件係争各年当時、パチンコ店有限会社一楽を経営し、同会社から給与および家賃収入を得ていたほか、原告の所有土地建物の一部を売却して得た資金を貸付け、貸付金利息等収入を得ていたものである。

二、訴外署長は、原告の申告には貸付金利息等収入による所得洩れがあると思われたので、昭和四〇年頃から係員をして実地調査を行なわせたが、原告は右調査に対し帳簿書類その他所得金額計算の基礎となるべき資料を提示しなかったので、やむを得ず、収集した取引資料等により貸付金利息等の金額および所得金額を算定したものである。

三、原告の総所得金額および所得控除額は次のとおりである。

1 昭和三七年分

(一) 総所得金額 九、二六四、四六三円

(内訳)(イ) 不動産所得金額 三三六、〇〇〇円

(ロ) 給与所得金額 一九一、二八〇円

(ハ) 雑所得金額(貸付金利息等収入) 八、七三七、一八三円

(二) 所得控除額 九七、五〇〇円

(内訳) 基礎控除額 九七、五〇〇円

2 昭和三八年分

(一) 総所得金額 九、七一五、四九五円

(内訳)(イ) 不動産所得金額 三五七、〇〇〇円

(ロ) 給与所得金額 一七六、八〇八円

(ハ) 雑所得金額(貸付金利息等収入) 九、一八一、六八七円

(二) 所得控除額 一一〇、〇二〇円

(内訳)(イ) 基礎控除額 一〇七、五〇〇円

(ロ) 社会保険料控除額 二、五二〇円

3 昭和三九年分

(一) 総所得金額 一〇、九五五、五九五円

(内訳)(イ) 不動産所得金額 三五七、〇〇〇円

(ロ) 給与所得金額 二一二、五五二円

(ハ) 雑所得金額(貸付金利息等収入) 一〇、三八六、〇四三円

(二) 所得控除額 一一七、五〇〇円

(内訳) 基礎控除額 一一七、五〇〇円

四、雑所得金額の算定について

被告の主張する原告の係争各年分雑所得金額(貸付金利息等収入)は次のとおりである(別表(四)貸付金利息等一覧表参照)。

1 奥村産業合資会社、東海工機有限会社、名港工業合資会社、奥村繁藤および奥村あさ子(現在加藤あさ子)に対する貸付金利息と遅延損害金について。

(一) 昭和三七年分利息 二八、四三九円

遅延損害金 六、五一四、八二三円

(二) 昭和三八年分利息 三三、九六九円

遅延損害金 六、七一七、三七三円

(三) 昭和三九年分利息 四一、六六〇円

遅延損害金 七、三五六、三九九円

奥村産業合資会社、東海工機有限会社および名港工業合資会社はいずれも奥村繁藤、同人の妻奥村あさ子を主な社員とするいわゆる同族会社である。原告はこれら法人および個人に対し昭和三七年頃から金員を貸付け、貸付金利息等を得ていたものである。

そして、名古屋地方裁判所昭和三八年(ヌ)第一六九号不動産強制競売申立事件(債務者兼所有者奥村繁藤外一名)において原告が提出した配当要求書記載の貸付金額、貸付年月日、弁済期日にもとづき、利息制限法一条に定める利率および同法四条に定める賠償額の割合によって前記債務者らに対する利息と損害金を計算すると、別表(五)の一ないし三(奥村産業合資会社らに対する利息および損害金計算表)記載のとおりであるから、これらをいずれも係争各年分の収入すべき権利の確定した収入として把握し、雑所得として課税したものである。

2 東洋工業株式会社に対する貸付金利息について。

(一) 昭和三七年度分利息 一、〇五六、〇〇〇円

(二) 昭和三八年度分利息 一、一五二、〇〇〇円

(三) 昭和三九年度分利息 一、一五二、〇〇〇円

原告は昭和三七年二月頃右会社に対し一、六〇〇、〇〇〇円を貸付けた。右貸付金に対し約定利率月六分の割合により計算された利息額は別表(六)(東洋工業株式会社に対する利息計算表)記載のとおりであり、これらはいずれも債務者から原告へ支払済みである。

3 株式会社荒川ベニヤ商会に対する貸付金利息について。

(一) 昭和三七年度分利息 一四四、〇〇〇円

(二) 昭和三八年度分利息 一四四、〇〇〇円

(三) 昭和三九年度分利息 一二〇、〇〇〇円

原告は、昭和三五年八月頃右会社に対し二〇〇、〇〇〇円を貸付けた。右貸付金に対し約定利率月六分の割合により計算された利息額は別表(七)(株式会社荒川ベニヤ商会に対する利息計算表)記載のとおりであり、これらはいずれも昭和三九年一〇月二七日までに元金とともに原告に弁済されている。

4 有限会社大日工業所に対する貸付金利息と遅延損害金について。

(一) 昭和三七年分利息 六、一九三円

遅延損害金 二〇七、五一八円

(二) 昭和三八年分利息 三九、〇二七円

遅延損害金 二九九、三五八円

(三) 昭和三九年分利息 四九、三二五円

遅延損害金 八七〇、六九九円

原告は、昭和三六年四月頃から右会社に対し、別表(八)記載のとおり合計二、五八六、〇〇〇円を貸付けた。右貸付金は係争各年には返済されなかったので、利息制限法一条に定める利率および同法四条に定める賠償額の割合によって利息と損害金を計算すると、別表(八)(有限会社大日製作所に対する利息計算表)記載のとおりであり、これらをそれぞれの係争各年分に収入すべき権利の確定した収入として把握し、雑所得として課税したものである。

5 森喜市に対する貸付金利息について。

(一) 昭和三七年分利息 七八〇、二一〇円

(二) 昭和三八年分利息 七九五、九六〇円

(三) 昭和三九年分利息 七九五、九六〇円

原告は昭和三二年以前から森喜市に対し数回にわたり合計一、一〇五、五〇〇円を貸付けた。右貸付金および利息は、昭和四一年末頃から同四三年九月にかけ債務者から原告に対し、合計一〇、〇〇〇、〇〇〇円が支払われ、完済された。そこで、係争各年中における貸付金につき、約定利率月六分の割合による利息を計算すると、別表(九)(森喜市に対する利息計算表)記載のとおりであり、これらをそれぞれの係争各年分に収入すべき権利の確定した収入として把握し、雑所得として課税したものである。

以上によれば、原告の係争各年における総所得金額は別表(一〇)(所得計算表)記載のとおりとなる。

五、従って、本件課税処分(但し、昭和三八年分については審査裁決により一部取消された後のもの)は、いずれも右各総所得金額の範囲内でなされているから、何らの違法はない。

(被告の主張に対する原告の認否)

一、被告の主張一のうち、原告が本件係争各年に貸付金利息収入を得たとの点は否認し、その余の事実は認める。

二、同三のうち、係争各年とも、不動産所得金額、給与所得金額および所得控除額は認めるが、総所得金額と雑所得金額を争う。

三、同四のうち、

1 原告が奥村産業合資会社らに対し別表(五)の一ないし三記載のとおり金員を貸付けたこと(貸付年月日、弁済期を含む)は認めるが、被告主張の利息金収入および損害金収入のあることは否認する。

2 別表(六)記載のとおりの貸付金があることおよび原告が右貸付金に対し約定利率月六分の割合により計算された利息をいずれも債務者から収受したことは認めるが、このうち課税の対象となる所得は係争各年ともそれぞれ二四〇、〇〇〇円に限られるので、その余の利息収入は否認する。

3 別表(七)記載のとおりの貸付金があることおよび原告が右貸付金に対する約定利率月六分の割合により計算された利息を元金とともに収受したことは認めるが、課税の対象となる所得は昭和三七、三八年分各三六、〇〇〇円、同三九年分三〇、〇〇〇円に限られるので、その余の利息収入は否認する。

4 別表(八)記載のとおりの貸付金があることは認めるが、利息収入の点は否認する。

5 森喜市に対する貸付金利息については、すべて認める。

(被告の主張に対する原告の主張)

一、奥村産業合資会社らに対する貸付金利息等について。

原告は、右会社らに対し昭和三五年一二月二五日から同三六年九月八日までに四〇回にわたり合計一二、一八三、〇〇〇円を貸付けたが、係争各年当時は、利息はもとより元金の回収すら困難な状態であった。しかし、右貸金担保のため売買一方の予約の仮登記を了してあった名古屋市港区新船町三丁目一番の一六、宅地四〇坪、同番の一七、宅地四〇坪および同地上にある建物が円滑に換価できれば一一、五九〇、〇〇〇円程度になるので、さらに計五〇〇、〇〇〇円を追い貸しし、貸金合計は一二、六八三、〇〇〇円に達した。

そこで、原告は昭和三九年九月二六日、貸付元金中一一、五九〇、〇〇〇円を同年一〇月五日までに弁済するよう催告するとともにこれが支払のないときは右貸付金額をもって売買予約を完結する旨の意思表示をなしたが、右期限までに弁済がなかったので、売買予約は完結した。従って、別表(五)の三のうち、番号4.7.11ないし17.20.24ないし26.29.30.33.35.36.38.40ないし55.57.ないし59.71.79ないし81の各貸付金は同年一〇月五日右売買予約完結により消滅したので、利息債権等の発生する余地はない。

そして、残存資金については、担保となっている不動産が名古屋地方裁判所昭和三八年(ヌ)第一六九号強制競売申立事件として競売の対象となったので、原告は、係争各年分の利息または遅延損害金の回収不能と判断し、元金だけの配当要求書を提出した。それでも、先順位債権額が多大のため後順位の原告債権は二、六六一、二一七円回収できたのみで、その余は回収不能である。従って、係争各年における利息、遅延損害金はもとより回収不能である。計算上利息および遅延損害金債権があっても、当時既に回収不能であることが確定したものであるから、これを所得とみなすべきではない。

もっとも、原告はその後も引続き金員を貸付けているが、これは、前売買予約の完結した物件の価値から追い貸しを迫られ止むなく継続して貸付けたもので、利息等の回収が不能であることに変りはない。

二、東洋工業株式会社に対する貸付金利息について。

右会社からの利息収入は係争各年間に合計三、三六〇、〇〇〇円であったが、同会社は右金額中一、六〇〇、〇〇〇円につき利息制限法所定の利率を超過するものとして元本に充当する旨主張したので、残額一、七六〇、〇〇〇円(一年につき五八六、六六六円)だけが係争各年における利息収入となる。

ところが、同会社はさらに利息制限法による年一割五分を超過する支払利息の返還を請求するところ、約定利息は月六分、年利に換算して七割二分であるため、右請求は当然容認され、係争各年五八六、六六六円の利息収入中、年一割五分の割合による二四〇、〇〇〇円を超過する三四六、六六六円は返還しなければならない金額である。従って、結局課税の対象となる利息収入は適法な利息である一ケ年二四〇、〇〇〇円の三年分七二〇、〇〇〇円だけである。

三、株式会社荒川ベニヤ商会に対する貸付金利息について。

右会社に対する貸付金および利息については被告主張のとおりであり、現在のところ同会社からは何らの主張がない。しかしながら、同会社からの係争各年にわたる利息収入合計四〇八、〇〇〇円のうち、利息制限法所定の年一割八分を超える昭和三七、三八年分各一〇八、〇〇〇円、同三九年分九〇、〇〇〇円合計三〇六、〇〇〇円については法律上返還義務があるから、課税の対象となる利息収入は、昭和三七、三八年分各三六、〇〇〇円、同三九年分三〇、〇〇〇円の計一〇二、〇〇〇円とするのが正当である。

四、有限会社大日工業所に対する貸付金利息等について。

右会社に対し被告主張の額の貸金があることは認めるが、右貸金の担保として、連帯保証人嵯峨肇所有の名古屋市熱田区横田町二丁目一三番、宅地一三七坪および同地上建物に抵当権および代物弁済予約の仮登記を経由していたところ、これにつき先順位の抵当権および停止条件付所有権移転請求権保全の仮登記を有していた訴外萩原利尚は昭和三二年三月二五日売買を完結し、所有権移転登記を経由してしまった。そのため、借主および連帯保証人は係争年当時既に元金はおろか利息の支払能力すらない状態で、利息だけでも免除して欲しい旨懇請されたので、原告は利息を放棄した。

従って、本件係争各年における利息収入はなかったものである。

(原告の主張に対する被告の反論)

一、原告の主張一について。

原告は、売買予約完結の対象である土地建物につき、その所有者訴外加藤あさ子外五名を被告とし、売買一方の予約完結を原因とする所有権移転登記手続等を求める訴訟(名古屋地方裁判所昭和四三年(ワ)第一五七二号事件)を提起したが、原告が敗訴したため、名古屋高等裁判所に控訴係属中である。しかも、原告が右売買予約の仮登記を了して保全した貸金債権は、その主張にかかる貸付金ではなく、それ以前に発生した別の貸金債権である。さらに、原告は、名古屋地方裁判所昭和三八年(ヌ)第一六九号不動産強制競売申立事件において、原告が貸金の一部消滅したと主張する昭和三九年一〇月五日後の同四〇年三月二五日に、右消滅貸付金およびこれに対する利息等を含めて配当要求しているのであって、このことは、少なくとも右配当要求日現在では原告が消滅したと主張する貸付金および利息等の存在を自認していたことを裏付ける。これらの点からして、昭和三九年一〇月五日売買予約完結によりその主張の番号の各貸付金が消滅し利息債権は発生しないとの原告の主張は、失当というべきである。

次に、その余の貸付金について、原告が前記強制競売申立事件において貸付金総額およびこれに対する利息額等の配当要求をしたのは昭和四〇年三月二五日であり、右配当を受けたのは同四三年二月一九日であるから、右配当受領日前に回収不能になったとの原告主張は失当である。原告は右配当受領日後においても残余の債権につき放棄あるいは免除をしていないから、回収不能とは考えられないが、仮に回収不能となったとしても、それは早くとも被告が本件課税処分をなした昭和四一年三月一二日後のことである。

なお、回収不能の金額が確定した場合は、回収不能となった日後一ケ月内に限り更正請求ができる(旧所得税法二七条の二)に過ぎない。

以上のとおりであるから、被告において、利息制限法一条に定める利率および同法四条に定める賠償額の割合によって利息額等を計算し、これを旧所得税法一〇条一項に規定する「収入すべき金額」と認定したことに何らの違法はない。

二、原告の主張二について。

利息制限法の制限超過の利息損害金が現実に収受されても、その制限超過部分については民法四九一条により残存元本に充当するものと解されている。しかし、それが課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしもその法律的性質如何によって決せられるものではない。当事者間において約定の利息損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っている以上、制限超過部分をも含めて現実に収受された約定利息、損害金の全部が貸主の所得として課税の対象になるというべきである。もっとも、借主が約定の利息、損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当することにより、計算上元本が完済となったときは、その後に支払われた金員につき、借主が不当利得の返還請求をなし得るので、貸主は一旦制限超過の利息等を収受しても法律上これを保有し得ないことがありうるが、そのことの故をもって、現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないものと解すべきではない。

本件において、原告は東洋工業株式会社から約定の利息として係争各年に被告主張の額の金員を収受した事実を自認しており、しかも、原告、同会社ともに本件係争各年分の納税義務が成立する各年の一二月三一日現在(同会社の決算期は年一回一二月である。一二月三一日に納税義務が成立することにつき国税通則法一五条二項参照)において、依然として従前どおりの元本一、六〇〇、〇〇〇円が残存するものとして取り扱っているから、利息制限法超過部分を含め、現実に収受した利息の全部が原告の雑所得を構成することは当然である。

しかのみならず、東洋工業株式会社は原告に対し、昭和四〇年四月一六日付通知書をもって、既に支払済みの利息のうち利息制限法超過部分の元本への繰入れを要求したが、原告よりこれを拒絶されたため、同会社は原告に対し、昭和四二年二月二八日に六〇〇、〇〇〇円、同年一二月二五日に五〇〇、〇〇〇円、同四三年五月二日に五〇〇、〇〇〇円、合計一、六〇〇、〇〇〇円の元金全額を返済しているから、原告の主張は右事実からもその前提を欠き、失当というべきである。

三、原告の主張三について。

前記二において述べたと同じ理由により、利息制限法超過部分を含め現実に収受した利息の全部が原告の雑所得を構成する。

四、原告の主張四について。

原告が先順位者にとられたと主張する担保物件が被告主張の貸付金についてのものであることを争う。しかも、原告は被告主張の貸付金とその利息の回収を図るべく現在も努力しているところであるから、係争各年分の利息を放棄したとの原告主張は事実に反するものである。

第三証拠

(原告)

甲第一、二号証、第四号証の一ないし六、第五ないし第七号証を提出し、証人伊藤明、同嵯峨照夫の各証言、原告本人尋問の結果を援用した。

乙第八ないし第一一号証の成立を不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。

(被告)

乙第一ないし第四号証、第五、六号証の各一ないし三、第七号証の一ないし四、第八ないし第一二号証を提出し、証人山田実、同市川朋生の各証言を援用した。

甲第一、二号証、第四号証の六のうち、いずれも官署作成部分の成立を認め、その余の部分の成立を不知とし、甲第四号証の一ないし五の成立を不知とし、その余の甲号各証の成立を認めた。

理由

一、請求原因一、二の事実(本件課税処分の経緯等)は当事者間に争いがない。また、原告の総所得金額のうち、不動産所得金額、給与所得金額については、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、本件においては、係争各年とも、原告の雑所得金額(貸付金利息等収入)のみが争点であるので、以下この点について判断する。

二、貸付金利息等収入についての判断

1  奥村産業合資会社らに対する貸付金利息等について。

(一)  原告が奥村産業合資会社外四名に対し別表(五)の一ないし三記載のとおり金員を貸付けたことは、当事者間に争いがない。

(二)  被告は、原告の右貸付金に対し、利息制限法一条に定める利率および同法四条に定める賠償額の割合によって計算した利息および損害金が別表(五)の一ないし三記載のとおりであり、これらをいずれも係争各年分の原告の収入すべき権利の確定した収入とし、雑所得として課税するものである。

ところで、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)一〇条一項に規定する「収入すべき金額」とは、いわゆる権利確定主義により、「収入する権利の確定した金額」をいうものと解される。それで、金銭消費貸借においては、履行期の到来した利息、損害金債権は、それが利息制限法の制限内である限り、未収の段階においても、課税の対象となるべき所得を構成するというべきである。

本件においては、原告の右会社らに対する貸付金の存することについては前記のとおり争いがなく、その約定利率および賠償額の割合がいずれも利息制限法所定のそれを超えるものであることは弁論の全趣旨により明らかであるから、被告が利息制限法所定の利率および賠償額の割合の範囲内で計算した別表(五)の一ないし三記載のとおりの利息、損害金を旧所得税法一〇条一項に規定する「収入すべき金額」と認定したのは、相当であると認めることができる。

(三)  原告は、別表(五)の三記載の貸付金のうち、番号4.7.11ないし17.20.24ないし26.29.30.33.35.36.38.40ないし55.57ないし59.71.79ないし81の各貸付金は、昭和三九年一〇月五日、右貸付金をもってする売買一方の予約の完結により消滅したので、利息債権等の発生する余地はない旨主張する。

そこで判断するに、官署作成部分についてはその成立に争いがなく、その余の部分については原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一、二号証によれば、原告が貸金担保のためにその主張の物件に売買一方の予約の仮登記を了し、昭和三九年九月二六日債務者加藤あさ子に対して催告並びに条件付売買完結の意思表示をなしたことを認めることができる。しかし、成立に争いのない乙第五号証の一、二、第六号証の一ないし三によれば、原告は右売買一方の予約完結を原因とする所有権移転登記手続等を求める訴訟(名古屋地方裁判所昭和四三年(ワ)第一五七二号事件)を提起し、同訴訟において、右売買予約は債権担保のためのものであるから強制競売手続に参加して被担保債権の弁済を受けるべきであるとの理由で原告敗訴の判決を受けていること、原告は名古屋地方裁判所昭和三八年(ヌ)第一六九号不動産強制競売申立事件において、原告が貸金の一部消滅したと主張する昭和三九年一〇月五日後の昭和四〇年三月二五日、右消滅貸付金およびそれに対する利息等を含めて配当要求をしていること等の事実が認められるので、原告の右貸付金消滅の主張は理由がない。

次に、原告は、右会社らに対する貸付金の係争各年における利息、損害金は当時回収不能であることが確定していたものであるから、計算上の利息、損害金があっても、これらは本件係争各年の収入たりえない旨主張する。

そこで判断するに、成立に争いのない甲第六、七号証によれば、原告の貸付金の担保となっていた不動産が名古屋地方裁判所昭和三八年(ヌ)第一六九号不動産強制競売申立事件として競売となり、原告は昭和四三年二月一四日貸付元金四、〇五一、四六六円のみの配当要求をなしたところ、先順位債権額多大のため、同年二月一九日、二六六一、二一七円の配当を受けたものであることが認められる。従って原告は、右競売事件においては元本の回収も十分にできなかったことが明らかである。しかし、成立に争いのない乙第六号証の一、二によれば、原告は本件係争年後である昭和四〇年三月二五日に貸付金総額およびそれに対する利息額等合計四七、一九五、〇四五円の配当要求をしていることが認められ、そして右配当を受けたのは昭和四三年二月一九日であるから、原告は係争各年当時、本件利息、損害金の回収が不能であるとは考えておらず、また、その後も右債権の回収に努めていること、さらに別表(五)の三に明らかなとおり、原告は右会社らに対し昭和三八年一二月頃までなお追い貸ししていること等の事情を考慮すると、係争年当時既に本件利息損害金の回収不能であることが確定していたとは認め難いところである。

よって、原告の主張は理由がない。

2  東洋工業株式会社に対する貸付金利息について。

(一)  原告が東洋工業株式会社に対し別表(六)記載のとおりの貸付金があったことおよび右貸付金に対し約定利率月六分の割合により計算された利息を同会社から収受したことは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、右会社からの利息収入合計三、三六〇、〇〇〇円のうち、一、六〇〇、〇〇〇円については同会社より利息制限法所定利率を超過するものとして元本に充当する旨主張されており、残余の金額についても、利息制限法所定の利率である年一割五分の割合による二四〇、〇〇〇円を超過する分については同会社に返還しなければならない金額であるから、課税の対象たる利息収入にあたらない旨主張する。

ところで、所得税法上の所得とは、経済的実質によって把握すべきものであるから、課税の原因となった行為が客観的評価において不適法、無効とされるものであっても、当事者間で有効なものとして取り扱われ、これにより現実に収益が生じている以上、これを所得と認めることができる。従って、利息制限法所定の最高限を超える利息、損害金の約定がなされ、これが現実に収受された場合においては、その制限超過部分をも含めて現実に収受された約定の利息、損害金の全部が所得となるものである。

もっとも、利息制限法による制限超過の利息、損害金の支払がなされても、その支払は弁済の効力を生ぜず、制限超過部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解されている。これによると、約定の利息、損害金の支払がなされても、制限超過部分に関するかぎり、法律上は元本の回収にほかならず、従って所得を構成しないもののようにみえる。しかし、それが課税の対象となるべき所得を構成するか否かは必ずしも、その法律的性質いかんによって決せられるものではない。当事者間において約定の利息、損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱っている以上、制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息、損害金の全部が貸主の所得として課税の対象となるものというべきである。従って、借主が約定の利息、損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当することにより計算上元本が完済になったときは、その後に支払われた金員につき、借主が不当利得の返還請求をなしうるので、貸主は一旦制限超過の利息等を収受しても、法律上これを自己に保有しえないことがありうるが、そのことの故をもって、現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないものと解することはできない(最高裁判所昭和四六年一一月九日判決、民集二五巻八号一一二〇頁参照)。

本件においては、原告が東洋工業株式会社から約定の利息として係争各年に被告主張の額の金員を収受したことは争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、甲第五号証によれば、原告・同会社ともに本件係争各年分の納税義務が成立する各年の一二月三一日現在において、依然として従前どおりの元本一、六〇〇、〇〇〇円が残存するものとして取り扱っていたこと、さらに同会社は原告に対し昭和四〇年四月一六日付通知書をもって既に支払済の利息のうち利息制限法超過部分の元本への繰り入れを要求したが、原告よりこれを拒絶されたため、原告に対し昭和四二年二月二八日に六〇〇、〇〇〇円、同年一二月二五日に五〇〇、〇〇〇円、同四三年五月二日に五〇〇、〇〇〇円、合計一、六〇〇、〇〇〇円の元金全額を返済していることが認められる。従って、右事実によれば、原告と右会社間においては本件利息は約定の利息として授受され、原告において利息制限法超過部分を元本に充当されたものとして処理せず、依然として従前どおりの元本が存在するものとして取り扱っていることが明らかであるから、制限超過部分を含め現実に収受した利息の全部が原告の所得を構成するものというべきである。よって、原告の主張は理由がない。

3  株式会社荒川ベニヤ商会に対する貸付金利息について。

(一)  原告が株式会社ベニヤ商会に対し別表(七)記載のとおりの貸付金があったことおよび右貸付金に対し約定利率月六分の割合により計算された利息を元金とともに同会社から収受したことは、当事者間に争いがない。

(二)  原告は、右会社からの係争各年における利息収入のうち、利息制限法所定の年一割八分を超える分については、法律上返還義務があるから、課税の対象とすべきでない旨主張する。

しかし、右争いない事実によれば、本件利息が約定の利息分として授受され、原告において利息制限法超過部分を元本に充当されたものとして処理せず、依然として従前どおりの元本が存在するものとして取り扱っていることが明らかであるから、前記2の(二)において述べたと同様の理由により、制限超過部分を含め現実に収受した利息の全部が原告の所得を構成するものというべきである。よって、原告の主張は理由がない。

4  有限会社大日工業所に対する貸付金利息等について。

(一)  原告が有限会社大日工業所に対し別表(八)記載のとおりの貸付金があることは、当事者間に争いがない。

(二)  被告は、原告の右貸付金に対し、利息制限法一条に定める利率および同法四条に定める賠償額の割合によって計算した利息および損害金が別表(八)記載のとおりであり、これらをいずれも係争各年分の原告の収入すべき権利の確定した収入とし、雑所得として課税するものである。

原告の右会社に対する貸付金の約定利率等が利息制限法所定のそれを超えるものであることは弁論の全趣旨により明らかであるから、被告が利息制限法所定の利率および賠償額の割合の範囲内で計算した別表(八)記載のとおりの利息、損害金を、いわゆる権利確定主義によって、旧所得税法一〇条一項に規定する「収入すべき金額」と認定したのは、相当であるということができる。

(三)  原告は、右会社に対する貸付金については、担保物件を先順位者にとられ、同会社は係争年当時既に元金はおろか利息支払能力すらない状態で、利息だけでも免除して欲しい旨懇請したので、原告は係争各年分の利息、損害金を放棄したものであるから、これらは所得たりえない旨主張する。

そこで判断するに、原告の右主張に添う甲第四号証の一ないし六および原告本人尋問の結果は、証人市川朋生の証言により真正に成立したものと認められる乙第九ないし第一一号証および証人嵯峨照夫の証言に照らして検討すると、いずれもにわかに措信することができず、さらに成立に争いのない乙第七号証の一ないし四、乙第一二号証によれば、原告は右貸付金とその利息等の回収を図るべく現在も努力していることが認められるのであって、結局原告の右主張事実を認めるにたりる証拠はないといわざるをえない。よって、原告の主張は理由がない。

5  森喜市に対する貸付金利息について。

(一)  原告の森喜市に対する貸付金利息収入については、すべて原告において認めて争わないところである。

(二)  もっとも、右利息も利息制限法所定の利率を超えるものであるところ、前記2の(二)および3の(二)において述べたと同様の理由により、被告がこれを原告の雑所得と認めたことは相当である。

三、以上によれば、原告の係争各年における総所得金額は別表(一〇)(所得計算表)記載のとおりとなる。そして、所得控除額については当事者間に争いがない。

従って、本件課税処分(但し、昭和三八年分については審査裁決により一部取消された後のもの)は、いずれも右各総所得金額の範囲内でなされたものであるから、適法であるということができる。

四、よって、原告の本訴請求はすべて理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 窪田季夫 裁判官 小熊桂)

別表(一)

確定申告表

<省略>

<省略>

別表(二)

更正処分表

<省略>

<省略>

別表(三)

裁決明細表

<省略>

<省略>

別表(四)

貸付金利息等一覧表

<省略>

<省略>

別表(五)の一

奥村産業合資会社らに対する利息および損害金計算表

昭和三七年分(一)

<省略>

昭和三七年分(二)

<省略>

昭和三七年分(三)

<省略>

昭和三七年分(四)

<省略>

昭和三七年分(五)

<省略>

別表(五)の二

奥村産業合資会社らに対する利息および損害金計算表

昭和三八年分(一)

<省略>

昭和三八年分(二)

<省略>

昭和三八年分(三)

<省略>

昭和三八年分(四)

<省略>

昭和三八年分(五)

<省略>

別表(五)の三

奥村産業合資会社らに対する利息および損害金計算表

昭和三九年分(一)

<省略>

昭和三九年分(二)

<省略>

昭和三九年分(三)

<省略>

昭和三九年分(四)

<省略>

昭和三九年分(五)

<省略>

別表(六)

東洋工業株式会社に対する利息計算表

<省略>

別表(七)

株式会社荒川ベニヤ商会に対する利息計算表

<省略>

別表(八)

有限会社大日工業所に対する利息計算表

<省略>

<省略>

別表(九)

森喜市に対する利息計算表

昭和三七年分

<省略>

昭和三八年分および昭和三九年分

<省略>

別表(一〇)

所得計算表

<省略>

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