名古屋地方裁判所 昭和47年(ヨ)93号 決定 1972年2月22日
申請人
大西寛
右代理人
伊藤泰方
外一名
被申請人
伊東春男
外一〇名
右一一名訴訟代理人弁護士
佐治良三
外四名
被申請人
学校法人名古屋学院
右代表者
伊東春男
主文
一、被申請人伊東春男の被申請人学校法人名古屋学院の理事長および理事としての職務執行を、被申請人三宅文二・同碓氷鎰一・同中北鍬次郎・同森光久・同川本修の被申請人名古屋学院の理事としての職務執行を、それぞれ本案判決確定に至るまで停止する。
二、右停止期間中、名古屋地方裁判所の指名した者をして、被申請人学校法人名古屋学院の理事の職務を代行せしめる。右指名は別に行なう。
三、申請人のその余の申請を却下する。
四、申請費用については、これを五分しその二を申請人の負担としその三を被申請人伊東春男・同三宅文二・同碓氷鎰一・同中北鍬次郎・同森光久・同川本修・同学校法人名古屋学院の負担とする。
理由
第一、申請人の申立と主張
(申請の趣旨)
一、被申請人伊東春男・同須崎敬三・同三宅文二、同碓氷鎰一・同赤石義明・同水野正己、同ベイトン・L・パルモア三世、同中北鍬次郎、同森光久、同川本修、同ウオルター・P・ボールドウインの被申請人学校法人名古屋学院理事としての職務執行を、本案判決確定に至るまで停止する。
二、右職務執行停止を命ぜられた理事につき職務代行者の選任を求める。
(申請の理由)
一、一、被申請人学校法人名古屋学院(以下単に学院という)は、昭和一三年八月五日寄附行為により財団法人として発足し、その後同二六年三月一〇日学校法人となつたものである。
二、学院寄附行為第七条によれば、その理事は、次にかかげるものとされている。
(1) 学院長 一人
(2) 学長及び校長 三人
(3) 評議員のうちから評議員会において選任した者四人
(4) 日本基督教団の推薦する者のうちから理事会で選任した者
宣教師 二人
牧師 二人
(5) 学識経験者又は功労者(学長並びに校長、又は評議員である者を除く)のうちから理事会において選任した者 三人
三、学院においては別紙理事目録記載のもの(以下前理事らという)が、評議員会又は理事会で昭和四二年五月二五日理事に選任され、あるいは、同日選任された理事の補欠として後日理事に選任されたが、これら前理事の任期は、寄附行為第九条により、いずれも昭和四六年五月二五日満了した。
四、右任期満了により、理事の定数(一五条)の五分の一をこえる欠員が生じるのにかかわらず、寄附行為第一〇条所定の一ケ月以内にその補充がなされなかつたものであるから、理事らのうち寄附行為第七条により職務上当然の理事である学校長たる申請人と学長たる申請外福田敬太郎以外の者は、学院理事たる地位を完全に失つた。
五、学院寄附行為第二三条によれば、評議員の任期は一年となつているが、昭和四五年度選任の学院評議員は昭和四六年五月にすべてその任期を満了した。
六、申請外鈴木健は、理事の資格喪失後である昭和四六年一〇月一三日学院理事事務取扱と称して前理事による学院理事会を招集し、前理事のうち申請人、および申請以外鈴木義雄、同吉村鴻(以下申請人ら三名という)を除く一〇名の理事が出席して、昭和四六年度の学院評議員(定数三一名)中二一名を選任する決議をした。
七、しかし、右評議員選任決議は、次の理由のどれからみても、不存在又は無効である。
1 右理事会出席者中、申請外福田敬太郎以外の九名は、前記のごとく理事たる地位を失なつたものであり有効な決議をなしうる理事会を構成するものとはいえない。
2 仮に、理事が任期満了後も寄附行為第九条第三項により、その職務を行なうことができるとしても、右理事会は理事長事務取扱鈴木健により、理事である申請人ら三名に対し、昭和四六年一〇月一三日午前一一時学院の大学会議室において開催すると通知しながら、右三名に何の通知もなしに、同日午前一〇時より瀬戸市内の旅館「山の公楽」で、時刻・場所を変更のうえ他の一〇人の理事のみの出席で故意に右三理事を除外して行なわれたものである。従つて、申請人ら三名に対し開催通知を欠く右理事会は有効に成立しておらず、そこにおいてなされた議決もまた無効といわなければならない。
3、右理事会出席の一〇人の理事中、大島・赤石・水野・ボールドウイン・滝川の五理事は、委任状による出席となつているが、その委任状は理事会に提出されておらず理事会は過半数の定足数を欠いていた。
4、仮に右理事会が有効に成立していたとしても、評議員選任決議には、私立学校法、学院寄附行為および従来の慣行に違反する次のような事由がある。
(一) 従来より、卒業生選出の評議員選任については、同窓会から選考委員を出し、その指名する候補者につき同窓会総会の承認をえたうえ理事会に通知し、理事会は、それをそのまま選任する慣行があつたが、今回の選任決議では全くこの手続を欠いている。
(二) 学院寄附行為第二二条第一項第三号によれば、評議員中一二名は、学院職員から選出することと定められているのに、右理事会の決議では大学関係から四名を選出したのみで、中学高校関係からは、校長たる申請人から、しいて選出するなら前任者の留任を希望するとの申出があつたのにこれを無視して故意に欠員とし、また事務職員選出の評議員についても故意に欠員としたものである。
八、1理事長事務取扱鈴木健は、昭和四六年一一月三日前記新選出の評議員会を招集し、新評議員一五名出席のもとに被申請人伊東春男、同須崎敬三、同碓氷鎰一、同三宅文二の四名を理事に選任した。
2、しかし右評議員会に出席した評議員は前記の通り不存在又は無効な選任決議により選任されたもので、いずれも評議員たる地位を有せず、右評議員会そのものが不存在ないし無効であり、従つて右四理事の選任決議も不存在ないし無効である。
九、昭和四六年一一月一八日学院理事長事務取扱鈴木健は、理事会を招集し理事八名出席のもとに、寄附行為第七条第一項第四号、第五号の理事の選任を行ない、被申請人赤石義明、同ペイトン・L・パルモア三世、同ウォルター・P・ボールドウイン、同水野正己を第四号の理事に、そして、被申請人森光久、同中北鍬次郎、同川本修を第五号の理事に、それぞれ選任する決議をした。
一〇、1、しかし、右選任決議は、次のいずれの理由によつても不存在ないし無効である。
(一) 右理事会は、前記無効な評議員会の決議により選任された被申請人伊東、須崎、三宅、碓氷が参加し、他の四名も前記のとおり、任期満了により理事の地位を失なつているから、結局、出席者は、いずれも理事ではなく理事会自体不成立である。
(二) 仮に、任期満了の理事が、その後も寄附行為第九条第三項により、その職務を行なうことができるとしても、右理事会出席者は、前記無効な評議員会の決議によつて選任された理事を除外すれば、五名であり、当時の理事総数の過半数に達せず、定足数を欠き、理事会は不成立である。
2、仮に、右主張が認められないとしても、学院寄附行為第七条第一項第四号による理事の選任については、日本基督教団の推薦が要件となつているが、今回の被申請人赤石ら四名の選任につき、学院から同教団に推せんを求めた事実はないから、右四名の選任決議は無効である。
一一、被申請人伊東は理事長の、被申請人ら(学院を除く)は理事の各職にあるとして学院の基本財産である大幸町学校用地の売却等を行なおうとしており、放置すれば回復しがたい損害が生ずるおそれがあり、右各決議の不存在ないし、無効確認の本案訴訟に先だつて、被申請人らの職務執行停止の仮処分を得る必要性がある。
なお、この必要性は、学院の債務整理のための基本財産処分が、学院の正当な意思決定によらずに強行されることにかかるものであり、債務整理の内容がよいかどうかは問わない。また、被申請人らの構成する理事会が、数学の責に任ずる申請人を解雇したと称していること自体、必要性を物語るものである。
(被申請人らの主張に対する答弁)
一、申請人の当事者適格について
1 申請人は、なお学院理事としての地位を有する。
(一) 被申請人伊東らが学院理事の地位を有しないことは、申請の理由で明らかにした通りで、それらの者が構成する理事会の解雇決議は不存在または無効である。
(二) 学院では、昭和四三年二月に校長公選がきめられ、同年九月申請人が校長に選出され、理事会より任命されたものであつて、仮に前記解雇決議が成立したとしても、全職員の選挙した校長を、理事会決議のみで解雇することは許されず、解雇は無効である。
(三) また、教育者として誠実に義務を遂行してきた申請人を解雇するのは、理由がなく、解雇権の濫用である。
2 少なくとも、申請人は、利害関係人として、当事者適格を有する。
本件の本案訴訟は、理事選任決議の不存在又は無効確認の訴であり、従つて、仮処分当事者たりうるものは、商法第二四七条第一項におけるように限定されず、利害関係を有するものなら、だれでもよいと解すべきであり、申請人が、本件で問題となつている各理事会・評議員会決議について、利害関係を有することは明らかで、仮に理事・校長の地位を失なつているとしても、当事者適格は失わない。
二、一〇月一三日理事会について、
1 被申請人らは、申請人ら三名が理事会開催日時場所の変更通知をしなかつた瑕疵を主張するのは、信義則上、許されないと種々事実をあげて主張するが、それらの事実は真相に反し、信義則に反するような事情はない。即ち、
(1) 従来の理事会において、申請人が理事会を混乱させたとの点は否認する。生徒会・職員組合は、それぞれ独自の立場から、傍聴を申し入れたりしていたものである。
(2) 申請人ら三名が、理事会開催につき、申請外鈴木健を威圧する言動をしたとの事実は否認する。ただ一〇月一三日の理事会が、従来の例に反して、午前中に開催されることになると、種々の点で授業に支障が出ることが予想されたので、このことを、右鈴木に注意したにすぎない。
(3) 一〇月一二日夜に、職員が、品野台のゴルフ場にいつたのは、翌日予想される混乱を回避するための話合にいつたものであり、面会強要などの事実はない。
(4) 被申請人らは、一〇月一三日午前九時ごろの大学構内などの状況は、予定通りの理事会開催が困難であるとの情報をえたというが、そのような情報が生ずるような状況はなかつた。
(5) 結局、開催時刻をくり上げて開催していることなどから、ひとえに申請人ら三名を排除して、議決強行をはかつたことは、明らかで、申請人が、この違法を主張することが信義則に反するような事情は、全くない。
2 被申請人らは、申請人ら三名が出席したとしても、決議の結果に影響を及ぼさないから、決議は不存在や無効とはならぬと主張するが、右主張は、会議における民主的討論を否定する失当なものであり、従来の理事会で、申請人ら三名の出席のため、債務整理案が強行できなかつたことからみても、その前提事実すら認められない。
第二、被申請人伊東、須崎、三宅、碓氷、赤石、水野、パルモア三世、中北、森、川本、ボールドウイン(以下、単に「被申請人ら」という)の主張
(当事者適格について)
一、法人である学院を被申請人に加えない学院理事の職務執行停止を求める本件仮処分申請は、被申請人適格を欠き失当であるから、却下すべきである。
二、学院理事会は、昭和四七年一月二四日申請人を解雇した。よつて、申請人は理事たる地位を失い、本件仮処分申請の申請人適格を失つたから、本申請人は却下すべきである。
(申請の理由に対する答弁と被申請人らの主張)
被申請人らを選任した評議員会・理事会の決議は、不存在ではなく、また無効となるべき原因もない。
1 学院の成立経緯、学院理事の選任に関する寄附行為の内容、前理事らと昭和四五年度の評議員との任期満了に関する申請人の主張(申請の理由一、二、三、五)は、認める。
2 しかし、申請人および申請外学長福田敬太郎の両名を除く前理事らが任期満了一ケ月後には、完全に理事たる地位を失つたとの主張は誤まりで、寄附行為第九条第三項により、後任者が選任されるまで、引続き、理事の職務を行なう権利義務を有していたものである。
3 昭和四六年一〇月一三日に申請人ら三理事を除く一〇名の理事の出席のもとに理事会が開催され、評議員選任決議が行なわれたこと(申請の理由六)は認めるが、右決議には、申請人主張(申請の理由七)のような瑕疵はない。即ち、
(一) 申請の理由七1は、前記2の通り全く理由がない。
(二)(1) 申請の理由七2は、事実は、その通り認めるが、こうした事態をやむなきに至らせたのは次のような事情により申請人ら三名の自ら招いた結果とみるべきであつて、申請人ら三名が、これを瑕疵として主張することは信義則上許されず、結論的には、決議に瑕疵はない。
(イ) 申請人は、従来から生徒・職員らをせんどうしその数をたのんで我意を通さんとし、理事会を混乱させてきた。
(ロ) 申請人ら三名は、この一〇月一三日開催予定の理事会についても、その前日に、「開催をやめなければ、重大な結果が生ずる」などと職員組合とともに理事長事務取扱鈴木健を威圧するような言動をしていた。
(ハ) 理事会前夜にも、品野台カントリークラブの集会室で対策協議中の右鈴木健・被申請人須崎らに、職員組合の約一五名の組合員が面会を強要したし、また、このころ、被申請人須崎らは、右組合がストライキを決定し、理事の出席を実力で阻止する等の情報も入手した。
(ニ) 一〇月一三日午前九時ごろ。当初の開催予定場所である学院大学構内では三派系学生らが理事会粉砕などを叫んでおり、申請人ら三名も、組合員、学生らとバス五台に分乗して会場へ出発したとの情報が、瀬戸市内の旅館「山の公楽」で対策協議中の鈴木健らのところに入つた。
(ホ) そこで右鈴木健は、予定通りの理事会開催は不可能であるが、当日の議案である学院の債務整理に関する件と昭和四六年度議員選任に関する件とはいずれも早急に決定しなければ、学院の経営および人事面に重大な支障を生ずるもので、開催中止もできないので、開催場所を変更する外なしと判断した。
(ヘ) そこで、申請人ら三名に通知することも考えたが、会場の変更を通知すれば、これまでの経緯からみて、組合員や学生と共に、理事会の開催を妨害するのは明らかであつたので、申請人ら三名に通知しないのもやむをえないと判断し、右鈴木は三名に通知しなかつた。
(2) 申請の理由七2の事実が、決議の瑕疵であるとしても、右決議は、理事会出席者一〇名全員の賛成で可決したので、申請人ら三名に変更通知がなされ、三名が理事会に出席して反対したとしても結果に影響を及ぼさないことは明らかであるから、その瑕疵は、極めて軽微であつて、右理事会の決議を無効ならしめるものではない。
(三) 申請の理由七3は、事実に反する。五名の委任状は、正当に提出されており、何ら違法はない。
(四) 申請の理由七4(一)(二)の慣行および寄附行為違反の主張は、事実に反する。寄附行為第二二条、第一項、第三号、第四号の評議員選出については、理事会があらかじめ同窓会および各所属長にその候補者選出を依頼したところ、同窓会からは七月一六日付で七名の推薦をうけ、また大学職員からは四名の推薦があつたので、これを理事会で選任したものであり、中高校職員からは、当日までに推薦がなかつたので、欠員としたが、同条第三号の職員評議員は同時に一二名全員を選出しなければならないとは規定されてはおらず、又申請人主張のごとき慣行も存しないので、右措置に何ら違法はない。
4 申請の理由八1の評議員会での理事選任決議の事実は認めるが、申請人主張のような無効なものでなく、正規の評議員により有効に選任されたものである。
5 申請の理由九の理事選任決議をした事実は認めるが、右決議には申請人の主張(同一〇)するような無効原因はない。
(一) 申請の理由一〇1(一)の理事会不成立主張は前記二の2のように失当である。
(二) 同一〇1(二)の定足数不足の主張も、前記評議員会の理事選任決議の無効を前提とするもので失当である。
(三) 同一〇2の教団推薦欠缺の事実は認める。しかし、寄附行為第七条一項四号には、たしかに、教団推薦が要件となつているが、これは教団側で、推薦には、人選がむずかしく、応じがたいとの申入れがあり、寄附行為のこの部分は、死語化しているもので、事実上も、昭和三〇年三月以来、教団の推薦は受けていないのである。
6 申請の理由一一の保全の必要性の主張は失当である。申請人自身、被申請人らの行おうとしている債務整理案の大綱には賛成しており、この案こそが学院を救う唯一無二のものである。したがつて、申請人が被申請人らを排除して学院の債務整理をしようとも、結局、この案と同じ内容しか実行できず、結局学院は、被申請人らが、理事の職務を行つても学院に回復しがたい損害を与えることにはならず、本件仮処分申請は保全の必要性を欠くものである。
第三、当裁判所の判断
一、まず、被申請人らは、学院自体を被申請人に加えない本件申請は申請の理由につき判断するまでもなく失当であつて却下すべきである旨主張するが、仮にこの主張が首肯しうるものとしても、本件では、その被申請人から、学院を被申請人とする同趣旨の申請がなされ、被申請人らに対する申請に併合されたことが本件記録により明らかであるから、結局、右主張は採用できない。
二、次に、本件申請後である昭和四七年一月二四日、学院理事会が申請人を解雇する決議をしたことは疎乙第三一号証により認められ、校長たる地位を失えば、当然に学院理事の職を失なうことは、学院寄附行為第七条第三項において定められているところである。しかし、後記説示のとおり、右理事会決議は選任無効の理事の関与によつてなされたものであつて無効であることは明らかであるから、申請人は、学院校長ならびに理事としての地位を失つてはおらず、したがつて、申請人適格を失つたとする被申請人らの主張は採用できない。
三、1、学院が昭和一三年八月五日寄附行為により財団法人として発足し、その後同二六年三月一〇日に学校法人となつたこと、学院寄附行為第七条によればその理事は、(1)学院長一人、(2)学長及び校長三人、(8)評議員のうちから評議員会において選任した者四人、(4)日本基督教団の推薦する者のうちから理事会で選任した者、宣教師二人、牧師二人、(5)学識経験者又は功労者(学長並びに校長又は評議員である者を除く)のうちから、理事会において選任した者三人であること、そして、学院においては、別紙目録記載の者が評議員会あるいは理事会で、昭和四二年五月二五日理事に選任され、あるいは同日選任された理事の補欠として後日理事に選任されたが、その任期は昭和四六年五月二五日に満了したこと、申請外鈴木健が昭和四六年一〇月一三日学院理事長事務取扱として理事会を招集して、前理事らのうち、申請人ら三名を除く一〇人の出席により、昭和四六年度の学院評議員(昭和四五年度の評議員の任期は、昭和四六年五月に満了していた)を選任する決議をしたことは、申請人と被申請人らとの間で争いがなく、又本件疎明資料によつても右事実を認めることができる。
2 そこで、右一〇月一三日開催の理事会における評議員選任決議の存否および効力につき検討する。
(一) 出席理事中、福田以外は、理事の地位および職務執行権を失なつたもので、有効な理事会ではないとの主張は、学院寄附行為第九条第三項によれば後任者が選任されるまで任期満了後も前理事は職務執行権があるものと定められているから、理由がない。
(二) 右理事会は、当初の開催予定を同日午前一一時より学院大学会議室で行なうと通知しながら、申請人ら三名の理事に通知をせずに、同日午前一〇時より瀬戸市内の旅館「山の公楽」において、時刻・場所を変更して、他の一〇人の理事のみの出席で、右三名を除外して行なわれたものであることは当事者間に争いなく、又本件疎明資料によつてもこれを認めることができる。そして、かかる通知の欠缺は、右三名の出席の機会を全く奪うものであつて、理事会招集手続に、重大なる瑕疵があるといわざるをえず、かかる瑕疵の存在は、右三名の出欠が、決議の結論に影響したか否かを問題にするまでもなく、右決議を無効ならしめるに十分である。
(三) ただ、被申請人らは、申請人が右瑕疵の存在を指摘し、決議の無効を主張することは、信義則上許されないと主張するので、これにつき判断する。
被申請人らの主張は、要するに、申請人らは、従来から、生徒・職員などを使つて、理事会を混乱させてきたし、一〇月一三日の理事会についても、混乱させることをはかつているような言動をしていたことや、同日朝の開催予定地の状況からも、予定通り開催すれば、混乱必至で、開催不能と判断され、議案の緊急性からして、時刻・場所を変更して同日中に開催する必要があつたが、右変更を申請人ら三名に通知すれば生徒・職員の妨害が入るのは従来の経緯から明らかと判断して、通知をしなかつたもので、通知の欠缺は、申請人らが自ら招いた結果であるというにある。しかし、本件各疎明資料によつても、過去の理事会において、生徒・職員の傍聴に関して、多少の紛議があつたことは認められるにしろ、混乱のため全く理事会開催不能になつたような事実は認め難く、ましてや、申請人らが混乱させるために、生徒・職員を利用したという疎明はない。また、開催予定当日、朝の学院大学構内の状況も、開催不能と判断されるようなものであつたとは各疎明資料からは認め難い。
さらに、当日の理事会の議案が、ある程度緊急を要するものであることは疎乙第一号証、同第八号証、同第九号証、同第二一号証により、一応認めることができるが、同日中に、申請人ら三名に変更通知なしに、しかも開催時刻を繰り上げてまで開催するだけの緊急性は、各疎明資料からも認めることはできない。結局、本件全疎明資料によるも、申請人の通知欠缺の主張を信義則違反とするような事情は認め難く、被申請人らの信義則違反の主張は採用できない。
(四) よつて、その余の申請人の主張につき判断するまでもなく、昭和四六年一〇月一三日の学院理事会における昭和四六年度評議員選任の決議は無効である。
3 次に、昭和四六年一一月三日申請外鈴木健が前記新評議員を招集して評議員会を開催し、被申請人伊東春男、同須崎敬三、同碓氷鎰一、同三宅文二の四名を理事に選任する決議をしたことは当事者間に争いがなく、又本件疎明資料によつてもこれを認めることができる。しかし、前示の通り、右出席評議員は、いずれも無効な理事会決議により選任されたものであるから、その評議員会における右四名の理事の選任決議も無効であるといわなくてはならない。
4 さらに、昭和四六年一一月一八日申請外鈴木健は理事会を招集し、理事八名出席のもとに、被申請人赤石義明、同ペイトン・L・バルモア三世、同ウォルター・P・ボールドウイン、同水野正己、同森光久、同中北鍬次郎、同川本修を学院理事に選任する決議をしたことは、当事者間に争いがなく、又本件疎明資料によつてもこれを認めることができる。しかし、右理事会出席者中、少くとも、被申請人伊東、同碓氷、同三宅の三名は、前示の通り、無効な評議員会決議によつて新たに選任されたもので、理事とは認め難いから、結局出席理事は五名であり、当時の理事総数の過半数に達しないことは明らかであり、定足数を欠くものであり、また、理事でないものを議決に関与させたことにもなるから、その余の点につき判断するまでもなく、被申請人赤石ら七名の理事の右選任決議は無効と断ぜざるをえない。
5 よつて、被申請人ら理事の選任決議は、いずれも無効であつて、被申請人らは右決議にもとづくかぎりにおいて、学院理事としての地位を有しないことの疎明ありと認めることができる。
6 また、被申請人らによつて構成された理事会における決議は、すべて無効といわねばならない。従つて、昭和四七年一月二四日の申請人の解雇もまた無効であることは明らかである。
四、そこで、申請人が、本件職務執行停止の仮処分を求める必要性の有無につき検討する。疎乙第一号証、同二一号証、同二二号証、同二四号証、同四〇号証によれば、被申請人らが、学院債務整理を急いでおり、その一環として、学院の重要資産である校地の一部処分を計画していることが認められる。被申請人らは、校地の一部処分は債務整理上、やむをえないもので、学院を救うためには誰が債務整理にあたつても(即ち、誰が理事の職務を執行しても)別案はありえない旨主張し、本件仮処分の必要性を否定するが、仮に右債務整理が内容的にそのようなものであつたとしても、正当に構成されていない理事会によつて、学院にとつて重大な財産的処分がなされようとしていること自体から保全の必要性を認めることができると言わねばならない。
ただ、前示のとおり被申請人須崎、同赤石、同水野、同パルモア三世、同ボールドウインは無効な選任決議によつて選任される以前にも寄附行為第九条第三項により任期満了後の理事として職務執行権を有していたものであり、右規定が後任者の選任決議が無効である場合になお適用の余地があるかについては疑問の余地はあるが、同人らに対しては、少くとも職務執行停止をするまでの必要性を認めることはできない。
五、よつて、本件仮処分申請のうち、被申請人伊東の被申請人学院の理事長および理事としての、被申請人三宅、同碓氷、同中北、同森、同川本の被申請人学院の理事としての各職務執行停止ならびに右停止期間中の代行者選任を求める点は理由があるので、保証を立てさせないでこれを認容することとし、その余の申請は理由がないし、保証をもつて疎明にかえることも適当でないので、これを却下することとし、申請費用の負担については民事訴訟法第八九条、同九二条、同九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(山田正武 窪田孝夫 小林克己)