大判例

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名古屋地方裁判所 昭和47年(ワ)935号 判決 1973年8月22日

原告

山本剛三

被告

大成運送株式会社

主文

一  被告は、原告に対し金一三五万九、九七二円および内金一二五万九、九七二円に対する昭和四六年二月二日から内金一〇万円に対する本判決言渡の翌日から各支払ずみまで各年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分しその四を原告の負担としその六を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告

「被告は、原告に対し金三五一万五、〇三一円およびこれに対する昭和四六年二月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二請求の原因

一  昭和四六年二月二日午前六時四〇分ごろ、原告は大型貨物自動車を運転し滋賀県甲賀郡土山町屯宮地先国道上において先行車に続いて停車したところ、訴外佐藤守寛運転の大型貨物自動車(神戸一く三〇七〇号)(加害車両という)に追突され道路脇の茶畑に転落し、原告は頭部打撲、頸部挫傷の傷害を受けた。

二  訴外佐藤守寛は前方注視を欠いていたため先行車に続いて停車した原告の運転の大型貨物自動車に気付かずこれに追突したもので本件事故は右訴外人の過失に基づくものである。被告は加害車両の所有者で加害車両を自己のために運行の用に供していたものである。

三  本件事故により原告の蒙つた損害は次のとおりである。

(一)  治療費 合計金一一四万二、七八四円

(内訳岩月外科分一万六、二四八円、豊田病院入院分二二万四、二四〇円、豊田病院通院分九〇万二、二九六円)

(二)  原告は豊田病院に昭和四六年二月六日から同月二五日まで二〇日間入院治療を受けた。また岩月外科に昭和四六年二月三日から同月六日まで(実日数三日)、豊田病院外科に同年二月二六日から昭和四七年三月八日まで(実日数一四二日)、富田病院整形外科に昭和四六年三月二四日から昭和四七年三月一一日まで(実日数二三九日)、豊田病院眼科に昭和四六年九月二七日それぞれ通院し治療を受けた。

(三)  原告は、頭痛、項部痛、時に両肩痛、左手がしびれ、目がかすみ、時々頸から上の異常発汗があり、両肩、頸部の重圧感および疼痛等の後遺症が残つており、自賠法施行令別表の第一二級の後遺障害を存するものと認定され、自賠責保険より後遺障害補償として金五二万円を交付された。

(四)  入院雑費 金六、〇〇〇円

(一日三〇〇円の割合で二〇日分)

(五)  通院交通費 金三万八、八一〇円

(内訳昭和四六年二月六日、同月二六日豊田病院へ診察のため高浜港刈谷間は名鉄電車で金七〇円、刈谷豊田病院間はタクシーで金一六〇円、以後通院のため高浜港刈谷間は名鉄電車の一ケ月定期券を購入したが右代金は一、九五〇円であり刈谷豊田病院間は名鉄バスを利用したが右代金は一人片道二〇円である)

(六)  コルセツト代 金二、〇〇〇円

(七)  水口署出頭費用(一回分) 金一、五〇〇円

被疑者佐藤守寛にかかる業務上過失傷害事件につき被害者として事故当時の状況を供述するため出頭した費用であつてその内訳は刈谷彦根間国鉄往復運賃九四〇円、彦根水口間近江鉄道の電車往復運賃五六〇円である。

(八)  交通事故証明受領費用 金一〇〇円

(九)  休業補償 金一〇一万九、四八六円

原告は本件事故当時訴外三河通運株式会社に自動車運転手として勤務していたが本件事故による入・通院治療のため昭和四六年二月四日から昭和四七年三月一一日まで欠勤のやむなきに至りその間勤務していれば支給された一ケ月金七万八、四二二円の給料の一三ケ月分金一〇一万九、四八六円を喪失して同額の損害を受けた。

67,960/26×30=78,422

78,422×13=1,019,486

(一〇)  後遺症による逸失利益 金七五万二、八五一円

原告の前記後遺症による労働能力喪失率は二〇パーセントでありこの状態は今後四年間は続くものであるからその間の逸失利益の計算は次のとおりである。

78,422×20/100×4×12=752,851

(一一)  慰藉料 金一三五万円

原告の前記入・通院期間後遺症の等級をしんしやくすれば原告に対する慰藉料の額は金一三五万円が相当である。

(一二)  弁護士費用 金五〇万円

原告は本件を弁護士に委任するにつき手数料二〇万円報酬三〇万円を支払う旨を約した。

四  損益相殺

原告は自賠責保険より金五〇万円を受領し治療費の一部に充当した。原告は被告より金八〇万円を受領しこれを前記損害分に充当した。

五  そこで被告に対し金三五一万五、〇三一円およびこれに対する本件事故の日である昭和四六年二月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁・主張

一  原告主張の請求原因一の事実中原告の受傷の部位は不知その余は認める。同二の事実中被告が加害車両の所有者で加害車両を自己のために運行の用に供していたことは認める。同三の事実中原告の蒙つた損害は知らない。

二  原告の本件事故による受傷状況および受傷内容、後遺障害は原告が主張する程重大なものではない。すなわち

1  原告が被害車両を運転し停車中加害車両に追突されたときの衝撃は被害車両の破損状況からみても僅少なものであつた。

2  原告は右追突後身体に何ら異状を覚えることなく目的地である大阪まで被害車両を運転しさらに愛知県高浜市まで運転して帰宅した程であつた。翌朝原告は起床時頭痛、耳鳴りを訴え岩月外科で診察とレントゲン検査を受けたが大したことなく三日に一度の通院治療を指示されたに過ぎなかつた。原告は昭和四六年二月六日富田病院に転医し同病院において頭部打撲、頸部挫傷と診断されたが同日より二月二五日まで一九日間同病院に入院治療を受けたに過ぎないが以後昭和四七年三月一一日まで同病院に通院治療(通院実日数二三三日)を続けていたというのである。

3  原告は昭和四七年三月一一日頭痛著明、頭重感時々、頸から上の異状発汗があり、眼が時々かすむことがあり両肩頸部の重圧感および疼痛がある等の後遺障害を残して症状が固定したのであるが、右後遺障害は原告の主訴を主としたものであつて他覚的所見に乏しくその程度も原告の主張する程重大なものではなく事務労働ならばほとんど障害とならない程度に過ぎない。

三  原告の右後遺障害の程度からすれば原告の後遺障害による逸失利益は発生していない。又後遺症により労働能力が減少しても具体的減収の生じていない限り損害とはいえない(最高裁第二小法廷昭和四二年一一月一〇日判決参照)ところ、原告は後記のとおり昭和四七年一二月当時人形店「ロン」において一ケ月七万円程度の収入を、近所の瓦屋において一日二、〇〇〇円程度の収入を得ていたのであるから、本件事故当時勤務していた訴外三河通運株式会社における月収約六万円に比し何ら具体的減収はなく、従つて原告に後遺症による逸失利益は存在しないというべきである。

四  原告は、本件事故に遭遇するわずか二七日前に運転免許を取り三河通運株式会社に就職したばかりであり、右就職前は刑事々件を起し実刑判決を受けて昭和四五年末まで名古屋刑務所に服役中であつた。又右受刑前においても、原告は自動車部品販売業、現場監督兼運転手、陸送屋等の仕事を転々としていた。右事実によれば、原告は本件事故に遭遇するまで仕事を転々と変わり、服役することすらあつたのであるから職業に対する定着性はきわめて乏しく、仮に本件事故に遭遇することがなかつたとしても、三河通運株式会社に運転手として長期間勤務し得たか否かきわめて疑問である。原告は本件事故後三河通運株式会社を退職した後昭和四七年五、六月頃近所の瓦屋に一〇ないし一五日間勤務し、その後昭和四七年夏より昭和四八年三月まで人形店「ロン」に籍を置いたが、右期間中実際に就労したのは昭和四七年の暮までの三ケ月半に過ぎず他は欠勤し昭和四八年三月以降も何ら定職なく現在就職を捜すことすらしていない。以上のとおり職業運転手としての実績もなく、定職もなく仕事を転々としてきた原告については事故前わずか二〇数日運転手をしていたからといつてその逸失利益算定にあたり職業運転手の収入を前提とすることはきわめて不合理である。

五  原告の本件事故により負つた傷害が主訴を主にしたむちうち症であること、その入院期間が短いこと、後遺症も比較的軽いこと等を斟酌すれば、原告に対する慰藉料の額は金七五万円(入通院慰藉料三五万円、後遺症慰藉料四〇万円)を超えない。

六  原告請求の未払治療費金一一四万二、七八四円は自由診療としても一点単価二〇円ときわめて単価が高く、健保単価一点一〇円の一・五倍(単価一五円)に換算した額を超える部分については相当因果関係のない損害というべきである。(大阪地裁昭和四五年六月一八日判決参照)従つて、岩月外科、豊田病院の各診療費用明細書記載の各点数を一点単価一五円に換算すると別表のとおり合計金八八万六、二五二円となるから、これを超える部分についての原告の請求は失当である。

七  被告は原告に対し金八〇万円を支払つた。

第四証拠〔略〕

理由

原告主張の一の事実中原告の受傷の部位を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、原告の受傷の部位が原告主張のとおりであることは〔証拠略〕によつて認められる。

ところで被告が加害車両の所有者で加害車両を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、被告に免責事由の存することにつき何らの主張立証のない本件にあつては被告は本件事故により原告の蒙つた損害を賠償すべき責任があることもちろんである。

そこで、原告の損害について考察する。

(一)  治療費 金一一四万二、七八四円

右金額は、〔証拠略〕によりこれを認める。被告は、右治療費の診療報酬点数単価は一点二〇円で極めて高く、健保単価一点一〇円の一・五倍すなわち単価一五円を超える部分は相当因果関係がない旨主張する。〔証拠略〕によると診療報酬点数一点につき二〇円の割合で計算してあることが認めうるが、我が国の医療制度の建て前上自由診療を否定できないこと近時の急激な物価上昇の傾向にある経済事情を併せ考えれば、被告の右主張はにわかに採用し難い。

(二)  入院雑費 金五、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、請求原因三の(二)の事実が認められるので、原告の入院日数二〇日につき一日金二五〇円の割合で合計金五、〇〇〇円をもつて相当損害と認める。

(三)  通院交通費 金三万八、八一〇円

〔証拠略〕によると原告の通院実数は豊田病院における科によつて重複するものを省くと合計二四三日となるところ郵便官署作成部分は公文書としてその余の各部分は〔証拠略〕によると、高浜港刈谷間の名鉄電車の運賃は片道金七〇円、刈谷豊田病院間の名鉄バスの片道運賃は金二〇円であることが判かる故往復金一八〇円の二四三回分は金四万三、七四〇円となるところ、原告主張の金額は右を下廻るので原告主張の金三万八、八一〇円全額を相当損害と認める。

(四)  コルセツト代 金二、〇〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は昭和四六年三月二九日頸椎用軟性コルセツト購入に代金二、〇〇〇円を支出したことが認められ右金二、〇〇〇円は相当損害と認める。

(五)  休業補償 金九八万六、二一四円

本件事故当時原告が訴外三河通運株式会社に運転手として勤務していたことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると原告は昭和四三年に刑事裁判を受けて昭和四五年一二月まで名古屋刑務所で服役していたが出所後昭和四六年一月七日から右訴外会社に入社し服役中運転免許証の更新ができなかつたので改めて運転免許を受けて右訴外会社に真面目に勤務していたが本件事故による受傷入通院のため昭和四七年三月一一日まで右訴外会社を欠勤したことが認められる。右事実によれば、原告は名古屋刑務所出所後更生の意気に燃えて前記訴外会社に就職したことがうかがえるのであつて、本件事故に遭遇しなければ相当長期間右訴外会社に勤務し続けたものと認められる。ところで〔証拠略〕によると原告は昭和四六年一月七日から同月二五日まで一七日稼働し合計四万二、二三一円の給料を受けていたことが認められるので一日分は金二、四八四円となるところ一ケ月平均金七万四、五二五円の収入があつたことが認められるので右欠勤期間一三ケ月と七日分は金九八万六、二一四円となる。原告は休業により右金額相当の損害を受けたものと認める。

(六)  後遺症による逸失利益 金八万五、一六四円

原告は頭痛、頸から上の異状発汗があり目がかすみ、両肩頸部の重圧感および疼痛の後遺症を残していることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると原告は右のほか項部痛、時に両肩痛左手のしびれ等の障害を存し昭和四七年三月一一日症状固定したことが認められ、自賠法施行令別表の第一二級の後遺障害を存するものと認定されたことは被告の明らかに争わないところである。しかし〔証拠略〕によると、原告の右後遺障害の就労能力に及ぼす支障の程度は職業運転手の就業は無理であるが事務的な労働には通常差支えない程度であること、原告は医師の勧告に従い昭和四七年四、五月ごろ訴外三河通運株式会社を退社し同年五、六月ごろ近所の瓦屋に日給二、〇〇〇円で勤務したが一〇日か一五日でやめ、同年七、八月ごろから昭和四八年三月まで人形店「ロン」に勤務し入通院のため同年一二月までの間通算して二ケ月半ぐらいしか勤務しなかつたが右人形店「ロン」における原告の得た同年一二月分の給料は約七万円であつたことがそれぞれ認められる。

右事実によれば原告の右後遺症による労働能力喪失率は一〇パーセントでその逸失利益を認める期間は症状固定後の一年と認めるのが相当である。

そうとすればその間の逸失利益は金八万五、一六四円となる

74,525×0.1×12×0.9523=85,164

(七)  慰藉料 金八二万円

原告の負つた傷害の部位程度治療の経過、後遺症の程度その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば原告に対する慰藉料の額は金八二万円をもつて相当とする。

(八)  原告は水口署出頭費用、交通事故証明受領費用の損害の賠償を請求しているが、かゝる費用は条件的には本件事故と因果関係があることとなるとしても、被告に対し賠償を請求しうる相当因果関係ある損害とは目しえないものと考えるので右請求は失当として排斥する。

以上の原告の損害の合計は、金三〇七万九、九七二円となるところ、被告から原告に対し金八〇万円を支払つたことは当事者間に争いがなく、原告が自賠責保険より合計金一〇二万円を交付されたことは原告の自認するところであるから、右の合計金一八二万円を控除(損益相殺)すれば、残額は金一二五万九、九七二円となる。

(九)  弁護士費用

原告が本訴の提起追行を弁護士小林淳三、同谷口和夫に委任したことは記録上明らかであるが、本訴の難易経過その他諸般の事情を斟酌すれば金一〇万円をもつて相当因果関係ある弁護士費用による損害と認める。

以上の次第で被告は原告に対し金一三五万九、九七二円および内金一二五万九、九七二円に対する本件事故の日である昭和四六年二月二日から、内金一〇万円に対する本判決言渡の翌日から各支払ずみまで民法所定各年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容し他は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条本文、一九六条一項を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸山武夫)

別表

<省略>

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