名古屋地方裁判所 昭和47年(行ウ)42号 判決 1976年9月08日
原告 余郷士郎
被告 一宮税務署長
訴訟代理人 遠藤きみ 下畑治展 ほか三名
主文
原告の請求をいずれも却棄する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 請求の原因一、二の事実(本件課税処分の内容、経緯等)については、当事者間に争いがない。
二 被告は本件係争各年分の原告の所得金額を推計により算定するものであるところ、<証拠省略>によれば、原告の提出した確定申告書には所得金額の記載のみで、収入金額、必要経費の記載がなく、また収支計算書の添付もなかつたこと、そこで被告は昭和四五年七月頃から同年一二月頃までにかけて係員をして原告の所得調査を行わせ、右期間中に係員が数回原告宅へ赴き調査をしたが、原告より帳簿書類の提示をうけることができず、所得金額の調査について原告の協力を得られなかつたこと、そこで被告はやむを得ずその取引先等を調査して得た資料にもとづき推計により原告の所得金額を算定して本件課税処分をなしたものであること、以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右事実によれば、被告が原告の所得を実額で把握することが不可能な状況にあつたことは明らかであるから、その所得金額を推計により算定したことは相当であるということができる。
三 そこで、本件課税処分の適否について判断する。
原告が係争各年当時、愛知県稲沢市内で金型製造業(修理も含む)を営んでいたことは当事者間に争いがないところ、被告は、原告の取引先等を調査して係争各年毎の売上金額および売上原価を把握し、その差益金額から類似同業者の平均一般経費率を適用して得た一般経費額を控除して算出所得金額を算定し、これから特別経費および事業専従者控除額を控除して、本件係争各年分の営業所得金額を算出する。そこで、以下これらの点について検討する。
1 売上金額(収入金額)
被告の主張する原告の売上金額は別表(三)(売上金額明細表)記載のとおりであり、このうち
<2> 有限会社後藤製作所の昭和四三、四四年分
<4> 豊工業株式会社の昭和四二年分
<7> 脇田燃糸機械製作所の昭和四二、四三年分
を除いたその余の売上金額については当事者間に争いがない。
そして、<証拠省略>によれば、右の三売上先からの収入金額がいずれも被告主張額どおりであることが認められ、これに反する証拠はない。
2 売上原価
<証拠省略>によれば、原告は原料の各仕入先から別表(四)(仕入金額明細表)記載のとおり原材料を仕入れていたことが認められ、これに反する証拠はない。そして、特別の事情の認められない本件においては、原告のたな卸資産在高が本件係争各年とも期首、期末同額であることは原告も格別これを争わないから、右各仕入金額相当額をもつて原告の各売上原価とすることは相当である。
3 そこで、前記売上金額から右売上原価を差し引いた差益金額は次のとおりとなる。
昭和四二年分 八、三五三、一四二円
昭和四三年分 一一、七五三、四六一円
昭和四四年分 一〇、九四四、五二一円
4 一般経費
被告は類似同業者の平均一般経費率を以て原告の一般経費率とみなしたというので、按ずるに<証拠省略>によれば、被告は昭和四二年ないし同四四年分における原告の納税地を管轄する一宮税務署、その近接地域所轄の名古屋市内九税務署、津島、半田ならびに小牧税務署各管内で、原告と同種の金型製造業を営む個人の青色申告者中より、別紙「同業者選定基準」記載(一)ないし(四)の基準いずれにも該当する者昭和四二年、同四四年各五名、同四三年六名を選定し、これらの者の各年売上金額および一般経費額より経費率の単純平均値を算出したところ、別表(五)ないし(七)記載のとおり、昭和四二年三〇・五七パーセント、同四三年二九・一四パーセント、同四四年二八・九八パーセントとなることを認めることができる。而して、被告のなした同業者の選定方法、経費率の算定は確定同業者の類似性、同業者数および資料の客観性、正確性等の諸点よりみて合理性を有するものということができるので、右認定にかかる経費率を以て原告の経費率とみることは相当であると考えられる。そこで右経費率によつて算出すると、原告の一般経費額は次のとおりとなる。
昭和四二年分 三、〇六一、八三八円
昭和四三年分 四、二八八、七一七円
昭和四四年分 三、八〇四、〇二〇円
なお、原告本人尋問の結果中、自分のところでは特殊金属鋼の金型を主として取り扱つているので他の同業者に比べて経費が多くかかる旨供述するが、また一方原告は優秀な技術を有し、普通鋼の金型製造に比べてより高い利益を挙げていると述べているのであつて、特に原告の一般経費率が類似同業者に比較してより高いものであるということはできない。
5 そこで、原告の算出所得金額は、前記差益金額から右一般経費額を控除して次のとおりとなる。
昭和四二年分 五、二九一、三〇四円
昭和四三年分 七、四六四、七四四円
昭和四四年分 七、一四〇、五〇一円
6 特別経費
(一) 雇人費
原告が従業員として荒田道夫、森内平八および亀山幹夫の三名を雇つており、このうち亀山幹夫が昭和四三年四月末退職したこと、右各従業員に対する昭和四一年中の支払給料額が、荒田道夫五〇〇、〇〇二円、森内平八四九七、三八〇円、亀山幹夫四五四、九五一円、総額一、四五二、三三三円であることは、当事者間に争いがない。
被告は、右各従業員に対する本件係争各年分の支払給料の実額が把握できないとして、昭和四一年中の支払給料額に全国民間企業の平均給与上昇率を乗じてこれを算定する。そして、<証拠省略>によれば、右平均給与上昇率は次のとおりであることが認められる。
昭和四二年分 一一三・一パーセント(前年対比)
昭和四三年分 一一三・九パーセント(同 右)
昭和四四年分 一一四・六パーセント(同 右)
従つて、前記従業員三名(但し、亀山は昭和四三年四月末迄)の昭和四一年分支払給料額の平均給与上昇率を乗じると次のとおりとなり、この金額を本件係争各年中の原告の雇人費と認めることができる。
昭和四二年分 一、六四二、五八九円
昭和四三年分 一、四八〇、一九五円
昭和四四年分 一、四七二、四二四円
(二) 地代家賃
昭和四二年ないし同四四年分 各八八、八五〇円
右の額は当事者間に争いがない。
7 事業専従者控除額
昭和四二、四三年分 各三〇〇、〇〇〇円
昭和四四年分 一五〇、〇〇〇円
右の額は当事者間に争いがない。
8 差引営業所得金額
前記5の算出所得金額から前記6、7の特別経費および事業専従者控除額を差し引いた営業所得金額は次のとおりとなる。
昭和四二年分 三、二五九、八六五円
昭和四三年分 五、五九五、六九九円
昭和四四年分 五、四二九、二二七円
なお、原告には昭和四四年分について譲渡損失額一四〇、〇〇六円があることは、当事者間に争いがない。
以上によれば、原告の本件各係争年分の総所得金額は、
昭和四二年分 三、二五九、八六五円
昭和四三年分 五、五九五、六九九円
昭和四四年分 五、二八九、二二一円
となる。そして、所得控除額が別表(一)(課税処分表)の「所得控除額」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
四 してみると、被告のなした本件各更正にかかる原告の所得金額が係争各年分とも右認定所得金額の範囲内であることは明らかであるから、本件各更正処分はいずれも適法であり、かつ各年過少申告分にかかる過少申告加算税賦課決定処分も適法であるということができる。
よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義光 窪田季夫 辻川昭)
別表(一)ないし(七)及び別紙 <省略>