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名古屋地方裁判所 昭和48年(レ)82号 判決 1975年5月30日

控訴人

江崎庸三

右訴訟代理人

清田信栄

被控訴人

稲山菊五郎

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

1、控訴人が被控訴人に賃貸している別紙目録記載の土地の賃料を昭和四五年四月一日現在において一ケ月当り金九、八八一円と確定する。

2、被控訴人は控訴人に対し昭和四五年三月末日から同四八年三月末日まで右各月末日毎に一ケ月金五、三二一円の割合による金員および右各金員に対するそれぞれ右各月末日毎の支払日の翌日からそれぞれ右各支払ずみに至るまでの年一割の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

三、この判決は右主文第一項の2に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴の趣旨

主文第一、第二項同旨の判決および同第三項同旨の仮執行の宣言

二、控訴の趣旨に対する答弁

本件控訴を棄却する。

<以下事実欄省略>

理由

本件請求原因事実1(すなわち、原判決「事実および理由欄二、請求原因の要旨1)(以下同様)および同2のうち、控訴人主張のような意思表示がその主張のように被控訴人に到達したことは当事者間に争がなく、同3のとおり被控訴人が弁済供託していることは控訴人が自認するところである。

(地代家賃統制令適用の有無について)

被控訴人は、被控訴人が控訴人より賃借した本件土地のうち、一部については地代家賃統制令の適用をうけると抗弁するので考察する。

<証拠)を総合すると、本件土地は昭和四三年七月一九日合、分筆されるまでは二筆の土地に分れていたこと、被控訴人の養父稲山堯がそれらを賃借した時期は必らずしも明確ではないが、同養父がこれらを別々の時期に賃借したこと、しかし、遅くとも昭和五年七月までには控訴人被控訴人(被控訴人は大正一〇年頃婿養子として本件土地上に住むようになつた)間において賃貸借契約は一本化され、以後現在まで被控訴人は、本件土地(尤も面積に多少の変動はあつたが)につき単一の賃料を支払いこれを一括して控訴人より賃借してきた事実が認められ(当審における被控訴人本人の供述中本件土地につき、複数の賃貸借契約が併存するという部分はとうてい措信できない。)、また、前掲各証拠によると、本件土地上に明治時代に木造瓦葺平家建床面積89.91平方メートルの建物が右養父(大正末期に死亡)によつて建築され、ついで本件地上に昭和一二年頃右建物の付属建物として木造瓦葺平家建工場床面積56.85平方メートルが被控訴人によつて建築されたこと、爾来前者は被控訴人の居住用として、後者は被控訴人の京染の作業場としてこれらの所有者被控訴人によつて一連の建物として一体として使用されてきたこと、その後の昭和三七年頃被控訴人において後者の工場を六畳間五部屋のアパートに改築し、その一部(その床面積は明確に認定しえないが)を第三者に部屋貸し(賃貸)して第三者がこれを居住用に使用していること、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右認定事実からすると、被控訴人は控訴人から本件土地を一括して賃借しており、その地上に一体として使用されてきた一連の二棟の建物を所有していることが分るから、本件土地は地代家賃統制令第二三条第二項第三号の延べ面積が九九平方メートルをこえる建物の敷地とみるべきものであるところ、また前記認定事実からすると、被控訴人において右の一連の建物の一部を第三者にその居住用として賃貸していることが分るけれども、それは前認定のとおり同条同項第二号所定の昭和二五年七月一一日以後の右建物の改築の結果なされたことが分るから、同条全体の規定の趣旨、体裁がらみて、同条同項第三号の括弦内の事由はこれを斟酌しえず、結局本件土地は一体の借地として同条同項同号により地代家賃統制令の適用をみないものであるというべきであり、従つて、被控訴人の前記抗弁は理由がない。

(適正賃料の算定)

原審における鑑定人近藤信衛の鑑定の結果によると、同鑑定人は本件土地の適正賃料を昭和四五年四月一日現在において一ケ月金一万円、すなわち一平方メートル当り二六円二七銭と鑑定評価していることが分るが、右鑑定はこれの内容、方法からみて不当な点はなく、首肯するに足りると認められるところ、<証拠)によると、控訴人は本件土地のほかにもその近隣に土地を所有し、これを三〇名余の者に賃貸していること、昭和四五年三月二五日頃被控訴人に対し本件土地につき(当事者間に争いのない)本件賃料増額請求がなされた際同時に他の三〇余名の借地人に対してもそれぞれ控訴人から賃料増額の請求がなされたこと、被控訴人に対する請求を含め、これらの増額請求は、控訴人において相当と考えた同一の基準に基き統一的になされたこと、右の基準はその内容や方法において(これらは右鑑定のそれらとは異るものではあるが)不合理な点が見当らないこと、被控訴人を除くその余の借地人らは結局いずれも右の賃料増額の請求を了承したが、被控訴人のみがこれに応じなかつたため本件訴訟が提起されるにいたつたこと、右基準に基き統一的に賃料が増額されることは、各借地人間の公平、平等をはかる上からも望ましいと控訴人において考えていること、以上の事実が認められ、これに反する証拠はなく、また昭和四二年から同四五年にかけて諸物価の高騰、ことに都市とその周辺における地価の上昇、これらの土地に対する公課の増価等の著しいことは当裁判所に顕著であつて以上の事実を総合して勘案すると、結局本件土地の適正賃料は控訴人が請求するとおり昭和四五年四月一日現在において全体で一ケ月金九、八八一円(一平方メートル当り一ケ月金二六円)と評価するのが相当と考えられる。なお、<証拠>によると、被控訴人は老齢であり、現在中学生の孫と二人で本件土地上に居住し、その家庭環境必ずしも恵まれているとはいえないことが認められるが、そのことを考慮しても前記に認定説示したところに照らすと本件土地の適正賃料についての前記判断を動かすに足りないし、また、<証拠>によると、本件土地についての請求原因1記載の一ケ月一平方メートル当り金一二円の賃料は、昭和四二年一月一日現在における適正賃料として、名古屋地方裁判所の判決(昭和四三年六月二八日言渡、同庁同年((ワ))第一一九号)によつて決定されたことが認められるけれども、同時に、<証拠>によると、本件土地については昭和四一年一二月頃までは一ケ月一平方メートル当り約六四銭(坪当り約二円一一銭)という法外に安い賃料で推移してきたことが認められるのであつて、このことをも考慮に入れると、右の判決による賃料決定の経緯も当裁判所の本件適正賃料についての前記判断を左右するに足りないし、他にこの判断を覆えすに足りる資料はない。

以上の次第で、控訴人が被控訴人に対してなした本件賃料の増額請求のための意思表示は相当とみるべきであつて、これはその表示のとおり、その効力を生じたものというべきである。そしてこれに対し被控訴人において右増額の通知受領後である昭和四五年三月末日から同四八年三月末日までの間、毎月末日ごとに金四、五六〇円づつを昭和四五年四月分以降の本件土地の賃料として供託していることは控訴人の自認するところであるから、これを本件土地の一ケ月についての前記適正賃料額九、八八一円から控除すれば、毎月金五、三二一円の割合により不足額が生じていることが計数上明らかであり、また、この各不足額に対し、右各月末日毎の支払日の翌日からそれぞれ完済にいたるまでの年一割の割合による利息を付すべきことは借地法第一二条第二項より明らかであるから、控訴人の本訴請求はすべて理由がある。

(結論)

以上の次第で、控訴人の本訴請求はすべて正当としてこれを認容すべきであるから、これの一部を棄却した原判決は変更を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(海老塚和衛 川上拓一 小林真夫)

目録<省略>

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