名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)2591号 判決 1975年12月24日
原告
宮谷猛
被告
酒井武
ほか一名
主文
被告酒井武は、原告に対し、金五五三万四、一九八円および内金五一三万四、一九八円に対する昭和四五年一一月二四日から、内金四〇万円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告酒井武に対するその余の請求は棄却する。
原告の被告酒井つよに対する請求を棄却する。
訴訟費用中、原告と被告酒井武との間に生じたものはこれを一〇分し、その一を原告の、その九を同被告の負担とし、原告と被告酒井つよとの間に生じたものは、すべて原告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告らは、原告に対し、各自、六〇四万円およびこれに対する昭和四五年一一月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和四五年一一月二四日午前一一時頃
2 場所 名古屋市北区城見通三丁目五番地先道路
3 加害車 被告武運転の普通貨物自動車
4 被害者 原告
5 態様 原告が自己の運転する自動車を停車させて降り、同車右後部扉付近に差しかかつた際、加害車が荷台左側のロープをかけるフツクに原告の左腹部を衝突させた。
二 責任原因
1 被告つよ(自賠法三条)
同被告は加害車を所有していた。
2 被告武(民法七〇九条)
同被告には前方不注視の過失があつた。
三 受傷等
原告は、右骨盤骨折、後腹膜腔内出血、左腹壁挫創の傷害を負い、入通院の治療を受けたが、右足関節の不自由による歩行障害の後遺症が残存した。
四 損害
1 休業損 一〇四万円
原告は、本件事故当時円頓寺タクシー株式会社に運転手として勤務し、月収八万円を得ていたところ、同事故による受傷のため昭和四五年一一月二四日から昭和四六年一二月末日まで就労できなかつた。
2 将来の逸失利益 六〇〇万円
(一) 月収 一〇万円
(二) 労働能力喪失率 三五パーセント
(三) 就労可能年数 三二年間
3 慰藉料 二〇〇万円
4 弁護士費用 六〇万円
五 本訴請求
よつて、以上の損害のうち、とりあえず請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁
一の1ないし4は認めるが、5は争う。
二は争う。
三は不知。
四は争う。
第四被告らの主張
一 過失相殺
本件事故は、原告が違法駐車していたのみならず、接近してくる加害車の直前で、後方の安全を全然確認しないまま突然扉を開き、車外に身体を出したために発生したものであつて、原告の一方的過失に帰因するものであり、仮に被告武に過失があつたとしてもその過失は極めて小さく、原告の過失は一〇〇パーセントに近い。
二 弁済
原告は次のとおり受領した。
1 被告武から付添看護費として二一万円。
2 自賠責保険から治療費として五〇万円。
第五被告らの主張に対する原告の答弁
一は争う。
二は認める。
第六証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因一の1ないし4の事実(事故の日時、場所、加害車、被害者)は当事者間に争いがなく、同5の事実(事故の態様)については後記二の2で認定するとおりである。
二 責任原因
1 被告つよ
被告つよが加害車を所有していたことを認めるに足りる証拠はない。従つて、同被告には本件事故による原告の損害の賠償について責任はない。
2 被告武
(一) 〔証拠略〕によれば、本件事故現場は東西に通じる幅員約二二メートルの交通頻繁な直線道路で、更に両端には各々幅員約五メートルの歩道が設置されており、商店が立ち並んでいること、事故当時、同道路の中央部分が地下鉄工事のため金網で区画されており、東行車線の通行可能部分は、後記原告運転の普通乗用自動車(以下、原告車という。)の停車地点付近では約九メートルになつていたこと、原告は、同東行車線の左端に原告車を停車させ(なお、同所は交差点から五メートル以内のところであつて、駐停車禁止場所である。)、付近のクリーニング店に立ち寄るため、運転席扉から右側(道路中央側)に降り、後部座席に置いてあつた洗濯物を取ろうと、後部右側扉に近づいたこと、丁度その時、被告武は、加害車を運転して同東行車線を進行中で、前記停車中の原告車の右側直近を通過しようとしたこと、そのため原告車右側部から約四〇センチメートル右側(道路中央側)の地点において、加害車の荷台左側のロープをかけるフツクが原告の左側部に衝突したこと、なお、加害車と原告車とは全く接触しなかつたこと、が認められる。被告武本人尋問の結果中、「原告車の手前二、三メートルに達した時、原告は半ドアの状態で後ざりで出てきて、身体の半分位は車外に出ていたが、頭はまだ車内にあつた。そこで同被告はブレーキを踏み、右へハンドルを切りたが、原告が一歩か二歩後へさがつたから衝突したと思う。」旨の供述部分は、およそ普通乗用自動車の運転席扉から降車する場合、先ず頭と足をほぼ同時に車外に出して前方を向いたまま横に降りるのが通常であつて、頭が車内にある状態で、後ざりで出てきたというのは不自然であること、原告が後ざりで出てきたとすれば、運転席扉はかなり開いていたはずであるが、衝突地点が原告車右側部から約四〇センチメートルしか離れていないのに、加害車と原告車運転席扉とが接触していないのは不合理であること、原告が後ざりで出てきたうえ、更に一歩か、二歩後へさがつたとすれば、衝突地点が原告車右側部から約四〇センチメートルしか離れていないというのはやはり不合理であること、などの諸点に照らしにわかに措信できない。又、加害車の衝突部位は、前部バンバーではなくて、荷台のフツクであるので、加害車が原告の右側方を通過中に、原告が飛び出したのではないか、換言すれば、原告が同一地点にいたとすれば、原告とバンバーとが接触しないのに、荷台と衝突することはあり得ないのではないか、と推慮する余地がなくもないであろうが、同バンバーと荷台の幅員が同じであるとしても、バンバーは後方に向つてゆるやかに屈曲しているのに対し、荷台のフツクは若干ではあるが外側に出ているうえ、運転台部分は荷台部分より狭いこと(以上は〔証拠略〕により認められる。)などを考慮すると、原告が同一地点に立つていたとしても、加害車がその直近を通過し、その際原告がわずかでも身動きしたような場合には、加害車の前部バンバーが接触しないでも荷台のフツクに衝突することは十分あり得ると考えられるので、加害車の衝突部位をもつて前記認定を覆えすには足りない。
(二) 以上の事実によれば、被告武には前方不注視の過失があつたものと認められる。
(三) 従つて、被告武は民法七〇九条により本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
三 受傷等
〔証拠略〕によれば次の事実が認められる。
1 受傷
右骨盤骨折、後腹膜腔内出血、左腹壁挫創
2 治療経過
(一) 昭和四五年一一月二四日から昭和四六年三月三〇日まで
猪子病院 入院(一二七日)
(二) 昭和四六年三月三一日から昭和四六年一一月二日まで
同病院 通院(実日数二八日)
(三) その後も同病院に時々通院
3 後遺症
(一) 昭和四六年一一月二日症状固定
(二) 左股関節、左膝関節の単なる機能障害、左足関節の著しい機能障害(総合して、自賠責九級に該当)
四 損害(損害額の計算については円未満を切り捨てる。)
1 休業損 九二万四、二九〇円
〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時円頓寺タクシー株式会社にタクシー運転手として勤務し、月額八万一、五五五円の収入(事故前三か月の平均月給に年間賞与の一二分の一を加えて算出)を得ていたものと認められるところ、前記三で認定の受傷、治療経過等によれば、事故日の昭和四五年一一月二四日から症状固定日の昭和四六年一一月二日までの一一か月と一〇日間休業を余儀なくされ、その間九二万四、二九〇円の損失を受けたものと認められる。
<省略>
2 将来の逸失利益 五〇六万四、五六五円
〔証拠略〕によれば、原告は症状固定日の昭和四六年一一月二日当時三二才であつて、向後六七才までの三五年間は就労可能と推認されるところ、前記三で認定の後遺症の内容、程度によれば、同後遺障害により当初一〇年間は三五パーセント、その後二五年間は二〇パーセント相当の労働能力を喪失するものと考えられ、将来にわたり五〇六万四、五六五円の損失を受けるものと推認される(なお、前記四の1で認定のとおり月収八万一、五五五円とし、ホフマン式計算法で算出)。
81,555×12×35/100×7.944+81,555×12×20/100×(19.917-7.944)=5,064,565
3 慰藉料 一六五万円
(一) 傷害分 六五万円
(二) 後遺症分 一〇〇万円
原告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺症の内容、程度、その他諸般の事情を考慮。
4 付添看護費 二一万円
当事者間に争いがない。
5 治療費 五〇万円
当事者間に争いがない。
6 合計 八三四万八、八五五円
五 過失相殺
前記二の2で認定の事実によれば、原告は、停車中の原告車から右側(道路中央側)に降車したうえ、同所は交通頻繁な道路であるのだから、とくに後方から進行してくる車両に注意を払うべき義務があつたというべきところこれを怠り、漫然と原告車右側方に佇立していた過失があつたものと認められ、被告の前記過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の三割を減ずるのが相当と認められる。そこで原告の前記損害から三割を減ずると、五八四万四、一九八円となる。
六 損害の填補
被告らの主張二は当事者間に争いがない。そこで、原告の前記損害から右填補分七一万円を差し引くと、残損害は五一三万四、一九八円となる。
七 弁護士費用 四〇万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮。
八 結論
よつて、原告の本訴請求は、被告つよに対する部分は理由がないので棄却し、被告武に対する部分は、同被告に対し、五五三万四、一九八円および内弁護士費用を除く五一三万四、一九八円に対する本件不法行為の日である昭和四五年一一月二四日から、内弁護士費用四〇万円に対する本判決言渡の翌日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊田士朗)