名古屋地方裁判所 昭和49年(行ウ)30号 判決 1977年4月27日
名古屋市東区長塀町三丁目一〇番地
原告
服部房江
右同所
原告
服部恵一
右同所
原告
服部信司
名古屋市瑞穂区萩山町三丁目三六番地の一
原告
岡本明代
右原告ら訴訟代理人弁護士
田中一男
右訴訟復代理人弁護士
池内勇
名古屋市東区主税町三丁目一一番地
被告
名古屋東税務署長
藤井友一
右指定代理人
岸本隆男
同
小久保雅弘
右指定代理人
平松輝治
同
内藤久寛
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
被告が原告らに対し昭和四八年三月二日付でなした、原告らの被相続人服部秋季の昭和四四年度分所得税の総所得金額を金八、八三三、四五〇円とした更正処分のうち金二、六五四、〇〇〇円を超える部分、昭和四五年度分所得税の総所得金額を金八、四六八、六五〇円とした決定処分のうち金二、五九五、二〇〇円を超える部分、昭和四六年度分所得税の総所得金額を金三、八九九、九〇二円とした更正処分のうち金四〇一、七四二円を超える部分は、いずれもこれを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 服部秋季(以下秋季という。)は昭和四七年六月一〇日に死亡し、原告らはその相続人である。
2 秋季は被告に対し、本件係争各年分の所得税について、昭和四四年分は昭和四五年三月一四日に、昭和四六年分は昭和四七年三月一五日に、別表(一)(課税処分表)の各年分の「確定申告額」欄記載のとおり確定申告した。ただし昭和四五年分については確定申告をしていない。
3 被告はこれに対し、雑所得が課税もれになつているとして、右別表(一)の昭和四四年分および昭和四六年分の「更正および賦課決定額」欄ならびに昭和四五年分の「決定および賦課決定額」欄記載のとおり昭和四四年分および昭和四六年分については更正および過少申告加算税賦課決定処分、昭和四五年分については決定および無申告加算税賦課決定処分をなし、昭和四八年三月二日付でその旨原告らに通知した。
4 原告らは右各処分を不服として、昭和四八年四月一一日被告に対し異議申立をしたが、被告は同年七月九日付でこれを棄却する旨の決定をなした。
原告らはさらに昭和四八年八月七日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は昭和四九年五月二日付でこれを棄却する旨の裁決をなした。
5 しかしながら、秋季は本件係争各年中に雑所得を得ていなかつたから、本件課税処分は違法である。
よつて、原告らは被告に対し請求の趣旨記載の範囲で本件課税処分の取消を求める。
二、請求原因に対する認否
請求原因1ないし4の事実は認め、同5は争う。
三、被告の主張
1 秋季は、岡崎市祐金町九一番地において五洋産業合資会社を経営して、右会社から給与を得ていたが、昭和四六年初め頃から同社が休業したので個人として毛糸の仲介業を経営するかたわら、従前より金銭の貸付けによる所得をも得ていたものである。
2 秋季の総所得金額は次のとおりである。
(一) 昭和四四年分 八、八三三、四五〇円
(内訳)給与所得金額 二、六五四、〇〇〇円
雑所得金額 六、一七九、四五〇円
(二) 昭和四五年分 八、四六八、六五〇円
(内訳)給与所得金額 二、五九五、二〇〇円
雑所得金額 五、八七三、四五〇円
(三) 昭和四六年分 三、九〇四、六七二円
(内訳)給与所得金額 九四、〇〇〇円
事業所得金額 三〇七、七四二円
雑所得金額 三、五〇二、九三〇円
3 雑所得について
(一) 雑所得の内容
本件係争各年分の秋季の雑所得は、同人の石井光長に対する貸金債権の利息収入であつて、その明細は別表(二)(雑所得の明細)記載のとおりである(但し番号24の部分の「利息計算対象債権額」は昭和四五年九月二一日以降の債権額を表示するものであり、同月一五日から二〇日までの債権額は一、九九〇万円である)。
なお、右別表(二)の番号35.37.39.41.43.45の「利息計算対象債権額」欄にそれぞれ「一、五九〇万円」と記載され、他方、番号36.38.40.42.44の同欄にそれぞれ「一六〇万円」と記載されているのは、昭和四六年八月五日、従前からの貸金元本の残存額一、五九〇万円のほか、新たに一六〇万円の貸金債権が発生したことにより、同日以降貸金債権の残存元本の総額は一、七五〇万円になつたが、新たな一六〇万円の債権については、従前の債権と異なる利息計算期間(月初から月末)の定め方がなされていたため、本別表においては便宜、従前からの債権一、五九〇万円と新たな債権一六〇万円とを別表示にしたものである。
(二) 利息授受の方法
右利息授受の方法は、毎月一定の日に石井光長の長女である石井和代が秋季宅に赴き、支払期日を翌月の日付とした貸金債権元金相当の約束手形および翌月分の利息相当(利率は、日歩七銭ないし一〇銭)の先日付小切手並びに当月分の利息相当の現金を秋季又はその妻の原告服部房江もしくは長女の同岡本明代に手交し、それと引換に、前月秋季に対し交付しておいた元金相当の約束手形および当月分の利息相当の小切手の返還を受けるというものであつた。
(三) 本件雑所得金額の具体的認定方法について
被告は、本件貸金の借主である石井光長およびその長女である石井和代の各申立て並びに石井光長が保管していた、本件利息授受の過程で振り出された約束手形や小切手および石井和代が継続的に記帳していた資金繰り帳等関係資料に基づき本件雑所得金額を認定した。
右認定金額と個々の主たる認定資料との関係は別表(三)(「雑所得明細」と乙号証対照表)記載のとおりであり、次のとおり補足説明をする。
(1) 番号1の部分中、受取利息の認定金額(二五三、九五〇円)と乙号証の額面(五二四、八三〇円)とが異なるのは、前者は昭和四四年一月一日から同月一五日までの半月分の金額であるのに対し、後者は昭和四三年一二月一六日から昭和四四年一月一五日までの一か月分の金額であるからである。
(2) 番号18の部分中、受取利息の認定金額(五二四、八三〇円)と乙号証の金額(三五四、〇二八円)とが異なるのは、当該期間の前後との関係並びに債権元金額の認定資料である乙第三号証の一九、二〇の記載をみても、特にこの期間中のみ債権元金額や利率に変化があつたとは認められず、また前記資金繰り帳によつても、この期間中の利息金額は、債権元金額と利率を従前と同一と考えて計算した金額の五二四、八三〇円であつて、右乙号証の額面はその一部であつたと認められた(乙第五号証の一)ので、右金額を受取利息金額と認定した。
(3) 番号24の部分は、まず債権元金が利率日歩一〇銭のものにつき昭和四五年九月一六日から同月二〇日までのものとして一、〇〇〇万円、そして同月二一日から一〇月一五日までのものとして七〇〇万円と二つに分かれて表示されているが、これは乙第三号証の三四によつて従前の利率日歩一〇銭の債権元金一、〇〇〇万円中三〇〇万円が同年九月二〇日に返済されて、九月二一日から右債権元金が七〇〇万円に減少した(このことは番号25以降の債権元金との関係でも明らかである。)と認定されたからであり、また受取利息の認定金額(四三二、九〇〇円)と乙号証の額面(四一四、七三五円)とが異なつているが、前記資金繰り帳によれば、右乙号証の額面は受取利息額の一部であつて、前記(2)同様、計算によつて求められた四三二、九〇〇円がこの期間中の受取利息金額の総額であると認められた(乙第五号証の二)ことによるものである。
番号26についても同様である(乙第五号証の三)。
(4) 番号36の部分中、利息計算期間の始期が昭和四六年八月五日となつているのは、前記資金繰り帳の記載(乙第五号証の四)およびそれについての石井和代の説明によつて、新たな債権元金一六〇万円の発生時期が同日と認定されたことによるものであり、右債権の利率および受取利息の金額についても、右同様資金繰り帳および石井和代の説明によつて認定した。
番号38.40.42.44についても同様である(乙第五号証の五ないし九)。
(5) 債権元金欄中、乙号証の記載がない部分の認定金額は、当該期間中の受取利息の金額およびその前後の債権元金額との関係等によつて認定した。
4 そして、秋季の所得控除額は前記別表(一)(課税処分表)の「所得控除額」欄記載のとおりであるから、いずれもこれを差引いた金額の範囲内でなされた本件課税処分は違法でない。
四、被告の主張に対する原告らの認否
1 被告の主張1のうち、秋季が金銭の貸付けによる所得を得ていたとの点は否認し、その余の事実は認める。
2 同2のうち、昭和四四、四六年分の各給与所得金額は認め、係争各年分の総所得金額と雑所得金額を争う。
3 同3は争う。
但し、秋季死亡当時、同人が石井光長に対し一、七五〇万円の貸金を有し、額面七〇〇万円、同八九〇万円、同一六〇万円の三通の約束手形を所持していたことは認める。
4 同4のうち昭和四四、四六年分の所得控除額は認めるが、本件課税処分の適法性は争う。
五、原告らの主張
1 仮に秋季が被告主張どおりの利息を受領していたとしても、原告らが石井光長を被告として提起した秋季の石井光長に対する貸金一、七五〇万円の支払を求める訴訟(名古屋地方裁判所昭和四九年(ワ)第二六八六号)において、昭和五〇年一一月一四日、既払利息のうち一、三五〇万円は元金に充当されたこととし、残元金四〇〇万円を石井光長が原告らに支払う旨の訴訟上の和解が成立した。
従つて、右一、三五〇万円の元金に充当した金員は税法上雑所得ではない。
2 仮に秋季が被告主張どおりの利息を受領していたとしても、秋季の受領した利息は利息制限法所定の利率を超過しているから、右超過部分を元本に充当し、同法所定の利率による利息を計算すると、昭和四四年度は二、七二一、八六〇円、昭和四五年度は、二、〇三七、〇一一円、昭和四六年度は一、〇一三、七二三円となり、右金額のみが課税対象となる利息収入である。
六、原告らの主張に対する被告の反論
1 原告らの主張1について
原告らと石井光長との間で、原告ら主張の訴訟上の和解が成立したことは認めるが、和解において確認された債務金額の具体的算定根拠については不知。
仮に、原告ら主張のとおり、右和解に際し受取利息のうち一、三五〇万円が元本に充当されたとしても、本件課税処分そのものの適法性になんら影響を及ぼすものではなく、課税面での調整は国税通則法二三条二項、七一条二号等の規定に基づいて行なわれることになるのである。
2 原告らの主張2について
利息制限法の制限超過の利息が現実に収受されても、その制限超過部分については民法四九一条により残存元本に充当されるものと解されている。しかし、それが課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしもその法律的性質いかんによつて決せられるものではない。当事者間において約定の利息として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく、従前どおりの元本が存在するものとして取り扱つている以上、制限超過部分をも含めて現実に収受された約定利息の全部が貸主の所得として課税の対象になるというべきである。もつとも借主が約定の利息の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当することにより、計算上元本が完済となつた時は、その後に支払われた金員につき、借主が不当利得の返還請求をなしうるので、貸主は一旦制限超過の利息等を収受しても法律上これを保有しえないことがありうるが、そのことの故をもつて、現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないと解すべきではない。
第三、証拠
一、原告ら
甲第一号証、第二号証の一ないし四を提出し、乙第二号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立(乙第五号証の一ないし九については成立並びに原本の存在について)を不知とした。
二、被告
乙第一、第二号証、第三号証の一ないし六七、第四号証の一ないし三六、第五号証の一ないし九、第六号証の一ないし三を提出し、証人津坂克己、同石井和代の各証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理由
一、請求原因1ないし4の各事実(原告らと亡服部秋季との関係および課税処分の経緯等)は当事者間に争いがない。
また、係争各年分の秋季の総所得金額のうち、昭和四四、四六年分の給与所得金額は当事者間に争いがなく、昭和四五年分の給与所得金額および昭和四六年分の事業所得金額については原告らは被告の主張額を明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。
そこで、本件においては、係争各年とも秋季の雑所得金額のみが争点となつているので、以下この点について判断する。
二、雑所得金額について
1 成立に争いのない甲第二号証の四、乙第二号証、証人津坂克己および同石井和代の各証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人石井和代の証言により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし六七、乙第四号証の一ないし三六と証人津坂克己および同石井和代の各証言を総合すると、次の事実を認めることができる。
(一) 秋季は石井光長に対し昭和三六年頃から金銭を貸付けており、当初の貸付金額は約五〇万円であつたが、秋季死亡時の昭和四七年六月一〇日には一、七五〇万円であつた。
(二) 右貸付金の担保のために、秋季は右石井から同人振出の貸付金額に相当する額面金額の約束手形又は小切手を受領していた。
(三) 利率は当初は日歩一〇銭ないし七銭であつたが、昭和四六年七月以降は日歩三銭になつた。
(四) 利息授受の方法は、毎月石井光長の長女である石井和代が秋季宅に赴き、支払期日を翌月の日付とした貸金元本に相当する額面金額の約束手形又は小切手、翌月分の利息相当の額面金額の先日付小切手および当月分の利息相当の現金を秋季又はその妻である原告服部房江もしくは長女である原告岡本明代に手交し、それと引換に、前月交付しておいた同様の約束手形、小切手の返還を受けるという方法であつた。
(五) 秋季は本件貸金のことについては秘密にするよう求めたので、石井光長はこれを帳簿には記入せず、ただ心覚えのために、前記利息授受の際に交付する約束手形又は小切手の耳の部分に服部秋季の頭文字である「服」、秋季の住所の長塀町の頭文字である「長」又は「△」印を記載していた。
(六) 乙第三号証の一ないし六七、同第四号証の一ないし三六の約束手形および小切手は、前記利息授受の際に交付された手形、小切手のうちの一部である。
(七) 被告は、秋季の雑所得についての調査にあたり、その相続人である原告らは何も知らないというのみであつてその協力をうることはできなかつた。
以上のとおり認められ、甲第二号証の一および三のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、秋季は石井光長に金銭を貸付け利息を受領していたわけであるが、その貸付債権の発生日時、金額、利息等の約定および受領利息金額を直接認定する証拠資料はないので、主として利息授受の際に交付された前記約束手形および小切手等から秋季の右石井光長に対する金銭貸付けによる所得を推認せざるを得なかつたものである。そして被告は、右所得額(別表(二)記載のとおり)と右約束手形および小切手(乙第三号証の一ないし六七、第四号証の一ないし三六)との対応関係は別表(三)(「雑所得明細」と乙号証対照表)記載のとおりであると主張する。
右乙第三号証の一ないし六七、第四号証の一ないし三六によれば、後述の期間を除きその余の期間においては、被告主張の貸金元本、利息金と一致する額面金額の約束手形、小切手の存在することが認められ、前記1で認定した事実をあわせ考えると、秋季は被告主張の利息金を石井光長から受領していたものと認められる。
そこで、被告主張別表(三)のうち、被告主張額に対応する約束手形もしくは小切手の存在しない期間および被告主張額と異なる額面金額の小切手の存在する期間について検討する。
(一) 別表(三)の番号2ないし4.6.7.9の期間については、貸金元本に対応する約束手形は存在しないが、前後の期間の貸金元本に変動がないことおよび前後の期間と同じ貸金元本、利率であつたと仮定して計算した利息金と同一額面金額の小切手の存在することから、被告主張額どおりの貸金元本が存在したと推認することができる。
(二) 同表の番号1の期間については、被告主張の利息金とそれに対応する小切手の額面金額が異なるが、その後の期間の利息計算と対比してみると、右小切手の額面金額は昭和四三年一二月一六日から同四四年一月一五日までの一か月間の利息を示しているものと考えられるのに対し、被告主張額は昭和四四年一月一日から同月一五日までの半月分の利息金であるから、右期間において秋季が受領した利息金は被告主張額どおりであると認めることができる。
番号45についても同様である(小切手の額面金額は昭和四六年一二月一六日から同四七年一月一五日までの期間の利息を示していると考えられるのに対し、被告主張額は昭和四六年一二月一六日から同月三一日までの期間の利息金である。)。
(三) 同表の番号24の期間の貸金元本については、前出乙第三号証の三一および三四ならびにその前後の期間との対比によれば、従前の利率日歩一〇銭の貸金一、〇〇〇万円中三〇〇万円が返済され、昭和四五年九月二一日以降は右貸金元本は七〇〇万円になつたものと認められる。
(四) 同表の番号18.24.26.34の期間については、被告主張の利息とそれに対応する小切手の額面金額が異なるが、前後の期間の利率に変動がないことから右期間のみその前後の期間と異なつた利率を適用していたとは考えられず、さらに、証人石井和代の証言によつて原本が真正に成立したものと認められる乙第五号証の一ないし三ならびに同証人の証言をあわせ考えると、右小切手の額面金額は利息の一部であり、右期間中秋季が受領した利息金は前後の期間と同一の利率で計算した被告主張額どおりであると認めることができる。
(五) 同表の番号36.38.40.42.44の期間の利息については、前出乙第三号証の六〇ないし六四、同号証の六七、証人石井和代の証言によつて原本が真正に成立したものと認められる乙第五号証の四ないし九によれば、秋季は昭和四六年八月五日新たに一六〇万円を石井光長に貸付け、同年九月以降毎月被告主張額の利息金を受領していたことが認められ、同年八月分については秋季が利息を受領したことを示す直接の証拠は存在しないが、他方右期間のみ利息を免除したとする特別の事情も認められない本件においては、秋季は右期間も以後の期間と同様の利率によつて計算した被告主張額どおりの利息金を受領していたものと推認するのが相当である。
3 従つて、右1.2で認定した事実を総合すれば、秋季は石井光長に対し金銭を貸付け、同人から別表(二)記載のとおりの利息金を受領していたものということができる。
4 原告らは、原告らが石井光長を被告として本件貸金一、七五〇万円の支払を求めた訴訟で、既払利息のうち一、三五〇万円を元本に充当し、残りの四〇〇万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立したから、右一、三五〇万円は税法上雑所得に該当しないと主張する。
原告らと石井光長との間で、昭和五〇年一一月一四日、石井光長が原告らに対し秋季からの借金四〇〇万円を支払う旨の訴訟上の和解が成立したことは当事者間に争いがないが、原告ら主張のように既払利息一、三五〇万円が元金に充当されたことを認めるに足りる証拠はない。
のみならず、仮に原告ら主張のとおり、既払利息のうち一、三五〇万円が元本に充当され、一旦取得した経済的成果を失つたとしても、納税義務発生日以降に課税額計算の基礎となつた事実に生じた右のような変動は国税通則法二三条二項、七一条二号等により新たに更正処分をすることにより是正されるべきものであり、本件課税処分の適法性には何ら影響を及ぼさないものである。従つて原告らの主張は失当である。
5 さらに原告らは、秋季の受領した利息は利息制限法所定の利率を超えているから、右超過部分を元本に充当し同法所定の利率で計算した利息金のみが課税対象となる利息収入であると主張する。
ところで、所得税法上の所得とは経済的実質によつて把握すべきものであるから、課税の原因となつた行為が客観的評価において不適法、無効とされるものであつても、当事者間で有効なものとして取扱われ、これにより現実に収益が生じている以上、これを所得と認めることができる。従つて、利息制限法所定の最高限を超える利息、損害金の約定がなされ、これが現実に収受された場合においては、その制限超過部分をも含めて現実に収受された約定の利息、損害金の全部が所得となるものである。
もつとも、利息制限法による制限超過の利息、損害金の支払がなされても、その支払は弁済の効力を生ぜず、制限超過部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解されている。これによると、約定の利息、損害金の支払がなされても、制限超過部分に関する限り、法律上は元本の回収にほかならず、従つて所得を構成しないもののようにみえる。しかし、それが課税の対象となるべき所得を構成するか否かは必ずしも、その法律的性質いかんによつて決せられるものではない。当事者間において約定の利息、損害金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして処理することなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取扱つている以上、制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息、損害金の全部が貸主の所得として課税の対象になるものというべきである(最高裁判所昭和四六年一一月九日判決、民集二五巻八号一一二〇頁参照)。
本件においては、すでに認定したように、秋季は石井光長から別表(二)記載のとおりの利息金を収受しており、このことからも明らかなように、秋季・石井光長ともに本件係争各年分の納税義務が成立する各年の一二月三一日現在において依然として従前どおりの元金が残存するものとして取扱つていたものである。従つて右事実によれば、秋季と石井光長間においては本件利息は約定の利息として授受され、秋季において利息制限法超過部分を元本に充当されたものとして処理せず、依然として従前どおりの元本が存在するものとして取扱つていることが明らかであるから、制限超過部分を含め現実に収受した利息の全部が原告の所得を構成するものというべきである。よつて原告らの主張は理由がない。
三、以上によれば、秋季の係争各年における総所得金額は
昭和四四年分 八、八三三、四五〇円
昭和四五年分 八、四六八、六五〇円
昭和四六年分 三、九〇四、六七二円
となる。
そして、秋季の所得控除額が別表(一)(課税処分表)の「所得控除額」欄記載のとおりであることは、昭和四四、四六年分については当事者間に争いがなく、昭和四五年分については原告らは明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。
四、従つて、本件課税処分は、いずれも右各総所得金額の範囲内でなされたものであるから、適法ということができる。
よつて、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 窪田季夫 裁判官 辻川昭)
別表(一)
課税処分表
<省略>
別表(二)
雑所得の明細
<省略>
別表(三)「雑所得明細」と乙号証対照表
<省略>