名古屋地方裁判所 昭和50年(行ウ)19号 判決 1976年7月14日
原告
西尾和明
外五名
原告ら訴訟代理人
野島達雄
外六名
補助参加人
伊藤市太郎
右訴訟代理人
浅井得次
外一名
被告
桑原幹根
右訴訟代理人
佐治良三
外三名
参加人
愛知県知事仲谷義明
右訴訟代理人
水野祐一
外八名
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
本訴請求の趣旨および原因は別紙訴状記載のとおりである。
原告らが本件訴状に貼用した印紙額は金三、三五〇円であり、その貼用すべき印紙額金四二四万三、四〇〇円に対し金四二四万五〇円の不足があつたから、当裁判所は昭和五一年五月二六日命令書送達の日から一四日以内に右印紙の不足額を追貼するように命じ、右命令書は同年六月八日原告ら訴訟代理人野島達雄に送達されたが、原告らは右印紙の不足分を追貼しない。
理由
本訴は、原告らが地方自治法二四二条の二第一項四号により訴外愛知県に代位して被告に対し損害賠償の請求をなすものであり、いわゆる住民訴訟に属するものである。そして、原告らは本件訴状に金三、三五〇円の印紙を貼用している。
行政事件訴訟として訴の提起をするに必要な手数料については民事訴訟費用等に関する法律により規定されているところ、同法四条は、訴額の算定について財産権上の請求と財産権上の請求でない請求とを区別している。右法条にいう財産権上の請求、財産権上の請求でない請求という概念は、原則として原告の「請求」に着眼して、その内容が経済的利益を享受することを本質とするものであるか否かによつて決せられるのであるが、債権者代位訴訟、破産管財人の訴訟、株主の取締役に対する代表訴訟等のいわゆる第三者の訴訟担当の場合には、その訴訟において主張されている本人の請求権あるいは法律関係が訴訟の目的であるから、それが経済的利益を内容とするものであれば財産権上の請求とみるべきである。そして、地方自治法二四二条の二第一項四号の住民訴訟も、第三者の訴訟担当の一種であるから、本人である地方公共団体からみて経済上の利益を享受することを本質とする請求であれば、これを財産権上の請求と解すべきこととなる。従つて、本件においては、原告らは被告に対し金八億四、八〇九万七、三七二円を地方公共団体である訴外愛知県に支払うよう請求するものであるから、本訴請求は財産権上の請求であることが明らかである。
次に、訴額の算定については、民事訴訟費用等に関する法律四条一項、民事訴訟法二二条一項により、訴訟の目的の価額(訴額)は「訴ヲ以テ主張スル利益」によつて決せられるのであるが、いわゆる訴訟担当者が提起する訴においては、実体的な紛争利益の帰属主体者(本人)が受ける利益をもつて訴額算定の対象とすると解される。例えば、選定当事者、破産管財人、取立命令をえた差押債権者の提起する各訴訟、船長の救助料請求訴訟、株主の取締役に対する代表訴訟等においては、選定者全員、破産者、執行手続上の債務者、救助料の債務者、当該会社の受ける利益が算定の対象となる。そして、代位による住民訴訟の場合においてこれと別異に解さねばならない合理的理由は存しない。従つて、地方自治法二四二条の二第一項四号の住民訴訟の訴額は当該地方公共団体の受ける利益、すなわち請求金額を基準として算定すべきものである。もつとも、このように解すると原告らの支出すべき貼用印紙額は時に多額となるが、原告らにその資力のないときは訴訟救助の申立が認められていること、住民多数が原告になることにより個人負担額の減少をはかることもできること、また原告らが勝訴した場合にはその支出した貼用印紙額を被告または地方公共団体から回収することができること等を考慮すると、住民の権利の行使を不当に制限するものとはいえない。
従つて、本件における訴額は請求金額八億四、八〇九万七、三七二円を基準として算定すべきであり、右訴額に相当する印紙の額は四二四万三、四〇〇円であるにもかかわらず、原告らは前記のように本件訴状に金三、三五〇円の印紙を貼用したのみで、不足額四二四万五〇円の印紙の追貼に応じない。
よつて、本件訴は民事訴訟法二〇二条によりこれを却下することとし、訴訟費用の負担について同法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(山田義光 窪田季夫 辻川昭)
【請求の趣旨】 一、被告は愛知県に対し金八億四、八〇九万七、三七二円及びこれに対する昭和四九年一二月二八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
【請求の原因】 一、原告らは、愛知県に住所を有する住民である。
二、被告は昭和二六年五月一一日より同五〇年二月一四日まで愛知県知事の職にあつたものである。
三、被告は愛知県知事として小牧市に対し、昭和四九年一二月二七日金八億四、八〇九万七、八七二円を「桃花台調整交付金」名下で支出した。
四、しかし、右支出は以下に述べるとおり公金の違法不当な支出である。即ち、
(一) 右交付金は、愛知県が都市計画法及び新住宅市街地開発法に基づいて現在行わんとしている「桃花台新住宅市街地開発事業」に関する支出であり、右事業の計画区域内において事業用地の任意買収に応じた元地主五百余名に対し、小牧市を通じて既に支払済の買収代金の外に、一平方米当り金四四〇円の追加代金を新たに上乗せして支払うため昭和四九年度愛知県当初予算に計上(予算額金八億八、四〇〇万円)されたものである。従つて、その実質が土地代金の追加支払のためのものであることは紛れもない事実である。
(二) ところで、愛知県は前記用地買収にあたり、五百余名の元地主らと個々に折衝したうえ、土地売買契約を締結し、その際に定められた売買代金を支払つているのであるからそれ以上に元地主らに対し何らの金員をも支払うべき法的義務を負担していないことは民法上真に明らかである。
このことは、愛知県及び小牧市が現在まで事あるごとに既に支払を了した買収基準価格(一平方米当り金二、二四〇円)による買収は、民主的な手続を履んで決定された適正妥当なものである旨強調し続けているのであるからなおさらである。
(三) もつとも、右買収にあたつた愛知県及びその代理人たる小牧市が元地主らと折衝をなすに際し、土地収用法の適用を背景に土地代金を不当な安値に買叩き、あるいは買収価額の値上りは将来とも絶対あり得ないと虚言を弄する等の詐術を用いた事実があり、その結果、元地主らの蒙つた物的損害を補填し、かつ精神的苦痛を慰藉するために、右交付金が支出されるに至つたというのであれば格別である。
(四) しかるに、被告は一部元地主の要求を容れ、前記のとおり売買契約による代金債務の履行が完了していることを熟知しながら昭和四九年度当初予算において一平方米当り金四四〇円の追加支払いを目的とする桃花台調整交付金八億八、四〇〇万円を計上し、右予算に基づき昭和四九年一二月二七日金八億四、八〇九万七、三七二円を小牧市あて交付し、右予算を執行したものである。
五、以上のとおり被告は元地主に対しその支払につき何らの法的業務も負担しない追加代金を支払うべく「桃花台調整交付金」として公金を支出したものであり、右行為が違法不当であることは明らかである。
六、そこで、原告らは昭和五〇年四月一日、地方自治法二四二条により住民監査請求をなしたところ、愛知県監査委員鈴木末造外三名は、昭和五〇年五月二三日右監査請求は理由がない旨の監査結果を原告らに通知した。
七、しかし、原告らは右の監査結果に不服であるので同法二四二条の二に基づき愛知県が被告に対して有する損害賠償請求権金八億四、八〇九万七、三七二円及びこれに対する右公金が支出された日の翌日である昭和四九年一二月二八日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を愛知県に代位して被告に請求するため本訴に及んだものである。