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名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)2040号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】二そこでまず、別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記の登記原因ついて検討する。

1 <証拠>によれば、次の各事実が認められる。

(一) 原告隆は、昭和四七年三月頃、自動車用ガラス、鏡等を製造し、輸出販売を業とする訴外ユニバーサル産業株式会社(以下、単にユニバーサル産業という。)を設立し、その操業開始のため準備中であつたが、同年暮頃、雑貨貿易商を営む訴外西部通商株式会社(以下、単に西部通商という。)の実質的経営者で、専務取締役であつた訴外福岡徳郎と知り合い、同人から貿易実務についての知識を得るためもあつて交際を重ねていたところ、昭和四八年三月頃から会社経営の運転資金に一時不足を生じたため、妻である原告阿きわの所有である大型サフアイア指輪ダイヤ付プラチナ台外二点(以下、本件指輪という。)を持ち出し、これを担保として訴外福岡に交付し、原告隆ないしユニバーサル産業振出の手形、小切手の割引を依頼し、同年四月中頃までに二、二〇〇、〇〇〇円の借り入れをなしていた。

(二) 原告隆は、さらに本件(一)ないし(四)の土地、建物を担保に融資を得ることを考え、同年四月二三日、本件(四)の建物の表題部登記を済ませ、同年五月四日に保存登記を経由して、その頃訴外福岡に融資見込のある金融機関の紹介を依頼した。訴外福岡は、これに対し、自己の取引銀行でもある中央相互銀行に融資申込みの仲介をしてみると、これを引き受け、その数日後、原告隆に対し、取引に必要な書類にとりあえず署名捺印してもらい、これを持参して融資方の打診をしたい旨申出て、不動文字以外は白紙の「手形取引根抵当権設定契約書」(乙第六号証)、コピーした用紙である債務者名等が空欄の「担保提供承諾書」(乙第八、九号証)に署名捺印を求め、原告隆は、これに応じて、所要の箇所に自己および原告阿きわの署名をして、原告らの実印をもつて捺印し、これを訴外福岡に交付した。

(三) 訴外福岡は、同年五月下旬頃、原告隆に対し、中央相互銀行からの融資は、担保となる本件(四)の建物に訴外宮川某が居住しているので交渉が難行している、訴外宮川の立退を図らなければいけないが、単純にはいかないだろう、本件(一)ないし(四)の土地建物を売却したように装い、その者から明渡を求めるようにしたい旨申入れ、そのために譲渡証書の作成と登記のための委任状、印鑑証明書の交付を求めた。原告隆は、これに応じて、白紙の罫紙に原告両名の署名捺印をして交付し(乙第七号証)、不動文字以外白紙の委任状に原告阿きわないし原告隆の署名捺印をして交付し(乙第一、二号証の各三、乙第三号証の三、五)、さらに同年五月二四日、原告隆および原告阿きわの印鑑証明書の交付をうけて訴外福岡に手渡した。

(四) ところが訴外福岡は、昭和四七年以来、街の金融業者である訴外富士越総業有限会社(以下、単に富士越総業という。)の代表取締役である訴外山川守夫が、訴外松山朝雄、被告高山、被告池田らと共同経営で金融業を営んでいるところ、右訴外山川より既に六、〇〇〇、〇〇〇円前後の借入をなしていたうえ、昭和四八年四月には同訴外人に対し新らたに二、〇〇〇、〇〇〇円の貸付申込みをなし、同訴外人より担保物件の提供を求められているところであつた。訴外福岡は、同年五月下旬、原告隆より交付を受けていた手形取引根抵当権設定契約書(乙第六号証)、担保提供承諾書(乙第八、九号証)、白紙罫紙(乙第七号証)、白紙委任状(乙第一、二号証の各三、乙第三号証の三、五)に、訴外福岡の右債務に原告両名が物上保証をなす如く空欄を各記載し、これを原告らの印鑑証明書とともに訴外山川に交付した。

(五) 訴外山川は、昭和四八年五月三一日、右乙第七ないし八号証について公証人による確定日付を得るとともに、これらの書類により、同年七月一一日、被告高山、同池田名義で、本件(一)の土地につき別紙登記目録記載(一)の仮登記を、本件(四)の建物につき別紙登記目録記載(二)の仮登記をなし、また訴外松山朝雄を権利者名義として、本件(一)ないし(四)の土地建物につき別紙登記目録記載(三)、(イ)の登記をなした。

2 右認定事実によれば、乙第一、二号証の各一ないし五、乙第三号証の一ないし六、乙第六ないし九号証の存在にもかかわらず、被告らの抗弁1、2、3、(一)の各事実を認めるに足る証拠はなく、別紙登記目録記載(一)、(二)、(三)、(イ)の各登記には登記原因がない。

したがつて、その余の点を判断するまでもなく、原告らの別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記の抹消登記手続を求める請求については理由がある。

三次に、別紙登記目録記載(四)、(五)の各登記の登記原因について検討する。

1 <証拠>によれば、以下の各事実が認められる。

(一) 訴外福岡が経営する西部通商は、その間、昭和四八年六月一二日に第一回目の手形不渡を出し、同年七月二九日に第二回目の手形不渡を出して倒産した。一方原告隆は、同年七月中旬頃、富山地方法務局より本件(一)ないし(四)の土地建物に根抵当権設定登記がなされた旨の通知を受け、不審に思い登記簿を調査すると、何ら関知しない別紙登記目録記載(一)ないし(三)の各登記が経由されているのを発見し、訴外福岡に問いただそうとしたが右倒産の事態にあつて連絡がとれないでいたところ、同年九月一六日、西部通商の債権者会議の席で訴外福岡と会い、同人より無断で登記をなしたこと、訴外山川より約三、五四〇、〇〇〇円を借り入れている旨の説明を受けた。

(二) そこで原告隆は、同年九月二〇日頃、訴外福岡を伴つて訴外山川の営む富士越総業の事務所に赴き、訴外山川に登記の抹消を求めたところ、訴外山川は、原告隆を威圧するような態度で、「訴外福岡には九、五〇〇、〇〇〇円の債権がある。これを原告らが支払え。支払わない以上登記は抹消できないし、本件(一)ないし(四)の土地、建物を競売するし、原告阿きわの本件指輪も貰うことになる。原告らと訴外福岡の関係については、書類ができて正規に登記した以上、問題ではない。」と言い、訴外山川の周囲には配下の若衆が数名たむろしている状況で、負債額約二、五四〇、〇〇〇円といつていた訴外福岡も何ら抗弁せず、原告隆は、何事が起るかとの畏怖心のあまり、何ら反論できないまま帰宅した。その日以来、訴外山川は、原告隆に電話で再三にわたり九、五〇〇、〇〇〇円の支払を要求し、また数回にわたり、原告隆の自宅に夜間午後一一時過ぎ頃配下の若衆を遣わして強圧的に支払を要求し、玄関を叩いたり、怒号するなどの行為を続け、原告隆およびその妻原告阿きわ、二人の娘の家族を畏怖させた。そのため原告隆は、同年一〇月八日、訴外山川の呼出を受けて前記事務所に赴き、訴外山川に要求されるまま、その指示のとおり、約束手形三通(額面合計九、五〇〇、〇〇〇円)を交付することを約する念書を作成し、同月一九日、原告隆振出の(イ)額面五、五〇〇、〇〇〇円(支払期日同年一二月一〇日)、(ロ)四、〇〇〇、〇〇〇円(支払期日同年一一月一五日)の各約束手形を訴外山川に交付し、訴外山川は、訴外松山朝雄名義の領収書を原告降に渡した。

(三) ところが原告隆は、訴外山川に対する畏怖心から右手形を振出したものの資金あてがあるわけでもなく、同年一一月一四日知人よりその経営する東光通商有限会社振出の約束手形二通(額面合計四、五〇〇、〇〇〇円)の融通を受けて、これを訴外山川に差入れ、右(ロ)の手形の延期を求めたが、訴外山川は、これを受けとりながら(ロ)の手形の返還には応ぜず、翌一五日これを不渡りとした。さらに訴外山川は、原告隆に対し、右手形不渡を口実に、原告隆の自宅土地建物であつた本件(五)、(六)の土地、建物に抵当権設定を要求し、原告隆が経営していたユニバーサル産業の工場に配下の者を遣わし、作業中のところで金を支払え、できなければ材料や機械を処分するなどと怒号し、机を蹴るなどの行為に及び、事業の妨害をなすことを繰り返すようになつた。また訴外山川は、ユニバーサル産業の主要な取引先である訴外内田安全硝子会社にも再三電話し、ユニバーサル産業に支払う代金があるなら自分の方へ支払うよう要求し、その取引関係も妨害した。原告隆は、これらの事態に困惑し、同年一一月末頃、訴外山川の事務所に出向いたところ、訴外山川は、配下の者数名とともに、本件(五)、(六)の土地建物に担保を設定するよう要求し、同原告はやむなく手形取引根抵当権設定契約書用紙の債務者、根抵当権設定者欄に署名捺印し(乙第一〇号証)、これを訴外山川に交付した。訴外山川は、これに補充して、訴外松山朝雄を権利者とする極度額七、〇〇〇、〇〇〇円、被担保債権の範囲同年一二月五日手形貸付契約等とする本件(五)、(六)の土地、建物についての同年一二月五日付根抵当権設定契約書を完成させ、さらに原告隆より印鑑証明書、委任状を交付させたうえ、同年一二月一一日その旨の登記手続をなした。

(四) 原告隆は、その後しばらくは訴外山川からの督促を受けずにいたが、昭和四九年二月一四日には一、〇〇〇、〇〇〇円の支払を強要され、やむなくユニバーサル産業のヤマキ商事こと林志郎に対する一、〇〇〇、〇〇〇円の貸金の借用書を渡したところ、訴外山川の事務所にいた被告高山らが右林より強引に一、〇〇〇、〇〇〇円を取立てながら、原告隆には取立ができなかつたと言つて一、〇〇〇、〇〇〇円の支払を強要し、また、前示(三)の東光通商有限会社振出の約束手形が同年二月一五日ないし同年三月一〇日であつたところ、原告隆において決裁資金の用意をしなかつたためいずれも不渡りとなつたため、訴外山川は、配下の者を使つて同会社の名目上の代表者であつた女性を拉致する騒ぎを起すなど、再三強行な取立に及んだうえ、同年七月六日頃、訴外山川は、原告隆を事務所に呼出し、数名の配下の者らと、本件(四)の建物の譲渡を要求し、被告高山に対し右建物を譲渡する旨の承諾書(乙第一三号証)に署名捺印させ、またその登記手続のための白紙委任状用紙(乙第五号証の三)に署名捺印させた。そして訴外山川は、同年八月三〇日付で被告会社(旧商号興亜地所株式会社)名で所有権移転登記をなしたものであるが、そのための法務局の照会に対する回答の葉書に原告隆の署名捺印を強要したものであつた。

2 右認定事実によれば、別紙登記目録記載(五)、(イ)の根抵当権設定登記については、原告隆は、訴外山川に対し、自己が振出した手形債務の担保のため本件(五)、(六)の土地、建物に根抵当権を設定した意思は窺われるものの、同原告が訴外松山朝雄に対し右根抵当権を設定する意思はこれを認めるべき証拠もない。勿も、前示二、1、(四)のとおり、訴外山川は、訴外松山らと金融業を共同経営していたのであるから、原告らとの取引は、訴外山川、同松山らの組合契約に基づく事業執行であり、その名義人に訴外松山の名義を使用したとも解することができるが、そうであるとしても、前示認定の経過でなされた原告隆の右意思表示は訴外山川の強迫にもとづきなされたものということができる。すなわち、原告隆は、前示二のとおり自己が関知しないまま本件(一)ないし(四)の土地、建物に別紙登記目録(一)、(二)、(三)、(イ)の各登記が経由され、その抹消を訴外山川に求めるや、前示三、1、(二)のとおり、右物件の競売の実行をすると脅されたうえ、深夜自宅に再三にわたり不法な取立をうけ、やむなく、自己が何ら債務を負つていないのに合計九、五〇〇、〇〇〇円の約束手形を振出され、これが決裁されないことを理由に、訴外山川より自己の経営するユニバーサル産業の工場においても取立をうけ、その事業を妨害されるばかりではなく、取引先にも妨害が及ぶに至り、やむなく契約書に署名することを余儀なくされたものであることが認められるからである。そして同原告は、これを昭和五二年九月一六日(本訴第七回口頭弁論期日)に取消の意思表示をなしたことは顕著な事実であり、右契約は効力を失つたものである。

3 さらに別紙登記目録(四)の登記については、前示三、1、(四)のとおり、原告隆は、昭和四九年七月六日頃、訴外山川に強要され本件(四)の建物を譲渡することを承認したことはあるものの、被告会社(旧商号興亜地所株式会社、代表取締役高木憲士)に同年五月二三日頃に売り渡したとの事実はこれを認めることができない。

4 よつて、その余の点を判断するまでもなく、別紙登記目録(四)、(五)の各登記は、登記原因がなく、無効である。 (大内捷司)

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