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名古屋地方裁判所 昭和51年(ワ)2283号 判決 1979年8月31日

原告

渡辺秀二

被告

美和環境事業株式会社

ほか二名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金四〇二万一一四二円及びこれに対する昭和五〇年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  本判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金六七一万〇七五二円及びこれに対する昭和五〇年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告ら三名の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五〇年一二月一九日午前五時三〇分頃

(二) 場所 岐阜県羽島市江吉良町地内名神高速道路下り線(以下、本件事故現場という。)

(三) 第一加害車 被告小原運転の大型特殊貨物自動車(高11か一七一七号、以下、第一被告車という。)

(四) 第二加害車 訴外亡遠矢澄春運転の大型貨物自動車(相模11な五七五四号、以下、第二被告車という。)

(五) 被害車 原告運転の大型貨物自動車(名古屋11か九二七四号、以下、原告車という。)

(六) 事故の態様

原告は、原告車を運転して、本件事故現場手前の走行車線を走行していたが、その前方走行車線上をトラツク二台が緩い速度の毎時六〇キロメートルで走行していた。そこで、原告はこの二台のトラツクを追越そうと、追越車線に入り、毎時七〇ないし八〇キロメートルの速度で先づ一台を追い越し、二台目とほぼ並んだとき、前方からシートが飛んできて、これが自車運転台のフロントガラスを覆い、前方の見とおしが全く不可能になり、やむなく、ブレーキペダルをふんだところ、エンジンが切れ、前面に付着していたシートが落下し、前方の見とおしができるようになつた(以下、これを本件第一事故という。)。そこで、原告は、様子を見るべく、自車を一旦道路左端へ移動しようと思つて、エンジンを始動させ、車を発進させようとしたが、車が全く動かないので、直ちに、非常点滅灯のスイツチを入れ、下車して様子を見たところ、シートが広がつて前輪に巻き込まれており、簡単には取り外すことができなかつたため、原告は後続車に対し警告を与えようと、運転席に発煙筒を取りに行き、これを手にして路上に片足を降ろしかけたとき、訴外遠矢運転の第二被告車が原告車に追突し(以下、これを本件第二事故という。)、これがために、原告はその場にはねとばされて、頭部打撲、左上肢打撲、顔面挫創の傷害を負つた。

2  責任原因

高速道路を車両を運転して走行するときには、風圧等により積荷が路上に落下するおそれが大であるから、かかる運転手としては、これを防止すべく細心の注意を払う義務がある。しかるに、被告小原は、第一被告車を運転するにつき右注意義務を怠つて本件事故現場を走行したため、荷台に乗せてあつたシートを路上に落下せしめて、これが原因で原告車を路上に停止させたのであり、訴外遠矢は、第二被告車を運転して、右原告車の停止した地点を通りかかつた際、前方注視を怠つたため自車を原告に追突させて本件事故を発生せしめたのであるから、被告小原は、民法七〇九条により原告の被つた損害を賠償する義務がある。

また、被告四国運輸株式会社(以下、四国運輸という。)は、被告小原の使用者であり、かつ、第一被告車の運行供用者であり、被告美和環境事業株式会社(以下、美和環境という。)は、訴外亡遠矢の使用者であり、かつ、第二被告車の運行供用者であり、しかも、本件事故は右被告ら会社の事業のの執行中のものであるから、被告ら会社はそれぞれ自賠法三条及び民法七一五条により原告の被つた損害を賠償する義務がある。

3  傷害の程度

原告は前記傷害のため、本件事故のあつた昭和五〇年一二月一九日から昭和五一年四月二〇日まで大垣市所在の馬渕病院に入院治療を受け、同月二一日から昭和五二年七月二九日まで名古屋市西区所在の桜井医院に通院治療を受け、その頃症状固定し、後遺症を残すに至つた。

4  損害

(一) 休業損害 四五五万四〇〇〇円

原告は本件事故当時東海菱中運輸株式会社に自動車運転手として勤務し、一か月平均二〇万円の給料のほか夏期手当七万円、冬期手当八万円の一時金の支給を受けていたが、前記症状固定までの間全く稼働することができず、無収入となつた。しかも、本件事故後、一年につき少なくとも一割の賃金の上昇を見たはずであるから、昭和五一年中の原告の得べかりし給料は二七九万円であり、昭和五二年一月から七月までの得べかりし給料は一七六万四〇〇〇円となり、右休業期間中の合計四五五万四〇〇〇円が原告の受けた休業損害である。

(二) 逸失利益 三〇〇万円

原告は昭和五二年八月からは可能な限り働いているが、同月から一年間に得た総収入は九六万円にしかならず、賃金上昇をも加味した原告の得べかりし年収を三〇〇万円と見積れば、右は六八パーセントの減収であり、かかる状態は症状固定時から三年間は継続するものと考えられるから、その間の原告の得べかりし利益の損失は三〇〇万円を下らない。

(三) 付添看護料 一〇万二六〇〇円

原告の妻は本件事故の日から昭和五一年一月七日まで二〇日間泊り込みで原告の付添看護に当つたが、右看護料として一日二五〇〇円の割合による計五万円の付添看護料を要し、その間の同人の食費として五五〇〇円を馬渕病院に支払い、その後は通いで原告の身の廻りの看護に当り、その間の交通費として、名神高速道路の通行料二万四〇〇〇円(一往復八〇〇円の三〇往復分)、ガソリン代二万三一〇〇円(一回分七七〇円の三〇回分)を要した。

(四) 入院雑費 七万三八〇〇円

一日六〇〇円の割合による一二三日間の入院雑費。

(五) 慰藉料 三〇〇万円

原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するものとしては、三〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用 七〇万円

(七) 損害の填補 四七一万九六四八円

自賠責保険金三〇万〇三二〇円

同(後遺症障害によるもの)五六万円

労災保険金(休業補償)二八九万一三五六円

同(障害補償)九六万七九七二円

5  よつて、原告は各被告らに対し、本件事故に基づく損害の賠償として、差引合計金六七一万〇七五二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年一二月一九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告美和環境)

1 請求原因1の事実中、原告主張の日時場所において交通事故が発生したことは認めるが、原告が一旦下車したところ、シートが簡単には取り外すことができなかつたので、発煙筒を取りに運転席へ戻つたところへ第二被告車が追突したとの点は知らない。

2 同2の事実中、被告美和環境が訴外亡遠矢の使用者であるとの点及び同被告が第二被告車の運行供用者であるとの点は否認する。右訴外人は、被告美和環境から産業廃棄物処理を請負つていた自営業者であり、また、第二被告車は、訴外石田隆治の所有にかかるものであり、同訴外人が同車を横浜日野自動車株式会社から買受けるにつき被告美和環境において連帯保証をし、かつ、産業廃棄物処理については登録免許が必要であるため、右車両の登録上使用者名を右登録免許を有する同被告とするいわゆる名義貸をしていたにすぎず、訴外石田は同被告の右登録免許を使用して産業廃棄物処理業に従事していたのである。

3 同3及び4の事実は知らない。

(被告四国運輸、同小原)

1 請求原因1(六)の事故の態様中、第一被告車から本件事故現場付近にトラツクのシートが落下したことは認めるが、その余は知らない。

2 同2の事実中被告小原に過失があつたとの点は否認する。

3 同3の事実は争う。

4 同4の事実中、(七)は認めるが、その余は争う。

三  抗弁

(被告美和環境)

仮に、被告美和環境に損害賠償の義務があるとしても、高速道路の追越車線上に車両を停止せしめること自体非常に危険であるところ、原告は自車を追越車線上に停止せしめたのであるから、原告にも過失がある。

(被告四国運輸、同小原)

仮に、被告四国運輸、同小原に損害賠償の義務があるとしても、第一被告車からシートが落下したのは本件事故当日の午前五時一五分頃であり、原告が右シートのため車を停止させたのは午前五時三〇分頃であり、その間他の車両は右シートを回避して通過しているのであるから、原告もまたこれを回避しえたはずである。しかるに、原告は安易に進行し、この処置をとらなかつたし、原告車はシートをかぶつてからも、自車を道路左側の路肩に移動させることができたのに、そのような処置もとらず、また、原告は後続車への注意をも全く欠いていたのであつて、結局のところ、本件事故は、原告の過失と訴外亡遠矢の過失が競合して発生したものである。

第三証拠〔略〕

理由

一  第一被告車から本件事故現場付近にトラツクのシートが落下したことについては、原告と被告四国運輸、同小原との間に争いがなく、また、原告主張の日時、本件事故場所において原告車と第二被告車との間に交通事故が発生したことについては、原告と被告美和環境との間に争いがない。

二  そこで、先ず本件事故の態様及び責任の有無につき検討する。

成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし九、原告と被告四国運輸、同小原との間において成立に争いがなく、原告と被告美和環境との間においても成立を認むべき乙ロ第一、第二号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める乙ロ第七、第八号証、証人勾坂操の証言によつて真正に成立したものと認める乙ロ第九ないし第一一号証、証人窪内淳、同島内直人、同大江巳好、同勾坂操の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場である名神高速道路の下り車線(大阪方面行き)は中央分離帯(幅員三メートル)を境にして上り車線(名古屋方面行き)と接し、右下り車線は東から西に走行するようになつていて、北から南に向つて順次追越車線(幅員三・七メートル)、走行車線(幅員三・七メートル)、路肩部分(幅員二・五メートル)からなるアスフアルト舗装のされた平坦な見とおしのよい道路であり、規制としては最高速度毎時一〇〇キロメートルとなつている。

2  被告小原は、本件事故発生の日の前日である昭和五〇年一二月一八日午後二時頃第一被告車に野菜を積んで広島県安芸市から名古屋中央市場に向い、同月一九日午前二時半頃同中央市場に着き、右積荷を降ろし、右積荷にかけてきた長さ約一〇メートル、幅約五メートルのシートを足でふみつける程度にして、これを荷台の中央付近に置いたまま同所を出発し、被告四国運輸名古屋支店に来り、そこで、シートのおもしにアルミ製梯子を乗せたまま同日午前五時頃大阪方面に向けて発車し、途中、一宮インターから名神高速道路下り線に入り、同日午前八時頃被告四国運輸大阪支店に到着したが、同日午前五時一八分頃本件事故現場付近を通過した際前記荷台に置いたままにしたシートが路上に落下し、被告小原は右大阪支店に着いて始めて同支店の事務員からシートが落下したことを聞かされた。

3  原告は原告車を運転して前記下り車線の走行車線を西進し、本件事故発生日の昭和五〇年一二月一九日午前五時三〇分頃、本件事故現場に差しかかつたが、前方走行車線上を二台の大型貨物自動車が緩い速度で走行していたので、自車の速度を毎時約八〇キロメートルに加速し、追越車線に出て追越にかかり、右二台の貨物自動車の内の後方車両のほぼ右横に並んだ辺りで、自車の前方約一〇メートル付近から前記第一被告車が落した自動車のシートが路上に舞い上り、これが原告車のフロントガラスに覆いかぶさり、原告においてこれを回避する間もなく、咄嗟に急制動を掛けたが、右シートが自車の前輪タイヤの前で重なつていて、車体下部のシヤフトにからまつたため、ブレーキがかかつたような状態になり、原告車は追越し車線上で停止した。しかし、原告は自動車を追越車線上に停止させておくのは危険でもあるので、先ず、後部非常灯を点灯してから、車外に出て、からまつたシートを取り外そうとしたが、簡単には取ることができなかつたので、後続車に注意を与えるべく、自車の運転席に発煙筒を取りに行つた。その間にも、数台の自動車が自車の左側走行車線を走行して行つたが、原告が発煙筒を手にして自車の後方に行こうとしたとき、たまたま自車の後方から追越車線を走行してきた訴外遠矢運転の第二被告車が原告車の後部に追突し、これがために、原告車は約一二メートル前方に押し出されて停車し、原告も前方約六メートルの中央分離帯付近にはねとばされ、頭部打撲、左上肢打撲、顔面挫創の傷害を負うに至つた。

以上の事実を認めることが、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上の事実をもとに、被告小原及び訴外遠矢の過失の有無につき検討するに、車両の運転者は積載している物の転落もしくは飛散を防ぐため必要な措置を講じなければならないことはいうまでもないが(道路交通法七一条四号参照)、特に高速道路を走行する車両にとつては、風圧等によつて積載物の転落もしくは飛散のおそれが一般道路に比して一層大であるばかりでなく、さらには、これが原因となつて、後続車等他の走行車両に危害を及ぼすおそれが一般に予測されるところであるから、かかる車両の運転者としては積載物の転落等防止に細心の注意を払う義務があるものというべきところ、前記認定事実によれば、被告小原は空車の荷台にシートを十分に固定することもなく、おもしにアルミ製梯子をシートの上に乗せた程度で高速道路を走行したため、右シートが路上に落下し、これが原因となつて原告車をして路上に停止するのやむなきに至らしめ、また、訴外遠矢は前方を注視し、前車との衝突を回避するため、十分に車間距離を保つて安全運転をする義務があるのにこれを怠つたため、同訴外人運転の第二被告車はシートのために停止した右原告車に追突して本件事故を発生するに至らしめたものであつて、原告はシートのからまりといつた第一の事故の結果、殆んど不可避的に発生した第二の追突事故の場に置かれたものであり、しかも、被告小原にとつては本件事故の発生は予見することが可能であり、右第一及び第二の事故における時間的、場所的近接性からみても、右両事故は客観的に関連共同しているものと認められるので、本件事故は被告小原及び訴外遠矢の共同不法行為により発生したものということができ、なお、被告四国運輸が第一被告車を自己のために運行の用に供していたことについては、同被告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべく、以上説示するところによれば、本件事故は被告四国運輸の運行によつて生じたものということができるから、被告四国運輸は被告小原とともに原告の被つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

次に、被告美和環境が第二被告車を自己のために運行の用に供していたか否かにつき検討する。

前顕甲第三号証の四、五、原告と被告美和環境との間においては成立に争いがなく、原告と被告四国運輸、同小原との間においても真正に成立したものと認める乙イ第三号証、第五号証の一ないし三、原告と被告四国運輸、同小原との間においては成立に争いがなく、原告と被告美和環境との間においても真正に成立したものと認める乙ロ第三、第四号証、証人石田隆治の証言によつて真正に成立したものと認める乙イ第六号証、証人石田隆治、同吉永恒一の各証言、被告美和環境代表者篠竹基雄尋問の結果(右証人吉永の証言及び被告代表者の供述については後記措信しない部分を除く)を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告美和環境は産業廃棄物その他一般廃棄物の収集、運搬、処理、最終処分等を業とする会社である。

2  右廃棄物処理等の事業を行うについては地方自治体の長の許可を要し(廃棄物の処理及び清掃に関する法律参照)、被告美和環境は右許可を得て右事業を行つているのであるが、これを行うについてはみずから専用の車両四、五台を所有しているほか、運賃を支払つて車両持ち込みの下請業者四、五名を専属的に雇い入れ、右下請業者らをして被告美和環境の行う廃棄物処理業に従事せしめていた。

3  訴外石田隆治、同亡遠矢はいずれも被告美和環境の専属的下請業者の一人であり、いずれも同被告の指示のもとに、それぞれが各自の車両をもつて同被告の行う廃棄物の処理業に従事していたが、前記のとおり右事業は同被告が地方自治体の長の許可を得て行つているものであるので、各下請業者の所有する右車両についても使用者名義はいずれも被告美和環境ということになつていた。

4  第二被告車は訴外石田隆治が昭和五〇年一二月五日、右産業廃棄物の運搬車として訴外横浜日野自動車株式会社から被告美和環境の連帯保証のもとに代金六九〇万円で所有権を売主に留保したまま月賦にて購入したものであるが、前記のとおり右車両の使用者名義は被告美和環境となつており、その車体には同被告の産業廃棄物専用車であることを示す表示がなされていた。

5  ところで、被告美和環境の専属的下請業者の一人である訴外遠矢が右廃棄物の処理業務のため従前から所有ないしは使用していた車両がたまたま自動車検査のため使用できなかつたので、本件事故当時は、訴外遠矢において訴外石田隆治から前記第二被告車を借り受け、これを被告美和環境の業務のため使用中、本件事故を惹起せしめた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反し、訴外石田、同遠矢はいずれも被告美和環境の専属的下請業者ではないこと、または本件事故当時、訴外遠矢は第二被告車を私用のために運転していたとする証人吉永恒一の証言、被告美和環境代表者尋問の結果は前掲証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告美和環境は第二被告車の使用につき支配権を有し、かつ、これが使用により利益を享受していたものと認めるのが相当である。

したがつて、被告美和環境もまた第二被告車の運行供用者として、被告四国運輸、同小原とともに原告の被つた損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

三  被告四国運輸、同小原は、原告は落下したシートを避けて走行することができたのに、安易に進行を続け、回避の処置をとらなかつたこと、またシートをかぶつてからも直ちに路肩方向に自車を移動させなかつたこと、あるいは後続車に対する配慮が足らなかつたことを理由に、原告にも過失がある旨主張するけれども、前記事故の態様の項において認定した事実に照らして、原告において、右被告らの指摘するような処置をとることはできなかつたものと認められるし、また自車の後続車に対する配慮に欠けるところがあつたものとも認められないし、他に原告に過失があつたことを確認するに足る証拠はないので、右被告らの主張は採用することができない。

被告美和環境もまた、原告が追越車線上に停止したことに過失がある旨主張するけれども、前記認定の事実に照らして、追越車線上に停止したこと自体には何らの過失も見当らないので、同被告の右主張も採用することはできない。

四  次に、原告の被つた損害について検討する。

1  傷害の程度と治療経過について

前掲甲第二号証、成立に争いのない甲第一号証、第一三号証、第一六号証の一二、証人桜井正の証言、原告本人尋問の結果によると、原告はその受けた傷害の治療のため、本件事故発生の日である昭和五〇年一二月一九日から昭和五一年四月二〇日まで大垣市所在の馬渕病院に入院して治療を受け、次いで同月二一日から昭和五二年七月二九日まで名古屋市西区所在の桜井医院に通院して治療を受け(通院実日数二八三日)、その頃症状固定したものと診断され、労働基準法施行規則別表第二所定の身体障害等級一二級一二号の局部に頑固な神経症状を残すものとする後遺症を残すに至つたことが認められ(右等級は自賠法施行令二条別表のそれと同じ)、右認定に反する証拠はない。

2  休業損害について

原告本人の供述によつて真正に成立したものと認める甲第一四号証に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故当時東海菱中運輸株式会社にトラツクの運転手として勤務しており、本件事故前一年の給料は夏期三万円、冬期七万円の賞与をも含めて年間二五一万四〇〇〇円を得ていたこと、しかるに本件事故のため昭和五〇年一二月二〇日以降症状の固定した昭和五二年七月末日頃まで全く稼働することができず、右勤務先も退職となつたことが認められる。

原告は夏期七万円、冬期八万円の賞与を受け得た旨主張し、原告本人は右に副うような供述をしているけれども、右供述はにわかに採用するを得ず、他にこれを確認するに至る証拠はない。

原告は、昭和五一年中は前年より一割の賃金の上昇があつたはずであるから、昭和五一年中は前年中の賃料の一割増したものを昭和五二年の賃金については昭和五一年の右賃金をさらに一割増したものを基礎に休業損害を算定すべきである旨主張し、成立に争いのない甲第一八号証の一ないし三によれば、平均賃金が統計上前年度に比して上昇していることが認められるけれども、従前どおり、原告が本件事故当時勤務していた会社に勤務していたからといつて、原告の賃金が右上昇率に見合つて上昇したものとは限らないし、他にこれを認めるに足る証拠はないので、右主張は採用することができない。

以上認定の事実によれば、原告が受傷後症状固定までの間に受けた休業損害は従前の賃金をもとに算定するのが相当であり、そうだとすると、その額は原告主張の昭和五一年中は二五一万四〇〇〇円、同じく昭和五二年一月から七月までは一四六万六五〇〇円となり、右合計三九八万〇五〇〇円が原告の休業損害となる。

3  逸失利益について

原告と被告美和環境との間においては成立に争いがなく、原告と被告四国運輸、同小原との間においては原告本人の供述により真正に成立したものと認める甲第一五号証の一ないし一三に原告本人尋問の結果を総合すると、原告はその症状が固定した後の昭和五二年八月下旬頃から漸く働きに出ることが出来るようになり、最初は建設現場においての旗振りとか、水まきの手伝から徐々に仕事を始め、同年一二月頃からは通勤のための自動車の運転手として稼働するようになり(但し、長時間にわたつての運転は不可能であつた。)、その後は社会復帰に努力していること、もつとも、当初の八か月間の給料は平均して一か月六万六五〇〇円程度のもので、事故当時の収入の三一パーセント程度の収入しかあげることができなかつたが、その後の四か月は平均して一か月一三万五八〇〇円であつて、事故当時の収入の六四パーセントまで収入をあげることができるようになつたことが認められ、右事実に、前記認定の後遺症の程度を合わせ考えると、症状固定後の後遺症による労働能力の低下は症状固定後三年間は継続して存在し、その喪失率は当初の一年間は五八パーセントの、次の一年間は三〇パーセントの、三年目の一年間は二〇パーセントの喪失があつたものと認めるのが相当であり、右につきホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると(但し事故当時から症状固定までを一年として算定する。)その額は二四〇万〇一九〇円となり、原告は同額の得べかりし利益を喪失したものと認める。

2,514,000×0.58×0.9090(ホフマン係数)=1,325,431円

2,514,000×0.3×0.8695(同上)=655,776円

2,514,000×0.2×0.8333(同上)=418,983円

4  付添看護料等について

成立に争いのない甲第四号証の一ないし五五、第一二号証、原告と被告四国運輸、同小原との間においては成立に争いがなく、原告と被告美和環境との間においても真正に成立したものと認める乙ロ第一三号証、原告本人尋問の結果を総合すると、前記原告の入院中二三日間は付添看護が必要であつたこと、原告の妻が泊り込みでその間の付添看護に当り、その間の同人の食費として五五〇〇円を馬渕病院に支払つたこと、また、原告の入院先は大垣市にあり、原告の妻の住居は名古屋市西区にあり、原告の入院が長期間に及んだため、右入院期間中、原告の妻が三〇回程度、原告の入院先に赴いて身の廻りの世話をし、その交通費として、名神高速道路を利用したため一往復八〇〇円の合計二万四〇〇〇円を支出したことが認められ、右付添看護に一日当り二〇〇〇円を要すること、右ガソリン代として一回当り七七〇円を要することは顕著な事実であり、以上の事実に照らして、右合計九万八六〇〇円の支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認めることができ、右金額を超える分については本件事故と相当因果関係はないものと認める。

5  入院雑費について

原告が一二三日間入院したことは前記認定のとおりであり、右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計六万一五〇〇円の入院雑費を要したことは経験則上これを認めることができる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係はないものと認める。

6  慰藉料

本件事故の態様、原告の受けた傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の家族関係、その他本件記録にあらわれた諸般の事情を考え合わせると、本件事故により原告が多大の精神的苦痛を受けたことは推認するに難くなく、右苦痛を慰藉するものとしては金一九一万円をもつて相当とする。

7  弁護士費用について

以上によると、原告の被つた損害額は合計金八四五万〇七九〇円となるところ、原告において内金四七一万九六四八円を受領したことは原告の自認するところであるからこれを差引くと、原告の損害額は金三七三万一一四二円となる。

しかして、原告が本件訴訟の遂行を原告代理人に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対し、本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は二九万円とするのが相当である。

五  よつて、原告の本訴請求は被告らに対し各自金四〇二万一一四二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年一二月一九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白川芳澄)

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