名古屋地方裁判所 昭和52年(ワ)2377号 判決
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【判旨】
一本件記録によれば、本訴請求は原告らが土地の工作物(建物)の設置又は保存の瑕疵によつて蒙つた損害を民法七一七条一項によつてその所有者である被告らに賠償を求めているものであることは明らかである。
二してみると、原告鈴木登史の蒙つた損害は、同原告が賃借している店舗の真上の二階の一室の賃借人(占有者)である林のり子らの水漏れの過失によつて生じた損害であり、右事故は、被告らの全く関知しないものであるから、原告らによる本訴の提起は不適法である、との被告らの主張は本訴請求が工作物の設置又は保存の瑕疵の存在を前提とする民法七一七条一項に基づく請求であることを無視する主張であり、当裁判所の到底肯認することのできないものである。
次いで、被告らは、原告らは一次的責任者である占有者林のり子らに対して先ず蒙つた損害の賠償を求めるべきであるのに、これをなさず二次的責任者に過ぎない被告らに対して直ちに本訴を提起した違法がある、旨主張する。しかしながら、当裁判所は、原告らによる主張のような訴の提起も当然に許されるものと解する。なるほど民法七一七条一項によれば工作物の瑕疵に基づく損害賠償責任は実体法上は一次的にはその占有者が、そして二次的にその所有者が責任を負うこととなるが、だからといつて当然に訴訟法上も先ず被害者は必らず工作物の占有者に対して訴を提起し、その訴が効を奏しなかつたときに初めて二次的責任者であるその所有者に対して訴の提起をなし得るに過ぎないとは解することは到底できないし、その解するに合理的理由もない。被害者は、工作物の占有者に過失のないことを前提としてその所有者に直ちに損害賠償を請求し得るのであつて、この場合占有者に過失のないことは被害者の主張、立証すべき請求原因となるに過ぎないのである(占有者に過失があることを前提とする占有者に対する損害賠償の請求の場合は、無過失が占有者の抗弁となる)。もし、被告らの主張する見解に従うならば、現行訴訟法体系のもとで所謂主観的予備的併合の併合型態が許されるかどうかなお疑問のあるところであるが、仮に右併合型態が許されないとすると、被害者の求める経済的利益は一つであるのに、被害者は場合によつては二度にわたる訴の提起を余儀なくされ、費用(貼用印紙代)、労力および時間の損失は倍化され、また時として時効によつて権利を失うことも起るのであつて、かかることが到底肯認できないことは明らかであろう。
(大橋英夫)