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名古屋地方裁判所 昭和52年(行ウ)22号 判決 1980年2月04日

愛知県刈谷市松坂町三丁目三三番地

原告

都築金吾

右訴訟代理人弁護士

加藤高規

同県同市神明町三丁目三四番地

被告

刈谷税務署長

福沢千秋

右指定代理人

横山静

市川朋生

藪毛荒

北川拓

山本正一

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

(被告)

一、被告が原告に対してなした次の各処分を取消す。

1 昭和五〇年二月三日付でなした昭和四六年分所得税の決定処分並びに昭和四七年分及び昭和四八年分所得税の各更正処分

2 昭和五〇年二月三日付でなした昭和四六年分所得税の無申告加算税及び昭和四八年分所得税の過少申告加算税の各賦課決定処分

3 昭和五〇年四月二八日付でなした昭和四七年分所得税の無申告加算税の賦課決定処分

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

(被告)

主文と同旨の判決を求めた。

第二、主張

(原告)

請求原因

一、原告は、肩書地において機械部品の加工業を営んでいるものである。

二、原告は、自己の所得につき、被告に対し、昭和四六年分は所得がないとして無申告、昭和四七年分及び昭和四八年分については別紙二、三の各「確定申告額」欄記載のとおり確定申告をした。

三、しかるに、被告は、右申告が過少であるとして、申立欄(原告)一記載の各処分(以下「本件各処分」という。)をなした。本件各処分の内容は別紙一ないし別紙三の「決定額」「更正及び賦課決定額」「加算税の再決定額」欄記載のとおりである。

四、本件各処分のうち昭和四六年分及び昭和四七年分の各処分については、原告の審査請求により、国税不服審判所は別紙一、二の各「裁決額」欄記載のとおり一部取消の裁決をなし、名古屋国税不服審判所長はその旨を昭和五二年二月八日付で原告に通知した。

五、しかしながら、本件各処分(但し、右裁決により取消された部分を除く。)は違法である。即ち、被告は、原告が各年度において実際に支出した外注雇人費を必要経費と認めず、同業青色申告者者の平均的な雇人費等の経費率によってこれを推計したとして低額な必要経費を算出し、これによって原告の事業所得を実際より多額に認定している。

六、よって、原告は被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因一ないし四の事実は認め、同五の事実は否認する。

本件各処分の適法性

一、課税の経緯

被告は、原告から提出された昭和四七年分及び同四八年分の確定申告書に記載されている事業所得金額について(なお昭和四六年分は無申告)、その申告が適正かどうか確認のため昭和四九年七月頃から被告の所属係員をして、再三、原告方に赴かせ、実地に調査を行わせた。

しかるに、被告が再三、再四原告に事業に関する帳簿書類等の提出を求め、かつ、営業概況及び事業所得金額の計算根拠等の説明を求めたが、原告はいずれもこれに応じず全く調査に協力しなかった。

そこで、被告は、やむを得ず所属係員をして可能なかぎり原告の取引先等について、原告との取引の状況あるいは事業規模等の調査を行ったうえ推計により原告の本件係争各年分の事業所得金額を算定し、国税通則法二五条、二四条、六六条、六五条、三二条により本件各処分をなした。

二、営業所得金額

被告は、原告が被告の本件係争年分の事業所得金額の調査に全く応じなかったので、前記のとおり推計課税をしたが、その後可能なかぎり調査をなし、昭和四六年分については、収入金額、一般経費及び特別経費について実額により把握した。

被告は、昭和四七年分及び同四八年分についても可能なかぎり調査を実施したところ、右両年分については、収入金額及び一般経費は実額で把握したが、特別経費のうち外注雇人費の一部については実額の把握ができなかったので推計により、その余の部分及び他の特別経費については実額により把握した。

右により本件係争年分の原告の総所得金額を算定すると別紙四記載のとおりである。

したがって、右金額の範囲内でなされた本件各処分は適法である。

三、外注雇人費

特別経費のうち外注雇人費の明細は、別紙五ないし七記載のとおりである。

1 鶴木巌に係る外注雇人費

原告は、豊田工機株式会社(以下豊田工機」という。)の下請であり、その仕事の一部を鶴木巌に委託加工させていたもので、右委託加工に対応する収入金額から一定の手数料及び交際費を徴収し、その残額を鶴木に外注費として支払っているものである。

右手数料は、鶴木が原告の下請をした当時は右収入金額の一五パーセントで段々あがって最終的には二五パーセントとなり、また、右交際費は一か月一万円であった。

そこで、手数料の割合は、原告が鶴木に外注費を支払った昭和四六年二月から昭和四七年六月までの期間を三等分し、昭和四六年二月から七月までを一五パーセント、同年八月から昭和四七年一月までを二〇パーセント、同年二月から六月までを二五パーセントと認定した。

2 森本秀雄(炳昌)に係る外注雇人費

原告は、前記鶴木と同様、収入金額から一定の手数料及び交際費を徴収し、その残額を森本秀雄に外注費として支払っているものである。

右手数料は右収入金額の二〇パーセントであり、また、右交際費は盆及び年末に合計一〇〇、〇〇〇円であった。

したがって、原告は、交際費として、昭和四七年一二月に五〇、〇〇〇円、昭和四八年七月に五〇、〇〇〇円を徴収しているものと認定した。

(原告)

一、被告の主張に対する認否

別紙四のうち、各収入金額は認める。

被告の主張する各一般経費の存在することは認めるが、それ以上の一般経費が存在する。即ち、昭和四六年分の一般経費は一、五八八、七〇三円、昭和四七年分の一般経費は七七六、〇六七円、昭和四八年分の一般経費は二、九八七、三四八円である。

特別経費のうち外注雇人費については、昭和四六年分(別紙五)のうち鶴木巌らの分は後記のとおり二、八一九、七三五円、森本節男らの分は一七〇、六二七円である。昭和四七年分(別紙六)のうち鶴木らの分は後記のとおり一、二〇六、一八〇円、森本秀雄の分は後記のとおり一、四五四、三六〇円であり、その他に一七〇、三五五円の支出がある。昭和四八年分(別紙七)のうち森本秀雄の分は後記のとおり七、八六九、〇四四円であり、その他に七二一、七二九円の支出がある。特別経費のうち支払割引料及び減価償却費はいずれも認める。

二、鶴木巌外一名に係る外注雇人費

1 原告は、昭和四六年一月より昭和四七年五月頃まで、豊田工機の社内外注として、鶴木外一名と共同で、工作機械のベアリング研削盤の組立作業に従事していた。ところで、鶴木外一名は豊田工機に対して信用がなかったため、原告名義でもって外注作業に従事していた。従って豊田工機の鶴木らに対する外注工賃は、原告名義あてに支払われ、原告の口座に振込まれていた。

2 原告と鶴木らとの間では、原告の名義使用料として、鶴木らの稼働分の一〇パーセント相当額が原告に対し支払われる旨の契約が成立していた(但し、豊田工機の仕事を持ちかえり、原告の工場を利用して作業するときは、二〇パーセントと特約されていた。)。

従って、鶴木らは、形式はともかく実質的には原告の雇人ではなく独立した外注者とみるべきであり、鶴木らの稼働分の外注工賃については原告の収入とは全く関係がなく、そのうち一〇パーセント相当の名義料が原告の収入となる。

3 仮に豊田工機から原告名義あてに支払われた三名分の外注工賃を原告の収入として所得を算出するのであれば、原告を経由して鶴木らに支払われた外注工賃(原告が豊田工機から受けた工賃額からその一〇パーセント相当の名義料を控除した金額)は、必要経費に算入すべきである。その金額は、次のとおりである。

昭和四六年分(一月から一二月まで)

合計二、八一九、七三五円

昭和四七年分(一月から五月まで)

合計一、二〇六、一八〇円

三、森本秀雄(炳昌)らに係る外注雇人費

1 原告は、豊田工機より研削盤のベット組付作業を昭和四七年一〇月頃から行ってほしい旨依頼され、原告自身この精密機械作業にかかれない事情があったため、この外注工事を森本秀雄に対して原告名義でやってくれるよう依頼した。同人は、これを応諾し仲間四名と共に同年一〇月から昭和四八年九月頃まで右作業に従事した。

2 原告と右森本との間では、前記一の場合と同様、名義使用料として外注工賃の一〇パーセントを原告に対し支払う旨の契約が成立していた。そして、これについても、外注工賃は原告名義の口座に振込まれ、名義料を差引いた金額が右森本らに対して支払われたのである。

従って、右森本らは原告の雇人ではなく、右の名義料のみが原告の収入となる。

2 仮に豊田工機から原告の口座に振込まれた外注工賃の全部を原告の収入として所得を算出するのであれば、原告を経由して右森本らに支払われた外注工賃(原告が豊田工機から受けた工賃額からその一〇パーセント相当の名義料を控除した金額)は、必要経費に算入すべきである。その金額は、次のとおりである。

昭和四七年分(一〇月から一二月まで)

合計一、四五四、三六〇円

昭和四八年分(一月から九月まで)

合計七、八六九、〇四四円

第三証拠

(原告)

一、甲第一号証の一ないし一八、第二号証の一ないし四、第三号証、第四、五号証の各一ないし六を提出した。

二、証人森本炳昌こと李炳昌、同鶴木巌の各証言及び原告本人尋問の結果を援用した。

三、乙第一ないし第五号証のうちいずれも領収証部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、第六。七号証の成立は不知、第八号証のうち自動車税納税義務発生申告書及び軽自動車税納税義務消滅申告書の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知、第三一号証の一の成立は不知、第四六号証のうち領収書部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知とし、その余の乙号各証の成立を認めた。

(被告)

一、乙第一ないし第一一号証、第一二ないし第一四号証の各一ないし四、第一五ないし第三〇号証、第三一号証の一・二、第三二ないし第四六号証を提出した。

二、証人渡辺隆夫、同山本正一の各証言を援用した。

三、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、請求原因一ないし四の事実は、当事者間に争いがない。

二、成立に争いのない甲第二号証の一ないし四によれば、本件各処分は推計課税の方法によって行われたことが認められるので、その推計課税の必要性について考えるに、被告の主張「本件各処分の適法性」のうち「一 課税の経緯」の事実については、原告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなされるところ、右の事実によれば、被告は調査を行おうとしても原告の協力が得られなかったのであるから、推計課税の方法による必要性があったものと認めるべきものである。

三、そこで、右推計課税の適否ないし合理性について考える。

別紙四のうち、各収入金額は、当事者間に争いがない。各一般経費については、被告が別紙四において主張する経費の存在することは、当事者間に争いがない。原告は、右経費を超える一般経費が存在する、と主張するのであるが、これを認めるべき証拠はないのであるから、一般経費は被告の主張する金額にとどまるものと認めざるを得ない。

特別経費のうち各支払利子割引料及び各減価償却費は、当事者間に争いがない。

次に、特別経費のうち各外注雇人費について検討する。いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし一七、第四、五号証の各一ないし六、いずれも領収証部分の成立は争いなく、その余の部分の証人渡辺隆夫の証言により成立の認められる乙第一、二号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第六号証、証人鶴木巌、同森本炳昌こと李炳昌の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、豊田工機から円筒研削盤のすり合わせや組付等の仕事を請負い、この仕事の一部を昭和四六年一月から昭和四七年五月までの間は鶴木巌に(工賃は翌月払い)、同年一〇月から昭和四八年九月までの間は森本秀雄にそれぞれ下請させていたこと、原告が豊田工機から受領した鶴木に係る工賃額は昭和四六年分としては別紙五記載のとおり二、八一九、七三五円、昭和四七年分としては別紙六記載のとおり一、二〇六、一八〇円(別紙六のうち一月三一日二六六、五二〇円は、別紙五と重複記載であるので除外する。)であり、原告が豊田工機から受領した森本秀雄に係る工賃額は、昭和四七年分としては別紙六記載のとおり一、六一六、〇〇〇円、昭和四八年分としては八、七四三、三八二円であり、原告は、右の各金額から一定割合の手数料及び鶴木については毎月一〇、〇〇〇円の交際費、森本については盆と年末に各五〇、〇〇〇円の交際費をそれぞれ控除した金額を外注雇人費として右両名に支給していたことが認められる。

1  鶴木に係る外注雇人費

前掲乙第一号証及び証人鶴木巌の証言によれば、鶴木に係る右手数料の割合は、はじめは一五パーセントであったが、その後段々あがって最終的には二五パーセントとなったことが認められる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、右証拠に照らして採用し難い。しかしながら、手数料の割合が右のとおり変更された時期を証拠上確定することができないので、原告に有利に、仮に右割合が全期間を通じて一五パーセントであったとして、鶴木に係る外注雇人費を計算すれば、次のとおりとなる。

昭和四六年分

二、八一九、七三五円×〇・八五-一一〇、〇〇〇円(交際費)=二、二八六、七七五円

昭和四七年分

一、二〇六、一八〇円×〇・八五-六〇、〇〇〇円(交際費)=九六五、二五三円

2  森本秀雄に係る外注雇人費

前掲乙第二号証によれば、森本秀雄に係る前記手数料の割合は当時の世間相場として二〇パーセントであったことが認められる。この点につき、証入森本炳昌の証言及び原告本人尋問の結果中には、右割合は一〇パーセントであった旨の供述部分があるが、原告本人尋問の結果によれば、鶴木が原告からの下請をやめたので、その後森本が原告から下請をするようになったもので、鶴木、森本の両者共その仕事の内容は同じであり、その他の条件もほとんど同じであったことが認められるから、鶴木に係る手数料の割合が前記認定のとおり一五ないし二五パーセントであったのに、森本に係るそれが一〇パーセントであるというのは甚だ不合理であるので、前記供述部分はにわかに措信し難い。また、甲第一号証の一八(領収証)の信用力については、その作成者である証人森本炳昌こと李炳昌の証言及び前掲乙第二号証に照らして、その記載金額が正確なものとは認め難い。他に前記認定を左右すべき証拠はない。

そうすれば、森本に係る外注雇人費は、次のとおりとなる。

昭和四七年分(別紙六)

一、六一六、〇〇〇円×〇・八〇-五〇、〇〇〇円(交際費)=一、二四二、八〇〇円

昭和四八年分(別紙七)

八、七四三、三八二円×〇・八〇-五〇、〇〇〇円(交際費)=六、九四四、七〇六円

次に、右のほか、いずれも領収証部分の成立は争いなく、その余の部分は証人渡辺隆夫の証言により成立の認められる乙第三ないし第五号証によれば、原告が外注雇人費として、昭和四六年分として別紙五記載のとおり森本節男に四六九、二〇〇円を、昭和四八年分として別紙七記載のとおり竹下やゑに三二、〇〇〇円、都築ナツ子に四五、〇〇〇円を支払ったことが認められる。

原告は、昭和四七年分、同四八年分の外注雇人費として他に右金額を超える金額を支出した、と主張するのであるが、これを認めるべき証拠はないのであるから、外注雇人費は右金額にとどまるものと認めざるを得ない。

四、以上によれば、営業所得金額の計算は、次のとおりとなる(単位は円)。

<省略>

五、してみれば、本件各処分は、右の営業所得金額(総所得金額)の範囲内においてなされたものであるから、何ら違法ではない。

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 浜崎浩一 裁判官 山川悦男)

別紙一

昭和四六年分課税処分表

<省略>

別紙二

昭和四七年分課税処分表

<省略>

別紙三

昭和四八年分課税処分表

<省略>

別紙四

営業所得金額計算表

<省略>

別紙五

昭和四六年分外注雇人費計算明細表

<省略>

別紙六

昭和四七年分外注雇人費計算明細表

<省略>

別紙七

昭和四八年分外注雇人費計算明細表

<省略>

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