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名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)1987号 判決 1980年9月01日

原告

野口次郎

右訴訟代理人

石原金三

外二名

被告

加藤一也

被告

加藤知子

右両名訴訟代理人

後藤昭樹

外二名

主文

一  被告らは原告に対し各自金一三二万円及びこれに対する昭和五二年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

1  被告らは原告に対し連帯して金五三四万七、八一七円及びこれに対する昭和五二年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

<以下、事実省略>

理由

一本件事故の発生および原告の受傷部位・程度

原告が昭和五二年一二月二日名古屋市中区新栄町三丁目所在の加藤医院診察台上において、体位を伏臥位から仰臥位に転換しようとした際、同診察台の床部分を支えている支柱の留め具がはずれて同床部分が落下し、その結果、原告の左環指が同床部分の下敷きとなり、左環指挫創の傷害を負つたことは当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、原告は、前記床部分の落下により左環指挫創のほか左環指末節骨骨折の傷害を負い、直ちに、被告知子から切断部縫合などの応急処置を受けたのち、昭和五二年一二月三日から昭和五三年三月一三日まで名古屋市中区大須一丁目所在の水主町外科にて通院治療を受け、治癒した旨の診断を得たものの、左環指先端部皮下組織欠損などのため、同指の若干の短縮、同指先端部の感覚異常(しびれ感、冷感)の障害を被つていることが認められる。

二被告らの帰責事由

被告知子本人の供述によれば、医師たる被告一也は、昭和二八年、診療科目を皮膚科、泌尿器科とする加藤医院(診療所)を開設して以来、同医院の運営に関与しているものであり、被告知子は、昭和二九年以来被告一也を援助し、医師として同医院の医療業務に従事しているほか、昭和四九年五月被告一也が病のため床についてからは、被告一也の助言を得て同医院の診療その他の事務全般を担当しているものであることが認められ(以上の事実中、被告一也が加藤医院の経営者であり、被告知子が同医院の医師であることは当事者間に争いがない)、この事実よりみると、被告一也は医師であるとともに診療所経営者として、被告知子は診療所の医師として、いずれも、同所を訪れる患者の生命、身体の安全確保に努めるべき責務を負い、被告らが同所で行なう医療に関して使用する器具、設備についても、患者の生命、身体に対し医療以外の侵害を与えるおそれのない安全性の確保されたものを備え、かつ常にその確保に留意すべき注意義務を負担しているものというべきであつて、右器具、設備の使用にともなつて、患者の生命、身体に対し医療以外の侵害が生じた場合には、特段の事情のない限り、右注意義務に違反したものとして、右侵害によつて患者の被つた損害を賠償すべき責任を負うものと解するのが相当である。

そして、<証拠>によれば、原告は、昭和五二年一二月二日、尿道炎の自覚症状があるとして、加藤医院を訪れ、同医院医師被告知子にその診療を求め、問診を経たのち、同被告から診察台(床部分までの高さ約0.8メートル、幅約0.5メートル、床部分の腰部のあたる個所から頭部のあたる個所にかけ約一〇度の上勾配となつている)に休むよう指示されたことから、でん部に注射を受けるものと考え、下穿などを若干下げ、同台上で伏臥位の体位をとつたところ、同被告から仰臥位に変るよう指示されたため、直ちに同台上で体位を転換しようとした際、同台の床部分を支える支柱の留め具がはずれて床部分が落下し、前記各傷害を負つたことが認められるのであつて、以上の事実に徴すると、原告が加藤医院において被告知子による診療行為を受ける過程で、同医院に備えられた診察台の使用にともない前記各傷害を負つたこと明らかであり、かつ後記認定のとおり、被告らにおいて原告に対する損害賠償責任を免れるべき特段の事情も認められない以上、被告ら各自は、原告が右各傷害によつて被つた損害を賠償すべき責任があるものといわねばならない。

すなわち、被告らは、原告が診察台上で乱暴な動作をとり、バウンドするようにして体位を転換しようとしたことが、診察台の床部分落下の原因である旨主張し、被告知子本人の供述にも右主張に副う部分が存するが、仮に被告らの主張するように、原告が右の程度の動作をとり、その衝撃によつて床部分が落下(すなわち、床部分を支える支柱の留め具のはずれた)したものであるならば、当該診察台は明らかに安全性に欠けていたものといわねばならず、かかる器具を使用して診察行為にあたつていた被告らこそ責められるべきである。更に、原告および被告知子本人の各供述、検証の結果に照らすと被告知子は、原告に対して、単に、診察台に休むように指示したのみで、あらかじめ、その後の診療内容を告げて同台上でとるべき体位まで指示せず、また体位を変えるよう指示するにあたつても、同台の床部分の幅が約0.5メートルと狭く、かつ、高さも約0.8メートルあつて、転落防止の設備もなく、従つて同台上で体位を変えることが極めて困難であり、転落の危険もあると認められるにかかわらず、一旦同台から降りたうえ、体位を変えるべき旨の指示もしていないこと明らかである。従つて被告知子は、診察台を使用して原告に医療行為をなすにあたつても、原告の身体に対する安全性の確保に欠けていたものと認定せざるを得ず、その他本件全証拠によるも、被告ら各自の原告に対する損害賠償責任を否定するのが相当であると認定すべき事情も認められない。

(なお、以上の各認定に照らすと、本件事故発生につき、被告らの主張する程度の責められるべき事情が原告にあつたとしても、それを、被告ら各自の原告に対する損害賠償額の算定に斟酌するのが相当であると認定することもできない。)

三原告の損害

<証拠>によれば、原告は、本件事故当時、新日本観光株式会社及び新日本不動産株式会社の代表取締役として稼働していたところ、前記各傷害のため、昭和五二年一二月から昭和五三年二月まで右業務を充分に遂行できず、その間右各会社から給与を取得しなかつた旨主張していることが認められるが、前認定による原告の受傷部位程度、証人近藤慶一郎の証言によつて認められる治療経過、原告本人の供述によつて認められる原告の職務内容(会社役員たる地位にあること)に徴すると、原告が前記各傷害のためその業務を充分に遂行せず、その間右会社から給与を取得しなかつた事実があるにしても、それは、本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害として被告ら各自に負担させるべきものと認定することは困難であつて、慰藉料算定の資料として斟酌するのが相当である。<以下、省略> (谷口伸夫)

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