名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)2898号 判決
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【判旨】
二<証拠>によれば、原告は被告の弟であること、本件土地はもと原告の養母竹内てるの所有であつたところ、被告は、昭和二一年一二月すぎころ原告から書面によることなく本件土地を借りて本件建物を建築所有したこと、被告は、昭和三〇年八月から昭和三二年一〇月までの間に原告が名古屋市に納付すべき本件土地に係る従前分の滞納市税額を負担したが、以降は原告との合意により本件土地の固定資産税のみを被告が出捐し、それ以外には賃料と目すべきものの授受はされなかつたこと、昭和三八年に至り、原告からの申入に基づき公正証書によつて新たに月額金二、五〇〇円の賃料の支払を内容とする本件土地の賃貸借契約書を作成する話がまとまり、同年一〇月一日、原被告の立会の下に本件土地について木造瓦葺の建物所有の目的で、賃料額を右のとおり月額金二、五〇〇円とする借地契約公正証書が作成されたこと、その際、原告から賃貸借の契約期間を同年から二〇年とするのは長すぎるとの申入がされたことから、契約終期を早める目的で、借地権の存続期間を賃貸借契約の日から二〇年間とする一方で、賃貸借契約の日を五年余り遡らせ昭和三三年九月二〇日とする条項が合意されたことを認めることができ、原告本人尋問の結果右認定に反する部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。
右認定事実によれば、昭和二一年に原被告間で結ばれた本件土地に関する契約を賃貸借と評するか使用貸借と評するかは別として、原告と被告とは、昭和三八年一〇月一日、従前のあいまいな契約関係を消滅させ、公正証書という明確な手段により新たに賃貸借契約を結んだが、借地法上の借地権の存続期間の制限を潜脱し、実質的に借地権の存続期間を一五年足らずとする目的で、右存続期間を契約の日から二〇年としつつ、契約の日を過去に遡らせたものと解することができるから、右存続期間の約定は、借地法一一条により、定めなかつたものとみなされ、本件土地の賃貸借の存続期間は、同法二条一項本文により右賃貸借契約の時から三〇年と解される。
そうすると、請求原因3及び4の各事実の存否を検討するまでもなく、原告の更新拒絶による賃貸借終了の主張は失当である。
三<証拠>によれば、本件建物は昭和二一年一二月ころ建築された木造瓦葺平家建の店舗兼居宅用建物で、資材・施工は物資不足の時代に建築されたため応急住宅に近く、経年、自然的作用、使用による汚損、損傷、摩滅、腐蝕箇所が全体に見られ、屋根は老朽化し、基礎の玉置石が一部沈下し、壁は老朽化して部分的に土が剥離し、土台、柱、桁、棟木、床、建具、便所等も老朽化して大いに汚損し、土台、柱の根本には一部腐蝕が見られ、柱の中には傾いているものもあり、全体に老朽化、損耗がかなり進んで、既に市場価値は失われていることが認められる。しかしながら前掲各証拠によれば、また、本件建物の屋根には大きな波打ち破損、欠落はなく、通常の降雨下では大きな雨漏りはなく、壁はベニヤ板を張り補修されてすきま風の透過が防止され、建具、設備等は日常生活に支障はなく、建物全体として大きな不同沈下、傾斜、陥没等が見られず、柱、桁、屋根の小屋組等主要構造部により建物自らの力によつて屋根を支え、独立して土地上に建つており、さらに内部への人の出入に危険を感じさせるようなものでなく、従つて倒壊の危険性はまだなく、現に店舗兼居宅として使用収益されており、通常の維持管理、同一性を保ちうる程度の通常の修繕を加えて行けば昭和五四年七月の時点から見ても十数年の使用に耐えうることも認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実によれば、本件建物は、まだ建物としての社会的経済的効用を失う程度には至つておらず、借地法二条一項但書にいう朽廃の程度には達していないということができる。
(成田喜達)