大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)1号 判決 1980年2月22日

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二七六万二〇二九円及びこれに対する昭和五一年一〇月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一五六一万一二九〇円及びこれに対する昭和五一年一〇月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五一年一〇月三〇日午後四時一五分ころ

(二) 場所 三重県桑名市中央町五丁目二一番地先国道一号線路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(名古屋五八ね五九一二号)

右運転者 被告鈴木満(以下「被告満」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 態様 原告は国道一号線上を自転車で通行していたところ、交差道路から飛び出した加害車の前部に衝突された。

2  原告の受傷、治療経過等

(一) 受傷 両腓骨骨折、右腓骨神経左挫創、右膝関節内出血、左母指MP関節部側副靱帯断裂

(二) 治療経過

入院 昭和五一年一〇月三〇日から同年一二月三〇日まで(六二日間)

通院 同年一二月三一日から昭和五二年六月一一日まで(実日数一〇六日)

(三) 後遺症 自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令別表第一〇級、第一二級に該当する後遺症が併存する。

3  責任原因

(一) 被告満について

被告満は、自車進路と交差する国道一号線上を通行する車両、歩行者の有無を十分注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、国道一号線上を通行する原告に気付かずに自車を進行させた過失により本件事故を発生させた。

(二) 被告鈴木純一(以下「被告純一」という。)

被告純一は、本件事故当時、加害車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

4  損害

(一) 治療費 金一二〇万五六四〇円

(二) 義歯代 金三〇万円

(三) 入通院雑費 金一〇万〇四五〇円

入院期間六二日につき一日金七〇〇円の割合による金四万三四〇〇円と通院期間一六三日につき一日金三五〇円の割合による金五万七〇五〇円との合計金一〇万〇四五〇円

(四) 付添看護料 金五一万二〇〇〇円

原告は入院期間六二日と通院期間一六三日につき付添看護を要したが、右入院期間中一日金三〇〇〇円の割合による金一八万六〇〇〇円と右通院期間中一日金二〇〇〇円の割合による金三二万六〇〇〇円との合計金五一万二〇〇〇円

(五) 通院交通費 金九万一一六〇円

通院実日数一〇六日につき一日金八六〇円の割合による合計金九万一一六〇円

(六) 休業損害 金四一六万七六〇〇円

原告は、本件事故当時、合資会社協和鋳造所の役員として勤務し、同社から月額金三二万円の給与及び年額金二五〇万円の賞与の支給を受け、右給与額は、昭和五二年四月から五パーセント引き上げられるべきはずであつたところ、本件事故の結果、昭和五一年一〇月三一日から昭和五二年六月二〇日までの間休業を余儀なくされ、その間に得べかりし総額金四一六万七六〇〇円の収入を失つた。

(七) 後遺症による逸失利益 金八八二万六九〇〇円

原告は、前記後遺症障害により、昭和五二年七月から少なくとも昭和五三年一〇月二〇日まで労働不能となつたが、その間に得べかりし総額金八八二万六九〇〇円の収入を失つた。

(八) 慰藉料

(1) 入通院分 金一三六万五〇〇〇円

(2) 後遺症分 金三〇五万円

5  損害の填補

原告は、自賠責保険金金二八五万円を受領した。

6  よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故による損害金一五六一万一二九〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五一年一〇月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認めるが(五)の事実は否認する。

2  同2の各事実はいずれも知らない。

3  同3の各事実はいずれも認める。

4  同4の(一)の事実は認めるが、(二)ないし(五)及び(八)の事実は知らない。(六)及び(七)の事実は否認する。

三  抗弁

1  過失相殺

本件事故の発生については、原告にも、自転車に乗つて車道上を右側通行し、最徐行で左折進行して来た加害車の直前に飛び出した過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

2  弁済

原告が請求原因5において自認する損害の填補分のほかに、被告らは原告に対し金一二〇万五六四〇円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  同2の事実は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

2  成立について争いのない甲第一〇号証、証人佐藤豊成の証言により真正な成立を認めることのできる甲第一七号証、同証人の証言に右1の当事者間に争いのない事実を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故は、昭和五一年一〇月三〇日午後四時一五分ころ、三重県桑名市中央町五丁目二一番地先国道一号線路上において発生した。

南北に延びる国道一号線と現場付近から東方に延びる狭路とが現場付近において交差して、三差路をなしていた。国道一号線は、歩車道の区別がされ、東側歩道は約四メートルの幅員があり、その歩道に約九・〇メートルの幅員の南進車線が接し、その西方は中央分離帯となつていたのに対し、狭路は、幅員約五・四メートルであつた。国道一号線の右中央分離帯には柵が設けられ、本件事故現場付近では、歩行者、自転車搭乗者は国道一号線を横断することは不可能であつた。また、国道一号線の歩道は、その上を自転車搭乗者が走行できる構造にはなつていなかつた。

現場付近は交通ひんぱんな市街地で、路面はアスフアルトで舗装され、平たんで乾燥していた。

現場付近の道路においては、最高速度が時速五〇キロメートルに制限され、駐車禁止の交通規制が施されていたほか、右狭路の国道一号線への出口付近に一時停止の標識が設置されていた。

(二)  被告満は、普通乗用自動車(名古屋五八ね五九一二号、以下においても「加害車」という。)を運転して右狭路上を東方から西方に向かつて進行し、右三差路にさしかかり、両側が国道一号線の歩道となつた部分付近まで至つて一時停止し、左右を見渡した。進路左方歩道上には歩行者も自転車も見当らなかつたが、右方の車道東端付近に駐車車両があつたことから、同被告は、約三・三メートル前方に進行して再度停止し、右方の安全のみを確認したのち、時速約五キロメートルの速度で発進し、約一・一メートル進行した地点(右三差路の東方、南方にそれぞれ設置された五〇サ四四九号、五〇サ四四二号の各電柱からそれぞれ約一一・〇メートル、約八・八メートル隔てた地点、以下「衝突地点」という。)において、自車前部バンパー右側付近を、原告の搭乗する自転車に衝突させて、ようやくこれに気づいた。

(三)  原告は、自転車に搭乗して、国道一号線南進車線の東端付近を南方から北方に向けて右側通行して右三差路にさしかかつた。原告は、進路右前方の右狭路上に加害車を発見したが、同車が停止していたことから、その直前を通過できるものと考えて進行を続けたところ、衝突地点において前記のとおり同車に衝突された。

以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二  原告の受傷、治療経過等

成立について争いのない甲第五号証の一ないし四、証人佐藤豊成の証言により真正に成立したことが認められる甲第八、第九号証によれば、請求原因2の(一)、(二)の各事実及び原告の後遺症として昭和五二年六月一一日ころ左母指中手指間関節の動揺顕著、同関節可動制限、右腓骨神経知覚異常、両下肢脱力感の症状(自賠法施行令別表第一〇級、第一二級に該当し、併合により第九級に該当する。)が固定したことが認められる。

三  責任原因

請求原因3の(一)、(二)の各事実については、いずれも当事者間に争いがない。

四  損害

1  治療費 金一二〇万五六四〇円

請求原因4の(一)の事実については当事者間に争いがない。

2  義歯代 金三〇万円

証人佐藤豊成の証言により真正な成立を認めることのできる甲第六号証、同証人の証言によれば、原告は本件事故の結果義歯を破損し、それを作り直すために金三〇万円を要したことが認められる。

3  入院雑費 金三万七二〇〇円

原告が六二日間入院したことは前記二のとおりであり、右入院期間中一日金六〇〇円の割合による合計金三万七二〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

入院雑費中右金額を超える分及び通院雑費については、本件事故との間で相当因果関係を認めることができない。

4  付添看護料 金一五万五〇〇〇円

証人佐藤豊成の証言により真正な成立を認めることのできる甲第八号証と経験則によれば、原告は前記入院期間の六二日間付添看護を要し、その間一日金二五〇〇円の割合による合計金一五万五〇〇〇円の損害を受けたことが認められる。

入院期間中につき右金額を超える分については、本件事故との間に相当因果関係を認めることができず、通院期間中の付添看護についてはその必要性を認めるに足りる証拠はない。

5  通院交通費 金二万一二〇〇円

原告が実日数で一〇六日通院したことは前記二のとおりであり、右通院期間中一日金二〇〇円の割合による合計金二万一二〇〇円の通院交通費を要したことは経験則上これを認めることができる。右金額を超える分については、本件事故との間で相当因果関係を認めることができない。

6  休業損害 金一九七万七二八七円

(一)  成立について争いのない甲第三号証の一、二、第一二号証、証人佐藤豊成の証言により真正な成立を認めることのできる甲第一、第二号証、第一三、第一四号証、同証人の証言によれば、原告は、本件事故当時八一歳に達していたが壮健で、無限責任社員として合資会社協和鋳造所の経営に携わつていたこと、同社は鋳物の鋳造、機械の加工販売を営む有限会社で、原告はその代表者で、その役員は原告の近親者で占められているが、従業員数は六五名に達し、年商も約四億円にのぼること、原告は、同社において、業務全体の統括をするかたわら、製造する鋳物鋳造の方案決定という中枢的任事を担当して常勤し、本件事故も取引先へ立ち寄つた直後に遭遇したこと、原告は、昭和五〇年分所得として税務署長に対し金五五三万二二〇五円の申告を行つたが、現実には、同年中に同社から金六三四万円の給料、賞与の収入を得ていたこと、同社においては、昭和五二年四月分から昭和五三年三月分までの分について従業員給与、役員報酬を従前分に比してともに五パーセントひきあげたことをそれぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、原告の同社からの収入中には実質上の利益配当分等労働対価以外の分も含まれていることが推認されるから、原告の逸失利益の算定に当つては右の分を控除すべきであるが、右認定の原告の実収入額、同社の規模、業務内容、原告の担当職務、年齢等を総合して考慮すれば、原告が昭和五〇年中に同社から受けた収入金六三四万円のうちその二分の一の金三一七万円をその労働の対価であつたと認めるのが相当である。

(三)  前記一及び二における認定事実によれば、原告は、本件事故により、昭和五一年一一月一日から昭和五二年六月一一日までの間休業を余儀なくされたことが認められるが、右(一)における認定のとおり原告の収入額は昭和五二年四月から五パーセント増加したはずであるとの事実をも考慮して、右(二)において検討したところに基づき、原告の休業損害を算定すると次式のとおり金一九七万七二八七円となる。

317万円÷12×{5+(2+11÷30)×(1+0.05)}=197万7,287円

7  後遺症による逸失利益 金一一九万八二六〇円

前記認定の原告の受傷及び後遺症障害の部位程度、原告の年齢に照らすと、原告は、前記後遺症障害のため少なくとも原告の主張する昭和五二年七月一日から昭和五三年一〇月二〇日までの間、その労働能力を二七パーセント喪失したものと認められる。

ところで、証人佐藤豊成の証言により真正な成立を認めることのできる甲第一五、第一六号証によれば、同社の従業員給与、役員報酬は昭和五三年四月分からさらに五パーセントひきあげられたことが認められる。

そこで、前記6において検討したところと右各認定事実に従い、原告の後遺症による逸失利益を算定すると、次式のとおり金一一九万八二六〇円となる。

317万円÷12×(1+0.05)×0.27×{9+(6+20÷30)×(1+0.05)}=119万8,260円

五  過失相殺

前記一の2において認定した事実によれば、本件事故の発生については、原告にも自転車で車道上を右側通行しながら、加害車の前方を通過しうるものと軽信してその直前を進行しようとした過失があると認められる。

前記認定の本件事故の態様、本件事故現場付近の道路の構造、被告満の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告の損害の二割を減ずるのが相当と認められるから、前記四の1ないし7の合計額金四八九万四五八七円に右過失相殺を施すと金三九一万五六六九円となる。

六  慰藉料

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺症障害の内容程度、年齢、その他諸般の事情に前記五の原告の過失の内容程度をも総合すると、原告の慰藉料額は金二九〇万二〇〇〇円とするのが相当であると認められる。

七  損害の填補

請求原因5の事実は原告の自認するところであり、抗弁2の事実は当事者間に争いがないから、その合計額金四〇五万五六四〇円を前記五及び六において得られた金額の合計額金六八一万七六六九円から控除すると残損害は金二七六万二〇二九円となる。

八  以上のとおりであつて、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、本件事故による損害金二七六万二〇二九円とこれに対する不法行為の日である昭和五一年一〇月三一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 成田喜達)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例