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名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)2837号 決定 1980年5月09日

原告

中根揖

原告

中根ユリ子

右原告ら訴訟代理人

斎藤洋

打田正俊

被告

第一生命保険相互会社

右代表者

牧山公郎

右訴訟代理人

中村敏夫

山近道宣

主文

本件を東京地方裁判所に移送する。

理由

一原告らの被告会社に対する本訴請求の原因の要旨は左記のとおりである。

1  原告らは中根喜久男(以下「中根」という。)の両親であるところ、中根は、有限会社愛知宝運輸(以下「宝運輸」という。)の運転助手として勤務していた昭和五三年七月三〇日、宝運輸代表取締役長崎正恭、同取締役長崎弘和、同小谷良樹、中村悟らの共謀行為により愛知県渥美郡渥美町新江比間海水浴場沖合において殺害された。

ところで、右長崎正恭らの中根に対する殺害行為は長崎正恭と日本生命保険相互会社(以下「日本生命」という。)間の昭和五三年六月締結の保険契約(中根を被保険者とし宝運輸を保険金受取人とする)の保険金六〇〇〇万円を詐取することを目的とするもので、宝運輸の業務執行の一環としてなされたものであるから、原告らは宝運輸に対し金三六二三万一六七一円(中根の逸失利益、中根及び原告らの慰藉料)の損害賠償請求権を取得したものというべきところ、宝運輸には現在資力が全くない。

2  長崎正恭は、昭和五三年六月頃、被告会社との間で同人を被保険者とし宝運輸を保険金受取人とする災害死亡特約付保険金七五〇〇万円の生命保険契約(以下、「本件契約」という。)を締結したが、同人は昭和五四年五月二日死亡した。

3  従つて、原告らは、宝運輸に対する損害賠償請求権に基づき宝運輸に代位して、被告会社に対し保険金請求として各自金三六二三万一六七一円及びこれに対する昭和五三年七月三〇日より支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二而して、本件記録によると、被告会社の主たる事務所は東京都千代田区にあるところ、本件契約申込書には、「保険契約者は貴社の定款・普通保険約款と特約条項および保険料率を承知のうえ、被保険者の同意をえて保険契約を申込みます」との記載があり、被告会社発行の「ご契約のしおり定款・約款」(昭和五四年一〇月改訂版)の特別終生安泰普通保険約款(昭和五三年四月二日改正)第六条第三項に「保険金は、調査のため特に時日を要する場合のほか、その請求に必要な書類が会社の本社に到着した日の翌日から起算して五日以内に会社の本社で支払います。」と定められていることが認められ、本件契約締結に際し、右約款によらない旨の意思表示が表明されていれば格別、かかる意思の表明されたことの窺いえない本件では、保険金支払場所については、前記保険約款記載のとおり被告会社の本店とする旨の合意が成立していたものと認めるのが相当であり、従つて、本件契約に基づいて保険金の支払を求める原告らの本訴請求の普通裁判籍及び義務履行地による裁判籍は、いずれも被告会社本店を管轄する東京地方裁判所にあるといわねばならない。

三ところで、原告らの本訴請求は、長崎弘和、中村悟、被相続人長崎正恭相続財産、被相続人小谷良樹相続財産に対する前一項1記載の事実に基づく不法行為による損害賠償請求並びに日本生命に対する同1記載の保険契約締結の際の注意義務違反を理由とした不法行為に基づく損害賠償請求と併合提訴されているものの、長崎正恭らの殺害行為は本訴請求の論理上の前提となつているとはいえ、それはあくまで宝運輸に対する代位債権発生の一要件にすぎないうえ、本件記録によると、被告会社は、長崎正恭が本件契約を締結したのは宝運輸の従業員にかけた生命保険金詐取を隠蔽するための手段にすぎず、本件契約は無効である旨主張し、従つて、原被告間においては、本件契約の有効性が争点となるであろうことが窺われるから、本訴請求と長崎弘和らに対する請求とは同一の事実上及び法律上の原因に基づくものとはいい難く、また、本訴請求と日本生命に対する請求は訴訟の目的たる権利義務が同種でないこともこれまた明らかであり、共同訴訟の要件を欠くものというべきである。

以上によれば、本訴請求は併合提訴されている他の請求とはいずれも共同訴訟の要件を欠き、名古屋地方裁判所には管轄はないといえる。

四よつて、民事訴訟法三〇条一項を適用して主文のとおり決定する。

(小沢博 谷口伸夫 東尾龍一)

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