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名古屋地方裁判所 昭和54年(行ウ)15号 判決 1983年6月27日

原告 マルホン工業株式会社

被告 小牧税務署長

代理人 田井幸男 木村亘 ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告が昭和五三年三月二八日付で原告に対してなしたパチンコ機の物品税に関する別表A2記載どおりの更正処分および過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)中、別表A1と同A3の各月の合算額(課税標準の額の合計は四八億二八九七万五二九二円であり、納付すべき税額の合計は九億六五七六万四八五一円である。)を越える部分および過少申告加算税賦課決定の全部を取消す。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

(被告)

主文一、二項と同旨

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  原告は、パチンコ機の製造販売を業とする会社であるが、パチンコ機の製造移出にかかる昭和五〇年一月から昭和五二年九月まで(以下「本件係争期間」という。)の各月の物品税について、別表A1のとおり申告したところ、被告は、昭和五三年三月二八日付で別表A2のとおりの本件処分をなした。

二  原告は、同年五月二八日、被告に対し、本件処分に対する異議の申立をしたが、名古屋国税局長梅澤節男は、同年八月二五日、これを棄却した。

そこで、原告は、同年九月二六日、国税不服審判所長に対し、審査請求をなしたが、同所長は、昭和五四年四月一九日付でこれを棄却し、原告は、同年五月二五日、その裁決書謄本の送達を受けた。

三  原告は、本件処分後、原告の前記申告には別表A3記載のとおり、申告もれ等が存在することを発見した。

四  しかしながら、本件処分中、別表A1記載の申告額と同A3記載の申告もれ額等を合算した額(課税標準の額の合計は四八億二八九七万五二九二円であり、納付すべき税額の合計は九億六五七六万四八五一円である。)を越える部分および過少申告加算税賦課決定処分の全部は違法であるから、その取消を求める。

(請求原因に対する被告の認否)

一  請求原因一ないし三項は認める。

二  同四項は否認する。本件処分は後述のとおり適法である。

(被告の主張)

一  本件課税処分の経緯

原告の昭和五〇年一月分ないし昭和五二年九月分にかかる物品税の課税処分の経緯は、次のとおりである。

区分

年・月・日

課税標準

(円)

納入すべき税額

(円)

過少申告加算税

(円)

申告

(注1)

各月、物品税法29条2項に定める申告期限内

四八億一八五五万九〇〇〇

九億六三七一万一八〇〇

更正・賦課決定

(注2)

53・3・28

五六億二八四〇万六〇〇〇

一一億二五三八万八八〇〇

八〇八万二三〇〇

異議申立

(注3)

53・5・28

四八億二八九九万〇一三二

九億六五七六万四八五一

右決定

53・8・25

(棄却)

審査請求

53・9・26

四八億二八九九万〇一三二

九億六五七六万四八五一

裁決

54・4・19

(棄却)

(注1) 別表A1に掲げる修正申告および更正の請求による更正処分後の各月の金額を合計したもの。

(注2) 別表A2に掲げる各月の金額を合計したもの。

(注3) 別表B1の「<1>申告分」欄の合計金額(ただし、外書の数字)に、原告が認める別表A3の金額を加算した金額。

二  本件課税処分の根拠

1 原告は、物品税法(昭和三七年法律第四八号、以下「法」という。)一条の別表「課税物品表」の番号八の5(第二種物品)に掲げる「ぱちんこ機」の製造、販売を業としているものである。

2 原告は、昭和五〇年一月ないし昭和五二年九月分にかかる各月の物品税につき、納税申告書に、別表B1の「<1>申告分」欄に掲げる課税標準(かつこ書の数字、なお、一〇〇〇円未満の端数を切り捨てる前の課税標準の額が外書の数字で、これが法定の正額な数値である。)および税額(ただし、昭和五〇年六月分は、別表A1の修正申告の金額および同年七月分は、別表A1の更正の請求による更正処分後の金額)を記載し、各月とも法定申告期限(法二九条二項)内に被告に申告した。

3 そこで、被告が右申告額を調査したところ、原告の各月の課税標準の額は、以下(一)ないし(六)に述べる事項につき算定方法に誤りがあり、これらにつき正しく算定して、これを右申告額に加算すると、別表B1の「<8>被告主張額」欄のとおりとなり、また、右金額を基に過少申告加算税の額を算定すると、別表B1の「<9>過少申告加算税」欄のとおりとなる。

(一) 新たな製造移出分(別表B1の「<2>」欄参照)

(1) 原告は、各地のパチンコホール(以下「ホール」という。)から引取つた中古パチンコ機を、自社工場または名古屋市天白区福池二―三八所在のパチンコ機解体業横井商会(代表者横井正雄)において、中古パチンコ機としての一体性を失わしめる程度に解体し、解体部品のうち再使用しない前面ベニヤ(遊戯盤面)、上皿、下皿、下飾り、整流器、電動ツマミ等は廃棄し、再使用を予定した外枠、中枠、左上飾り、右上飾り、上自動カバー、下自動カバー、ケースカバー、連チヤンカバー、裏部品(玉寄せ)等は、各部品ごとに整理保管のうえ、これら中古部品と別途購入した新品の部品を材料として、新たなパチンコ機五万七七九五台(各月の台数は別表B1の「<2>」の数量欄記載のとおりである。)を製造し、移出販売した。

(2) ところで、法三条二項所定の「製造」とは、法が物品にかかる人の経済的行為を対象とし、経済的価値の発生、移転等を要件事実としてこれに一定の法律効果を与えようとするものであることにかんがみると、その解釈については、中古パチンコ機の解体、組立てによつてその一体性を失うに至つたか否かという物理的要因とともに、解体、組立てによつて別個の新たな価値物を創造したといえる程度に価値の増加があつたか否かという経済的要因をも総合勘案し、社会通念に従つて判断すべきである。

(3) そこで、かかる観点から本件パチンコ機の加工工程をみてみるに、原告は、横井商会または原告方工場で、引取つた中古パチンコ機を原型をとどめないまでに解体し、使用可能の部品を選別して保管し、これに加えて、別途購入した新品の部品を使用してパチンコ機を組立ているのであり、右のようにして出来上つたパチンコ機は、新品のパチンコ機に比べて全く遜色がない。

このように機械全体を解体し、その部品を取捨選択し、それに、新らたな部品を加えて完成品を組立てているのであり、右完成品の経済的価値は新品と同一であり、旧パチンコ機の価値に比して著しく増大しているから、本件解体組立行為は、社会通念上、既存の価値の修復もしくは加工の限度を越えており、新たなパチンコ機を造り出したものというべきであり、物品税法上の製造に該当することは明らかである。

(4) しかるに、原告は、前記五万七七九五台のパチンコ機に関する課税標準および納付すべき税額を申告しなかつたのであるから、右パチンコ機の課税標準の額を申告分に加算すべきところ、本件係争期間中の右パチンコ機の課税標準は別表B1の「<2>新たな製造移出分」欄記載のとおりであるから、同額だけ申告分に加算すべきである。

(二) 卸取引分(別表B1の「<3>」および同表の付表1参照)

(1) 原告は、主として遠隔地のホールに対し、パチンコ機の円滑な販売を図るため、ホールと密接な関係にある中古パチンコ機販売業者等と、原告との間に、原告の販売業務およびこれにともなうホールに対する注文の勧誘、注文の取次、パチンコ機の据付および調整、公安委員会への届出、販売代金の集金、アフターサービス等の業務を代行させる契約を締結し、右代行契約者(以下「代行人」という。)を通じてパチンコ機をホールに小売販売していた。

(2) ところで、原告が代行人と称している者のうち、<1>訴外株式会社マルホン(以下「マルホン」という。)および訴外株式会社共栄産業(以下「共栄産業」という。)は、原告の業務代行の範囲をこえて、自己の名において原告の製造にかかるパチンコ機をホールへ販売し、また<2>訴外有限会社タツミ商会(以下「タツミ商会」という。)は、代行人としてその業務に従事中、ホールからの電動式パチンコ機の注文については、改造電動機を納入することを計画し、原告に対して、電動ツマミ用の穴があけられた手動式パチンコ機の送付を依頼し、送付された右改造用手動機を電動機に改造してホールへ販売していたものである。

(3) ところで、法一一条一項二号所定の「卸取引」とは、製造者がその製造にかかる課税物品を自己の名と計算において販売する卸売業者、小売業者または生産的需要者等(製造者と特殊な関係がある者を除く。)(以下「販売業者等」という。)に販売する行為をいい、製造者が直接消費者に販売する場合は含まれない。

したがつて、製造者の製造にかかる課税物品以外の販売業者が、その販売活動を営むかたわら、課税物品の製造者との契約により、製造者の製造にかかる課税物品を、その製造者の名と計算において消費者に代行販売する行為は、製造者が直接消費者に販売する場合に該当し、「販売業者等」への卸取引には当らない。

しかしながら、製造者の代行販売と称している場合であつても、

(イ) 代行人の名と計算において、製造者の製造にかかるパチンコ機をホールへ販売している場合

(ロ) ホールに対する販売代金について、製造者に対する支払債務およびその保証責任を代行人が負担している場合

(ハ) 代行人がホールから受取つた手形等を製造者または他の仕入先等に裏書譲渡している場合

(ニ) 製造者の製造にかかる改造用手動機を代行人の名と計算において電動機に改造してパチンコホールへ納入している場合

以上(イ)ないし(ニ)の場合における代行人の行為は、代行業務の範囲を越え、自己の名と計算において販売活動を行つていると認められるので、かかる場合の代行人は、製造者の製造にかかるパチンコ機の販売業者等に当るというべきである(国税庁長官通達昭和四六年一一月一日間消二―二四)。

(4) してみると、原告がマルホンおよび共栄産業を通じてホールへ納入したパチンコ機ならびにタツミ商会で電動機に改造されることを予定して移出された改造用手動機は、業務代行の範囲を越えて、販売および移出されているので、原告がホールへ直接小売販売したことにはならず、マルホンほか二名に卸取引により販売したこととなる。したがつて、その課税標準の算定に関し、その販売価格の認定は、法施行令(以下「令」という。)八条の規定によるべきところ、原告はすべてホールへ直接小売販売したものとして、法施行規則(以下「規則」という。)六条一項三号の規定を適用して課税標準を申告したため、別表B1の「<3>御取引分」欄(その明細は同表付表1)に掲げる課税標準の額を申告額に加算すべきこととなる。

(三) 直営ホール移出分(別表B1の「<4>」および同表の付表2参照)

原告は、自己が経営するホール「ニユーフレンド」(大牟田市所在)へ別表B1の付表2に掲げるパチンコ機一四五五台を移出した。

右移出に伴う課税標準は、原告に規則四条一項一号ないし四号の実績がないので、同項五号の規定による製造および販売に要した費用(総原価)に、法定マージン五パーセントを加算して課税標準を算出すべきところ、原告は、規則六条一項三号の規定を類推適用し、右総原価に法定マージン五パーセントを加算せず、小売マージン三〇パーセントを控除して、課税標準を申告したため、別表B1の「<4>直営ホール移出分」欄(その明細は同表付表2)に掲げる課税標準の額を申告額に加算すべきこととなる。なお、直営ホールは、原告が自ら経営するものであるから、それへの移出は、消費者への販売を目的とするものでなく、販売以外の目的でなされるものであるから規則六条を適用できないことは、明らかである。

(四) 電動役物等加算もれ分(別表B1の「<5>」参照)

(五) 計算および記帳誤り(別表B1の「<6>」参照)

(六) 見本機の申告もれ分(別表B1の「<7>」参照)

右(四)ないし(六)は、請求原因三項において、原告が認める額である。

三  本件処分の適法性

以上に述べたとおり、原告の昭和五〇年一月ないし昭和五二年九月分にかかる各月の物品税の課税標準の額は、別表B1の「<8>被告主張額」欄のとおりとなり、また、右金額を基に過少申告加算税の額を算定すると別表B1の「<9>過少申告加算税」欄のとおりとなる。

したがって、右各金額と同額でなされた本件処分は適法である。

(被告の主張に対する原告の認否反論)

一  被告の主張一項(本件課税処分の経緯)中、異議申立および審査請求時において、原告が課税標準を四八億二八九九万一三二円と主張したことは否認するが、その余はすべて認める。

原告は、右当時、課税標準を四八億二八九七万五二九二円(別表A1の「<1>当初申告」欄の課税標準の額の合計四八億一八五五万九〇〇〇円と別表A3の「小計」欄の額の合計一〇四一万六二九二円とを合算したもの)と主張した。

二  同二項(本件課税処分の根拠)中、1、2は認める。

同3(一)中、原告が申告分以外に別表B1の「<2>新たな製造移出分」欄記載のとおり合計五万七七九五台の中古パチンコ機を加工移出したこと、原告が右加工移出したパチンコ機について申告をしなかつたこと、仮に右パチンコ機の加工移出が被告主張のとおり法三条二項所定のパチンコ機の「製造」に該当するならば、その課税標準の額は前同欄記載のとおりとなることは認めるが、その余はすべて否認する。

原告が前記中古パチンコ機を加工移出したことは、法三条二項所定のパチンコ機の「製造」に該当せず、パチンコ機の部品の製造移出に該当する。すなわち、原告は、特定のホールから預つたパチンコ機につき、その一部を修理し、また、一部につき新たな部品を使用して加工し、これを特定のホールへ返還しているのであり、これが製造に該当する筈がない。

同3(二)(1)は認める。

同3(二)(2)中、マルホン、共栄産業、タツミ商会が代行人であることは認めるが、その余は不知。

同3(二)(3)は争う。

同3(二)(4)中、原告がマルホン等三代行人へ移出したパチンコ機の課税標準をホールへ直接小売販売したものとして、規則六条一項三号の規定に基づいて算出して申告したこと、その申告額が別表B1の付表1の「原告申告額」欄記載のとおりであること、仮に原告が右三代行人へパチンコ機を移出したことが法一一条一項二号所定の「卸取引」に該当するとすれば、右パチンコ機の課税標準は令八条に基づいて算出されるべきであり、同令八条の規定によつて算出した課税標準から規則六条一項三号の規定によつて算出した原告申告にかかる課税標準を減ずると、別表B1の「<3>卸取引」欄記載のとおりとなることは認めるが、その余は争う。

同3(三)中、原告が自己の経営するホール(「ニユーフレンド」、大牟田市所在)へ別表B1付表2のとおり合計一四五五台のパチンコ機を移出したこと、原告は、右ホールへ移出したパチンコ機の課税標準を算出するのに規則六条一項三号の規定を類推適用したこと、その申告額は別表B1の付表2の「原告の申告額」欄記載のとおりであること、原告には規則四条一項一号ないし四号の実績がないこと、仮りに、右パチンコ機の課税標準を規則四条一項五号の規定により算出し、これから同六条一項三号の規定によつて算出した原告申告にかかる課税標準を差引くと、別表B1の「<5>直営ホール移出分」欄記載(その明細は、別表B1の付表2)のとおりとなることは認めるが、その余は否認する。

同3(四)ないし(六)はすべて認める。

三  被告の主張三項(本件処分の適法性)は争う。

四1  仮に、原告がした中古パチンコ機の加工移出が、被告主張のとおり製造移出にあたるとしても、原告は、昭和四九年一一月五日から同年一一月一五日まで、名古屋国税局間税部調査課調査官(以下「担当調査官」という。)から税務調査を受けた(以下「前回調査」という。)際、担当調査官に原告の工場でパチンコ機の加工工程を現認させたうえ、右方法で加工されたパチンコ機が物品税の対象となるか否かについて質問したところ、担当調査官は、「右方法で加工したパチンコ機は法三条二項の製造に該当しないから、同法上の課税対象にならない。部品の売上として記帳せよ。」と指示したので、原告は、それ以来、右指示に従い部品の売上として記帳するとともに、右加工分については、物品税の申告をしなかつた。

もし、前回調査のとき、担当調査官から、法三条二項の製造に該当する旨の指示があれば、原告は、右指示に従い法所定の物品税額を算出し、これを売価に加算して販売した筈である。そして、前回調査時も、本件係争期間中も、原告のパチンコ機の加工工程は同一であつた。

してみると、今更右パチンコ機の加工移出が製造に該当すると被告が、主張し、これに課税することは、禁反言の原則に反し許されない。

2  前回調査の際、担当調査官はマルホン等三代行人方に臨場し、原告と右三代行人の取引の実態あるいは業務委託契約の内容の調査をし、右三代行人の業務が代行人としての業務の範囲を越えるものでないことを認めた。そして前回調査時も本件係争期間中も、原告と右三代行人との取引の実態は全く変つておらず、右三代行人の業務の範囲にも変化はない。してみると、今更右三代行人の業務が代行業務の範囲を越えると主張することは禁反言の原則に反し許されないものである。

3  原告は、昭和四九年七月ころ、前記「ニユーフレンド」を開店したので、前回調査の際、物品税台帳に右ホールへ移出するパチンコ機の課税標準およびその根拠を記載のうえ、その内容を説明したところ、担当調査官は、原告の行つていた計算方法を認め、これに従つて申告すればよい旨の指導をしたので、原告はそれ以来、右と同一の算出方法によつて課税標準を算定してきた。

従つて、今更右ホールへ移出したパチンコ機の課税標準の算出方法が誤つていると主張することは、禁反言の原則に反し許されない。

(原告の反論に対する被告の認否)

一  原告の四項1ないし3のうち被告が昭和四九年一一月五日から同年一一月一五日まで原告方に税務調査に赴いたことは認めるが、その余はすべて否認する。

二  前回調査のとき、担当調査官は、原告から、遊技盤面部分のみを取替えることが、パチンコ機の製造に当るか否かの質問があつたので、パチンコ機の価格と盤面の価格の比率が五〇パーセントを割つていれば、課税にならないと回答したことはある。

しかし、古いパチンコ機のある部分を捨てて、ある部分を生かして再生する方法について、これが課税物品の製造、移出に当るかどうかの質問がなされたことはない。

ところで、本件で問題となつているパチンコ機は、中古パチンコ機を原型をとどめないほど解体した上で、新たなパチンコ機として製造したものであつて、原告方へ調査に行つた昭和四九年当時とは異る全く新たな事案の課税関係についてのものであり、これについて、被告が調査した結果原告の前述のような行為は、法三条二項にいう製造に該当すすものとして、本件更正処分等をなしたものである。

してみれば、前回調査時において前述のように課税対象とならないと回答した事案と本件事案とは、全く異なるものであるから、本件処分が禁反言の法理等に反し違法となるいわれはない。

付言するに、本件パチンコ機に類するいわゆる改造新台は、昭和二七年頃から製造、移出され、課税庁はこれに対して物品税を課税していたものであり、パチンコ業界においても、パチンコ製造業者のすべてが加入している日本遊技機工業組合は、昭和四八年七月以降物品税の適正、円滑な納付を促進する等の目的で改造新台専用の証紙を作成し、右証紙をパチンコ機製造業者に交付し、業者は、改造新台を移出する都度右証紙を改造新台に貼付するという実態にあつた。このことは、とりも直さず、改造新台が物品税の対象となることを前提としたものというべきである。原告は、前記組合の組合員であり、本件改造新台についても、右組合から交付された証紙を貼付しているのであるから、本件改造新台が物品税課税対象になることを充分知つていたものである。

第三証拠<略>

理由

一  原告が法一条の別表「課税物品表」の番号八の5(第二種物品)に掲げる「ぱちんこ機」の製造、販売を業とするものであること、原告が昭和五〇年一月ないし昭和五二年九月分にかかる各月の物品税につき、納税申告書に別表B1の「<1>申告分」欄に掲げる課税標準(ただし、かつこ書の数字)および税額(ただし、昭和五〇年六月分は修正申告の金額、同年七月分は更正の請求による更正処分後の金額、別表A1の該当欄参照)を記載し、各月とも法定申告期限(法二九条二項)内に被告に申告したこと、右課税標準(かつこ書の数字)の一〇〇〇円未満の数を切り捨てる前の課税標準の額が右「<1>申告分」の外書の数字のとおりであること、被告が昭和五三年三月二八日付をもつて原告の右申告に対し、別表B1の「<8>被告主張額」欄および「<9>過少申告加算税」欄記載のとおり、本件処分をなしたこと、被告が本件処分をなしたのは、被告が、原告の右申告には被告の主張二項3(一)ないし(六)記載のとおり、算定方法の誤り、ないし申告もれ、計算違いがあると認定したためであること、原告のなした右申告に被告主張のとおり(四)ないし(六)記載の申告もれないし計算違いの誤りが存在していたことは原告の自認するところである。

二  そこで、以下順に原告の右申告に被告の主張二項3(一)ないし(三)記載の算定方法の誤りが存するか否かについて検討する。

1  被告の主張二項3(一)(新たな製造、移出分)について

(一)  原告が申告分以外に別表B1の「<2>新たな製造、移出分」欄記載のとおり、昭和五一年二月から昭和五二年九月までの間に合計五万七七九五台のパチンコ機を加工、移出したこと、原告が右加工、移出したパチンコ機について申告をしなかつたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告の右パチンコ機の加工方法の具体的態様について検討するに、<証拠略>を総合すれば、

(1) 原告は、各地のホールから古くなつたパチンコ機(以下「中古パチンコ機」という。)を一台当り五〇〇円ないし一〇〇〇円で引き取り、これを昭和五一年中ころ以前は原告工場へ、それ以降は原告の依頼を受けた横井商会(代表者横井正雄)の工場へ搬入し、同所において原告自ら、もしくは、横井商会の手で右中古パチンコ機を解体している。

(2) パチンコ機の構造は、大きく分けると外枠、内枠、遊戯盤面(前面ベニア)、裏部品に分けられるが、原告もしくは横井商会は、中古パチンコ機を、<1>遊戯盤面、<2>上皿、<3>下皿、<4>整流器、<5>電動ツマミ、<6>上飾り、<7>下飾り、<8>外枠、<9>中枠、<10>タンク、<11>自動カバー(上下)、<12>ケースカバー、<13>連チヤンカバー、<14>玉寄せ等の部品に解体し、そのうちの<1>ないし<5>等の部品を廃棄し、<6>ないし<14>の部品中、再使用可能なものを選別してこれを部品の種類ごとに整理し、原告工場では、これをそのまま保管し、横井商会においては原告方工場へ搬入している。

(3) 原告は、中古パチンコ機の注文があり次第、再使用を予定して保管中の前記<6>ないし<14>の部品と別途購入もしくは製造した新部品とを材料として、中古パチンコ機を組立てるが、右の組立て工程には、新品のパチンコ機の組立工程に使用されるラインがそのまま使用されている。そして、原告は、右のようにして組立たパチンコ機を一台約一万四〇〇〇円位で販売している。

以上の事実が認められる。

右認定の趣旨に反する<証拠略>は前掲採用の各証拠に照らし、容易に信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  ところで、右のような解体、組立行為をもつて、法三条二項所定の「製造」というべきか否かについては、被告主張のとおり、右パチンコ機の解体、組立によつてその一体性を失うに至つたか否かという物理的な要因とともに、解体、組立によつて別個の新たな価値物を創造したといえる程度に価値の増加をもたらしたか否かという経済的要因をも総合勘案し、社会通念によつて判断すべきである。

かかる観点に立つて本件をみるに、前記認定事実によれば、原告は各地のホールから五〇〇円ないし一〇〇〇円で引取つた中古パチンコ機を原型をとどめないまでに分解したうえ、再使用可能な部品をその種類ごとにまとめて保管し、中古パチンコ機の注文があり次第、右保管中の部品と新品部品を組合せてパチンコ機を加工し、一台当り平均一万四〇〇〇円位で販売しているのであるから、新たに加工されたパチンコ機は、従前のパチンコ機と同一性がなく、しかも右加工によつて別個の価値物を創造したといえる程度の価値の増加があつたことも明らかである。

してみると、右解体、組立によるパチンコ機の加工が法三条二項所定の「製造」に該当するものと解するのが相当である。

以上の説示に反する原告の主張は採用できない。

(四)  原告は、「前回調査の際も本件係争期間中も、原告は、同じ方法で中古パチンコ機を加工しているのであり、前回調査の際、担当調査官は、原告工場でパチンコ機の加工工程の具体的態様を現認のうえ、原告代表者の、このような方法で加工された中古パチンコ機は物品税の対象となるか否かについての質問に対し、課税対象にならないと回答した」旨主張し、原告代表者尋問の結果中には、右主張にそう部分が存するが、右尋問の結果部分は、たやすく信用し難く、他に右原告の右主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

却つて、<証拠略>によれば、前回調査(昭和四九年一一月)の際、担当調査官は原告方に臨場し(右事実は、当事者間に争いがない)たが、その際、原告代表者から遊戯盤面の部分のみを取り替ることがパチンコ機の製造に該当するか否かについて質問を受けたので、これに対しては該当しないと回答したにすぎないことが認められる。

(五)  してみると、原告の禁反言の原則違反の主張は、その前提となる事実の立証がないことに帰するから、もとより採用の限りではない。

(六)  以上によれば、原告が加工した前記五万七七九五台の中古パチンコ機は、法三条二項所定の「製造」に該当すると解されるところ、製造された右中古パチンコ機の課税標準が別表B1の「<2>新たな製造、移出分」欄中の課税標準のとおりであることは当事者間に争いがないので、右課税標準の額を各月の課税標準に加算すべきである。

2  被告の主張二項3(二)(卸取引分)について

(一)  原告が主として遠隔地のホールに対し、パチンコ機の円滑な販売を図るため、ホールと密接な関係のある中古パチンコ機販売業者等の間で、原告の販売業務およびこれに伴うホールに対する注文の勧誘、注文の取次、パチンコ機の据付および調整、公安委員会への届出、販売代金の集金、アフターサービス等の業務を代行させる契約を締結し、右代行人を通じてパチンコ機をホールに小売販売していること、原告がマルホン、共栄産業、タツミ商会との間で右業務代行契約を結んでおり、右マルホンほか二社は原告の代行人であること、原告は右三代行人へ移出したパチンコ機の課税標準をホールへ直接小売販売したものとして規則六条一項三号に基づいて算出して申告したこと、その申告額は、別表B1の付表1の「原告申告額」欄記載のとおりであること、仮に右三代行人にパチンコ機を移出することが法一一条一項二号所定の「卸取引」に該当するならば、原告の右三代行人へ移出したパチンコ機の課税標準は、令八条の規定によつて算出されるべきであること、その場合は、本件係争期間中の課税標準は、別表B1の「<3>卸取引分」欄記載(その明細は別表B1の付表1被告主張額のとおり)のとおりであり、この分が申告額に加算されるべきであること以上の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告の右三代行人へのパチンコ機移出の具体的態様について検討するに<証拠略>によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) マルホンは、原告から送付を受けた電動ツマミ用の穴があけられている手動式パチンコ機に自己の子会社である株式会社マルエイ電子に電動モーター等の部品を取付けさせて電動パチンコ機に改造し、これを各ホールに販売していた。そして、右の場合、原告と各ホールとの売買契約書は、手動式パチンコ機としての契約書が形式上作成されるが、マルホンは、電動モーター等の部品代および加工料を上乗せし、ホールに対する売価を独自に定めている。

そして、手動式パチンコ機についての原告の小売指示値に、マルホンが右のようにして上乗せした分は、マルホンの利益となり、代行手数料という名目で別途に原告から支払を受けることはない。また、マルホンが各ホールから売買代金支払のために手形を受取つた場合には、同社は原告に対する手動式パチンコ機代金支払のために、右手形に裏書し、これを原告に譲渡していた。

(2) 共栄産業は、ホールから電動式パチンコ機の注文を受けると、原告に電動ツマミ用の穴があけられている手動式パチンコ機をホールへ納入させたうえ、ホールにおいて、同社が別途部品として原告から仕入れておいた電動モーター等の部品を、右パチンコ機に取付け電動式パチンコ機に改造していた(ホールと原告との間の売買契約は、手動式パチンコ機としての契約書が、形式上作成されていることは、マルホンと同様である)。

このようにして、同社が改造した電動式パチンコ機について、同社は、ホールに対する売価を、部品代、加工料等を上乗せして決定し、右上乗せ分が同社の利益となり、代行手数料の取り定めはあるものの、これは、形式的な取り定めにすぎず、右利益とは別に、手数料が原告から支払われることはない。また、共栄産業が各ホールから売買代金支払のために手形を受取つた場合には、同社は、原告に対する仕入代金支払のために右手形に裏書をし、これを原告に譲渡していた。

(3) タツミ商会は原告から仕入れた電動ツマミ用の穴があけられている手動式パチンコ機に、株式会社浅間製作所から仕入れたモーター等の部品を自社で取付け、電動式パチンコ機に改造し、その売価は、改造費を上乗せし、同社が独自に決定していた。

原告とホールとの売買契約書の内容、および同社のえる利益が右上乗せ分であり、別に原告から手数料が支払われるわけでないことは、前記二社と同様である。また、同社は各ホールから売買代金支払のために手形を受取つた場合には、同社は、原告に対する代金支払のために右手形に裏書し、これを原告に譲渡していた。

(三)  ところで、法一一条一項二号所定の「卸取引」とは、製造者が、その製造にかかる課税物品を、自己の名と計算において販売活動をする卸売業、小売業者等の販売業者に販売する行為をいい、製造者が直接消費者に販売する場合は含まないと解される。したがつて、代行人が製造者の製造にかかる課税物品を、その製造者の名と計算において消費者に代行販売する行為は、製造者が直接消費者に販売する場合に該当し、「卸取引」にはあたらないことになる。

しかしながら、たとえ製造者の代行販売と称している場合であつても、代行人が代行人としての業務の範囲を越え、自己の名と計算において販売活動を行つていると認められる場合には、右代行人への移出は「卸取引」に該ると解すべきであり、<証拠略>によれば、国税庁長官通達間消二―二四(例規)も、右と同旨の見解に立つものであることが認められる。

右の見地に立つて本件をみるに、前記認定の事実によれば、右三代行人は、原告から納入される手動式パチンコ機を改造のうえ、改造費等を独自に上乗せしてこれをホールに販売し、その受領手形には自ら裏書をして原告に譲渡し、原告に対する代金決済の責任を負つており、代行人としての手数料制の取り定めはあるものの前記改造にかかるパチンコ機に関しては、この制度によつていないのであるから、右三代行人は、右パチンコ機に関する限り自己の名と計算においてパチンコ機を販売していると言うべきである。

したがつて、原告の右三代行人への前記移出は、前記「卸取引」に該当し、「小売」に該当しないことは明らかである。

(四)  なお、原告は、「原告と右三代行人との取引の実態は、前回調査の際も本件係争期間中も同じであるところ、前回調査の際、担当調査官は、右三代行人方に臨み調査のうえ、原告の右三代行人への移出を「小売」と認める指導をした」旨主張するけれども、右主張にそう原告代表者本人尋問はたやすく信用し難く、他に、右主張事実を認めるに足りる証拠は存しない。却つて、<証拠略>によれば、前回調査の際、担当調査官は右三代行人方に臨場していないこと、および前回調査のとき、担当官は、原告が代行人と称する大阪市所在の共栄物産株式会社に臨場し、同社が原告から代行手数料を受領していないこと、同社の売上代金に対する請求書、納品書は、すべて同社名義のものを使用していること等から代行人とは認められないとして、前記通達に基づき税務指導をしたことが認められ、以上の事実からすれば、前回調査のとき、原告主張のような税務指導がなされたとは到底認められない。

よつて、原告の右主張を前提とする禁反言の原則違反の主張は失当である。

(五)  以上によれば、別表B1の「<3>卸取引分」欄記載の各課税標準の額を各月の課税標準に加算すべきである。

3  被告の主張二3(三)(直営ホール移出分)について

(一)  原告が昭和五〇年五月から昭和五二年七月までの間に別表B1の「<4>直営ホール移出分」欄記載のとおり、合計一四五五台のパチンコ機を大牟田市内にある原告の直営ホール「ニユーフレンド」へ移出したこと、原告が右移出に伴う課税標準を規則六条一項三号の規定を類推して算出して申告したこと、右移出されたパチンコ機の課税標準を規則四条一項五号の規定によつて算出し、これから原告が申告した課税標準の額を減ずると、別表B1の「<4>直営ホール移出分」記載の課税標準の額となる(その明細は別表B1の付表2のとおり)ことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告が直営ホールへ移出したパチンコ機の課税標準の算出方法について検討するに、令および規則によれば、パチンコ機を移出した場合のパチンコ機の課税標準の算出方法には、<1>卸取引の場合(令八条)、<2>移出のとき販売価額が確定していない場合(令一〇条)、<3>小売価額を確定して消費者に販売する場合(規則六条)が存するところ、原告は直営ホールへ移出したのであるから、移出のときパチンコ機の販売価額が確定していないことは明らかであり、その課税標準は、令一〇条規則四条によつて算出すべきであるところ、原告に規則四条一項一号ないし四号の実績のないことは当事者間に争いがないから、結局その課税標準は、規則四条一項五号に基づき原価計算によつて算出すべきことになる。

してみると、被告が直営ホールへ移出したパチンコ機の課税標準を求めるのに、規則四条一項五号を適用したことは適法である。

(三)  なお、原告は、「前回調査の際、担当調査官が直営ホールへパチンコ機を移出した場合のパチンコ機の課税標準について、前記<3>の方法によつて算出することを肯認した」旨主張し、原告代表者本人尋問中には右主張にそう部分も存するが、右結果部分は、たやすく信用し難く、他に右主張事実を認めるに足りる証拠は存しない。却つて<証拠略>によれば、前回調査の際、担当調査官が原告主張の算出方法を肯認したことなどないことが認められるから、原告主張の指導が存したことを前提とする禁反言の原則違反の主張は理由がない。

(四)  以上によれば、別表B1の「<4>直営ホール移出分」欄記載の各課税標準を各月の課税標準に加算すべきである。

三  以上によれば、原告の申告には、被告の主張二3(一)ないし(三)に関して、被告主張のとおりの算定方法の誤りがあり、また、同二3(四)ないし(六)に関して申告もれ、計算違いの誤りがあることは前記のとおりであるから、本件係争期間中の正しい課税標準および税額を算出するためには、原告の申告した課税標準の額を一〇〇〇円未満の額を切捨てる前の当事者間に争いのない法定の課税標準の額(別表B1の「<1>申告分」欄の外書の数値)にもどしたうえ、右(一)ないし(六)を加算すべきである。そして右方法により課税標準および税額を求めると、別表B1の「<8>被告主張額」のとおりとなり、これを基に過少申告加算税を求めると、別表B1の「<9>過少申告加算税」欄記載のとおりとなることは当事者間に争いがない。

四  してみると、被告のなした本件処分はいずれも正当であり、右処分が違法である旨の原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本武 澤田経夫 松本健児)

別表 <略>

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