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名古屋地方裁判所 昭和54年(行ウ)4号 判決 1983年5月16日

名古屋市中川区柳川町二番一四号

原告

高野正一

右訴訟代理人弁護士

宮田陸奥男

冨田武生

水野幹男

鈴木泉

浅井淳郎

名古屋市中川区西古渡町六丁目八番地

被告

中川税務署長

鈴木若春

右指定代理人

服部勝彦

木村亘

山田太郎

宮嶋洋治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が、原告に対し原告の昭和四八年分所得税について昭和五二年七月二七日付でなした更正処分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(但し、被告の昭和五二年七月二七日付異議決定により一部減額された部分を除く)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  被告が原告に対し原告の昭和四八年分所得税について、昭和五二年七月二七日付でなした更正処分、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(但し、被告の昭和五二年七月二七日付異議決定により一部減額された部分を除く。以下「本件更正処分等」という)に至る経緯及び審査請求に対する裁決の経緯は次の表に記載するとおりである。

<省略>

二  しかしながら、本件更正処分等は、(イ)原告が昭和四八年九月中旬ごろ、訴外兵藤綱城及び同三宅時雄(以下「訴外兵藤ら」という)との間で原告所有の豊田市新生町一丁目四二番二原野一二三〇平方メートル(以下「本件土地」という)と、訴外兵藤ら所有の豊田市猿投町小黒見一九番一原野二八四九平方メートル、同所一九番二原野二八五二平方メートル及び同所一八番宅地一一二・三九平方メートルの物件(以下「猿投の土地」という)とを交換した所為を、原告と訴外住友ゴム工業株式会社(以下「住友ゴム」という)との間になされたと誤認し、所得税法(以下「法」という)五八条一項所定の交換と認めず、原告は、訴外住友ゴムに対し、本件土地を有償譲渡し、住友ゴムは原告に対する右土地代金の内金支払のため猿投の土地を代物弁済したと認定したこと、(ロ)上記認定を前提として、住友ゴムは、原告に対し残代金として五〇八万五五〇〇円を支払つたと認定したこと、(ハ)本件土地の取得金額を五五九万一九〇七円と認定したこと、以上の三点に誤りがあり、短期譲渡所得金額に関する被告の算定には、事実の誤認があり、本件更正処分等は、この点が違法であるから取り消されるべきである。

(請求原因に対する被告の認否)

請求原因一項は認めるが、二項は争う。

(被告の主張-本件更正処分等の適法性)

一  本件更正処分等の根拠

原告の昭和四八年分の所得税の総所得金額及び短期譲渡所得金額は次のとおりである。

1 総所得金額 六四一万七三四三円((一)+(二))

(一) 不動産所得の金額 一〇二万六三〇二円((1)-(2))

(1) 総収入金額 一一七万六〇〇〇円

右は、原告が訴外八進製材株式会社(以下「八進製材」という。なお同社は昭和四九年九月二八日、高野製材株式会社((以下「高野製材」という))と商号変更した)から収入すべき昭和四八年分の土地賃貸料である。

(2) 必要経費 一四万九六九八円

右は、原告が申告した金額である。

(二) 給与所得の金額 五三九万一〇四一円

右は、原告が修正申告した金額である。

2 短期譲渡所得金額 二一四五万三一六三円

右は、総収入金額二七九五万二五〇〇円から取得費及び譲渡に要した費用六四九万九三三七円を控除したものであり(租税特別措置法((昭和四九年法一七号改正前のもの。以下「措置法」という))三二条)、その内訳は以下のとおりである。

(一) 総収入金額 二七九五万二五〇〇円

右は、原告が昭和四八年九月中旬ごろ、訴外住友ゴムに対し、原告所有の本件土地を三・三平方メートル当り七万五〇〇円にて売り渡した売買代金である。

なお、住友ゴムは時価二二八六万七〇〇〇円の猿投の土地をもつて、右譲渡代金の一部の支払に充てると共に、残代金として五〇八万五五〇〇円の金員を支払つた。

ところで、原告は本件土地の譲渡は、法五八条一項にいう交換に該当する旨主張するが、同条項に規定する固定資産交換の場合の譲渡所得の特例の適用があるためには、交換当事者双方が当該交換資産を交換前一年以上有していた場合で、且つ当該交換資産の取得目的が、交換のために取得したと認められる場合でないことが要件とされているところ、交換当事者は、原告と訴外住友ゴムであり、交換目的物は原告所有の本件土地と、住友ゴム所有の猿投の土地であるところ、交換当事者の一方たる住友ゴムは当該交換資産たるべき猿投の土地を、昭和四八年九月一一日ごろ本件土地との交換の目的を以つて取得し、しかも、これを僅か一か月にも満たない期間しか所有していないのであるから、本件土地の譲渡は法五八条一項にいう交換に該当しないことは明らかである。

(二) 取得費及び譲渡に要した費用 六四九万九三三七円

右金額の内訳は以下のとおりである。

(1) 取得金額 五五九万一九〇七円

右は原告が訴外丹羽雪爪から本件土地を代物弁済により取得した金額であり、右代物弁済の経緯は次のとおりである。

原告及び原告の経営する八進製材は、訴外丹羽雪爪らが経営していた訴外ベニヤ商会(個人経営)に対し次の債権を有していた。

ⅰ 売掛金債権 一七九万八八九七円

右は、八進製材が訴外丹羽ベニヤ商会に対して有していた昭和四四年七月分ないし一一月分までの売掛債権である。

ⅱ 貸付金債権 三〇〇万円

右は、原告が訴外丹羽ベニヤ商会に対して有していた貸付金債権である。

ⅲ 不渡手形肩代り金 七九万三〇一〇円

右は、訴外丹羽ベニヤ商会の訴外有限会社丸茂合板製作所(以下「丸茂合板」という)に対する手形債務を原告が肩代り(債務引受)したものである。

そこで訴外丹羽雪爪は以上の債務を弁済するため本件土地を代物弁済として原告に譲渡し、八進製材に対する一七九万八八九七円の債務は原告が肩代り(債務引受)することとなつた。

右一七九万八八九七円の債権は、後に八進製材において、貸倒損失として処理した(乙九号証六丁目上段参照)ため、原告に対する関係では、経済的利益の供与として役員賞与ということになる。

從つて、本件土地の取得価額は、右一七九万八八九七円に貸付金債権額三〇〇万円及び不渡手形肩代り金七九万三〇一〇円の合計額である。

(2) 取得費用 四〇万三七五〇円

右は、本件土地の取得に伴う登記費用三七五〇円と取得後において、原告が支出した土留工事の費用四〇万円の合計金額である。

(3) 譲渡に要した費用 五〇万三六八〇円

右は、原告が訴外三好不動産に対して支払つた仲介手数料である。

二  本件更正処分等の適法性

以上のとおり、原告の昭和四八年分総所得金額は六四一万七三四三円、短期譲渡所得の金額は二一四五万三一六三円となり、右金額を基に法八九条以下及び措置法三二条一項を適用して所得税の額を算出すると納付すべき税額は別紙所得税額の計算明細表記載のとおり一三一八万九二〇〇円となる。

從つて、納付すべき税額及び右金額を基に算出した各加算税の額はいずれも原処分を上廻るので、本件更正処分等は適法である。

(被告の主張に対する原告の認否)

一  被告の主張一項1記載の事実は認める。

二  同項2冒頭記載の金額は争う。

三  同項2(一)記載の事実は、すべて否認する。昭和四八年九月中旬ごろ、原告が原告所有の本件土地を譲渡した相手方は、住友ゴムではなく、訴外兵藤らであり、原告が猿投の土地を譲受けた相手方は、住友ゴムではなく、訴外兵藤らである。

四  同項2(二)記載の事実のうち、訴外ベニヤ商会が訴外丹羽雪爪ら個人の経営であること、原告が右訴外丹羽雪爪から本件土地を代物弁済として取得したこと、原告及び八進製材がベニヤ商会に対し、ⅰないしⅲ記載のとおりの債権(但し、ⅰの債権額は正確には二五一万五五九〇円である)を有していたこと並びに取得費用が被告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

五  同二項の主張は争う。

(原告の反論)

一  本件土地と猿投の土地の各譲渡は法五八条一項にいう交換に該当する。

原告は、住友ゴムから本件土地の譲渡方を申し込まれたとき、他の土地との交換でなければ応じない旨の意向を強く表明したところ、住友ゴムは三好不動産こと平松薫(以下「平松薫」という)を介して、訴外兵藤ら所有の猿投の土地との交換を仲介した。そのため原告は、右仲介を受け入れ、本件土地と猿投の土地とを交換したのである。

従つて、右交換の当事者は、原告と訴外兵藤らであるから原告と住友ゴムが交換の当事者であることを前提として、法五八条一項の適用はないとする被告の立論は、前提事実を誤認したもので、失当である。

二  仮に、以上の主張が理由なく、本件土地と猿投の土地の交換当事者が、被告主張のとおり原告と住友ゴムであるとし、被告主張のとおりの理由で法五八条一項の適用が認められないとしても、その場合の本件土地譲渡にかかる短期譲渡所得金額・同総収入金額取得金額は次のとおりとなる。

1 総収入金額 一四八八万六四〇〇円

原告及び住友ゴムは、本件土地の価額を三・三平方米当り約四万円として、合計一四八八万六四〇〇円と評価し、他方、猿投の土地の価額を三・三平方米当り約八〇〇〇円として、本件土地の前記価額と同額に評価して各譲渡した。

従つて本件土地の譲渡による総収入金額は一四八八万六四〇〇円である。

なお、後日原告が猿投の土地を実測したところ、面積が契約面積よりも少ないうえ、右土地は土砂の流入がひどく土止め等の補修工事を要することが判明したため、原告の受けた損害賠償金として四五八万一八二〇円を仲介人平松から受領したが、これは損害賠償金であるから、総収入金額に算入すべきではない。

2 取得金額

原告は本件土地を昭和四四年末頃、訴外丹羽雪爪から代物弁済として取得したが、その経緯は次のとおりである。

当時原告及び八進製材が訴外丹羽ら経営にかかるベニヤ商会に対し有していた債権は、

ⅰ 売掛金債権二五一万五五九〇円(債権者八進製材、昭和四四年七月分ないし同四五年二月分)

ⅱ 貸付金債権三〇〇万円(債権者原告、その内容は被告主張のとおり)

ⅲ 不渡り手形肩代り金七九万三〇一〇円(債権者原告、その内容は被告主張のとおり)

以上の三口であつた。そして、以上の債務を弁済するため、訴外丹羽は、本件土地を代物弁済として原告に譲渡し、原告は、ベニヤ商会の八進製材に対し負担しているⅰの買掛金債務を肩代り(債務引受)した。

これより先、原告と訴外丹羽は、代物弁済の目的物である本件土地の価額を六七〇万八六〇〇円(三・三平方メートル当り一万八〇〇〇円)と合意していたので、右評価額から、ⅰⅱⅲの債権を控除した残額四〇万円を原告は訴外丹羽に現金で支払い、決済を了した。

(原告の反論に対する被告の積極否認)

原告が肩代りしたという手形は乙第一八ないし第二一号証の四通の手形であるところ(甲第五号証の一参照)、丹羽ベニヤ商会は丸茂合板に対し、右四通の手形にかかる合計七九万三〇一〇円の手形債務を負つていたが、その決済ができなかつたので、原告がこの手形債務を肩代りすることとなり、その手段として、原告は乙第一八号証の手形(額面三九万五五六〇円)を丹羽ベニヤ商会をして丸茂合板から買戻させるため、その資金として、昭和四五年一月一〇日一五万円(甲第五号証の四)、同月二〇日一〇万円(同号証の五)、同月三一日五万円(同号証の六)及び同年二月一〇日一〇万円(同七号証の七)を、丹羽ベニヤ商会に交付し、更に原告は同年二月二日丸茂合板に三九万七四五〇円を支払つて(乙第一四号証の四)、乙第一九ないし二一号証の三通の手形(額面合計三九万七四五〇円)を買戻したものである(乙第二二号証参照)

右の事実関係に照らすと、原告が現金で四〇万円を丹羽ベニヤ商会に対して支払つた証拠として提出する甲第五号証の四ないし七の領収証は、不渡手形肩代り金のものであつて、結局原告が主張する本件土地代金の一部として現金で四〇万円支払つたとの事実も虚構のものと断ぜざるを得ないのである。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第四号証、第五号証の一ないし七、第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし八(原告が昭和五六年五月七日に撮影した猿投の土地の写真である)第九号証を提出。

2  証人丹羽正翁、同平松瑞穂及び同船引繁信の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用。

3  乙第一号証、第四ないし第六号証の各一、第七ないし第一〇号証(但し、第九号証のうち、営業報告書の最後の頁・貸倒損失の内訳書の欄外の書き込み部分は不知)、第一三号証の一ないし三、第一四号証の四の成立は認める。第四ないし第六号証の各二のうち、板垣証三郎の署名部分の成立は不知であるが、交換のスタンプ印の成立は認める。第二号証、第三号証の一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証、第一四号証の一ないし三は不知。

二  被告

1  乙第一、第二号証、第三ないし第六号証の各一、二、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七ないし第二一号証の各一、二、第二二号証を提出。

2  証人船引繁信の証言を援用。

3  甲第八号証の一ないし八が原告主張のとおりの写真であることは不知、その余の甲号各証の成立はいずれも不知。

理由

一  請求原因一項の事実(本件更正処分等に至る経緯)及び原告の昭和四八年分の所得中不動産所得金額、給与所得金額については当事者間に争いがない。

従つて、本件の争点は、同年分の短期譲渡所得金額に関する被告の認定の適否に存することが明らかであるから、以下この点について考察する。

二  (本件土地譲渡の経緯)

成立に争いのない乙第一号証、第四ないし第六号証の各一、第一三号証の一ないし三、証人船引繁信の証言により真正に成立したことが認められる乙第二号証、第三号証の一、二、第一一号証の一ないし四、第一二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四ないし第六号証の各二(但し、スタンプ印の成立は、当事者間に争いがない)、証人船引繁信及び同平松瑞穂の各証言、原告本人尋問の結果の一部、右尋問の結果により成立を認めうる甲第一号証を総合すると次の事実が認められる。

1  住友ゴムの名古屋工場は昭和四七年ごろから、近隣住民との間の公害問題の発生を予め防止するべく、工場隣接地を買収する方針を立て、その一貫として、工場北側に隣接する本件土地も買収することとし、昭和四八年一月社員船引繁信に対し本件土地の買収のため原告と交渉することを命じた。

2  船引はそのころ原告方に赴き、原告に対し本件土地の譲渡方を申し込み、以後再三に亘り交渉を重ねたが、原告は売買ではなく、本件土地に見合う代替地との交換を強く希望した。そこで船引は、平松薫に対し、代替地の購入及び購入した代替地を原告との間で本件土地と交換する手続の一切を委任した。

そして、船引は、平松との間で、本件土地を三・三平方メートル当り七万五〇〇〇円、一二三〇平方メートルとして二七九五万二五〇〇円と評価し、端数を切り上げ二八〇〇万円を住友ゴムは平松に交付する。平松は、右予算に見合う代替地を購入し、本件土地を交換することなる合意が成立した。右合意は、平松を介し原告にも伝えられ原告は、これを承諾した。

3  平松は、約旨に従い、予め原告にも実地検分させ、諒承を得たうえ、昭和四八年九月一一日ごろ、猿投の土地の所有者である訴外兵藤らとの間で、右土地の登記簿上の面積五八一三・三九平方メートルを基準として売買価額二二八六万七〇〇〇円、特約として実測面積と登記簿上の面積に増減あるときは、登記簿上の面積により決済する旨の売買契約を締結し同日その旨の契約書(売主は兵藤ら、買主は平松)を作成しそのころ平松は住友ゴムから二八〇〇万円を受領し、その内から、右代金を兵藤らに交付した。

そして、その翌日、住友ゴムと平松との間に、本件土地につき平松を売主、住友ゴムを買主とし、代金を二八〇〇万円とする売買契約書が作成された。そのころ原告と平松との間に本件土地の売買契約書(甲第一号証)が作成されたが、右契約書は、後記所有権移転登記手続の必要書類として平松が作成したものであり、作成日付、代金額等は平松において実際の作成日付及び売買代金と異る内容を記載したものであつた。

なお、以上三通の売買契約書に、平松は共同経営者であり、実子である平松瑞穂の氏名を使用していた。

かくて、平松は、以上三通の契約書等により、同年同月一九日付で、本件土地の所有名義を原告から住友ゴム名義に、猿投の土地の所有名義を訴外兵藤らから原告名義に各移転登記手続を経由した。

ところで、その後、原告は、平松は住友ゴムから本件土地の代金として二八〇〇万円を受領しながら、猿投の土地の代金として兵藤らに支払つたのは、二二八六万七〇〇〇円であり、その差額五一三万三〇〇〇円は、平松が手中にしていることを知り、船引及び平松に対し苦情を申し述べた結果、船引の尽力により、原告に対する本件土地代金の追加払金として四五八万一八二〇円(前記当初の本件土地代金の追加払金として四五八万一八二〇円(前記当初の本件土地の評価額二七九五万二五〇〇円と猿投の土地代金二二八六万七〇〇〇円との差額五〇八万五五〇〇円から、原告が負担すべき平松の仲介手数料五〇万三六八〇円を控除した額)を平松の実子平松瑞穂(当時平松薫は死亡していた)が、原告に支払うこと、但し、右金員の支払は昭和四九年三月まで猶予することなる合意が成立し、平松瑞穂は、同年三月九日三〇〇万円、同年四月二八日一五八万一八二〇円を原告に支払つた。

以上の事実によれば、前記各売買契約書の形式上からみると、本件土地は原告から、平松に売渡され、その上で住友ゴムに、平松から売渡されていること、猿投の土地も訴外兵藤らから平松に売渡されているけれども、先に認定したとおり、本件土地の売買は、住友ゴムと原告との間で進められ、原告が代替地との交換による方式を提案して来たため、住友ゴムは平松に対し代替土地の購入、それとの交換による本件土地の取得及びその手続の一切を委任し、平松は、右委任に基づき前記のような取引を行つたのであるから、実質的に見れば、猿投の土地を訴外兵藤らから取得した者及び右土地を代替地として原告から本件土地を譲り受けた者は、住友ゴムと認めるのが相当である。してみると、本件土地と猿投の土地の交換当事者は、原告及び住友ゴムと解され、したがつて住友ゴムは、猿投の土地を交換の目的で取得したことになるから、交換当時の一方である住友ゴムは、被告が主張するとおり、法五八条一項所定の要件を備えていないことが明らかであり、本件交換には法五八条一項の適用のないことは、多言を要しない。

以上の説示に反する原告の主張は、採用できない。

三  (短期譲渡所得の総収入金額)

前記認定事実によれば本件土地の譲渡金額は、追加払金を含めると二七九五万二五〇〇円となるから、短期譲渡所得の総収入金額と同一となる。

もつとも、原告本人尋問の結果、右尋問の結果により成立を認めうる甲第二、第三号証、第六号証によれば、本件土地の代替地である猿投の土地の実測面積は、登記簿上の面積より約六〇〇平方メートル少いことが後日判明したこと及び原告が平松瑞穂に宛てた前記追加払金の領収書(甲第二、第三号証)には坪数不足分及び水害による補修工事費として受領する旨記載されていること、以上の事実が認められるけれども、証人船引繁信、同平松瑞穂の証言によれば、原告が前記追加払金の請求をなしたとき、船引らに、面積不足ないし補修工事費の件は一切申し出ていないことが認められるから、猿投の土地の面積不足の件及び甲第二、第三号証の記載部分は、前記認定に消長を及ぼす事実とは、なし難い。

四  (本件土地の取得者)

1  原告が訴外丹羽雪爪から、同人らが共同経営する訴外丹羽ベニヤ商会の、ⅰ八進製材に対する買掛金債務、ⅱ原告に対する貸付金債務、ⅲ丸茂合板に対する不渡手形金債務を原告が肩代わりしたことによる原告に対する求償金債務の弁済として、本件土地の代物弁済を受け、本件土地を原告が取得したこと、右各債務額は少なくとも被告主張額五五九万一九〇七円(ⅰ一七九万八八九七円、ⅱ三〇〇万円、ⅲ七九万三〇一〇円)存したことは当事者間に争いがない。

2  原告は、右代物弁済にかかる原告の債権は、右ⅰないしⅲのほかにⅳ八進製材の売上計上漏れ分七一万六六九三円が存する旨主張し、原告本人尋問の結果、右尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証、証人丹羽正翁の証言、右証言により成立を認めうる甲第五号証の一の各供述及び記載中には、右原告の主張に沿う部分が存するが、これら各証拠は、後記採用の各証拠に照らし、たやすく信用し難く、他に原告主張事実を維持するに足りる証拠は存しない。

却つて、成立に争いのない乙第一五号証の一、二及び第一六号証によれば、八進製材の会計帳簿の売上勘定及び工賃収入勘定には、昭和四四年七月ないし同年一一月分の売上金として合計一七九万八八九〇円(右ⅰの金額)は計上されているが、原告主張にかかるⅳの金員(七一万六六九三円)は計上されていないこと並びに八進製材の昭和四五年三月決算期の確定申告書(乙九号証)に添付された「売掛金の内訳書」にも原告主張にかかるⅳの売掛金は記載されていないことが認められる。

従つて、原告主張の八進製材の売上計上もれ分として七一万六六九三円存したと認定することは困難である。

3  原告の主張する現金四〇万円の支払(ⅴ)について

原告は、本件土地代金として更に現金四〇万円を訴外ベニヤ商会に支払つた旨主張し、原告本人尋問の結果、証人丹羽正翁の証言、同証言により真正に成立したことが認められる甲第五号証の一の各供述及び記載中には原告の右主張に沿う部分が存するが、これら各証拠は後記採用の各証拠に照らし、たやすく信用し難く他に原告主張事実を維持するに足りる証拠は存しない。

却つて、成立に争いのない乙第一四号証の四、証人丹羽正翁の証言により真正に成立したことが認められる甲第五号証の四ないし七、乙第一四号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したことが認められる乙第一八ないし第二一号証の各一、二、第二二号証を総合すると以下の事実が推認され、原告主張の四〇万円は前記ⅲの不渡手形肩代り金債務七九万三〇一〇円の中に含まれていることが推認される。即ち

(一)  前記ⅲにいう不渡手形とは、丹羽ベニヤ商会丹羽正翁振出の丸茂合板宛の次表記載の四通の約束手形(額面合計七九万三〇一〇円)であつた。

<省略>

(乙一八号証)

(乙一九号証)

(乙二〇号証)

(乙二一号証)

(二)  原告は、右手形債務を肩代りするにあたり、その手段として、右表(1)の手形を、丹羽ベニヤ商会が、丸茂合板から買戻す資金として、昭和四五年一月一〇日一五万円(甲五号証の四)、同月二〇日一〇万円(同号証の五)、同月三一日五万円(同号証の六)及び同年二月一〇日一〇万円(同七号証の七)を丹羽ベニヤ商会に交付し、更に、原告は、同年二月二日に丸茂合板に三九万七四五〇円を支払つて(乙第一四号証の四)、右表(2)ないし(4)の手形を買い戻した。

五  本件土地の取得費用は当事者間に争いがなく、譲渡に要した費用は、前記のとおり原告負担分として平松に支払つた五〇万三六八〇円である。

六  従つて、短期譲渡所得の取得費及び譲渡に要した費用は被告主張の金額(六四九万九三三七円)となるから、短期譲渡所得の金額は被告主張のとおり二一四五万三一六三円となる。

しかして、原告の昭和四八年分総所得金額は前記のとおり六四一万七三四三円、短期譲渡所得の金額は二一四五万三一六三円であるから、右金額を基準に所得税の額を算出すると(算出計算は被告主張の別表のとおりである)、納付すべき税額は被告主張のとおり一三一八万九二〇〇円となるから、この範囲内でなされた本件更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

七  結論

以上の次第であるから、本件更正処分等の取消しを求める原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 澤田経夫 裁判官加登屋健治は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 松本武)

所得税額の計算明細表

<省略>

分離課税の短期譲渡所得の税額計算書

<省略>

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