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名古屋地方裁判所 昭和54年(行ウ)8号 判決 1981年10月26日

名古屋市中区丸の内一丁目一四番一八号

原告

東亜産業株式会社

右代表者代表取締役

坂野勝憲

同市同区三の丸三丁目三番二号

被告

名古屋中税務署長

宮部順一

右指定代理人

山野井勇作

木村亘

山本正一

井奈波秀雄

岡島譲

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

一  被告が、原告に対し昭和五二年一二月二三日付でなした原告の昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの事業年度分法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(但し、いずれも、昭和五三年四月二日付異議決定で取り消された分を除く)を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文同旨

第二原告の主張

一  原告は山林等の売買・アパートの経営等を業とする会社であり、昭和五〇年三月一日から昭和五一年二月二九日までの昭和五〇年事業年度(以下「本件事業年度」という)分の法人税について、法定申告期限内である昭和五一年四月三〇日に、別紙その一(課税処分表)中確定申告欄記載のとおりの確定申告をなしたところ、被告は、昭和五二年一二月二三日付で本件係争事業年度分の法人税について、右別紙その一中更生及び賦課決定欄記載のとおり更正及び賦課決定(以下「本件更正処分等」という)をした。

その後原告の異議申立に基づき、被告は右別紙中異議決定欄記載のとおりの異議決定をなし、本件更正処分等を一部取り消した。

原告はこれに対し、国税不服審判所長に対し審査請求をなしたところ、昭和五四年二月六日付で棄却裁決がなされた。

二  本件更正処分等の違法事由

しかし、本件更正処分等(但し、前記異議決定で取消された部分を除く)は、次の諸点において違法であるから、その取消を求めるため本訴に及んだ。

原告の否認する項目は次のとおりである。

1  譲渡収入金額につき

原告所有にかかる東亜荘の借地権譲渡収入二九二八万二円の計上は、別紙その二記載の宅地五筆(以下本件土地という)の所有者である訴外坂野勝憲(原告代表者、以下「訴外坂野」という)は、本件土地上に存した原告所有の建物東亜荘の敷地につき、原告に対し借地権を設定していない(土地賃貸借契約の締結もなく賃借料の支払もない)から、違法である。

2  損金計上につき

(一) 立退転居料二〇二八万円は原告が支払ったのにこれを認めない違法がある。

(二) 本件係争事業年度の直前の事業年度(昭和四九年三月一日から昭和五〇年二月二八日までの事業年度・以下「昭和四九事業年度」という)における欠損金七八四万二五一五円の繰り越しを認めない違法がある。

3  特別控除の不適用

昭和五〇年三月一一日、原告は訴外日本国有鉄道(以下「国鉄」という)との間で、障害防止移転工事助成契約を締結し、東亜荘の移転補償費として国鉄から助成金名下に六五六八万一〇〇〇円を受領したが、右助成金は、租税特別措置法(以下「措置法」という)六四条一項八号に規定する地方鉄道法等の規定により国鉄から受領したものであるから、損置法六四条一項八号に該当し、同法六五条の二に規定する三〇〇〇万円の特別控除をなすべきであるのに、これをなさない違法がある。即ち、右助成金契約により本件土地は、国鉄の新幹線障害振動防止対策として国鉄に買収されたものであり、国鉄が本件土地を買収した意図は、列車運行上突発的な事故発生の場合の保安用地及び名古屋笹島駅・東名古屋港間の新設貨物用地として本件土地を利用するためであったのであるから国鉄の本件土地の買収の性質は、いわゆる収用にあたるから、右買収に判う東亜荘移転に伴う助成金については、措置法六五条の二により、収用換地等及び特定事業の用地買収等の場合の所得の特別控除(三〇〇〇万円)がなされるべきである。

なお、名古屋国税局係官は、原告の事前相談に対し、三〇〇〇万円の特別控除は認められる旨指導していた。

第三被告の主張

一  原告主張事実中第一項は認める。

同二項中本件土地が訴外坂野の所有であること、右土地上に存した東亜荘が原告の所有であること、訴外坂野と原告との間に東亜荘敷地につき賃貸借契約が締結されておらず、賃料の授受はなかったこと、昭和五〇年三月一一日原告は国鉄との間に原告主張のとおりの契約を締結し、東亜荘の移転補償費として助成金名下に原告主張のとおりの金員を受領したことは認めるが、その余の事実、主張は否認する。

二  本件更正処分等の根拠

本件係争事業年度における原告の所得金額は七三一四万七〇六九円であり、これは後記益金の金額(九七九九万七五六一円)から損金の金額(二三九二万二九九八円)及び寄付金の損金算入額(九二万七四九四円)を控除した金額であり、これらの内訳は以下のとおりである。

1  益金の金額 九七九九万七五六一円

<省略>

2  損失の金額 二三、九二二、九九八円

<省略>

3  寄付金の損金算入額 九二七、四九四円

法人税法三七条及び同施行令七三条の規定による。

<省略>

4  所得金額(一-二-三) 七三、一四七、〇六九円

三  否認項目に対する被告の主張

(借地権譲渡代金) 二九二八万二円

1  原告代表者代表取締役である訴外坂野は、本件土地を所有し、昭和五〇年三月ごろ本件土地を国鉄に対し、八七一九万六三四五円で譲渡したが、当時本件土地上には訴外坂野久子所有の建物(九〇・七二平方メートル)及び原告所有の建物(東亜荘、四七四・四六平方メートル)が存在していた。

2  ところで、本件土地の所有者である訴外坂野と原告とは、東亜荘敷地につき、土地賃貸借契約を締結しておらず、賃借料の支払もしていなかったことは、原告主張のとおりである。原告は、これを理由に本件係争事業年度における借地権譲渡収入を否認するが、右主張は次に述べるとおり失当である。

(一) 本件土地の使用関係について

一般に土地所有者が建物の所有を目的として土地を第三者に使用させる場合に、土地所有者は、特別な事情が生じた場合を除き、実際上建物が崩壊するまでの期間土地の使用を制限され、かつ、当該土地を譲渡する場合に未使用の状態の土地に比して譲渡金額において大きな滅額要素となり、土地所有者にとって、土地の価値の減少となることは周知の事実である。

それをあえて実行し土地を第三者に使用させる場合、土地所有者は、土地の価値の減少の度合と、土地の値上り益及び他の財産(金銭債権、有価証券等)の運用益等の諸要素を比較衡量しつつ、賃貸料の額及び権利金の額並びに更新時期等を決定するものである。

これを本件についてみるに、原告が事業遂行のため、建物所有を目的として土地を使用する場合に、借地法及び建物保護に関する法律の適用のない使用貸借契約によることは、土地使用者としては土地の使用関係につきいつ使用土地の返還を要求されるかもしれない不安定な状態におくということであるから、通常の土地関係においては考えられないところであって、原告が訴外坂野を代表者とする同族会社なればこそ行いうることである。

このことは反面、本件のような同族会社とその代表者個人との間の土地の使用関係は無償使用とはいっても、会社が土地を使用して事業を遂行し利潤の拡大を図ることによって、土地提供者である代表者自身もその利益の還元を期待しうるという関係であり、情誼のみではなく経済的利害関係をも基礎としているものというべきである。

(二) 本件土地の返還について

一般に、借地権を有する土地を借地権者が土地所有者に返還するのは、土地所有者の要求によって行われるもので、土地所有者から立退きの申出もないのに、借地権者が進んで建物を取壊して、無償で使用土地を返還するということは、借地権者の利益放棄に他ならず、通常の第三者間の関係においてはあり得ないことである。言い換えれば、借地権付きでその建物を他に譲渡することにより建物の代価のほか、その土地の使用権としての借地権の対価も当然収受する機会があるはずだからである。

これを本件についてみると、訴外坂野が国鉄に本件土地を譲渡するような事情が生起しない限り、同人が将来において本件土地の返還を求めたりする可能性は実際上はほとんどなく、原告による本件土地の使用関係は事実上、権利性のかなり強いものであるといえる。

(三) 以上のとおり、訴外坂野と原告との本件土地の使用関係は、その性質、内容からして、無償使用とはいえ、その実質は借地権に類似する使用関係に該当すると考えるのが相当である。

3  原告の本件土地に対する借地権割合が四〇パーセントであることは、次に述べるとおりである。

(一) 訴外坂野が、本件土地を国鉄に対して八七一九万六三四五円で譲渡したことは前述のとおりであるが、同人は、本件土地の譲渡所得の確定申告に際して、譲渡金額八七一九万六三四五円から本件土地の借地権の割合である四〇パーセントにあたる三四八七万八五三八円を控除した残額の五二三一万七八〇七円を譲渡収入金額として申告している(乙一号証二枚目、分離課税の所得欄収入金額参照)。

このことは、原告の代表者である訴外坂野が、本件土地には借地権が存在したこと及びその借地権割合は本件土地価格の四〇パーセントであることを認識していたことの証左である。

(二) 株式会社名古屋不動産鑑定所発行の「収益と借地権資料」(乙第四八号証の一ないし五)によると、地価公示法によって定められた各標準地のうち本件土地の譲渡時点である昭和五〇年分の借地権割合を抽出すると、本件土地の近隣地区七件のうち一件は四六パーセントであり、六件はすべて五〇パーセントである。したがって、本件課税において、原告所有建物である東亜荘にかかる借地権割合は四〇パーセントとしていることは相当である。

4  借地権にかかる被告主張額について

原告の係争事業年度における益金の額に算入すべき借地権の譲渡収入金額は次のとおりである。

坂野が国鉄に譲渡した金額八七一九万六三四五円のうち借地権の割合である四〇パーセント相当額二九二八万二円

土地譲渡金額87,196,345円×40%

<省略>

が法人税法二二条二項に規定する係争事業年度の所得の計算上益金の額に算入すべき金額となる。

(立退転居料) 二〇二八万円

原告は、原告の経営する東亜荘の居住者三〇名に立退転居料として二〇二八万円を支払った旨主張するが、右金額は国鉄の負担において東亜荘の居住者に対し支払われているものであり、原告の主張は事実に反する。

すなわち、東亜荘の居住者三〇名と国鉄との間において、各居住者は昭和五〇年三月二五日までに東亜荘から立退き、国鉄は立退者に対し助成金総額二〇二八万円を支払う旨の契約が成立し(乙第一五ないし第四四号証)、国鉄は、右契約金額による立退補償金の支払いについて、別紙その三(立退転居料支払明細書)記載のとおり一六四三万二四〇〇円を大垣共立銀行内田橋支店の各居住者の普通預金口座へ振り込み、残額三八四万七六〇〇円については同銀行の訴外坂野の口座へ振り込んだ(乙第四五号証)。訴外坂野の口座へ振り込まれた右金額は、居住者が当面移転費用を要するところから、一部の居住者について訴外坂野が立替えて支払った金額である。立替払いを受けた居住者は、国鉄に対する立退補償金の請求に当り、立替払いを受けた金額の受領について訴外坂野を受任者とする委任状を提出している(乙第四六号証)。したがって、国鉄が訴外坂野名義の普通預金口座あて右金額を振り込んでいることにより、立替払いした金額は回収されたこととなり何ら原告の負担とはならないものである。

ところで、原告は、東亜荘の居住者に対し、原告が立退転居料を支払った証拠として甲一三号証を提出しているが、右書面の名宛人は「岐阜地方法務局出張所」とされており、仮に同号証が真正に作成されたものであるとしても、同号証は東亜荘の居住者が、立退転居料の支払いを受けたという証拠にはなり得ても、原告の負担において支払われたものであるとの証拠にはならないものである。

(本件係争事業年度前の欠損金の繰越しの認められないことについて)

原告は、本件係争事業年度の直前の事業年度における赤字額七八四万二五一五円を本件係争事業年度の所得金額から控除しないのは違法である旨主張する。

しかしながら、係争事業年度開始の日前五年以内に生じた欠損金がある場合に、当該欠損金額に相当する金額を損金に算入できるのは、欠損金額を生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出している法人に限る旨法人税法五七条二項は、規定している。

ところで、これを、本件についてみるに、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの事業年度(欠損が生じたと主張する事業年度の直前の事業年度以下「昭和四八事業年度」という)の青色申告の承認について、被告は、昭和五二年四月二八日付けで右承認の取消処分を行い、右取消処分は適法に確定している(名古屋地方裁判所昭和五三年(行ウ)第三号事件、昭和五四年三月一六日判決言渡、同年四月三日確定)。

したがって、昭和四八事業年度以降の事業年度について、原告が被告に提出した確定申告書は青色申告である確定申告書とは認められない(法人税法一二七条一項)ので、仮に、本件係争事業年度の直前の事業年度に赤字額七八四万二五一五円があったとしても、右欠損金額は、本件係争事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入できないこととなる。

(国鉄助成金に対する特別控除不適用の正当性)

訴外坂野の国鉄に対する本件土地譲渡に伴う東亜荘移転に際し、原告は国鉄との間に昭和五〇年三月一一日付で障害防止移転工事助成契約を締結して、国鉄から建物移転補償費として助成金名下に六五六八万一〇〇〇円を受領したことは原告主張のとおりである。

ところで原告は、右助成金は措置法六四条一項八号に規定された地方鉄道法等の規定によって国鉄から受領したものであるから、同法六五条の二の「三〇〇〇万円特別控除」は当然に認められるべきである旨主張するが、右主張は次に述べるとおり失当である。

1(一)  原告は国鉄から助成金を受領したものであって、国又は地方公共団体から受領したものではない。

(二)  また、原告は、地方鉄道法三〇条一項に規定されている地方鉄道業者でもない。

(三)  右助成金の受領は、建築基準法一一条一項若しくは漁業法三九条一項その他政令で定めるその他の法令の規定に基づく処分に伴うものではない。

したがって、原告が国鉄から受領した右助成金は、措置法六四条一項八号の要件に該当しない。

2  措置法六四条一項各号ないし、同法六五条一項一号ないし三号所定の収用換地等の場合の三〇〇〇万円特別控除は、確定申告書等に特別控除により損金の額に算入される金額の損金算入に関する申告の記載があり、かつ、当該確定申告書等にその損金の額に算入される金額の計算に関する明細書及び次に掲げる書類の添付がある場合に限り、適用される(措置法六五条の二第四項、八項、措置法施行規則(以下「措規」という。)二二条の三第三項)。

(一) 買収等の申出証明書

公共事業施行者の買取り等の最初の申出の年月日及び当該申出に係る資産の明細を記載した買取り等の申出があったことを証する書類

(二) 買取り等の証明書

公共事業施行者の買取り等の年月日及び当該買取り等に係る資産の明細を記載した買取り等があったことを証する書類

(三) 収用証明書

買取り等に係る資産の措規二二条の二第四項の区分に応じ、当該各号に掲げる書類

ちなみに、原告が主張する措置法六四条一項八号の場合の収用証明書は(1)運輸大臣のその旨を証する書類(措規一四条七項九号イ)、(2)建築基準法一一条一項に規定する特定行政庁のその旨を証する書類である。

ところで、原告の提出した確定申告書には三〇〇〇万円特別控除の損金算入に関する申告の記載がなく、かつ、右の(一)ないし(三)の書類の添付がないのであるから、本件においては三〇〇〇万円の控除がなされないのは当然である。

なお、甲第三号証は、所得税法二二五条一項八号の規定に基づいて国鉄が発行した「不動産等の譲渡の対価の支払調書」(所得税法施行規則別表五(二二))であって、措規二二条の三第三項の証明書とは全く異なるものである。

3  国鉄のなす買収及び措置法六五条の二について

国鉄がなす土地の買収には、次の二種類がある。

(一) 日本国有鉄道法三条等を根拠として土地収用法に基づいてなす強制買収

(二) 任意契約に基づいてなす任意買収

右(二)の場合は、双方の自由意思の合致により締結される契約に基づくものであるから、措置法六五条の二による特別控除の適用の余地はないが(一)の場合は、譲渡する者の譲渡の意思の有無にかかわらず、収用するものであること及び土地収用法に規定する事業につき収用を円滑に行わしめる政策目的等の配慮から、国鉄のなす次の事業に基づいてなされた買収または買取があった場合には、措置法六五条の二により当該土地の譲渡利益から三〇〇〇万円を控除することができるのである。

イ 全国新幹線鉄道整備法二条に規定する新幹線鉄道の建設に係る事業(措置一四条七項二号)。

ロ 日本国有鉄道法三条一項各号に規定する業務の用に供する施設のうち線路及び停車場に関する事業(措規一四条七項三号イ)。

ハ 右各号に規定する事業に供する施設のうち(線路及び停車場を除く)、一団地一〇ヘクタール以上の事業(措置一四条七項五号)。

右によれば、本件土地買収は右(二)の任意買収に属するから、右イないしハのいずれにも該当しないことは明らかであり、任意買収に伴い、原告に交付された助成金に三〇〇〇万円の特別控除が適用できないことは明らかである。

なお、原告は、国税局の職員に相談したところ、本件については三〇〇〇万円の特別控除はできるとの指導を受けたので三〇〇〇万円の特別控除は当然に適用されるべきである旨主張する。

しかし、原告は、国税局係官に対し、訴外坂野が昭和三六年に新幹線用地として収用された土地(乙第五二号証・四六七ページ)と同じ状況を説明し、本件土地についても、国鉄から収用されたものであると、事実に反する説明をして相談を行い、三〇〇〇万円の特別控除が受けられるとの指導を得たのであるから、原告の右主張は全く理由がないものである。

四  以上の次第であるから、本件更正処分等に何らの違法は存しないから、原告の本訴請求は失当である。

第四被告の主張に対する原告の認否

一  被告主張二項(本件更正処分等の根拠)は、原告の否認する項目((1)東亜荘に関する借地権譲渡代金(2)立退転居料(3)本件係争事業年度前の欠損金不算入(4)国鉄から助成金名下に受領した建物移転補償費につき三〇〇〇万円の特別控除不適用)を除いてすべて認める。

二  同三項(否認項目に対する被告の主張)の事実は、

(借地権譲渡代金)につき、

訴外坂野が、昭和五〇年三月ごろ、その所有にかかる本件土地を国鉄に対し、八七一九万六三四五円で譲渡したこと、本件土地上には、当時訴外坂野久子所有建物と、原告所有建物「東亜荘」が存在していたこと、

(繰越欠損金の損金不算入)につき、

被告主張の原告に対する青色申告承認の取消処分が確定したこと、

(国鉄助成金に対する特別控除不適用)につき、

原告は、国鉄から助成金を受領したもので、国又は地方公共団体から受領したものではないこと、原告は、地方鉄道法三〇条一項所定の地方鉄道業者ではないこと、右助成金は、被告主張の法令の規定に基づく処分に伴うものではないこと、原告の提出した確定申告書に被告主張の各証明書は添付されていなかったこと。

以上の事実は認める。その余の事実、主張は否認する。

第五証拠

(原告)

一  甲第一ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七ないし第九号証の各一、二、第一〇ないし第一三号証、第一四号証の一ないし一四、第一五ないし第一九号証提出。

二  乙第一ないし第六号証、第一二ないし第一四号証、第四七号証、第四八号証の一ないし五、第四九号証の一、二、第五〇号証の一ないし五、第五一号証の一、二、第五二号証の成立は認める。乙第四六号証の原本の存在及び成立は否認する。

その余の乙各号証の成立は不知。

三  原告代表者尋問の結果援用

(被告)

一 乙第一ないし第四七号証、第四八号証の一ないし五、第四九号証の一、二、第五〇号証の一ないし五、第五一号証の一、二、第五二号証提出。

二 甲第四、第五号証、第六号証の二、第一三号証、第一四号証の一、第一五、第一九号証の成立は不知。その余の甲各号証の成立は認める。

三 証人甲賀勝好の証言援用。

理由

一  本件更正処分等に至る経緯がすべて原告主張のとおりであること及び本件更正処分等の根拠については、原告主張第二項(1)ないし(3)の否認項目を除き、すべて被告主張のとおりであること、以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  よって、進んで右各否認項目に対する本件更正処分等の認定の適否につき、以下審按する。

1  借地権譲渡代金二九二八万二円の益金加算について

(一)  訴外坂野(原告代表者)が、昭和五〇年三月ごろ、その所得にかかる本件土地を国鉄に対し、八七一九万六三四五円で譲渡したこと、本件土地上には、当時訴外坂野久子所有建物及び原告所有建物「東亜荘」が存在していたこと、原告は右東亜荘敷地につき訴外坂野との間に賃貸借契約は締結しておらず、賃料の支払もしていなかったこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば、原告と訴外坂野との間の本件土地使用の法律関係は、使用貸借契約であることは明らかである。

(二)  つぎに成立に争いのない甲第三号証、乙第一号証、第五一号証の一、二及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は、本件土地の所有者で原告の代表者でもある訴外坂野一族の同族会社であること、訴外坂野は同人の昭和五〇年分の所得税の確定申告にあたり、本件土地売却による長期譲渡所得収入金を五二三一万七八〇七円と申告しており、本件土地の売却代金八七一九万六三四五円の金額を申告していないこと、訴外坂野の右申告額は本件土地の売却代金の六〇パーセントに相当する額であること、以上の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

右事実によれば、訴外坂野は、本件土地上に存する前記各建物の所有者である訴外坂野久子及び原告の右各建物敷地の占有使用につき、通常の使用貸借関係と異なる権利性(法的には、借地権地上権等に類似する権利)を認め、本件土地売却代金中その四〇パーセントにあたる三四八七万八五三八円を両者の国鉄に対する右権利譲渡に伴う収入金として容認していたことは明らかである。

(三)  してみると、原告は訴外坂野久子と共に右三四八七万八五三八円につき前記各建物敷地の面積割合に比例した譲渡代金を収受したものと認める外はない。この点に関する原告代表者尋間の結果部分はたやすく信用し難く、成立に争いのない甲第一八号証により認められる土地譲渡代金全額八七一九万六三四五円が国鉄から訴外坂野の銀行口座に振り込まれている事実は、内金三四八七万八五三八円については原告代表者坂野が原告及び訴外坂野久子のために受領したものと解されるから、前記認定を覆すに足りる資料となし難く他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。

しかして、成立に争いのない乙第二号証ないし第五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告所有の東亜荘の敷地面積は四七四・四六平方メートルであること、訴外坂野久子所有の建物の敷地面積は九〇・七二平方メートルであることが認められる。

したがって、原告所有にかかる東亜荘敷地に対する譲渡収入金額は次の算式により二九二八万二円となる。

<省略>

(四)  以上のとおり、原告所有の東亜荘敷地に係る譲渡収入金額は二九二八万二円であるから、右金額を原告の係争事業年度の益金に計上した被告の認定に違法は存しない。

以上の説示に反する原告の主張は採用できない。

2  立退転居料二〇二八万円の損金不算入について

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一五ないし四五号証、証人甲賀勝好の証言により原本の存在及び真正に成立したものと認められる乙第四六号証、右甲賀証人の証言によれば、昭和五〇年三月一五日、東亜荘居住者三〇名と国鉄との間において、各居住者は同月二五日限りで、東亜荘から立退き、国鉄は立退者に対し立退補償金として助成金総額二〇二八万円を支払う旨の契約が成立し、国鉄は、右契約に基づく立退補償金の支払について、別紙その三(立退転居料支払明細表)記載のとおり一六四三万二四〇〇円を大垣共立銀行内田橋支店の各居住者の普通預金口座へ振り込み、残額三八四万七六〇〇円を、同銀行の訴外坂野の口座に振り込んだこと、右坂野口座への振り込みは、同人が東亜荘の居住者に立退移転料の一部を既に立替え支払っていたため、これら、居住者が国鉄に立退補償金を請求するにあたり、右立替支払を受けた金員の受領については訴外坂野を受領受任者とする旨の委任状を国鉄に提出したことに伴う措置であること以上の事実が認められ、原告代表者尋問の結果中右認定の趣旨に反する部分は、たやすく信用し難く、甲第六号証の二、第一三号証の各記載部分も原告主張事実を維持するに足りる資料とは認められず、他に、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。

右事実によれば、東亜荘居住者に対し、立退転居料を支払ったのは国鉄であって原告ではないことが明らかである。

したがって、原告主張の立退移転料二〇二八万円を損金として認容しなかった被告の認定に、何らの違法は存しない。

3  本件係争事業年度前(昭和四九事業年度)の欠損金繰越の損金不算入について

法人税法五七条二項、一項によれば、「当該事業年度開始の日前五年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額がある場合に、右欠損金額に相当する金額を当該事業年度の所得の金額の計算上損金に算入することができること、但し、これは、欠損金額の生じた事業年度について青色申告書である確定申告書を提出し、且つ、その後において連続して確定申告書を提出している法人に限り適用する」旨規定している。

これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第四七号証及び原告代表者尋問の結果によれば、原告の昭和四八年三月一日から昭和四九年二月二八日までの昭和四八事業年度の青色申告の承認について、被告は昭和五二年四月二八日付で右承認の取消処分を行ったところ、原告は右処分の取消を求める訴を提起したが名古屋地方裁判所において昭和五四年三月一六日敗訴判決を受け、右判決は、同年四月三日確定したことが認められる(右取消処分確定の事実は、当時者間に争いがない)。

右事実によれば、昭和四八事業年度以降の事業年度について、原告が被告に提出した確定申告書は、同法一二七条一項により、青色申告書とは認められないから、仮に、本件係争事業年度の直前の事業年度(昭和四九事業年度)に原告主張のとおりの欠損金が存したとしても、右欠損金額は、本件係争事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入することはできない。

よって、原告主張の繰越欠損金を損金に算入しなかった被告の認定に何ら違法は存しない。

4  国鉄助成金に対する特別控除の不適用について

(一)  訴外坂野所有の国鉄に対する本件土地の譲渡に伴い、原告は、国鉄との間で昭和五〇年三月一一日付で障害防止移転工事助成契約を締結し、国鉄から建物移転補償費として助成金名下に六五六八万一〇〇〇円を受領したことは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、前掲甲第三号証によれば、右助成契約は、新幹線鉄道の列車走行に伴う騒音により生ずる障害防止のためであることが認められる。

(二)  これら事実によれば、訴外坂野の国鉄に対する本件土地譲渡契約は、土地収用法等に基づく収用、換地ではなく、私法上の契約に属すること、したがって右土地譲渡に伴い国鉄と原告との間に締結された前記助成契約も当然に私法上の契約に属すること及び右契約は被告主張の特別控除の適用が認められる事業のいずれにも該当しないことは多言を要しない。

(三)  しかして、三〇〇〇万円の特別控除を認めた措置法六五条の二の法意は、被告主張のとおりであることも多言を要しないから、原告が受領した右助成金については、措置法六五条の二を適用する余地はないこは明らかである。

以上の説示に反する原告の主張は採用できない。

してみると、右助成金につき三〇〇〇万円の特別控除を認めなかった被告の認定に何らの違法は存しない。

(四)  なお、原告は、「国税局係官は、原告の事前相談に対し、三〇〇〇万円の特別控除は認められる旨述べた。」と主張し、原告代表者尋問の結果及び甲第一七号証の記載中には右主張にそう部分が存するけれども、原告代表者尋問の結果及び成立に争いのない乙第五二号証によれば、原告の国税局係官に対する事前相談は昭和三六年ごろ、訴外坂野所有地が国鉄から、新幹線用地として収用されたことがあり、本件土地は右と同様に収用されたものである旨述べてなされたこと、係官は右原告代表者の説明を前提として特別控除が認められると答えたことが推認できるから、右原告代表者尋問の結果部分及び甲第一七号証は前記認定を覆し原告主張事実を維持するに足りる資料とはなし難い。

三  以上の次第であるから、原告の前記各否認項目に対する被告の認定には、違法事由は存しないことが明らかであり、本件更正処分等は、すべて適法であり、原告の本訴請求は、理由がない。

四  よって、原告の本訴請求はいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 澤田経夫 裁判官 加登屋健治)

別紙その一(課税処分表)

<省略>

注 所得金額欄の「△」は、欠損金額であることを示す。

別紙その二

(物件目録)

一 名古屋市南区南陽通二丁目一一番 宅地二一八・一八平方メートル

二 同所 一二番 宅地一三四・九四 〃

三 名古屋市南区一条町二丁目一一番 宅地一六五・二八 〃

四 同所 一二番 宅地一六五・二八 〃

五 同所 一三番 宅地七九・三三 〃

別紙その三(立退転居料支払明細表)

<省略>

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