名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)1078号 判決 1982年10月15日
昭和五三年(ワ)第一七四〇号事件原告
株式会社第一楽器
同
株式会社松栄堂楽器
同
株式会社松栄楽器
同
有限会社フカヤの店
同
大森楽器株式会社
同
宮地楽器株式会社
同
株式会社矢木楽器店
同
株式会社サカエ堂
同
株式会社ツルタ楽器
同
株式会社マツイシ楽器店
昭和五三年(ワ)第一七四〇号、昭和五五年(ワ)第一〇七八号事件原告
日響楽器株式会社
同
株式会社八千代楽器店
同
株式会社マルエス楽器店
同
ヨモギヤ楽器株式会社
同
有限会社サカエ楽器
右原告ら一五名訴訟代理人
酒巻弥三郎
同
植松宏嘉
同
青木一男
昭和五三年(ワ)第一七四〇号、昭和五五年(ワ)第一〇七八号事件被告
株式会社永栄楽器
右訴訟代理人
安藤恒春
主文
一 昭和五三年(ワ)第一七四〇号事件について
1 被告は、被告が新聞に出稿するピアノの広告の表示中に、「ヤマハ」「ヤマハピアノ」の表示及びヤマハピアノの品種番号である「U1」「U2」「U3」「UX」「U1M」「U2M」「U3M」「YUX」「YUS」「YUA」「W一〇一」「W一〇二」「W一〇三」「W一〇四」「W一〇五」「W一〇六」「W一〇一B」「W一〇二B」「W一〇三B」「W一〇四B」「W一〇六B」「L一〇一」「「L一〇二」「W二〇一」「W二〇二」の表示とともに「メーカー直結」「メーカー協賛」なる表示をしてはならない。
2 被告は、その営業施設に来訪した客に対して、別紙(一)記載の陳述をしてはならない。
3 被告は、名古屋市内で発行する朝日新聞及び中日新聞の各朝刊のラジオ、テレビ面一三ないし一五段の三段抜きにて、左右各二行あき、天地各一行あき、行間各一行あき、見出し「陳謝」の二字及び被告名は二八級活字、本文は一六級活字にて別紙(二)記載の謝罪広告をせよ。
4 原告らのその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。
二 昭和五五年(ワ)第一〇七八号事件について
1 被告は、被告が広告するピアノ広告中に、「ヤマハ」「ヤマハピアノ」「U1H」「U2H」「UX」「一〇二」「一〇三」「YUA」のいずれかの表示とともに、値上げを決定した製造業者名または商標名を表示しないで、「一流メーカー続々値上げ決定」「値上迫る」「値上げ決定」「値上げ前商品」なる表示をしてはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(昭和五三年(ワ)第一七四〇号事件について)
1 原告ら
(一) 被告は、被告が新聞に出稿するピアノの広告の表示中に「ヤマハ」「ヤマハピアノ」「U1」「U2」「U3」「UX」「U1M」「U2M」「U3M」「YUX」「YUS」「YUA」「W一〇一」「W一〇二」「W一〇三」「W一〇四」「W一〇五」「W一〇六」「W一〇一B」「W一〇二B」「W一〇三B」「W一〇四B」「W一〇六B」「L一〇一」「L一〇二」「W二〇一」「W二〇二」その他ヤマハピアノの品種番号を示す表示を用いてはならない。
(二) 被告は、被告が新聞に出稿するピアノの広告の表示中に、「ヤマハ」「ヤマハピアノ」の表示及びヤマハピアノの品種番号である「U1」「U2」「U3」「UX」「U1M」「U2M」「U3M」「YUX」「YUS」「YUA」「W一〇一」「W一〇二」「W一〇三」「W一〇四」「W一〇五」「W一〇六」「W一〇一B」「W一〇二B」「W一〇三B」「W一〇四B」「W一〇六B」「L一〇一」「L一〇二」「W二〇一」「W二〇二」の表示とともに「メーカー直結」「メーカー協賛」なる表示をしてはならない。
(三) 被告は、被告の営業施設に来訪した客に対して、
① 「昔のヤマハピアノは手造りであつたが、今は大量生産で、製品も材質もよくないし、音もよくないし、耐久性もない。」
② 「ヤマハピアノはプラスチックを使用しているので音が悪いし、耐久性がない。」
③ 「ヤマハピアノはペダル部分に金属を使用しているので音が悪いし、耐久性がない。」
④ 「ヤマハピアノは合板を使用しているし、支柱の本数が少ないので、音が悪いし耐久性がない。」
⑤ 「ヤマハピアノのピンは、メッキがしてないので錆び易いし、弦がきれ易い。」
⑥ 「ヤマハピアノは材質が悪いし耐久性がないので保証が一年しかない。」
⑦ 「ヤマハピアノは材質が悪いし、耐久性がないので、音が狂いやすく、調律、修理、部品交換等維持費が極端にかかり、買うと損である。」
⑧ 「ヤマハピアノは大量生産で機械化し、オートメ化し、女子従業員で作られていて雑である。」
⑨ その他「ヤマハピアノは韓国製である」「東京の音大ではヤマハは一台も使用していない。」「ブランドで買うならヤマハでよいが、品質・性能で選ぶならば、小さな楽器メーカーのものがよい」等ヤマハピアノが粗悪品である旨の陳述をしてはならない。
(四) 被告は、原告らに対し、名古屋市内において発行する中日新聞、朝日新聞の各朝刊のラジオ・テレビ面一三ないし一五段の三段抜きにて、左右各二行あき、天地各一字あき、行間一行あき、見出し「陳謝」の二字及び被告名は二八級活字、本文は一六級活字にて、別紙(二)記載の謝罪広告をせよ。
(五) 被告は、原告ら各自に対し、各五〇万円を支払え。
(六) 訴訟費用は、被告の負担とする。
2 被告
(一) 原告らの請求をすべて棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
(昭和五五年(ワ)第一〇七八号事件について)
1 原告ら
(一) 被告は、被告が広告するピアノ広告中に「ヤマハ」「ヤマハピアノ」「U1H」「U2H」「UX」「一〇二」「一〇三」「YUA」のいずれかの表示とともに、値上げを決定した製造業者名または商標名を表示しないで「一流メーカー続々値上げ決定」、「値上迫る」、「値上げ決定」、「値上前商品」その他ピアノ製造業者が値上げをし、もしくはする旨の表示してはならない。
(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。<以下、事実省略>
理由
一原告ら<編注・原告株式会社第一楽器ほか一四名>の昭和五三年(ワ)第一七四〇号事件、同五五年(ワ)第一〇七八号事件<編注・前記一五名のうち、原告日響楽器株式会社ほか四名>の各請求の趣旨と、その各請求原因は、要約すると次のとおりである((A)ないし(F)は一七四〇号事件、(G)は一〇七八号事件、以下同じ)。
(A) 被告のなす新聞広告につき「ヤマハ」「ヤマハピアノ」「ヤマハの品種番号」を示す表示を用いることの差止め(右各表示の全面かつ無条件の差止め)。
(請求原因)
中日新聞及び朝日新聞における被告の広告の内の右各表示は、不防法一条一項五号にいう「商品ノ広告ニ其ノ商品ノ数量、内容ニ付キ誤認ヲ生ゼシムル表示」に該当する。その理由は、被告の前記広告が「おとり広告」――知名度の低い自社銘柄ないし中小メーカーのピアノを販売する意思を以つて、顧客誘店の手段として周知性の極めて高い有名銘柄であるヤマハピアノを内心は販売する意思なく、かつ、その能力(顧客の需要に応じうる十分な台数を用意する能力)もないのに大々的に広告する行為――であるからである。被告の右おとり広告によりヤマハ購入見込者の原告ら店舗への来店の減少を生じ原告らヤマハ特約店は営業上の利益を害されている。
(B) 被告のなす新聞広告につき前記(A)項記載の各表示とともにする「メーカー直結」「メーカー協賛」なる表示の差止め。
(請求原因)
昭和五二年九月三〇日から、昭和五三年五月五日までの中日新聞における被告の広告における右表示は、被告が日本楽器のヤマハ特約店ないしこれに準ずる地位にある店であるとの誤認を生じさせるから、不防法一条一項二号に該当し、原告らは、これによつてヤマハ購入予定客の来店の減少を来たし、営業上の利益を害された。
(C) 被告が来店する客に対し、ヤマハピアノの製造方法、品質、耐久性等に関する虚偽の事実の陳述の差止め。
(請求原因)
虚偽の事実の陳述の具体例として述べたところは、すべて真実に反するヤマハピアノに対する誹謗中傷であるから、不防法一条一項六号に該当する。
(D) 新聞による謝罪広告
(請求原因)
前記(B)後記(G)の各広告及び前記(C)の被告店舗におけるヤマハピアノに関する虚偽の事実の陳述等により原告らの営業上の信用が毀損されたので、不防法一条の二第三項によりその回復のために新聞による謝罪広告を求める。
(E) 原告らに各五〇万円の支払い。
(請求原因)
前記(D)と同様の理由により原告らの信用が毀損されたので、不防法一条の二第三項、同法一条一項六号、選択的に民法七〇九条、七一〇条により、その無形損害の賠償を求める。
(F) 前記(A)(C)の予備的請求原因
民法七〇九条による差止めを求める。
(G) ヤマハピアノが既に値上げされ、もしくは、近日中に値上げされることが確実である旨を記載した広告の差止め。
(請求原因)
ヤマハピアノが値上げされた事実もなく、近く値上げされるという事実もないのに、これあるかのような虚偽の事実の広告をすることは、不防法一条一項五号にいう「商品ノ内容ニ付キ誤認ヲ生ゼシムル表示ヲナス行為」に、また六号にいう「他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述スル行為」にも該当する。
二本件広告の具体的内容
(一) (A)の請求の趣旨につき、被告が原告主張のとおりの新聞広告をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、これら甲号各証は、原告主張の新聞広告の具体例であることが認められる。
(二) (B)の請求の趣旨につき、被告が原告主張のとおりの新聞広告をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、これら甲号各証は、原告主張の新聞広告の具体例であることが認められる。
(三) (G)の請求の趣旨につき、被告が原告主張のとおりの新聞広告をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、これら甲号各証が右新聞広告の内容であることが認められる。
(四) そこで、右(一)(二)の各新聞広告を右各甲号証につき検討し、その代表例を摘出すると(一)につき別紙No.1ないしNo.4、(二)につき別紙No.5ないしNo.8のとおりである。
なお、<証拠>によれば、右各広告中における原告主張の記号は、ヤマハピアノの品種番号であることが認められる。
<反証判断略>
三日本楽器の製造するヤマハピアノの周知性及び原告らヤマハ特約店の地位等について
<証拠>によれば次の事実が認められる。
(一) 日本楽器は明治三〇年創業され、同三二年にピアノ製造に着手し、翌三三年国産第一号ピアノ(アップライトピアノ1型)を完成し、同三六年にグランドピアノも完成させた。そして大正六年同社はその製造するピアノにつき、「ヤマハピアノ」、「YAMAHAPIANO」等の商標登録をなし、今日に至つている。このように日本楽器は、我が国におけるピアノメーカーの草分け的存在であり、戦前戦後を通じ、その製造するヤマハピアノの品質の優秀性は、国内のみならず国外にまで周知され、その年間生産台数は、昭和五二年度において約二一万台に上り(河合楽器は八万台、東洋ピアノ一万台、アトラスピアノ八五〇〇台)、国内販売量は、日本楽器、河合楽器の二社で全体の約九割を占め、残る一割を中小ピアノメーカー(東洋ピアノ、アトラスピアノ、平和楽器、クロイツェルピアノ等約一七社)が占めている。なお、以上のピアノメーカーの大半は浜松市に本社、工場を有している。ヤマハピアノは、愛知県下の殆んどの音楽関係の大学、短大、県・市立の文化施設等に保有されている。
ヤマハピアノに対する社会的信用、ないし購入志向客の増大は、(イ)品質本位(良質の原材料の確保、品質管理体制の充実等)、(ロ)ピアノ製造の合理化(主要材料である木材につきプロセスオートメーション制度の導入、作業の標準化、規格化等)、(ハ)音楽普及活動とアフターサービス(特約店による子供音楽教室の設置、ピアノ調律、調整技術者の派遣等)以上のような企業努力に負うところが多い。
(二) ヤマハピアノの流通経路は、問屋を介在させず、ピアノ小売店との間に特約店契約を結び、これら特約店のみに出荷し、他に出荷することはしていない。特約店は、日本楽器から定価(標準小売価格として日本楽器が指定)の約八割の価格で仕入れ、出張セールスと店舗販売をしているが、売値は殆んど定価販売であり、若干の値引をすることがあるが、大幅に値引することは、仕入価格との関係で不可能である。
原告らは、すべて、昭和四五年三月三一日もしくは昭和四八年五月三〇日に日本楽器との間で特約店契約を更新した特約店であり、販売活動は、前記子供音楽教室等により新規な購入見込客を開拓する努力をしている。
原告ら特約店でなければ、日本楽器から新品のピアノを仕入れることはできないということは、一般顧客に周知されており、日本楽器と原告らの関係はいわゆるチェーン店に準ずる関係として理解されており、その意味において原告ら特約店の地位は、周知性がある。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
四被告の営業の実態
(一) 被告が、昭和四二年ごろ設立された会社で、ピアノ等の楽器販売小売業者であることは、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
(イ) 被告は、全部で一二店舗(愛知県内は六店舗)を有し、従業員総数は約六八名であり、店舗販売のみで、訪問によるセールスはやつていない。
(ロ) ピアノを主体とする年商は、約二〇億円、ピアノ台数にすると約三〇〇〇台であり、その内訳は創業当初から、東洋ピアノ(ブランド名エルスナー、アポロ等)、アトラスピアノ(ブランド名アトラス等)、平和楽器(ブランド名スタインバッハ等)等の中小メーカー製造にかかるピアノが約六割、自社ブランドピアノ(被告自身がブランド名をつけ、これを前記中小ピアノメーカーに製作させるもの、アーデル、ヘルマン、クロイバッハ等)が約四割である。
自社ブランドのピアノは、メーカーから定価(被告自ら定める)の約六割の価格で仕入れるので、定価通りに販売すると利益率は約四割になるので、相当の値引が可能である。自社ブランドのカタログ、価格表は、前記メーカーに作成させている。
以上のような国内ピアノのほかに、若干の輸入ピアノも販売している。
(ハ) 被告の販売するピアノのブランド名は、ヤマハ、カワイのような有名ブランドに比し、周知性がないので昭和五一年秋ごろから、これら有名ブランドピアノの購入志向客を誘店する目的で、新聞広告にも、ヤマハ、カワイのブランド名を表示するようになつた。被告のなした新聞広告の具体的内容は前記のとおりであるが、被告は、広告料として月額約一五〇〇万円(年間約一億八千万円、年商の約一割弱)を支出している。
(ニ) 被告は、ヤマハ特約店ではないから、ヤマハピアノの新品を日本楽器から仕入れることはできず、原告ら以外のヤマハ特約店(訴外八千代楽器、同中島楽器等)ないしヤマハピアノを購入した一般顧客等から、ヤマハピアノの新品ないし中古品を仕入れているが、その仕入状況は、次のとおりである。
昭和五一年 新品約一九台
中古品約 九台
昭和五二年 新品約一五台
中古品約一四台
昭和五三年 新品約四〇台
中古品約二五台
昭和五四年 新品約 二台
中古品約 九台
(但し、昭和五四年は一、二月分のみ)
なお、被告のヤマハピアノ(新品、中古品)の売上は、被告の全売上高の約三パーセント(一カ月の平均売上台数二〇〇台のうち約八、九台)である。
そして、被告店舗におけるヤマハピアノの展示品の大半は製造番号がテープ等で見えないようにされているが、これは、日本楽器が、昭和五一年ころ特約店に対し、同社から仕入れたヤマハピアノを特約店以外の小売業者に販売することを制限し、これに違反した特約店に制裁金を課したりしたことがあつた(昭和五一年六月四日付で公正取引委員会は、日本楽器の右所為等に対し独占禁止法一九条違反を理由に右所為等をしないように勧告書(乙四号証)を発していた。)ため、仕入先の特約店に累を及ぼさないための措置であつた。
以上の事実が認められ<る。>
五被告の店舗販売の実際
(一) <証拠>によれば、次の事実が認められる。
昭和五四年三月二八日に施行された検証時における名古屋市中村区名駅五丁目二四番二号所在の被告会社本社営業所店舗におけるヤマハピアノ及びその他のピアノの展示状況は次のとおりである。
(ヤマハピアノ)
展示台数は七台(UX、一〇三、W一〇二、U3、G5、U1、U3)であり、このうち新品らしいピアノはG5の一台のみであり、他の六台は中古品(製造時より二年ないし四年経過)であり、いずれも光沢が新品より劣り、当て傷や変色した部分や錆部分があり、U3はハンマー部分が不揃いで摩耗している。
また、製造番号が判明しているのは、U1、U3の二台のみで、他のピアノはテープ、ラベル等で見えないように消してある。
(他のピアノ)
自社ブランド、他社ブランド合計五七台である。
なお、以上のすべてのピアノについて、価格表示は一切していない。
<反証判断略>
(二) <証拠>によれば、次の事実が認められる。
(1) 日本楽器名古屋支店ないし原告ら特約店に対し、ヤマハピアノ購入志向の一般顧客から、被告の前記各広告により、ヤマハピアノの新品を定価より安く購入できると信じ、被告方店舗を訪れたところ、被告の店員からヤマハピアノについて、品質、製造方法、耐久性につき種々様々欠点のあることを、被告店舗に展示されているヤマハピアノを指示し、その音色を聞かされたりして説明を受けた趣旨の苦情が相当数あつたので、日本楽器及び原告ら特約店の関係者が一般顧客を装い、被告方店舗を訪れ、被告店員の陳述内容を直接聴取したりして、調査した結果、被告店舗における店員のヤマハ購入志向客に対する陳述内容は、大要次のとおりであること及び一般顧客からの苦情内容に相当する言動を被告店員がなしている事実が判明した。
① ヤマハピアノは、昔は手造りであつたが、今は大量生産なので、製品も材質もよくないし、音もよくないし、耐久性もない。
② ヤマハピアノは、アクション部分にプラスチックを使用しているので、他社製造のピアノに比べ、音が悪いし、耐久性がない。
③ ヤマハピアノは、ペダル部分に金属を使用しているので、他社製造のピアノに比べ高音部がよくないし、錆つき易い。
④ ヤマハピアノは、前板に合板を使用し、支柱の本数が従前のものより減少したので、旧製品に比べ、音が悪く、耐久性がない。
⑤ ヤマハピアノのピンは、メッキがしてないので、他社製造のピアノのピンに比べ、錆つき易く切れ易い。
⑥ ヤマハピアノは、材質が悪いし、耐久性がないので保証が一年しかない。
⑦ ヤマハピアノは、調律、修理、部品交換等維持費が他社製造のピアノに比べ、極端にかかり、買うと損である。
⑧ ヤマハピアノは、大量生産で機械化し、その工程中、一部女子従業員に作らせているから、雑(粗悪品の意)である。
⑨ ヤマハピアノは韓国製である。東京の音楽大学ではヤマハピアノは一台も使用していない。ブランドで買うならヤマハでよいが、品質、性能で選ぶなら小さな楽器メーカーのものがよい。
(2) 被告店舗におけるピアノ販売の基本方針は、ヤマハピアノの周知性を利用し、前記各広告によりヤマハピアノを定価より安く購入することができると信じ、来店する顧客に対し、自社ブランドないし自社で販売する前記中小メーカーのピアノの長所を強調し、ヤマハピアノの展示現品(その多くは中古品)を指示しながら、その欠点を指摘し、できるだけヤマハピアノの購入志向を断念させ、自社ブランド等のピアノを販売するように努力することにある。
六被告店舗におけるヤマハピアノに関する店員の前記陳述の虚偽性について
(一) ①の陳述について
右陳述は要するに「ヤマハピアノの製造方法の合理化に伴う品質の低下」ということであるが、先に認定したとおり、日本楽器は、ピアノ製造方法の合理化(主要材料である木材につきプロセスオートメーション制度の導入、作業の標準化、規格化)と共に品質本位(良質の原材料の確保、品質管理体制の充実等)の企業努力をなし、その年間生産台数を国内第一となし、かつ、その品質の優秀性は、国内のみならず、国外まで周知されているのであるから、右陳述は、虚偽の事実の陳述であることは明らかである。
<反証判断略>
(二) ②の陳述について
<証拠>によれば、ヤマハピアノはアクション部分(鍵盤をたたく指の指令をハンマーに伝える機械部品)にプラスチックを使用していること、その理由は、右部分は、摩耗が激しいので、高級な樹脂を使つているのであり、これによつて、右部分に耐久性を与え、音色にも良い結果を生じていることが認められるから、ヤマハピアノのアクション部分にプラスチックを使用することによつて、ヤマハピアノが他社製造のピアノに比べて音色が悪く、耐久性がない旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(三) ③の陳述について
<証拠>によれば、ヤマハピアノはペダル天秤部分に金属パイプを使用していること、その理由は、木製天秤は、温度や湿度の影響で「そり」や「ねじれ」を生じ演奏の支障となることがあるためであり、これによつて、スムーズなペダルの動きを長期間保持できるようになつていること、音色もペダル天秤が金属性の方がよいこと、また、ペダル部分は防錆処理が加えられているため錆つきにくいこと以上の事実が認められ<る。>
してみると、ヤマハピアノのペダル部分に金属パイプが使用されていることに起因して高音部の音色が悪くなり、また錆つき易い旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(四) ④の陳述について
<証拠>によれば、ヤマハピアノの外装部にある上下の前板は、良質の天然木の化粧単板を合板の上に貼つて仕上げられていること、ヤマハピアノにおいては、フレームが弦の張力のほとんどを支えた設計になつており、その結果、支柱の本数は四本で充分であること、そのため、従前の支柱の本数を四本に減少させたこと、以上の事実が認められ<る。>
右事実によれば、前板に合板を使用し、支柱の本数が減少したことにより、ヤマハピアノの音色が悪くなり、耐久性がなくなつた旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(五) ⑤の陳述について
<証拠>によれば、ヤマハピアノのピン(正確にはチューニングピン)には防錆処理が加えられていることが認められるから、他社製造のピアノのピンよりも錆つき易く、切れ易いとは認められず、右陳述は、虚偽の事実の陳述というべきである。
(六) ⑥の陳述について
ヤマハピアノの保証期間が何年であるかについては、これを認めるべき資料はないが、仮に、一年であつたとしても、ヤマハピアノの材質、耐久性ともに優秀である旨の評価を受けていることは前記のとおりであるから、材質が悪く、耐久性がないので保証期間が一年である旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(七) ⑦の陳述について
<証拠>によれば、日本楽器は、アフターサービスとして、ヤマハ購入者に対し、購入後、二回ないし三回のピアノの調律を無料で行つていること、日本楽器では、ヤマハピアノの製造の最終工程において調整(調律整調、整音)を入念に行つていることが認められ、右事実によれば、ヤマハピアノの調律、修理、交換等の維持費が、他社製造のピアノに比し、高額になるいわれのないことが容易に推認されるから、ヤマハピアノは調律、修理、部品交換等維持費が他社より多大であり、買うと損である旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(八) ⑧の陳述について
先に認定したとおり日本楽器は、ヤマハピアノの製造方法を合理化し、その一部をオートメーション化していること、及び<証拠>によれば、その一部分に女子従業員を使用していることを認めることができるが、右事実に起因してヤマハピアノが製品として粗悪品であると即断することは到底できない。従つてヤマハピアノは大量生産で機械化し、その工程中の一部分を女子従業員に作らせているから雑(粗悪品)である旨の陳述は、虚偽の事実の陳述と言うべきである。
(九) ⑨の陳述について
<証拠>によれば、ヤマハピアノは日本楽器の日本国内にある工場において製造されていることが認められるから、ヤマハピアノは韓国製である旨の陳述は、虚偽の事実の陳述である。
また先に認定した愛知県下の音楽関係の大学、短大、同県の文化施設におけるヤマハピアノの保有状況及び<証拠>によれば、東京都内にある音楽関係大学においても相当数のヤマハピアノが保有されていることは容易に推認することができるから、ヤマハピアノが東京都内の音楽大学で一台も使用されていない旨の陳述は虚偽の事実の陳述である。
なお、「ブランドで買うならヤマハでよいが、品質、性能で選ぶなら小さな楽器メーカーのものがよい。」旨の陳述は事実の陳述というより、被告の顧客に対するセールスのための勧誘の言葉にすぎないと解され、虚偽の事実の陳述とは評価できない。
七以上に認定した、(イ)被告の新聞広告の内容、(ロ)日本楽器の製造するヤマハピアノの周知性、品質の優秀性、(ハ)ヤマハピアノの流通経路における原告ら特約店の地位及びその周知性、(ニ)被告の営業の実態、(ホ)被告店舗における販売の実態、方針等を前提として、以下に原告らの本訴各請求の当否について考察する。
((B)(G)の各請求について)
(一) (B)の請求について
(1) 被告が原告ら主張のとおりの内容の新聞広告をしたことは当事者間に争いがなく、右広告の具体例は前記のとおり別紙No.5ないしNo.8である。
(2) 不防法一条一項二号所定の「他人ノ営業タルコトヲ示ス表示」とは、特定の営業主体を示す表示のみならず、当該営業主体と密接な契約関係にあることを示す表示(いわゆる子会社、チェーン店、特約店等)も包含するものと解される。
けだし、同条同項同号は、他人の営業施設または営業活動との誤認混同を生じさせる行為を禁止し、以つて、不正競業行為を防止するものであるところ、近時企業は、生産、販売等を一貫して自社のみで営むことは稀であり、子会社、チェーン店、特約店等の系列店を設置し、いわゆる企業グループを形成して営業活動を営むことが通例であるから、これら系列店の営業活動をも同条同項同号の保護の対象としないと、前記不正競業行為防止の目的を達成できないからである。
これを本件についてみるに、ヤマハピアノのメーカーである日本楽器は、ピアノの直販はせず、原告らのように日本楽器と特約店契約を結んだピアノ小売店に対してのみ、ピアノを定価の約八割の価格で卸売していることは先に認定したとおりであり原告ら特約店は、ヤマハピアノを日本楽器から直接仕入れることのできるピアノ小売店として日本楽器と密接な契約関係にあり競業上有利な地位を保有しているから、ヤマハ特約店なる表示は、前記「他人ノ表示」に該当すると解される。
そして、ヤマハ特約店という地位が周知性を有することは先に認定したとおりである。
(3) そして、被告の前記広告中には、被告がヤマハ特約店である旨明記されてはいないが、「メーカー協賛」「メーカー直結」なる表示(別紙No.5は、浜松ピアノメーカー一一社と協賛、別紙No.6は、浜松メーカー協賛、別紙No.7は、一流メーカー二三社協賛、メーカー直結・大量仕入、別紙No.8は、一流メーカー一五社協賛)に加えて、ヤマハピアノの品種番号が多数表示(別紙No.5は、ヤマハ一〇三、一〇二、U3H、UX、別紙No.6は、ヤマハU3H、一〇三、一〇二、別紙No.7は、ヤマハU1、UX、別紙No.8は、ヤマハU3H、UX、U3、U2H)されているところからすれば、読者に、被告が、日本楽器の特約店たる地位ないし、これに準じ、日本楽器からヤマハピアノを直接仕入れることのできる小売店である旨誤認を生じさせる虞れが大であることは明らかである。
してみると、被告の前記広告は、「メーカー協賛」「メーカー直結」等の表示とヤマハピアノの品種番号を一体として使用することにより、不防法一条一項二号にいう「他人ノ営業表示ト類似ノ表示ヲ使用シ、他人ノ営業上ノ施設又ハ営業活動ト混同ヲ生ゼシムル行為」に該当するというべきである。
(4) 前記広告により被告をヤマハ特約店ないしこれに準ずる地位にある業者と誤認したヤマハピアノ購入志向客の相当数が、被告店舗に赴いたのであろうことは容易に推認できるところであり、(ヤマハピアノ購入志向客が、前記広告により、被告をヤマハ特約店ないしこれに準ずる業者であると誤認し、加えて前記広告中のヤマハピアノの値引広告を信じ、被告方店舗に、ヤマハピアノの新品を、定価より安く購入するべく赴いた事実のあることは先に認定したとおりである。)、これは、原告ら店舗に来店するヤマハピアノ購入志向客の減少をもたらすことになるから、原告らは、被告の前記広告により営業上の利益を害されるおそれが大であると認められる。
なお、前記広告は、ヤマハピアノの品種番号につき標準小売価格を記載したうえ、これを二〇ないし二五パーセント値引した金額が表示されていることは前記のとおりであるところ、右値引表示は、不防法一条一項二号該当の広告の中に表示されているところからすれば、読者は、ヤマハ特約店は、右程度の値引が可能であると誤信するおそれが大であると認められ、一般のヤマハ特約店は、仕入価格が小売価格の八割に定められているため、二〇ないし二五パーセントという大幅な値引は不可能であることは先に認定したとおりであるから、被告の右値引広告は、原告ら特約店の信用を害するおそれが大であると認められる。
(5) 従つて、原告らの(B)の請求は理由がある。
(二) (G)の請求について
(1) 原告ら主張の日時に、その主張のとおりの内容の新聞広告を被告がなしたことは当事者間に争いがない。
(2) <証拠>によれば、右各広告中(イ)は、「一部大手メーカー値上げ確定により全メーカーに波及」「一部一流メーカー続々値上げ決定」なる表示があり、(ロ)は、「一〇月一日より値上げ決定、値上げ前商品で勝負」なる表示があり、(ハ)は、「全店一斉値上げ前の商品在庫一掃セール、ヤマハ、カワイ一五〇台限り」なる表示があり、これに加えて、(イ)(ロ)(ハ)共に、ヤマハU3H、UX、一〇三、一〇二、YUA等の品種番号について、メーカー希望小売価格とこれの五八ないし八三パーセント相当額の売値が表示されていることが認められる。
(3) 右各広告は、「一部大手メーカー値上げ確定」、「一〇月一日より値上げ決定」「値上げ前の商品在庫一掃セール」等の表示と、ヤマハの品種番号及びその価格の記載を一体として読めば、ヤマハピアノの小売価格がメーカーである日本楽器により値上げされることに決定されたか、ないしは、近い内に値上げされることが確実になつた旨が表現されていることは明らかである。
(4) ところが、<証拠>によれば、右各広告がなされた当時、ヤマハピアノの小売価格は、日本楽器により値上げされていなかつたこと及び当時値上げの予定もなかつたことが認められ、他にこれに反する証拠はないから、被告の前記各広告は、ヤマハピアノの小売価格について誤認を生ぜしめる行為というべく、商品の価格は、商品の内容の一要素であるから不防法一条一項五号にいう「商品ノ内容ニ付キ誤認ヲ生ゼシムル表示ヲ為ス」行為に該当する。
(5) また被告のしたヤマハピアノの価格に関する前記広告は、日本楽器ないし原告ら特約店の営業上の信用をも害することは明らかであるから、不防法一条一項六号にいう「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ノ陳述」にも該当する。
(6) 被告の前記広告により、ヤマハピアノの小売価格が値上げされると誤信した相当数のヤマハピアノ購入志向客が被告店舗に赴いたと推測され、その分だけ、原告ら店舗に来店する客が減少したと推測されるから、原告らヤマハ特約店が被告の前記各広告により営業上の利益を害されたか、ないし害されるおそれのあつたことは、明らかであるから、原告らの(G)の請求は理由がある。
((C)の請求について)
(一) 被告は、その店舗において、来店したヤマハピアノ購入志向客に対し、先に認定したとおり、ヤマハピアノの製造方法、品質、耐久性等について、虚偽の事実を陳述し、ヤマハピアノを誹謗中傷したのであり、被告の右所為により、ヤマハピアノメーカーである日本楽器はもとより、ヤマハ特約店である原告らの営業上の利益も害されたことは明らかである。
(二) 従つて、被告の右所為は、不防法一条一項六号に該当するから、被告の前記陳述中、「ブランドで買うならヤマハでよいが、品質、性能で選ぶなら小さい楽器メーカーのものがよい」旨の陳述を除く、その余の陳述の差止を求める(C)の請求部分は、理由がある。
((D)の請求について)
(一) (B)の被告の広告が不防法一条一項二号に該当し、(G)の被告の広告が同条同項五、六号に該当し、いずれの広告も原告ら特約店の営業上の信用を害する行為にあたること、(C)の被告の陳述が同条同項六号に該当することは、先に認定したとおりであるから、原告らは同法一条の二第三項により、被告に対し、原告らの営業上の信用を回復する必要な措置を命ずべきことを請求しうるものと言うことができる。
しかして、この信用回復のための必要な措置としては、前記(B)(G)の各広告のスペース、文字の大きさ等の具体的態様及び(C)の虚偽の事実の陳述の悪質性等を勘按すると名古屋市内で発行する中日新聞および朝日新聞の各朝刊のテレビ、ラジオ面に三段の大きさで別紙(二)の記載の謝罪広告を各一回ずつ掲載するのが相当である。
((E)の請求について)
原告らは、(D)と同一理由により原告らの信用が害されたことによる無形損害に対する損害賠償として原告ら各自に五〇万円の支払を求めているが、原告らの蒙つた無形損害は、(D)の謝罪広告による信用回復措置で十分に回復されると認められるから、原告らの(D)の請求は理由がない。
((A)の請求について)
(一) 原告ら主張のとおりの内容の新聞広告を被告がなしたことは当事者間に争いがなく、原告らの本請求は、被告がなす新聞広告につき、「ヤマハ」、「ヤマハピアノ」「ヤマハピアノの品種番号」を示す表示をなすことの全面かつ無条件の差止めを求めるにあり、その理由は、被告のヤマハピアノに関する新聞広告が「おとり広告」であり、不防法一条一項五号にいう「商品ノ広告ニ其ノ商品ノ数量、内容ニ付キ誤認ヲ生ゼシムル表示」に該当するというにある。
そして、原告主張のU1等の一連の記号がヤマハピアノの品種番号であることは前記認定のとおりである。
(二) ところで、一般に「おとり広告」とは、商人が専ら顧客を誘店する手段として、(イ)実際には販売することのできない商品(在庫が全くなく、仕入も不可能であるような商品)の広告、(ロ)実際には、販売する意思のない商品(在庫はあり、仕入も可能であるが、顧客からの購入申込に対しては、これを拒否することをあらかじめきめてある商品)の広告、(ハ)実際には、販売量、品質、内容等が限定されているのに、その限定を明瞭に記載せずになされる商品の広告(例えば、在庫は少量の中古品、展示現品しかないのに、その旨を明瞭に表示せずにする広告)以上の(イ)(ロ)(ハ)の広告を指称すると解される。
そして、右(イ)(ロ)(ハ)の「おとり広告」中(ハ)の「おとり広告」は、不防法一条一項五号にいう「商品ノ品質、内容若シクハ数量ニ付キ誤認ヲ生ゼシムル表示」に該当することは明らかである。
(三) これを本件についてみるに、先に認定した被告の営業の実態、被告店舗における販売の実際及び販売方針等によれば、被告は、東洋ピアノ等の中小メーカー製造にかかるピアノ及び自社ブランドのピアノを主力商品となし、ヤマハ等の有名ブランドを大々的に広告することにより、ヤマハ等の有名ブランドピアノ購入志向客を自店に誘店し、来店したこれら一般顧客に対し、自店にあるヤマハピアノの展示現品、中古品等を指示しながら、その短所、欠点等を指摘し、自社ブランド等の主力商品の長所を強調し、できるだけヤマハピアノの購入志向を断念させ、極力自社の主力商品を販売する営業活動を行つていること、以上の事実が明らかであり、右事実によれば、被告のヤマハピアノに関する前記広告は、主力商品を販売するため、顧客誘店の手段としてなされたものであることは明らかであるが、被告は、主力商品に比し、少量ではあるが、現実にヤマハピアノを仕入れており、その在庫(但し中古品、展示現品)もあり、これらを販売した実績を有することは先に認定したとおりであること、これに加えて、後記認定の被告の前記広告中には、中古品、展示現品につき、その旨明記した広告が存することを併せ考えると、被告は、広告中にその旨明記されたヤマハピアノの中古品、展示現品については、これを販売する意思・能力も存したと認められるから、被告の前記広告中ヤマハピアノに関する表示がすべて、一律に(イ)(ロ)のおとり広告に該当する旨の原告の主張は理由がないというべきである。
なお、付言するに(イ)(ロ)の「おとり広告」(販売する意思も能力もない商品の広告)が、不防法一条一項五号に該当すると解することは、同法一条一項の立法趣旨や、同号の法文の解釈上無理があると考える。むしろ、右(イ)(ロ)の「おとり広告」は、不当景品類及び不当表示防止法四条三項所定の「一般消費者に誤認されるおそれがある表示で、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれのある」広告に該当すると解される。
(四) つぎに前記(ハ)のおとり広告該当性について考えるに、前記広告のうち別紙No.1は、ヤマハピアノにつき「展示現品」と明記し、別紙No.3、No.4は「ヤマハW一〇三、一〇二、二〇二」につき「現品特別処分品」と明記し、別紙No.5は、ヤマハ一〇三、一〇二につき「特別処分品」と明記し、別紙No.7は、ヤマハU1につき「中古品」、ヤマハUX、ヤマハ一〇三につき「展示処分」と明記し、別紙No.8は、ヤマハU3、U2H、一〇三につき「中古・荷づれ」と明記し、ヤマハ3H、UXにつき「展示処分」と明記してあり、<証拠>の広告も、ヤマハU1につき「中古」と、ヤマハUXにつき「展示処分」と明記してあること以上の事実が認められるから、これら広告は、前記(ハ)の「おとり広告」の要件である販売量、「品質、内容等につきその限定を明瞭に記載しない。」との要件を欠いていることは明らかである。
従つて、これらの広告は、(ハ)の「おとり広告」にあたらないというべきである。
<証拠>は、前記判断に副うものとして是認できる。
(五) してみると、被告の前記広告のすべてが、「おとり広告」に当り、かつ、不防法一条一項五号に該当することを前提として、ヤマハピアノを示す表示の全面かつ、無条件の差止めを求める原告らの(A)の一次的請求は、理由がないというべきである。
((A)の予備的請求原因である(F)の主張について)
前項に説示したところによれば、被告の前記広告のすべてが「おとり広告」であることを前提として、これを不法行為と構成する原告らの主張は、理由のないこと明らかである。
八(結論)
以上の次第であるから、原告らの本訴請求は、(B)(G)の請求、(C)の請求中の⑨の陳述の「ブランドで買うならヤマハでよいが、品質、性能で選ぶなら小さい楽器メーカーのものがよい」を除く、その余の請求及び(D)の請求は理由があるから、これを認容し、その余の請求((A)の請求、(C)の請求中⑨の右陳述部分、(E)の請求)は理由がないから棄却することと<する。>
(松本武 澤田経夫 加登屋健治)
別紙(一)
(一) 「ヤマハピアノは昔は手造りであつたが、今は大量生産なので、製品も材質もよくないし、音もよくないし、耐久性もない。」
(二) 「ヤマハピアノは、アクション部分にプラスチックを使用しているので、他社製造のピアノに比べ、音が悪いし、耐久性がない。」
(三) 「ヤマハピアノは、ペダル部分に金属を使用しているので、他社製造のピアノに比べ、高音部がよくないし、錆つき易い。」
(四) 「ヤマハピアノは、前板に合板を使用し、支柱の本数が従前のものより減少したので、旧製品に比べ、音が悪く、耐久性がない。」
(五) 「ヤマハビアノのピンはメッキがしてないので、他社製造のピアノに比べ、錆つき易く、切れ易い。」
(六) 「ヤマハピアノは、材質が悪いし、耐久性がないので、保証が一年しかない。」
(七) 「ヤマハピアノは、調律、修理、部品交換等維持費が他社製造のピアノに比べ、極端にかかり、買うと損である。」
(八) 「ヤマハピアノは、大量生産で機械化し、その工程中一部分を女子従業員に作らせているので、雑である。」
(九) 「ヤマハピアノは韓国製である。」「東京の音大ではヤマハピアノは一台も使用していない。」
別紙(二)
陳謝
弊社が中日新聞・朝日新聞広告欄にヤマハピアノを例示し、メーカー直結・一流十数社協賛としたうえ、小売販売価格を二五%引等と表示し、もつて右新聞読者をして弊社が日本楽器製造株式会社の特約店であるかのごとき誤認を生じさせ、かつ一般のヤマハ特約店が販売するヤマハピアノの小売販売価格は、弊社小売販売価格より著しく高額であるかのごとき誤認を生じさせたことならびに弊社営業所に来訪した客に対して、ヤマハピアノは「材料が悪い」、「製品が雑である」、「音が悪い」、「耐久性がない」、「韓国製である」など虚偽の事実を述べその他ヤマハピアノが粗悪品であるかのごとき虚偽の事実を述べたことは、貴店らヤマハ特約店各位の信用を著しく毀損するところとなりましたので、ここに謹しんで陳謝し、以後このようなことは一切致しません。
右のとおり誓約し、後日の為この旨公告します。
株式会社永栄楽器
代表取締役 山内新三
名古屋地区ヤマハ特約店 各位
別紙No.1ないしNo.8<省略>