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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)2738号 判決 1984年1月27日

原告 山口隆之

右訴訟代理人弁護士 村田武茂

外六名

被告 浅野猛

<ほか一名>

右訴訟代理人弁護士 寺沢弘

同 吉見秀文

右訴訟復代理人弁護士 正村俊記

主文

一  被告らは原告に対し、各自金二一二六万四九一五円及びこれに対する昭和五二年一一月二三日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は二分し、その一を原告の、その余は被告らの負担とする。

四  本判決は第一項に限り仮に執行できる。

事実

(申立)

第一原告

一  被告らは原告に対し、各自金四五七二万二七三三円及びこれに対する昭和五二年一一月二三日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言。

第二被告

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

第一請求原因

一  交通事故の発生

原告は昭和五二年一一月二三日午前二時二〇分頃、名古屋市北区光音寺町字野方一九〇七番地付近の信号機の設置されている交差点において、当時の勤務先であった西タクシー株式会社所有のタクシーに乗務し、信号待ちのため東に向いて停車していたところ、被告猛は普通乗用自動車(名古屋五九た四一〇一、以下被告車という。)を運転し右交差点に向け北進してきて左折西進しようとしたものであるが、時速一〇〇キロメートルに近い高速であったので曲りきれず、停車中の原告タクシーに正面衝突し、原告は外傷性頭頸部症候群、左上肢知覚障害、腰部・右下腿・両肩・背部各挫傷、外傷性腰部椎間板ヘルニアの各傷害を受けた。

二  被告らの責任

被告猛は右不法行為に基づき、被告釼十は被告猛の父で被告車の保有者であり本件事故当時被告猛に被告車の使用を許していたものであるからその運行供用者として、それぞれ原告の右傷害による損害を賠償する責任がある。

三  原告の損害 金五四五七万八七三三円

原告は右傷害により、昭和五二年一一月二三日から同五三年四月二八日まで及び同年九月二五日から同五四年三月一四日まで(合計三二八日)小牧市内の住田整形外科に入院し、右各入院の間及び昭和五五年五月三一日(後記症状固定とされた日)まで同病院に通院(実日数四五九日)した。

1 休業損害 金八四五万五二六〇円

前記西タクシー株式会社に勤務して得ていた平均月収金二八万一八四二円の本件事故より右症状固定日まで(三〇ヶ月)の全収入相当額

2 入院雑費 金一九万六八〇〇円

一日金六〇〇円の三二八日分

3 通院交通費 金一三万七七〇〇円

バス代往復運賃一日金三〇〇円の四五九日分

4 慰謝料 金三四〇万円

5 後遺障害分

原告は本件受傷により背柱の骨片を摘出する手術を受けており、しかもいまだに体内に摘出困難な部位に骨片を残し、昭和五五年五月三一日症状固定後、頑固な大後頭神経痛、左手・左手指の尺骨神経及び正中神経領域の知覚鈍麻左第五腰髄神経領域知覚鈍麻、左傍背柱筋部疼痛、頑固な左上臀皮神経痛、左眼易疲労性等の後遺症があり、腰部にコルセットを用いることは恒久的に必要となっている。右の症状による障害は自動車損害賠償保証法(以下自賠法という。)施行令別表第七級四号の「神経系統の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの。」に相当し、もはや従前のような自動車運転手の職に就くことはできず、さりとて事務系の仕事の経験のない原告にとってふさわしい仕事に就くことは極めて困難であり、しかも右障害は背柱の器質的損傷に基づくため悪化することはあっても改善の見込はない。

(一) 逸失利益 金三四八八万八九七三円

右後遺症による労働能力の喪失割合は五六パーセントとし、六七才までを就労可能とし、前記平均月収を基礎とする。

281,842円×12×0.56×ホフマン係数/18.421=34,888,973円

(二) 慰謝料 金五〇〇万円

6 弁護士費用 金二〇〇万円

四  被告らの弁済 金八八五万六〇〇〇円

休業損害の内払として右支払があった。

五  よって被告らに対し、各自右損害金残金四五七二万二七三三円及びこれに対する本件事故の日より支払済にいたるまで民事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

第二請求原因に対する答弁

一  一の事実中、原告主張の日時場所において、原告運転のタクシーと被告猛運転の被告車が衝突事故を起した事実及び原告が原告主張の傷害(但し、外傷性腰部椎間板ヘルニアを除く。)を負った事実を認め、その余の点は争う。

二  二の事実は認める。

三  三の事実中、原告が本件事故後、その主張の病院に入院した事実は認めるが、その入院は昭和五二年一一月二四日から同五三年四月六日まで及び同年九月二五日から同五四年三月一四日まで(合計三二七日)であり、後の入院は本件交通事故と相当因果関係のない腰部椎間板ヘルニアの治療のための入院である。その余の点はすべて争う。

原告の後遺障害は主として前記腰部椎間板ヘルニアに基づくものであり、その程度も、自動車損害賠償責任保険調査事務所の事前認定によれば第一二級一二号に該当するにとどまっている。仮に右症状と本件事故との因果関係が否定できないとしても、その寄与率は七〇パーセント程度である。

また原告はその主張による後遺障害による労働能力喪失率は五六パーセントとして逸失利益を算定するが、原告は昭和五五年一一月一〇日、訴外日本通信電機株式会社(以下日本通信という。)に勤務し、平均月収二三万二八二三円を得ている事実があり、右によれば原告の労働能力喪失率は多くみても二〇パーセントをこえるものではない。

四  四の事実は認める。

第三被告らの抗弁

1  被告らは原告に対し次のとおり弁済した。

(一) 入院雑費 金一五万円

(二) 本件請求外分の治療費全額金一〇〇七万八一二〇円、同付添看護料金二五万九二二〇円

2  原告は昭和五二年一一月二七日より同五五年五月三一日の間に労働者災害保険特別支給規則第三条に規定する休業特別支給金として、一日金八二六七円の二〇パーセントの割合による合計金一五一万五八〇一円の支給を受けた。

第四被告らの抗弁に対する原告の答弁

すべて認める。

(証拠)《省略》

理由

一  請求原因一の事実中、原告主張の日時場所において、原告運転のタクシーと被告猛運転の被告車が衝突事故を起し、原告が原告主張の傷害(但し外傷性腰部椎間板ヘルニアを除く。)を負った事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右事故は被告猛が被告車を運転し本件交差点を左折(西に向け)進行するにあたり、速度を適正にしハンドル操作を的確にして事故の発生を未然に防止すべき注意義務を怠り、時速約四〇キロメートルのまま漫然と左折した過失により、東に向け信号待ちのため停車中の原告運転のタクシーに衝突し発生したものと認められる。

二  しかるところ、請求原因二の事実は当事者間に争いがないから、被告猛は民法七〇九条により、被告釼十は自賠法三条により、それぞれ原告に対し、本件事故に基づく損害を賠償する義務がある。

三  よって、原告の損害について考察するに、前記争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故により原告主張の傷害を受け、昭和五二年一一月二四日から同五三年四月二八日まで及び同年九月二五日から同五四年三月一四日まで(合計三二七日)住田整形外科に入院し、その間及び同五五年五月三一日まで(実日数四五九日)同病院に通院して治療を受けたものと認められる。右の後の入院は主として腰部椎間板ヘルニア(以下ヘルニアという。)の検査と手術に要したものであるが、右症状は本件事故により直接発生したものと認める。(もっとも原告には先天性及び加令変化等による椎間板変性があり、ヘルニア発症の要因を有していたものであるが、本件事故がなければ直ちには本症は発生しなかったものであり、被告は原則として本症による損害を賠償する責任があり、右ヘルニア発症の要因については後記後遺障害による損害額算定において考慮すべきものと考える。)

1  休業損害 金八四〇万円

《証拠省略》を総合すると、原告は本件事故前、訴外西タクシー株式会社にタクシー運転手として勤務し月収二八万円(本給・付加給二五万円、賞与等三万円)を得ていたところ、本件事故より昭和五五年五月三一日(後記症状固定日)まで就労できず、その間三〇か月分金八四〇万円の収入が得られなかったものと認められる。

2  入院雑費 金一九万六二〇〇円

一日金六〇〇円の三二七日分。

3  通院交通費 金一三万七七〇〇円

原告の供述によればバス代として往復三〇〇円を要したと認められ、その四五九日分。

4  慰謝料 金二八〇万円

原告の前記傷害の部位、程度、入・通院期間等諸般の情況に照らし算定する。

5  後遺障害分

《証拠省略》によれば、原告の症状は昭和五五年五月三一日に固定し、原告主張のような各所の神経痛、知覚鈍麻、筋部疼痛等の後遺症をのこし、通常は立位保持、歩行による易疲労感が強く、歩行に際し跛行が生じ、座位においても中腰の作業は困難であり、原告の従来の職業である自動車運転の業務に就くことは不可能であり、一般的にいうと神経系統の機能に著しい障害を残し軽易な労務以外に服することができない状況と認められる。

もっとも、《証拠省略》によれば、原告は症状固定後の昭和五五年一一月一〇日、日本通信に就職しプラスチックの成形機より出てくるプラスチック製品の整形及び箱詰の作業等に従事している事実が認められるが、これは日本通信の好意により、立作業や腰をかがめる作業、重いものを持ち運ぶ作業等を免除してもらい、一方原告も前記障害(主として左体側部)を軽減するため右側に体重をかける等工夫して苦痛にたえてどうにか切抜けてきているものであり、しかも原告は昭和五七年七月、住友電工名古屋製作所に出向を命じられ重さ二〇〇グラムのインゴットの研磨作業に従事したところ左膝の痛みのため就労できなくなり、再び日本通信に復帰し、軽量のプラスチック製品をパレットに詰める女性パート並の仕事に従事することになり、同社の就職についても将来不安を残すような状態になっているものと認められ、前記認定を左右するものではない。

(1)  慰謝料 金三〇〇万円

右後遺障害の部位・程度及び同障害は殆んど改善の見込がないこと等のほか、原告の椎間板変性がヘルニア発症の要因となっていた点等諸般の事情を考慮する。

(2)  逸失利益 金一四一三万七〇一五円

原告の後遺障害による労働能力の喪失は本来相当高度なものと考えられるところ、原告は前記のように日本通信に勤務し月収金二三万円(基本給・賞与共、税金等諸控除前)を得ているものと認められ現実には約一八パーセントの減収であるが、右収入は前記のように使用者側の理解と好意に支えられ、且つ原告の苦痛を耐えての努力の結果ということができ、しかも使用者の好意も限度があり将来失職する不安は否定できないこと並びに原告の後遺障害は改善の見込がないことを考慮すると、本件は右の現実の減収割合を直ちに将来の逸失利益の算定の基礎とすることは相当でない。一方原告の椎間板変性が後遺障害発症及び長期化の一要因となっていること等を考慮すれば、結局原告の逸失利益は右症状固定時の三六才より五五才にいたるまでは事故前収入の二五パーセント、それ以降六七才まではその七〇パーセントとするのを相当とし、その間の中間利息を民事法定利率によるホフマン式単利年金現価表により算出控除すると金一四一三万七〇一五円となる。

(1)280,000円×12×0.25×13.1160=11,017,440円

(2)280,000円×12×0.25×0.7×(18.4214-13.1160)=3,119,575円

(1)+(2)=14,137,015円

四  以上の総合計は金二八六七万〇九一五円となるところ、原告は被告らより休業損害として金八八五万六〇〇〇円を、入院雑費として金一五万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがないから、これらを控除すると金一九六六万四九一五円となる。

ところで被告は、原告は労働者災害補償保険特別支給規則第三条に規定する休業特別支給金として合計金一五一万五八〇一円の支給を受けたから損害額より控除すべき旨主張するが、右支給金は労働者災害補償保険法一二条の八に規定する保険給付ではなく、同法二三条の規定に基づき労働福祉事業の一環として給付されるものであって、労働災害のてん補を目的とするものでないから、原告の本訴請求額から控除すべきものではない。

五  しかるところ、原告が本訴につき原告訴訟代理人らに訴訟代理を委任したことは記録上明らかなところ、その弁護料として金一六〇万円をもって本件事故と相当因果関係にある損害金とするを相当とする。

六  よって原告の被告らに対する本訴請求は、被告らに対し各自金二一二六万四九一九円及びこれに対する本件事故の日より各支払済にいたるまで民事法定利率による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野達男)

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