名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)2895号 判決 1982年9月01日
原告
株式会社由誠
(旧商号 名鉄興産株式会社)
右代表者
林静夫
右訴訟代理人
高木修
同
森茂雄
被告
木下忠利
右訴訟代理人
小栗孝夫
同
小栗厚紀
同
榊原章夫
同
石畔重次
同
渥美裕資
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一一月二二日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は被告に対し、昭和五五年九月一七日、北海道虻田郡倶知安町字大和七八四番一二八原野三三〇平方メートルの持分二分の一(以下本件土地という。)を次の約定にて売り渡した。
(一) 売買代金 一〇〇万円
(二) 所有権移転登記手続の期限昭和五五年一一月二〇日
(三) 代金支払の時期 右(二)の登記手続完了、登記済証引渡と同時に支払う。
2 そこで原告は、同年一〇月三日、右所有権移転登記手続を完了し、被告に対し登記済証を送付したが、被告はその受領を拒絶した。
3 よつて原告は被告に対し、右売買代金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五五年一一月二二日以降支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
認める
三 抗弁
1(詐欺)
(一) 原告会社は不動産取引を業とするが、昭和五五年九月一七日午後七時半頃原告社員竹内二生が、また同夜九時頃原告社員石沢誠二が、被告方アパートを訪れ、本件土地が倶知安駅から約14.5キロメートルもの山奥にあり、公道からも五〜六キロメートル隔たり、付近に人家なく熊笹の一面に生い茂る文字通りの原野で、実際の時価はわずか五〇〇〇円(坪当り一〇〇円)のほとんど商品価値のないもので、仮に倶知安駅が新幹線の停車駅になることがあつたとしても本件土地の価格が六〜七〇〇万円に上昇することは到底考えられないにも拘らず、右社員両名において順次若しくは交々、本件土地から数百メートルの範囲内にデパート・学校・住宅等が建設される予定で、開設計画中の北海道新幹線倶知安駅からも一〇分〜二〇分のところにあつて、本件土地が現に一〇〇万円(坪当り二万円)の価値を有することはもとより、五年後には原告会社が買い戻す予定で、その時までには時価を六〜七倍にする自信があり、手持資金の目減りを防ぐためには本件土地の購入が極めて有効である旨詐言を弄して、不動産取引の知識・経験を持ち合わせぬ被告を欺罔し、しかも被告宅訪問後数時間のうちに決断を迫つて熟慮の機会を与えず、その結果被告をして本件土地が代金相当の価値を有し、しかも近い将来騰貴して多額の利潤を生み出すものと誤信させて買い受けの意思表示をなさしめたものである。
(二) そこで被告は原告に対し、昭和五六年二月二七日、本件口頭弁論期日において、右買受けの意思表示の取消しをなした。
2(錯誤)
被告は本件土地が売買代金相当の金一〇〇万円の価値があるとの原告会社社員の説明を信じてこれを買い受けたものであるが、後になつて、実際にはその一〇〇分の一程度の価値しかないことが判明した。
従つて右買受けの意思表示には重要な部分に錯誤があり、無効である。
3(公序良俗違反)
原告会社は不動産業者として本件土地の売買に際してはその現況、立地状況その他重要事項を説明すべき信義則上の義務がある(宅地建物取引業法三五条参照)にも拘らず、右の事項を何ら被告に知らしめないのみか却つて、訪問販売に当つた原告社員において、本件土地が代金相当の価値を有し且つ近い将来騰貴が確実で、手持資金の目減り防止のため保有すべき財産としては最適であるかの如く偽つた説明をし、しかも一人住いの被告方アパートに夜間社員二人で訪れて一方的に説明を続け、被告がこれを断わつたのに「本社の方に出す(契約書の)提出日が迫つている」「買つてもらわな帰れん」などと言つて居座り、深夜午後一一時半頃に及ぶまで執拗に購入を求め、被告に買うと言うまでは帰らないのではないかとの不安を抱かせ、原告社員両名から言われるままに本件土地の売買契約書に署名・捺印することを被告に余儀なくさせたものである。
また、右の売買契約をなすに当り原告は、手付金は信用取引と称して、現実の授受がないのに入金扱いとしたうえ、その後即座に被告名義への所有権移転登記手続に着手して手付放棄による解約を不可能にし、しかる後その代金請求に及んでいる。
この原告の一連の所為は、原告が被告の無知、無経験につけ込み、公正・妥当な取引を保障せんとする法の網の目を巧みにくぐり抜け(宅地建物取引業法三五条、四七条参照)、ほとんど取引価値のないに等しい本件土地を被告に売り付けたというにほかならず、これを許容して本件の売買契約の拘束力を認めることは、自由競争の原理を修正して具体的・実質的な自由平等を保障せんとする現代社会の法理に背反し、正義・公平の観念に正面から牴触する結果を招くことになるのであり、本件の売買契約は公序良俗に反して無効なものと言うべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中(一)のうち、原告会社が不動産取引を業とし、原告社員竹内二生、同石沢誠二が被告主張の頃被告方アパートを訪れ、右竹内が本件土地の購入を勧めたこと、本件土地が倶知安駅から相当離れた所にある原野であること並びに(二)の事実は認め、その余の事実は否認する。原告社員竹内は、北海道新幹線の駅が在来の倶知安駅近くにでき、これにより付近の環境が変れば地価が数倍になることがある旨、また過去に新幹線の通つた場所の地価を見ると右のような値上りを示した例がいくつもある旨説明して本件土地の購入を勧めたに止まるのであり、それだけで被告は本件土地を十分買う気になつたのである。ところが被告は手付金として支払える金が手元になく、右竹内はその三か月程前に入社したばかりで契約締結や代金支払条件決定の権限がなかつたため、その権限を有し右竹内とセールスのペアを組んでいた原告社員石沢を呼んだのであり、右石沢は代金支払方法につき被告と話をしたのみである。
2 抗弁2の事実は否認する。
被告が本件契約の効力を争うのは、売買代金の支払に充るため社内預金を下すつもりでいたところ、その都合がつかなくなつたことにあり、買受けに際し錯誤があつた等の事情によるものではない。現に被告は契約後の昭和五五年一〇月一五日に被告方を訪れた原告社員鹿子嶋末治に対し、念書を作成して本件土地を買う意思があることを確認し、代金の支払を確約しているのである。
3 抗弁3の事実中、原告社員両名が被告方に午後一一時半頃までいたことは認め、その余の事実は否認する。
原告社員の訪問が夕刻になつたのは、サラリーマンである被告の帰宅を見計らつてのことでやむを得ないものである。また前記1に述べたとおり、原告社員石沢が来訪した午後九時頃には被告は既に買受けの意思を明確にしており、代金支払方法の話と契約書作成の点のみが残されていたのであり、右代金支払方法についての話に予想以上の時間がかかつてしまい、被告方を原告社員が辞するのが夜遅くなつてしまつたものである。
なお手付金については契約時に売買代金の二割を受領するのが原告の方針であつたが、被告の手元に金がないと言うことから、原告社員石沢において、手付金は即時でなく残金と併せて権利証引渡の時に支払つてもらえばよい旨了承し、特約条項として取り決めたものであつて、意図的になしたものでないことは明らかである。また被告は、原告が即座に登記手続に着手して手付放棄による解約を不可能にしたと主張するが、契約日(昭和五五年九月一七日)と登記申請日(同年一〇月三日)との間には二週間以上もあり、被告が解約申入をする期間は十分あつたのである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因事実は当事者間に争いがない。
二そこで抗弁につき検討する。
原告会社が不動産取引を業とすること、本件土地が倶知安駅から相当離れた所にある原野であることは当事者間に争いがなく、これと、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 原告会社は北海道虻田郡倶知安町字大和七八四番五の原野につき、一区画を一〇〇坪とし、二九区画に分筆したうえ、買い受けて分譲をなしたものであるが、本件土地はその一区画の持分二分の一である。右の七八四番五の土地の元所有者村元は昭和五四年末にこれを五ヘクタール当り一五〇万円で売却しており、原告会社は中間者を経て右土地を取得したが、本件土地は登記簿上は右村元から買主たる被告に直接移転された形となつている。原告会社は右七八四番五の土地を坪当り一〇〇円に近い価格で入手している。
2 倶知安町は羊蹄山山麓の人口一万九〇〇〇人足らずの町であるが、昭和四九年一〇月、在来線国鉄倶知安駅が、鉄建公団と国鉄との協議による北海道新幹線計画案中で、後志地区の中心でニセコスキー場にも近く将来の営業性も期待できるとの理由から、新幹線停車駅として確定した旨、報道されている。
3 本件土地は倶知安駅から北東に約14.5キロメートル離れた山間部にあり、直径一〇センチメートル程の樹木が点在し、熊笹が一面に生い茂り、人家あるところまで約1.2キロメートル、公道まで約5.6キロメートルのところにある。
なお昭和五五年九月当時の本件土地の時価はせいぜい坪当り二〇〇円程度と考えられる。
以上の事実が認められ、右認定を左右し得る証左はない。
そして、昭和五五年九月一七日午後七時半頃原告社員竹内二生が、同夜午後九時頃原告社員石沢誠二が、被告方アパートを訪れたこと、右竹内が被告に本件土地の購入を勧めたこと、右原告社員両名が被告方に同夜午後一一時半頃までいたことは当事者間に争いがなく、右事実と<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
4 被告は昭和五五年九月当時二五歳のサラリーマンで、月収約一一万五〇〇〇円であり、五〇万円余りの社内預金のほかは見るべき財産はなく、アパートに一人住いをしていた。
原告会社は当時本件土地付近の原野につき、専らその社員による訪問販売の方法での分譲を展開していた。
5 同月一七日午後七時半頃、被告が帰宅後疲れて寝ていたところへ、原告会社社員の竹内二生が訪れ、目減り対策のことで来た旨述べ、部屋に上つたうえでノートを見ながら一般的な目減り対策から話を始め、その中でも不動産購入が有効であり、とりわけ北海道の都市から離れた土地を買つておくことが最も得策である旨順次説明した。
6 同夜午後九時頃、さらに原告会社社員石沢誠二が入つてきて目減り対策につきさらに話した後、倶知安駅が北海道新幹線計画案の中で新幹線停車駅として確定したとの記載がある昭和四九年一〇月一三日付の北海道新聞を示し、本件土地は倶知安駅付近にあるが、将来新幹線が通る予定であり、新幹線倶知安駅ができれば本件土地も値上りするから目減り対策として買つておいたらどうかと述べ、本件土地を含む区画化された図面を示してその購入を勧めた。その際、開発された場合にはこのあたりが学校になるだろう等と想定説明を加え、現在五〇坪で一〇〇万円だが、五〜六年先には六〜七倍になるだろうから、預金の場合二倍程度しかならないのに比べて目減り対策としては最適である旨述べ、新幹線駅ができたことにより急激に値上りした土地の例として相生駅、岐阜羽島駅の例を挙げ、特に後者については坪七〇〇〇円のものが坪五〇万円に値上りした旨説明して、本件土地購入のメリットを強調した。
しかしながら一方、原告社員竹内自身本件土地の現地を知らず、その現況についても十分な知識を持たない有様で、原告社員らは本件土地の位置、現況、付近の状況につき説明することなく、現地の地図等の資料も示さなかつた。
5 これに対し被告は、眠いこともあつてそれほど乗り気にならず、資料を求めたり、現地の具体的状況を尋ねることもなく、「あまり信用できないし、しつくりゆかないからいい」と消極的な返答をしたところ、石沢から「しつくりゆかないのはどの点ですか」と切り返されて再び説得を受け、「購入期限は明日までです」等と勧誘され、手元に金がなくても手付金は一応入金した扱いとして後日残金と一緒に支払えばよいからと言われ、断わり切れず契約書に署名捺印するところとなつた。
6 被告は右契約書作成に際し、本件土地の地目が原野となつていることに気づき、この点をただしたところ、家は建つから問題なく、空き地のようなところをそういうのであるとの説明を受け、本件土地の現況を問題にすることなく終わつた。
7 その後原告社員が被告方に本件土地購入の礼を述べに来たが、被告はその際本件の契約につき何らの異議を述べることもなかつた。
8 被告は本件土地購入代金として、社内預金を引き出して充てるつもりでいたが、預金額が一〇〇万円あると思つていたのに実際は五〇万円しかなかつたことに気づき、不足分につき労働金庫に借入申込をしたが、借入できそうにもなかつたので、そもそも本件土地が遠隔の地にあつて管理できないことをも考え、昭和五五年一〇月一五日、手付金二〇万円を支払つて売買契約を解約したいと原告に申し入れた。ところが既に同月三日本件土地につき被告への所有権移転登記がなされ、権利済証も送付済であるとして解約申入は認められず、逆に同月二〇日限り金四〇万円を、同月末日限り金六〇万円を確実に原告に代金として支払う旨の念書を差入れざるを得ないところとなつた。然るに同日の晩、原告から代金全額即時に支払えとの電話があつたため被告は驚くとともに原告に不信を抱き、方々に相談した結果、本件の代金支払を拒むに至つたものである。
以上の事実が認められ<る。>
原告は、原告社員石沢は支払条件の取決め、契約締結のため、原告社員竹内において呼んだもので、右石沢が被告方に来た時には既に被告は本件土地購入を決意しており、代金支払方法の話のみが残されていた旨主張するが、右竹内の証言によつても、同人が石沢を呼んだ事実のないこと、石沢においても本件土地についての説明を被告になしていることが明らかであるうえ、支払について一時間以上も費して話し合わねばならないような具体的事情は窺い得ないこと等に徴すると、少なくともこの点については被告本人の供述のごとく、原告社員両名(専ら石沢)が執拗に被告に対し本件土地購入の勧誘を続け、同夜遅くになつて遂に被告は断わり切れずこれに応じるに至つたと見るのが自然且つ合理的である。
三以上認定の事実に照らすと、原告会社は倶知安駅から約14.5キロメートルも山奥にあり熊笹の一面に生い茂る、いわゆる人里離れた文字通りの原野を五〇〇〇円余りで買い受けた後、これを被告に対し近い将来六〜七〇〇万円になることもある旨期待を持たせて代金一〇〇万円で売却したものではあるが、倶知安駅が北海道新幹線計画案の中でその停車駅として確定した旨報道されていたことから、原告においても新幹線が開通することもあり得、もし開通すれば本件土地についてもある程度の地価の上昇が見込めると考えたとしても無理はなく、また土地購入による利殖については投機的な要素が多分にあることを考えると(本件土地の地価が将来どうなるかについては不確定な要素が多く、投機売買にはそのリスクが見込まれている)後述のとおり、原告社員による過大宣伝、原告の暴利の事実は認められるけれども、原告においてことさらに虚偽の事実を告げて被告を欺罔し、本件土地の購入をなさしめたとまではにわかに断じ難く、また右の投機性の点と被告自ら本件土地の管理ができないことと購入代金の支払が困難であつたことが本件の売買を解消したい主たる理由となつている点に鑑みると、被告に本件土地買受けにつき要素の錯誤があつたと認めるに難があり、被告主張の詐欺、錯誤の抗弁はこれをにわかには認め難い。
しかしながら他方、前記認定の1ないし8の事実によれば、原告の本件土地の売却行為は被告の無知、無思慮に乗じ、商業道徳を著しく逸脱した方法により暴利を博する所為と言わざるを得ず、本件の売買契約は公序良俗に違背して無効なものと言うほかない。即ち、
原告会社社員竹内らはアパート住いで見るべき資産を持たぬ被告を夜間突然訪れて一方的に説明を続け、深夜に及ぶまで執拗に本件土地購入を勧め、その夜のうちに直ちに決断を求めて考慮する時間を与えず、大金である金一〇〇万円での不動産の買物をなさしめ、しかもその際、手付につき信用供与をなす形として購入を誘引し(宅地については宅地建物取引業法四七条三号違反となる)、さらには、その後被告において解約の申入をなすや、その一〇日余り前に所有権移転登記手続を了したことをたてにとつてこれを拒絶し(被告は契約後原告社員が礼に訪れた際異議は出さず、また登記手続までは二週間余りの期間があつたけれども、被告にクーリングオフが保証されたものとは到底言えない)、結局被告に思慮の機会を与えないままに、契約の拘束力下に置いてしまつたものである。
そして本件土地は倶知安駅から約14.5キロメートル離れた山間部にあり、直径一〇センチメートルの樹木が点在し、熊笹が一面に生い茂り、人家のあるところまで約1.2キロメートルあり、公道まで約5.6キロメートルのところにある原野で、昭和四九年一〇月頃、北海道新幹線計画案中で倶知安駅がその停車駅として確定されたものの、北海道新幹線の開通が具体的に決まつたわけではなく、右の開通は不確定としか言えない状態にあり、本件土地の実際の時価はせいぜい一万円程度であつたにも拘らず、原告社員自身現地を知らず、その現況も十分把握していない有様で、被告に対し本件土地に関する地図等の情報資料を提供しないのみか却つて原告社員において、仮に北海道新幹線が開通した場合の想定を勝手にしてその場合の状況を説明し、しかも右の開通が五〜六年後にあるものと希望的観測をしたうえでその頃には六〜七〇〇万円になる旨過大な説明をなして被告に本件土地購入を勧めたことが推認されるのである。もちろん被告において、右購入に際しては自ら原告に的確な情報資料を要求し若しくは自ら調査し、十分考慮する機会を求めるべきであつて、軽率、無思慮との譏りを免れないところであるが、原告の右に見たような売込態様は被告に正しい情報を与えず、考慮の機会を与えないようにして被告の無知、無思慮に乗ずるものと言うほかない。
而して本件土地は原告において五〇〇〇円余りで入手したもので、北海道新幹線の開設は不確定であるのみならず、万一右開設が将来あつたとしても倶知安駅から遠い本件土地につき一〇〇万円の何倍かに値上りする蓋然性は極めて低いものと考えざるを得ないから、前記のごとくせいぜい一万円程の時価のものをその一〇〇倍の代金で被告に売り付けたものと見るほかない。
被告において昭和五五年一〇月一五日、原告に対し確実に本件の代金を支払う旨の念書を入れていることが認められるが、そのいきさつは前記認定のとおりであり、右の公序良俗違反により本件の売買契約が無効であるとの結論に消長を来たすところではない。
四そうすると被告の抗弁は認むべく、従つて原告の本訴請求は理由がないことに帰着するから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。 (金馬健二)