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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)724号 判決 1981年10月15日

原告 浅野隆三

右訴訟代理人弁護士 渡辺門偉男

被告 永田秀次郎

右訴訟代理人弁護士 草野勝彦

同 入谷正章

主文

一、被告は、原告に対し、金一〇三万三、二五七円及びこれに対する昭和五三年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを二分し、それぞれを各自の負担とする。

四、この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は、原告に対し、金二〇六万六、五一四円及びこれに対する昭和五三年四月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

3.仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.訴外中村九郎は、訴外愛知県信用保証協会の保証の下に、訴外瀬戸信用金庫から次のとおり二回にわたって金銭を借り受けた。

(一)昭和四八年一一月二〇日借受 借受金二二〇万円

弁済方法は同年一二月以降毎月二〇日限り金九万円ずつ、但し最終期限は金四万円

利息年六・八パーセント。

遅延損害金年一四・六パーセント。

分割弁済を一回でも怠ったときは期限の利益を失う。

(二)昭和四九年五月二九日借受 借受金一五〇万円。

弁済方法は同年八月以降毎月二〇日限り金一〇万円ずつ。

利息、遅延損害金の約定及び過怠約かんの内容は前記(一)に同じ。

2.中村は、前記(一)の消費貸借について昭和四八年一一月一九日に、前記(二)の消費貸借について昭和四九年五月二三日にそれぞれ訴外協会との間で、信用保証委託契約を締結し、訴外協会が中村の訴外金庫に対する前記の各借受金債務を代位弁済したときは、中村は同協会に対し右代位弁済額を返済する旨約した。

3.原告と被告とは、前項の各信用保証委託契約締結に際し、その都度、当該各契約に基づき中村が訴外協会に対し負担すべき債務につきそれぞれ連帯保証した。

4.しかして原告は、前項の各連帯保証をするについては中村及びその妻の父である被告の委託を受けてしたものであるが、その都度被告は中村に代理させて、原告との間で、原、被告の連帯保証人間の負担部分につき、被告が債務全額を負担し、原告の負担部分を零とする旨合意した。

5.訴外協会は訴外金庫に対し、昭和五〇年三月一一日、中村の訴外金庫に対する前記1の(一)、(二)の各借受金債務合計金二八六万八、一四七円(元本、利息、遅延損害金を含む)を代位弁済した。

この結果中村は訴外協会に対し右代位弁済金二八六万八、一四七円の求償債務を負担した。

6.中村は訴外協会に対し右求償債務の一部を弁済したが、その余の債務金二〇六万六、五一四円を支払わない。

このため原告は連帯保証人として訴外協会に対し昭和五三年三月二三日までの間に前記債務残額金二〇六万六、五一四円を完済した。

7.そこで、原告は、被告に対し右金員の求償請求をなし、その意思表示は昭和五三年四月二〇日到達した。

よって、原告は、被告に対し、前記特約に基づく求償金二〇六万六、五一四円及びこれに対する昭和五三年四月二一日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因4の事実中、その主張の負担部分の特約の成立及び被告が中村に右代理権を与えた事実を否認し、その余の請求原因事実はすべて認める。

三、抗弁

訴外中村九郎は原告に対する本件求償債務の弁済として昭和五四年七月四日、昭和五四年九月二七日及び昭和五五年二月二〇日にそれぞれ金一万円宛合計金三万円を原告に支払った。

四、抗弁に対する認否

右支払の事実は認める。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因4の原、被告間の負担部分の特約を除くその余の請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二、そこで以下原、被告間の負担部分に関する原告主張の特約の成否について検討する。

証人中村九郎の証言及び原告本人尋問の結果(第一回)によると、訴外中村九郎が訴外愛知県信用保証協会に対し昭和四八年一一月一九日及び昭和四九年五月二三日付の本件各信用保証委託契約に基づいて負担すべき債務について、原告は、その都度、中村から連帯保証人になることを懇請されその委託を受けて連帯保証したものであること、原告と中村とは昭和三八年頃仕事の上で知り合って以来の親しい仲であったが、中村は、右のように二度にわたって連帯保証を依頼するにあたっては、その都度原告に対し、「保証人については自分の妻の父である被告にもお願いしてある。自分も被告も資産があるので、万一のときでも原告に一切迷惑をかけない」旨申し出て、連帯保証人になることを懇請したので、原告はこれを容れて連帯保証したものであることが認められる。しかして右事実によれば、中村は原告に対し右のように本件各連帯保証を依頼するに際し、原告と被告との連帯保証人間の負担部分についても、原告に一切損失を負担させないこと、すなわちその負担部分を零とする旨約諾したものと認められる。証人中村九郎の証言中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定をくつがえすに足りる確かな証拠はない。

しかしながら、さらにすすんで、中村が原告に対し前認定のように約諾した行為がそもそも被告のための代理行為に値するものであるかどうかは扠て置いて、本件にあらわれた全証拠をもってしても、被告が全部を負担し、原告の負担部分を零とすることを承諾した事実は認められず、また被告が中村に対し、原告との間で右のような負担部分に関する特約を締結すべき代理権限を与えたことを認めることができない。

かえって証人中村九郎の証言及び被告本人尋問の結果によると、被告は、中村の妻の父であって、昭和三四年愛知県庁を退職後、昭和四五年まで同県庁に嘱託勤務していたが、その後は定職に就かず、月七万円程度の年金等の収入しかなく、そしてこれまで被告は中村に対し、金一三〇万円を貸与し、また自己所有の宅地を時価の半値以下の廉価で譲渡する等して、精一杯の援助を与えてきたが、本件各連帯保証するにあたっては、被告もまた中村から迷惑をかけないから保証人になって欲しい旨懇請されて引受けたものであることが認められる。

従って前認定の中村が原告に対しその負担部分を零とする旨約した行為の効力を被告に帰せしめることはできない。

そうすると他に特段の事情の認められない本件においては、原告と被告との相互の負担部分は平等と認むべきである。

三、そこで以上の事実関係によると、訴外協会の代位弁済によって、主たる債務者である中村は同協会に対し右代位弁済総額金二八六万八、一四七円の求償金債務を負担したが、その後中村が同協会に対し右債務の一部を弁済したことによって、原告及び被告の連帯保証債務もまた残額金二〇六万六、五一四円に縮減され、これに伴い原告及び被告各自の負担部分はその二分の一である金一〇三万三、二五七円になったものというべきである。

そして原告は連帯保証人として同協会に対し右残債務金二〇六万六、五一四円全額を代位弁済したものであるから、原告は被告に対し民法四六五条一項、四四二条に基づき自己の負担部分を超える金一〇三万三、二五七円の求償債権を取得したことが明らかである。

四、次に原告が中村から、同人に対する求償債権の弁済として、被告主張のとおり合計金三万円の弁済を受けたことは当事者間に争いがない。

そこで主債務者中村の原告に対する右弁済が原告の被告に対する求償関係の範囲に影響を及ぼすかどうかは問題である。しかし、右弁済額は原告の前記負担部分(金一〇三万三、二五七円)に満たない金額であるところ、右弁済は、原告の代位弁済によって主たる債務及び連帯保証債務がすべて消滅し、主債務者及び他の連帯保証人に対する各求償債権がこれに対する法定利息ないし遅延損害金債権を伴って既に発生した後になされたものであり、また本来、共同連帯保証人の一人は、自己の負担部分については、主債務者に対する求償のみで満足すべきものであり、従ってまた右負担部分について他の連帯保証人にかかわりなく主債務者から求償を得ることができるものである。そして本件において、原告が中村のために連帯保証人となった前認定の経緯に、証人中村九郎の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)及び弁論の全趣旨をあわせ総合すると、中村は、自分のために代位弁済を余儀なくされた原告の損失を少しでも軽減、填補させるため、弁済による利益をもっぱら原告に取得させる趣旨で、原告に対し金三万円を弁済したものであることが認められる。従って中村の原告に対する右弁済は原告の負担部分への弁済として処理すべく、右弁済によって原告の被告に対する求償権の範囲に何らの影響を及ぼさないものと解する。

五、そうすると被告は原告に対し本件求償金一〇三万三、二五七円及びこれに対する昭和五三年四月二一日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、従って被告に対する原告の本訴請求は右金員の支払を求める限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却すべく、民訴法八九条、九二条、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺康次)

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