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名古屋地方裁判所 昭和55年(ワ)910号 判決 1981年2月20日

原告

有限会社近藤商店

被告

名古屋市

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二二七万四、一七四円及びこれに対する昭和五二年九月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

館正一は、昭和四八年一一月二六日午前一一時五五分ころ、名古屋市瑞穂区堀田通一丁目一番地先路上を原動機付自転車(名古屋北か五二四号)を運転して進行中、路上に落下していたビール粕に乗り入れ、スリツプして転倒し、頭蓋底骨折の傷害を負い、翌同月二七日死亡した。

2  判決の存在

館正一の妻である館みゆき、子である館勉、館正己、前田勝子の四名は、名古屋地方裁判所昭和五〇年(ワ)第二、五一〇号損害賠償請求事件により原告に対し1の事故による損害の賠償を訴求した。同裁判所は、昭和五二年二月二三日本件事故の原因となつたビール粕は、川久保英良がビール会社の工場でダンプカーに積み込みを受けたのち路上運転中に落下させたもので、同人にはその回収を怠つた過失があり、かつ原告は川久保の使用者であり、右ダンプカーの運行供用者であると認定したうえ、原告に対し、右四名のうち館勉、館正己、前田勝子の三名に対し各自金六四万八、五九七円と遅延損害金の支払を命ずる判決を言い渡した。

3  被告の責任原因

(一) 被告は、本件事故現場付近道路の管理者である。

(二) 本件事故現場付近のコンクリート舗装路面には凹凸があつた。このため、川久保の運転するダンプカーが振動を受けて1のとおりビール粕を落下させたものであり、また、館正一の運転する原動機付自転車が安定を失つて転倒し、本件事故に至つたものである。右のような路面の状態は道路が通常有すべき安全性を欠いているというべきで、その管理には瑕疵がある。

(三) 川久保が現場付近路面にビール粕を落下させたのち、本件事故の発生までには約一時間の時間があつたから、道路管理者としてはこれを除去することが可能であつた。ビール粕を除去しないまま本件事故に至つたのは、道路の管理に瑕疵があつたというべきである。

4  原告の出捐

原告は、昭和五二年九月二日2の判決に基づき、館勉、館正己、前田勝子の三名に対し賠償金合計金二二七万四、一七四円を支払つた。

5  よつて、原告は、被告に対し、求償金二二七万四、一七四円とこれに対する出捐の日である昭和五二年九月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  同2の事実は知らない。

3  同3の(一)の事実は認めるが、(二)(三)の事実は否認する。

4  同4の事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

成立に争いのない乙第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第二ないし第七号証によれば、次の事実を認めることができる。

1  本件事故は、昭和四八年一一月二六日午前一一時五五分ころ名古屋市瑞穂区堀田通一丁目一番地先路上において発生した。

本件事故現場は、北方の高辻交差点方面と南方の牛巻交差点方面とを南北に結ぶ道路の南進車線車道上であつた。右事故現場のすぐ北方で、右道路は堀川方面と竹田町方面とを東西に結ぶ幅員約七・〇メートルの道路と交差点をなしていた。右南北道路は、幅員約二〇・〇メートルの北進車線、幅員約一七・〇メートルの南進車線とその東西にある各幅員約六・〇メートルの歩道とからなつていた。そして、右道路の車道左側端から中央部に向かつて約八メートルまでの部分はアスフアルトで、その余の車道部分はコンクリートで、それぞれ舗装されていた。

右道路の右交差点から北方約六〇メートルの部分付近には、市電の高辻車庫出入軌道があり、さらにその北方約三〇メートルの部分にも同様の軌道があつた。右各軌道部分を通行する車両は、敷石及び軌道のため多少の振動を受ける状況にあつた。

また、右道路南進車線上の右交差点南端から約一五・五メートル北方の地点付近は、ややコンクリートの舗装状態が悪く、コンクリート継目付近に凹凸があり、通行車両がわずかに浮上するような振動を受ける状態にあつた。

2  川久保英良は、大型貨物自動車(三河一さ四一六八号)の荷台部分にビール粕を満載してこれを運転し、本件事故に先立つ同日午前一一時一五分ころ、前記南北道路の南進車線上を高辻交差点方面から時速約四〇キロメートルの速度で進行して、本件現場付近にさしかかつた。

右大型貨物自動車は、いわゆるダンプカーの一種で、荷台の後部ドアは、荷台が上がつたときは自然に開き、荷台が下がればドア後部の止金が自動的に閉じる仕組になつており、運転中に後部ドアが開くのを防止するためドア下部にボルトようの鉄ピンをさしこむ装置が設けられていたが、川久保は、右運転に際し、右鉄ピンの装着の措置を採つていなかつた。

川久保の運転する右大型貨物自動車は、前記の市道高辻車庫出入軌道上を通過する際振動を受け、さらに前記のコンクリート継目付近でも振動を受けた。ただ、いずれも自動車運転の際にごく普通に受ける程度のものであつたため、川久保は、特に気にすることなく運転を続けた。

ところが、同人は、しばらくしてサイドミラーにより後部荷台の異状に気づき、積荷の落下を知つて、直ちに停止した。すると、右大型貨物自動車の後部ドアの止め金が外れ、すき間から積荷のビール粕のうち約三分の一がこぼれ、路面に帯状に落下したことが判明した。同人は、自車同乗者とともに約三〇分間にわたつてスコツプ等で落下したビール粕の三分の二ほどを捨つて回収したが、その余の分を回収せず、警察官や道路管理者にも連絡しないまま現場を立ち去つてしまつた。

そのため、右南進車線上に、前記交差点内から南方に向けて七、八〇メートルにわたり、幅四ないし五メートル、高さが中央部で約一五センチメートルの帯状に、ビール粕が落下したまま放置された。右ビール粕はぬれており、粘着性があつて滑りやすく、その上に車両を乗り入れるとスリツプし、ハンドルを切ると横にスリツプし、停止後発進の際には後輪が空回転さえするほどであつた。

3  館正一は、原動機付自転車(名古屋北か五二四号)を運転し、同日午前一一時五五分ころ前記南北道路の南進車線上を高辻交差点方面から牛巻交差点方面へ進行中、本件事故現場路面上に放置されたビール粕に乗り入れ、前記交差点南端から約一二・五メートル南方の地点付近でスリツプして転倒し、頭蓋底骨折の傷害を受け、翌同月二七日午前一時三五分ころ死亡した。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  判決の存在

成立に争いのない乙第一号証によれば、請求原因2の事実を認めることができる。

三  被告の責任原因について

1  請求原因3の(一)の事実は当事者間に争いがないので、被告の本件道路の管理に瑕疵があつたか否かについて判断する。

2  前記一における認定事実によれば、本件事故現場の北方に市電の車庫への出入軌道があり、またコンクリートの舗装状態が悪く、凹凸のある箇所があつて、それらの上を通行する車両は多少の振動を受けやすい状態にあつたことが認められ、また、川久保の運転する大型貨物自動車は、右軌道や凹凸部分の付近で振動を受け、後部ドアの止め金が外れて積荷の落下に至つたことが推認される。

しかしながら、他方、前記認定事実によれば、右軌道や凹凸部分の付近で川久保が感じた振動は自動車運転者が道路上を進行する際常に感ずる程度のものであつたこと、現に川久保は右振動を特別気にもとめず運転を続けたこと、川久保の運転する大型貨物自動車の後部ドアには運転中に開くのを防止するための装置があり、走行中の開放を容易に防止することができたのに川久保はこれを怠つたため、積落の落下に至つたことが明らかである。

また、原告代表者の尋問の結果により真正な成立を認めることのできる甲第一号証中には、館正一が路面の凹凸に自車を乗り入れ浮き上がつて転倒した旨の供述が記載されているが、同号証は伝聞を重ねて成立したものであるうえに、ビール粕の落下後川久保が現場を立ち去つた時と事故の発生との間の時間等について明らかに誤つた記載があつて信ぴよう性に乏しいところ、右供述も所詮憶測の域を出ないと考えられ、前記認定事実と対比して採用できず、他に館正一が路面上の凹凸に乗り入れて転倒したため本件事故の発生に至つたことを認めるに足りる証拠はない。

以上の諸点を考えあわせると、本件事故現場の路面に前記の凹凸があつたことをとらえて、通常の道路に対して予定される安全性を欠いていたとは言えず、従つてこの点からその管理に瑕疵があつたとは考えられない。

3  また、前記一における認定事実によれば、川久保が路面にビール粕を落下させるため、本件現場付近は道路の安全性を欠くに至つたことは明らかであるが、右落下が起きたのは同月二六日午前一一時一五分ころであり、本件事故の発生は同日午前一一時五五分ころで、その間たかだか約四〇分しか間のないこと、川久保は、ビール粕の落下約三〇分間にわたり現場にあつて回収に努めたが、そのまま現場を立ち去つて警察官や道路管理者に何らの連絡もしなかつたことも認められ、道路管理者の管理行為が及び得ない状況にあつたことも明らかにされているから、ビール粕が道路管理者の手によつて除去されないまま本件事故に至つたことを評して管理の瑕疵ということも失当である。

四  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本訴請求は理由がないことに帰するから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 成田喜達)

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