大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和56年(ヨ)993号 決定

一 申請の理由一、二項は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に本件特許公報(疎甲一号証)の記載によると、本件特許発明は

1 タンクに揚穀装置を付設して、タンクの下部から揚穀装置へ、揚穀装置からタンクの上部へと流れる米粒群の循環路を形成し2 この循環路に米粒に直接水を噴霧する水分添加装置を設け

3 米粒を循環させながら循環路中の水分添加装置の設けられた箇所で循環する米粒に連続的に水を噴霧し

4 米粒の含水率の増加を毎時〇・六七%以下とし、米粒の循環回数を毎時三回以上とした

5 米粒水分添加方法

という五つの構成要件から成つていることが一応認められる。

二 ところで本件特許公報によれば右構成要件2の「循環路に米粒に直接水を噴霧する水分添加装置」とは、循環路に設けられている特定の箇所で循環してくる大量の米粒に直接水を噴霧して胴割れすることなく水分添加を行える作用効果を達成できることを目的としたものである。ここで「直接水を噴霧する」とは字義通り「じかに水を噴霧器で米粒に噴霧する」と解釈するのが相当であり、本件構成要件2の構成は、循環路において、ほぼ規則的に循環してくる米粒に、じかに水を噴霧する噴霧器等の水分添加装置を設けた構成であると考えられる。この点について債権者は、「直接」を「じか」でなく、水をボイラー等で蒸気に変換することなく、水をそのままの霧状で米粒に噴霧する意味であると主張しているが、本件特許発明の作用効果との関係から考えて「直接」を「じか」の意味に解するのが相当である。

次に構成要件3の「米粒を循環させながら循環路中の水分添加装置の設けられた箇所で循環する米粒に連続的に水を噴霧し」とは、循環路中の噴霧器の設けられた箇所でのみ大量の米粒がじかにかつ局部的に噴霧を受け、その循環路を米粒が循環して、その箇所で再び連続的に噴霧される水の噴霧を受け、米粒の循環回数だけその箇所でのみ米粒は同回数分の分散噴霧を受ける構成である(この点は当事者間に争いがない)。

三 イ号装置が別紙目録記載の構成および作用を有していることは、当事者間に争いがなく、また疎乙三五号証(財団法人日本穀物検定協会中央研究所作成の証明書)によれば、同研究所が昭和五六年一一月一八日、埼玉県入間市藤沢出原一三〇一所在の入間米穀販売(協)精米センターにおいて、別紙別表記載のとおりイ号装置のタンク内のスクリユーの最上部から下層部へ五ケ所のサンプル袋をとりつけ、その中に所定量の玄米を入れて固定したうえ、イ号装置の通常の用法に従い玄米を対流させながら加湿し、加湿時間と右各玄米の含水率との関係を試験したところ、同別表記載のとおり右最上部の玄米のみならず最下層の玄米まですべて含水率を上昇させたことが一応認められる。

したがつて、右認定の事実に前記イ号装置の構成と作用を併せ考えれば、イ号装置は、ネビライザーで発生させられタンク上部空間に充満させられたエアロゾルをタンク下部に設けたブロアーにより吸引することによつて、右エアロゾルを米粒上層部から同下層部へ通過せしめ、もつてタンク内のほぼ全米粒の表面に触れさせ、水分を添加する装置であると一応認めることができる。

これに対し、債権者は、イ号装置はスクリユー上部より落下する米粒および表層部に位置する米粒にのみ水分を添加するものであり、このことは疎甲一〇、一一号証の試験結果(財団法人日本食品センター作成)とイ号装置が丸タンクを使用して米粒にむら循環させない構成をとつていることからして、疎明される旨主張する。

確かに疎甲一〇号証によれば、イ号装置内に所定の玄米を入れるとともに右タンク内上部空間に米粒の入つた小篭を水平に吊り下げ、その状態を維持して右装置を二〇分間平常運転したところ、右小篭内の米粒の含水率が一三・五%から二三%に上昇したことが一応認められ、また疎甲一一号証によれば、イ号装置のスクリユーを停止し、ブロアを作動させた状態でネビライザーによりエアロゾルをタンク内空間に送り込み、二〇分間運転してタンク内米粒層の上層部と下層部(上層部から五五センチメートル)の米粒を取り出して測定したところ、上層部の米粒は一四・二%から一五・六%まで含水率が上昇し、表面がべとべとに濡れた状態となつたが、下層部の米粒の含水率の上昇は全くなかつたことが一応認められる。

しかしながら、右実験結果は、いずれもイ号装置を通常使用する状態で運転したうえで、タンク表層部と下層部に位置する米粒の含水率の上昇の有無を調べたものではないから、イ号装置がタンク内のどの位置に存する米粒に水分を添加する装置であるかを示す実験としては債務者提出の実験結果(疎乙三五号証)に比して妥当でないというべきであり、しかもイ号装置における米粒の循環は表層部において水分を添加するのみならず、表層部における結露やエアロゾルの通路固定を防ぐことによつて万遍なくエアロゾルをゆきわたらせ下層部における水分添加を図つているとも思料されるので、前掲疎甲一〇、一一号証の実験結果をもつて、直ちにイ号装置が表層部に位置する米粒にのみ水分を添加する装置であると速断することはできない。

またイ号装置が丸タンクを使用しタンク内で米粒が上下に混米乱動していることは当事者間に争いがないが、右事実のみをもつて債権者の前記主張を推認できないことも多言を要しないところである。

四 そこで、イ号装置が前記構成要件23を具備しているか否かについて検討するに、前記のとおり、構成要件2にいう「循環路に米粒に直接水を噴霧する水分添加装置」とは、「循環路において、ほぼ規則的に循環してくる米粒にじかに水を噴霧する噴霧器等の水分添加装置」と解すべきであるところ、前記認定のイ号装置の構成・作用ならびに前記認定のイ号装置の水分添加方法によれば、イ号装置においては、エアロゾルはネビライザーで発生させられ、送出管を通つてタンク内へ放出されるが、送出管の端口部はタンク内上壁に向つていて、タンク内の米粒が上昇し放出される管3の上端部に向つておらず、またタンク内の米粒は管3の上端からタンク上部空間に充満するエアロゾル内へ放出されるものであつて、特定の場所に存する米粒にじかに水を噴射するものではないから、イ号装置における「ネビライザーおよび送出管」は、構成要件2にいう「米粒に直接水を噴霧する水分添加装置」に該当せず、しかもイ号装置において右「水分添加装置」に該当することを窺わせるに足りる装置も存しないことが明らかであるから、結局イ号装置は本件特許発明にいう水分添加装置を具備しないというべきである。

次に本件特許発明の構成要件3が、米粒を循環させながら循環路中の噴霧器等水分添加装置の設けられた特定の箇所でのみ循環する米粒に連続的に水を噴射添加し、米粒の循環回数と同回数の分散噴霧が行なわれる特定箇所における局部水分添加方法をとつていることは前記のとおりであるところ、前記イ号装置の構成・作用に前記認定のイ号装置における水分添加方法を併せ考えれば、イ号装置においては、米粒を加湿するためのエアロゾルは、送出管によつてタンク上部内壁に向けて放出され、タンク上部側壁内部に当り拡散しながらタンク内上部空所に充満し、次いでタンク下方の排風口を介してブロアーにより吸引され、エアロゾルはスクリユーで上下に移動される米粒層を上層部から下層部へ通過する間にタンク内のほぼ全米粒の表面に水分添加を行なつているから、イ号装置はタンク内の米粒のほぼ全体に対し常時エアロゾルを接触させ、これによつてタンク内米粒のほぼ全部を加湿する全体水分添加方法をとつているというべきである。

してみると、イ号装置は米粒に水分を添加するということにおいて本件特許発明と同一であるが、その水分を添加する方法において構成要件3に規定する水分添加方法と異なつているからイ号装置は構成要件3を具備していないというべきである。

五 してみると、債権者の本件申請はその余について検討するまでもなく失当であり、また本件事案に照らすと、被保全権利の疎明にかえて保証を立てさせてその申請を認容することは相当でない。

(なお、付言するに、債権者は、債務者に対し、イ号装置が本件特許発明を実施することのみを目的とする装置であることを理由にその使用の差止を求めている。債権者がかかる請求をする根拠は必ずしも明確ではないが、もし仮にそれが特許法一〇〇条一項を根拠とするものであれば、同条同項に基づく請求は、本件特許発明が同法二条三項二号所定の「方法の発明」であることに照らすと、イ号装置における水分添加方法(すなわちイ号方法)の使用の差止に限られ、それ以上にイ号方法を使用する装置もしくは物それ自体の使用の差止を求めることはできないから、債務者の右請求は失当であり、また仮に同法一〇一条二項を根拠とするとしても、同条同項は「その発明の実施にのみ使用する物を……生産し譲渡し貸し渡し譲渡若しくは貸渡のために展示し又は輸入する行為」を侵害行為とみなすと規定するものの「その発明の実施にのみ使用する物を……使用する行為」を侵害行為とみなしていないのであるからイ号装置を使用するにすぎない債務者に対し、同条同項に基づきイ号装置の使用差止を求めることも失当である。してみると、債権者の本件仮処分申請は、以上いずれを根拠とするものであつても失当であり、かかる点からも排斥を免れないものである。)

六 よつて、本件仮処分申請を却下することとする。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!