名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)1571号 判決 1982年11月17日
原告
伊藤規恵
ほか一名
被告
伊藤憲次
主文
一 被告は、原告伊藤規恵に対し、金二五六万五三六五円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二 被告は、原告伊藤綾野に対し、金三六七万二三三〇円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
三 原告らのその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その一を被告の負担とする。
五 この判決の第一、第二項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告伊藤規恵に対し、金七〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
2 被告は、原告伊藤綾野に対し、金一三〇〇万円及びこれに対する昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告らの身分
原告伊藤規恵(以下原告規恵ということがある。)は亡伊藤敏信の妻であり、原告伊藤綾野(以下原告綾野ということがある。)は右伊藤敏信の実子である。右伊藤敏信は昭和五五年一一月二九日午前七時ころ死亡し(以下亡敏信ということがある。)右原告二名は右敏信の遣産を相続したものである。
2 事故の発生
(一) 日時 昭和五五年一一月二九日午前零時一〇分ころ
(二) 場所 名古屋市名東区猪高町大字猪子石字下坪一二一番地先路上
(三) 加害者 被告伊藤憲次
(四) 事故態様 被告が普通乗用車を運転して前記道路を西進中、道路傍にいた亡敏信を轢過し、同日午前七時ころ頭蓋骨骨折等により死亡させた。
3 責任原因
被告は加害自動車を所有して自己のために運行の用に供していたので、自賠法三条により賠償責任がある。
さらに前記事故は、被告が飲酒運転をし、かつ同乗していた内妻の抱える飼犬を見ながら片手運転をした前方不注視の重大な過失に起因している。
4 損害(亡敏信の分)
(逸失利益)
(一) 亡敏信の満六〇歳までの給与相当分 金四六七九万一二九四円
亡敏信は昭和二四年八月一一日生れの、本件事故当時満三一歳の健康な男子で、中部公安調査局に勤める国家公務員であつた。そして、公安職五等級六号俸として、一か月俸給一五万九六〇〇〇円、扶養手当金一万四五〇〇円、調整手当金一万三九二八円の支給を得ていた。
同人は、国家公務員の慣例によれば、本件事故以後満六〇歳までの二九年間は公安職員として勤務可能であり一般職の職員の給与に関する法律、人事院規則により、本件事故の日から同人が満六〇歳に達するまで別表(一)の如き昇給をとげ、同表のとおりの収入を得る地位にあつたものである。そして、亡敏信の生活費は収入の三割(原告綾野成人後は生活費四割)であるから、同人の死亡による給与相当の逸失利益についてホフマン方式により年毎に年五分の中間利息を控除すると、その現在価は同表のとおり四六七九万一二九四円となる。
(二) 退職金に関する損害 五四一万一三九五円
亡敏信は、同人が満六〇歳(昭和八四年八月一一日まで勤続したと仮定すると、退職金手当算定の基礎となる俸給月額は金二六万六〇〇円、昭和四七年(二二歳)から勤務しているので勤続年数は三七年であつて、同人の退職金の額は国家公務員等退職手当法(四条一項)上金一三二五万八〇二五円(二六万六〇〇×五〇・八七五)となる。本件事故がなければ、同人は右退職時に同額の退職金が得られたのであるから、右金額につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除すると、本件事故当時の現価は金五四一万一三九五円となる。
(三) 退職後の年金に関する損害 六一二万一八五二円
昭和五三年簡易生命表によれば、亡敏信の余命は四三・八二年を下らず、同人は少なくとも七四歳までは生存し得るものと推定される。他方、国家公務員共済組合法七六条によれば、同人が満六〇歳に達する昭和八四年八月一一日で退職する翌月の同年九月一日から、毎年二〇四万八三一六円の年金を受領することができる。これにつき生活費四割を控除し、かつ、ホフマン方式により中間利息を控除した本件事故時の現価は、六一二万一八五二円(別表(二)の計算による)となる。
(慰謝料) 一五〇〇万円
亡敏信は昭和四七年から中部公安調査局に勤務する三一歳の国家公務員であり、家庭には妻である原告規恵及び実子である原告綾野(昭和五三年八月二三日生)があり、平和で幸福な生活を営み、今後とも原告らを扶養していくべき一家の支柱の立場にあつた。
本件事故は、飲酒運転だけでなく、助手席に同乗していた内妻の抱く飼犬の方に注意をとられ前方注視義務を怠つたという二重の重大な過失、及び被害者を救助をせず逃走した悪質な行為に起因するものである。
右事情からすれば、亡敏信本人の慰謝料としては金一五〇〇万円を相当とする。
(死亡に至る病院費用) 二六万五二三〇円
(合計)
よつて、亡敏信が本件事故によつて被つた損害額は、右各金員の合計七三五八万九七七一円となる。
5 原告両名は、敏信の死亡により、相続人として、法定相続分の割合に従い、亡敏信の損害賠償請求権を取得した。その金額は、原告規恵が二四五二万九九二四円、原告綾野が四九〇五万九八四七円である。
6 原告規恵の遣族年金に関する固有の損害
原告規恵は昭和二六年四月一〇日生れであり、昭和五三年簡易生命表によれば、同人の余命は本件事故当時五〇・五五年を下らず、少なくとも七九歳まで生存するものと認められ、亡敏信が満七四歳となる昭和九八年に更に七年の余命年数を残していることになる。その時点で亡敏信が死亡すると、その後七年間遣族年金を受給することになるところ、右の期間中の遣族年金の金額は、国家公務員共済組合法八八条二号によつて、亡敏信が七四歳になるまでの一年間に受給した筈の退職年金の年額の二分の一と定められており、亡敏信の退職年金の金額は前記六〇歳の退職時の年金額二〇四万八三一六円と同額であるから、原告規恵はその二分の一の一〇二万四一五八円を七年間にわたつて受給することになる。他方、原告規恵が本件事故による敏信の死亡によりこの間受給できる遺族年金は年額五八万五六〇〇円であるから、その間の年金差額四三万八五五八円の七年間分が原告規恵固有の損害となり、これにつきホフマン方式によつて中間利息を控除すると、その現価は九一万七二〇八円となる。
7 よつて、本件事故による原告規恵の損害額は二五四四万七一三二円、原告綾野の損害額は四九〇五万九八四七円となる。
8 損害の填補
原告らは、本件事故により自賠責保険から二〇二六万五二三〇円を受領し、被告から損害賠償内金として二五〇万円をうけとつた(原告各自の法定相続分に従つて、原告規恵七五八万八四一〇円、同綾野一五一七万六八二〇円)。これを原告各自の損害額から控除すると、原告規恵の損害額は一七八五万八七二二円、原告綾野の損害額は三三八八万三〇二七円となる。さらに、原告規恵は、遣族として退職手当を一三二万八〇〇円受領したのでこれも控除する。結局、原告規恵の損害額は一六五三万七九二二円である。
9 弁護士費用
原告らは、被告が任意の弁済に応じないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任して、着手金合計三〇万円を支払い、判決認容額の一割の報酬の支払を約したが、原告規恵につき内金四〇万円、原告綾野につき内金六〇万円を請求する。
10 よつて、被告に対し、原告規恵は本件事故による損害賠償金として、一六九三万七九二二円、原告綾野は三四四八万三〇二七円の請求債権あるところ、それぞれその内金として、原告規恵は七〇〇万円、原告綾野は一三〇〇万円と、これらに対する本件事故の日である昭和五五年一一月二九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を一部請求として求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、(四)の事故態様のうち、亡敏信が道路傍にいたという事実は否認するが、その余の事実は認める。
3 同3のうち、被告が飼犬を見ながら片手運転をしたとの事実は否認し、その余の事実は認める。
4 同4の「逸失利益」については、亡敏信が昭和二四年八月一一日生まれの国家公務員であつたことは認めるが、その余の事実は不知ないし否認する。
同4の「慰謝料」の金額は争う。同4の「治療費」は認める。
同4の亡敏信の損害総額は否認する。
5 同5の事実中、原告両名が亡敏信の相続人であることは認め、その余の事実は否認する。
6 同6の損害は否認する。
7 同7の損害は争う。
8 同8の事実中、原告らが自賠責保険から二〇二六万五二三〇円の保険金を受領したこと、原告らが被告から二五〇万円の弁済を受けたこと、及び原告規恵が退職手当として一三二万八〇〇円を受領したことは認めるが、原告ら主張の損害額は否認する。
9 同9の事実は不知。
三 抗弁(過失相殺)
1 事故当時の状況
(一) 本件事故の発生した日は昭和五五年一一月二九日であり、時刻は深夜の午前零時一〇分ころである。事故当時の天候は、土砂降りに近い激しい雨であつた。
事故現場付近の道路は、東西に走る交通の瀕繁な幹線道路である。この道路は歩車道の区別があつて、加害車両の進行していた西行車線は幅員六・五メートルの二車線であり、東行車線は幅員三・五メートルの一車線となつている。
(二) 亡敏信は、事故の前日である一一月二八日午後七時ころから同僚らと飲酒をし始め、本件事故現場へ来た時には、既に三軒の店をはしごした後であつて、すつかり泥酔し前後不覚の状態であつた。亡敏信は事故現場付近で連れとはぐれてしまい、本件事故現場の西行車線の丁度中央付近に、土砂降りの激しい雨が降つているにも拘らず、背中を東に向けて足を投げ出し、頭を垂れて坐り込んでいたのである。
(三) そうして、丁度その時運悪く本件事故現場を通りかかつた加害車両が、車道の真ん中に坐り込んでいた亡敏信に気付かずに衝突してしまつたものである。
2 被害者の過失
右の通り、本件事故は深夜の激しい降雨というドライバーにとつては最も視界条件の悪い状況で起きた事故である。
そのようなときに、泥酔のため前後不覚になつて、交通の瀕繁な幹線道路の車道の真ん中に、進行車両に背を向けて、うつ向いて坐り込んでいた亡敏信の行為は、正に自殺行為といわなければならない。従つて、本件事故についての亡敏信の過失の割合は八割以上であるというべきである。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 認否
(一) 抗弁1の(一)の事実のうち、事故発生日時は認める。当時雨が降つていたことは認めるが、土砂降りに近い激しい雨であつたことは否認する。道路状況については、現場道路が交通の頻繁な幹線道路であることは否認し、その余は認める。
(二) 同1の(二)の事実のうち、亡敏信が現場の道路に坐り込んでいたことは認めるが、その余は不知。ただし、同人が泥酔していたであろうことは推測できるであろう。
(三) 同1の(三)のうち、「車道の責中に」を否認し、その余は認める。
(四) 同2につき、亡敏信の過失は争う。
2 反論
事故現場は、東西に走る直線の市道で、見通しもよく、事故当時雨が降つてはいたが、付近には街路燈もあり、被告の自動車の前照燈もあつて、被告が前方を注視してさえいれば事故現場手前約六三・三mの地点で被害者を十分に発見可能であつたにも拘わらず被告は、飲酒運転のため注意力散漫になり、かつ、助手席に同乗していた内妻の抱く犬の頭を左手でなでながら、目を犬に向けて片手運転をし、前方の注視を怠つた状態で運転したために、被害者を発見しえなかつたのである。
被告は、深夜で雨天のため視界が悪くて発見できなかつたかの如き弁解をしているが、これは弁解のための弁解という他ない。現に、被告の運転する自動車に先行していた二、三台の自動車は現場よりかなり手前で被害者を発見して、ハンドルを右に切つて避けて通過しているのである。
本件事故が被告の飲酒運転と前方不注視の重大な過失にもとづくものであることは明らかである。したがつて、仮りに被害者に多少の過失があるとしても、本件事故の具体的状況のもとでは、それはわずかなことである。
なお、被告は捜査段階では、被害者を約一〇m手前で発見し急ブレーキをかけたが間に合わず衝突したと供述していたが、公判廷では「発見していない」と供述をかえて、判決もこの事実を認定している。すなわち、被告は衝突するまで全く前方注視を怠つていたのである。このことは、被告が被害者をはねた後約一〇m前方に停車していたタクシーの後部に衝突していることからも明らかである。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 事故の発生及び責任原因
請求原因2の(一)ないし(三)の事実、被告が普通乗用自動車を運転して本件道路を西進中、亡敏信を轢過し、事故当日午前七時ころ頭蓋骨骨折等により死亡させた事実、並びに請求原因3の前段の事実は当事者間に争いがない。
二 過失相殺
1 事故の状況
いずれも成立に争いのない甲第三、第四号証、乙第一ないし第五号証を総合すると、次の事実を認めることができる。
被告は、事故前日の昭和五五年一一月二八日午後一〇時少し前からスナツクでビール(中瓶)二本位を飲み、翌一一月二九日午前零時過ぎに同店を出、本件加害車両を運転し、助手席に内妻を乗車させて自宅への帰途、同日午前零時一〇分ころ、時速約四五キロメートルで本件事故現場に東から差しかかつた。事故現場の道路は、歩車道の区別のある被告走行側が二車線(但し、対向車線は一車線)のアスフアルト舗装の道路で、現場付近は直線であつて、視界を妨げる障害物はなかつたが、当時はかなり強い雨が降つていた。なお。被告は、事故発生当時、右飲酒により呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有している状態であつた。
他方、被害者の亡敏信は、事故前日の午後七時ころから、勤務先の同僚らと三箇所の飲食店で飲酒し、午後一一時ころまでの間に、ウイスキーの水割り三、四杯、日本酒を二、三合飲み、相当に酩酊し、いわば泥酔に近い状態となつた。そして、事故直前連れとはぐれ、本件事故現場の西行車線(被告進行車線)の二車線ある中央付近に、強い雨の中、かさもささず、背中を東に向け、上半身をやや前にかがめて坐り込んでいた。
被告は、前記のように、東方から事故現場に差しかかつた際、内妻が手に抱いていた犬に気を取られ、前方の注視をほとんど欠いた状態で進行したため、道路上に坐り込んでいる亡敏信に全く気づかず、同人に自車前部を衝突させ、前記のように死亡させた。なお、当時は深夜で強い降雨中ではあつたが、街燈の明りなどもあり、前照燈を下向きにした状態でも、被告車両の前方を走行していたタクシーは、そのまた前車が被害者を回避していくのをきつかけに、被害者を約四〇メートル手前で発見して事故を回避しており、後日行われたほぼ同一条件下での実験においても、被害者を六〇メートル余り手前で発見可能なことが確認された。
2 過失相殺
以上のとおり、本件事故は飲酒及び前方不注視という被告の基本的かつ重大な過失によつて惹起されたものであるが、深酔いの上深夜強い降雨中に車道中央部に坐り込んでいた亡敏信の過失も大きく、これが事故の原因をなしていることも明らかであるから、本件では五割の過失相殺をするのが相当である。
三 損害関係
1 逸失利益 四三三八万二二二〇円
成立に争いのない甲第二号証に弁論の全趣旨をあわせると、亡敏信は昭和二四年八月一一日生まれであること、同人は、本件事故当時中部公安調査局に勤務する国家公務員であつて、公安職五等級六号俸による俸給等を支給されていたことが認められる。
そこで、同人の死亡による逸失利益は、死亡当時の収入を基礎に、残存就労可能年数を三六年に、生活費控除を、同人の子である原告綾野が成人に達するまでの一八年間は三割、その後は四割とし、ホフマン式により年五パーセントの中間利息を控除して算定するのが相当である。
(算式)(いずれも少数点以下切捨て)
<昭和五五年の年収>――昭和五五年一月一日から同年一一月二九日までの収入を一年に換算(但し、特別昇給を除く)三二三万一五二〇円
2,948,983×366/334=3,231,520
<逸失利益>
{3,231,520×(1-0.3)×12.6032}+{3,231,520×(1-0.4)×(20.2745-12.6032)}=43,382,220
なお、原告らは亡敏信の昇給を前提として逸失利益を算定し請求するが、亡敏信が六〇歳になるまでには二九年間の期間があつて、過去はともかく、将来の右期間中には幾多の不確定要素の介在を避けられず、本件にあつては、前述のような方法で逸失利益を算定するのが妥当と考える。従つて、原告らの主張する退職金に関する損害(請求原因4の「逸失利益」の(二))は、右の方法によつて算定された損害中に含まれるものと解される。
また、亡敏信の退職後の年金に関する損害(請求原因4の「逸失利益」の(三))及び原告規恵の遣族年金に関する固有の損害(請求原因6)についても、仮にこれらが逸失利益として損害賠償の対象となるとしても、本件においては、やはり前認定の逸失利益中に既に評価されているものと解すべきである。
2 死亡までの病院費用 二六万五二三〇円
亡敏信が死亡するまでの病院費用として右金額を要したことは、当事者間に争いがない。
3 相続
原告規恵が亡敏信の妻であり、原告綾野が同人の子であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告ら以外には亡敏信の相続人はいないことが認められるから、原告らは、それぞれ法定相続分に応じ右1及び2の損害賠償債権を相続により取得したものというべきである。従つて、原告両名について、右に関する損害額は次のとおりとなる。
原告規恵 一四五四万九一五〇円
原告綾野 二九〇九万八三〇〇円
4 慰謝料 原告各自四〇〇万円
本件により原告らが大きな精神的苦痛を受けたであろうことは、容易に推認しうるところである。これに対する慰謝料は、本件弁論にあらわれた諸般の事情(亡敏信の過失、同人に将来昇給の可能性があつた点も含む。)を考慮すると、亡敏信本人及び原告ら固有の分を合わせ、原告両名それぞれについて四〇〇万円と認めるのが相当である。
5 損害額の合計
右3の損害額に五割の過失相殺をし、右4の損害額を合計すると、次のとおりとなる。
原告規恵 一一二七万四五七五円
原告綾野 一八五四万九一五〇円
6 損害の填補
原告両名が自賠責保険から二〇二六万五二三〇円、被告から二五〇万円の支払をそれぞれ受けたこと、並びに原告規恵が亡敏信の退職手当として一三二万八〇〇円を受領したことは、いずれも当事者間に争いがなく、原告両名が右自賠責保険金及び被告からの内入金を法定相続分に従つて本件損害賠償債権の内払として充当したことは、原告らの自陳するところである。よつて、原告らのいまだ填補されていない損害は、次のとおりとなる。
原告規恵 二三六万五三六五円
原告綾野 三三七万二三三〇円
7 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、請求原因9の事実を認めることができる。そこで、本件事案の性質、訴訟の経過、認容額等に照らし、原告両名が被告に対し賠償を求め得る弁護士費用は、原告規恵について二〇万円、原告綾野について三〇万円が相当と認める。
従つて、原告両名のいまだ填補されない損害は、次のとおりとなる。
原告規恵 二五六万五三六五円
原告綾野 三六七万二三三〇円
四 むすび
以上の次第で、原告両名の被告に対する本訴請求は、原告規恵について二五六万五三六五円、原告綾野について三六七万二三三〇円と、これらに対する亡敏信死亡の日である昭和五五年一一月二九日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 岩田好二)
別表(一) <亡敏信の満60歳までの給与相当分>
<省略>
別表(二) <亡敏信の退職後の年金に関する損害>
退職時(満60歳、昭和84年8月11日)の俸給月額 260,600円(4等級21号俸)国家公務員共済組合法76条によつて計算すると年金額は2,048,316円
260,600×12×40/100×260,600×12×1.5/100×17=2,048,316
上記年金を29年後(60歳)から14年間受けとり、生活費4割控除し、その間の中間利息をホフマン式により控除すると、現在価は6,121,852円
2,048,316×(1-0.4)×(22,61052-17,62931)=6,121,852