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名古屋地方裁判所 昭和56年(ワ)3090号 判決 1987年2月06日

原告

ラクレックス・ブレヴェッティ・エス・アー

右代表者代表取締役

マックス・バスブリッヒ

右訴訟代理人弁護士

中村稔

同右

熊倉禎男

右訴訟復代理人弁護士

小林俊夫

被告

北川工業株式会社

右代表者代表取締役

北川弘二

右訴訟代理人弁護士

兼子徹夫

同右

海老原茂

主文

一  ドイツ連邦共和国ミュンヒェン第一地方裁判所が昭和五四年四月四日言渡した別紙(一)の判決および同裁判所が同年五月八日になした別紙(二)の決定にもとづいて、原告が被告に対して強制執行をすることを許可する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、西暦一九七八年(昭和五三年。以下「西暦」の記載は省略する。)三月三一日被告に対し、ドイツ連邦共和国(以下「西ドイツ」という。)ミュンヒェン第一地方裁判所(以下「原裁判所」という。)にロイヤルティーの支払を求める訴えを提起し(同庁第七〇四二六八/七八号事件、以下「本件訴え」という。)、同裁判所は一九七九年(昭和五四年)四月四日被告に対し金五万米国ドル等の支払いを命じる別紙(一)記載のとおりの判決(以下「本件外国判決」という。)を言渡し、右判決は一九八〇年(昭和五五年)二月六日確定した。

2  右判決につき同裁判所は、一九七九年(昭和五四年)五月八日、訴訟費用額を確定する別紙(二)記載のとおりの決定をし、右決定は確定した。

3  本件外国判決は、つぎのとおり民訴法二〇〇条各号の要件を具備する。

(一)(一号)

原告と被告は、一九七五年(昭和五〇年)九月二七日、原告の特許技術の供与及び被告のロイヤルティー支払いを内容とする契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結するにあたり、本件ライセンス契約から生じる紛争については、西ドイツミュンヒェンの地方裁判所を管轄裁判所とする合意をした(以下「本件管轄合意」という。)。

そして、(イ)右本件ライセンス契約にもとづくロイヤルティーの支払請求訴訟事件が我が国の裁判権に専属的に服するものではなく、(ロ)ミュンヒェン第一地方裁判所は原告の本件訴えを受理したのであるから、本件管轄合意は、我が国の国際民訴法上、有効である(最高裁判所昭和五〇年一一月二八日判決、民集二九巻一〇号一五五四頁参照)。

よつて、本件外国判決の判決国たる西ドイツは、我が国の国際民訴法上、右訴訟事件につき正当な裁判権を有する。

(二)(二号)

本件被告は、日本国法人であるところ、原裁判所の訴訟手続の開始に際し、原告の一九七八年(昭和五三年)三月三一日付訴状及び原裁判所の答弁書提出期限の催告書(答弁書不提出の場合の欠席判決の可能性の教示を含む。)が、訳文とともに、外国裁判所の嘱託に因る共助法の定める手続により、昭和五三年一一月二四日午前九時三〇分被告代理人新井雄一に交付され、もつて被告に送達された(当庁昭和五三年(エ)第三六号共助事件)。

(三)(三号)

(1) 本件外国判決は、特許権等の供与の対価としてのロイヤルティーの支払に関するものであつて、我が国の公序良俗に反するような内容のものではない。

(2) 前記(二)の送達にもかかわらず、被告は応訴期間内に応訴しなかつたため、被告欠席のまま、本件外国判決がなされた。

本件外国判決の正本及び費用決定正本は、不服申立期間(故障期間)を定める決定と欠席判決送達にあたつての教示文書及び右各訳文とともに、前記(二)と同様の手続によつて、昭和五四年八月二八日午後四時三〇分被告代理人新井雄一に交付され、もつて被告に送達された(当庁昭和五四年(エ)第四五号共助事件)。

よつて、被告は充分な防禦の機会が与えられたのであるから、本件外国判決の成立手続は、何ら公序良俗に反するものではない。

(四)(四号)

(1) ドイツ民訴法によれば、財産法上の争いについての外国判決の承認・執行の要件は以下のとおりである。

① 外国裁判所の判決が確定していること(ドイツ民訴法七二三条二項)。

② 外国判決が以下のいずれかに該当しないこと。

ア 外国裁判所の所属する国の裁判所がドイツ法によれば管轄を有しないとき(同三二八条一項一号)。

イ 敗訴被告がドイツ人であり且つ応訴しなかつたときで、訴訟を開始する呼出状又は命令がこの受訴裁判所の国において本人に送達されず、又はドイツの法律上の共助の実施により本人に送達されないとき(同二号)。

ウ 判決の承認が善良の風俗又はドイツの法律の目的に反するとき(同四号)。

エ 相互主義の保証がないとき(同五号)。

③また執行判決は、裁判が法律に適合するかどうかを審査しないで行う(同七二三条一項)。

これを我が国における、外国判決の承認・執行の要件と比較すると、右要件①は民訴法二〇〇条本文、②アは同条一号、イは同条二号、ウは同条三号、エは同条四号、③は民事執行法二四条二項に相当する。

したがつて、西ドイツとわが国の民訴法の規定上、財産法上の争いについての外国判決の承認・執行の要件は同一である。

(2) つぎに、前記ドイツ民訴法上の相互の保証の意味については、ドイツ連邦最高裁判所は「ドイツの判決が外国裁判所において、ドイツで執行判決を受ける条件より基本的に難しくない条件で承認され執行判決を受け得れば足りる。」とする立場をとつている(一九六八年五月八日連邦最高裁判決〔フランス判決の承認〕BGHZ,50,100;一九六七年一一月一五日連邦最高裁判決〔シリア判決の承認〕,BGHZ,49,50)。

以上により、西ドイツにおいては、我が国の裁判所がした財産法上の争いについての判決が、我が国民訴法二〇〇条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものと認められるのであるから、西ドイツと我が国との間には、相互の保証が存在する(最高裁判所昭和五八年六月七日判決、民集三七巻五号六一二頁参照)。

よつて、原告は、本件外国判決及び費用額確定決定にもとづいて被告に対して強制執行するため、執行判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2記載の各事実は認める。

2  請求原因3本文の主張は争う。

(一) 請求原因3(一)のうち、原被告間で昭和五〇年九日二七日、主張の内容の本件ライセンス契約を締結するにあたり、本件管轄合意がなされた事実(ただし、その内容は被告の主張1(一)記載のとおりである。)及び原裁判所が原告の本件訴えを受理した事実は認め、本件管轄合意が有効であり、従つて西ドイツが右訴訟事件について正当な裁判権を有するとの主張は争う。

(二) 請求原因3(二)記載の事実は認める。

(三) 請求原因3(三)記載の各事実は認めるが、本件外国判決の内容及び成立手続が公序良俗に反しないとの主張は争う。

(四)(1) 請求原因3(四)(1)のうち、ドイツ民訴法上、外国判決の承認・執行の要件がその主張の①ないし③のとおりであることは認める。

(2) 請求原因3(四)(2)の主張は争う。相互保証の有無は、条文の文言上の比較のみで決せられるものではなく、相互保証ありと言うためには、二国間の裁判所が実務上相互に相手国の判決の執行力を認め合うことについての高度の蓋然性があることを要するが、日本の裁判所の判決の効力を西ドイツの裁判所が承認した前例はなく、また西ドイツの通説も日本との相互の保証はないと解しているのである。

ことに、本件外国判決が欠席判決であることに照らせば、本件において相互の保証ありと言えるためには、ドイツ人を被告とする日本の裁判所の欠席判決が西ドイツにおいて承認されることを要件とすべきところ、自国民の保護に厚いドイツ法の解釈上、右の承認の保証はないと解される。

三  被告の主張

本件外国判決は、つぎのとおり、民訴法二〇〇条各号の要件を具備しない。

1(一号)

(一)  合意管轄の停止条件

本件管轄合意の条項である本件ライセンス契約一六条の原文は、

Jurisdiction for any differences or disputes arising out of this contract, as long as the parties do not want to settle same by means of a Court of Arbitration procedure, is:The Landgericht in Munich, Federal Republic of Germany.

というのであるが、その趣旨は、本件ライセンス契約から生じる紛争については、第一次的には仲裁によつて解決することを前提とし、第二次的に、契約当事者双方が仲裁を望まないことを停止条件として、原裁判所を管轄裁判所と定めるものである。

何故ならば、もし、かく解さないとすると、右条項中の「as long as the parties do not want to settle same by means of a Court of Arbitration procedure」(以下「アズ・ロング・アズ・クローズ」という。)は、意味のない空文になつてしまうからである。

そして、被告は、本件紛争発生以来、原告に対し仲裁による解決を提案していたのであるから、原裁判所に合意管轄の生じる条件は成就されていない。

(二)  本件管轄合意の著しい不合理

本件管轄合意は、つぎのように、原告の利益に偏し、被告の防禦の機会を実質的に奪うものであるから、国際的な裁判管轄権の公平な分配という理念に照らせば、著しく不合理で無効である。

(1) 本件ライセンス契約においては、契約地、契約当事者の住所等、本件管轄合意以外には、西ドイツに何らの連結点も存しない。

(2) 日本の中小企業である被告が、西ドイツの裁判所で応訴するのは、地理的にも、経済的にも容易でない上、西ドイツは、弁護士強制主義かつ地域的制限主義を採用しているため、本件管轄合意に従つてミュンヒェンで応訴するためには、ミュンヒェンで適切な弁護士を選任する必要があり、これは、被告に不可能を強いるに等しい。

(3) 他方、原告はスイスに住所を有するとはいえ、ミュンヒェンまでは距離も近く、ドイツとは共通の言語を持つ同一文化圏に属するから、ミュンヒェンでの訴訟は原告にとつて極めて容易である。

(三)  本件管轄合意の錯誤無効

被告は、本件管轄合意をするにあたり、その内容を前記(一)のように解釈した。したがつて、仮りに本件ライセンス契約一六条を前記(一)のように解釈できないとするならば、本件管轄合意には、要素の錯誤があるから無効である。

2(二号)

本件外国判決のように、被告が欠席したまま、擬制自白が認められて成立したいわゆる欠席判決については、たとえ、適法な呼出状の送達があつたとしても、民訴法二〇〇条二号の要件を具備しないものと解すべきである。ことに、本件のように、被告の応訴に前記1(二)のとおりの著しい困難がある場合には、被告の欠席にはやむを得ない事情があるのであるから、自国民の保護を目的とする同条二号の要件は厳格に解すべきである。

3(三号)

(一)  本件ライセンス契約の内容及び本件訴訟に至る経緯はつぎのとおりである。

(1) 本件ライセンス契約の内容

① 被告は、電子制禦部品の製造・販売等を目的とする会社であり、原告は、電導体、ワイヤ、ケーブル等をねじを用いずに即時固定・接続させる装置(以下「本件製品」という。)に関する特許を有するものであるが、原告は、被告に対し、右特許等を、日本を含むアジアの一定地域において独占的に実施する権利を許諾する。

② 被告はその対価として、ロイヤルティーをつぎのとおり原告に支払う。

イニシャル・ペイメント

金七万米国ドル

但し、内金三万五〇〇〇米国ドルは昭和五一年四月一五日までに、内金三万五〇〇〇米国ドルは昭和五二年四月一五日までにそれぞれ支払う。

ランニング・ロイヤルティー

被告が製造・販売した本件製品の仕切価格の五パーセント。

但し、ミニマムとマキシマムはつぎのとおりとする。

ミニマム   マキシマム

一九七七年

一万五〇〇〇米国ドル 三万米国ドル

一九七八年

二万五〇〇〇 〃   五万 〃

一九七九年

二万五〇〇〇 〃   五万 〃

一九八〇年

四万     〃   八万 〃

③ 原告は、被告に対し、本件製品の製造に必要なノウハウを提供し、かつ、被告が本件製品の製造を可及的速やかに開始するために必要な技術的助言を与える。

④ 被告は、昭和五一年四月一四日、イニシャル・ペイメントの第一回支払分金三万五〇〇〇米国ドルを原告に支払つた。

(2) しかるに、本件ライセンス契約において、原告が被告に実施許諾を与えた特許権等は、未だ審査中のもの、審査請求もなされていないもの、他人が申請者であるものなどが含まれ、技術的に無用なものであつた。

(3) その後、原告は本件ライセンス契約の約旨に反して被告に対する技術指導をしないまま、日本国内の大メーカーの競合製品が出現するに及んで、被告による商品化が不可能となつた。

(4) 被告の量産化が不可能となつた原因は、大メーカーが国内市場に参入する前に、原告において被告の量産体制整備のための技術指導に協力しないため、被告が量産体制の商機を逸したためである。したがつて、被告としては、本件ライセンス契約の話し合いによる合意解除または日本における仲裁による解決を申し出たが、原告はロイヤルティーの支払を求めることにのみ急で、話し合いに応ぜず、突如本件訴えを提起した。

以上の経緯に照らすと、原告の本件訴えの提起は、商取引における信義則に著しく反するから、本件外国判決を承認することは、我が国の公序に反する。

(二)  原告は、つぎのとおり、悪意で確定判決を詐取した。

原告は、本件ライセンス契約を締結するにあたり、国際取引の知識に疎い被告の無知に乗じて、本件管轄合意の条項に、意味のまぎらわしいアズ・ロング・アズ・クローズを付して、被告をして紛争の解決が仲裁によつて行われるものと思いこませて、被告の訴訟手続に対する関与を妨げ(被告は、アズ・ロング・アズ・クローズの解釈上、原告の訴えは原裁判所において却下されるものと信じて応訴しなかつた)、原裁判所には、本件ライセンス契約書の原本(英文)のみ提出して、本来提出すべきドイツ語訳文を提出せず(ドイツ裁判所構成法一八四条参照)、かえつて、ドイツ語の訴状の末尾には、「受訴裁判所の管轄権は合意されたものである(=K1(16))。」との記載をし、「K1」として提出した本件ライセンス契約書原本(英文)一六条のうち、アズ・ロング・アズ・クローズの訳出を故意に省略する欺罔をなし、もつて原裁判所をして、合意管轄が存在するかのように誤信させて、本件外国判決を騸取した。

よつて、本件外国判決を承認することは、手続的公序に反する。

四  被告の主張に対する原告の認否

1(一)  被告の主張1(一)のうち、本件管轄合意を定めた本件ライセンス契約一六条が、被告主張のとおりの原文であること、及び被告が原告に対し仲裁による解決を提案した事実は認め、本件管轄合意に被告主張のような停止条件が存在する点は否認する。

本件ライセンス契約一六条のアズ・ロング・アズ・クローズの趣旨は、原裁判所に管轄を与える合意を第一次的な原則とし、将来当事者双方が仲裁により解決することの合意をしたときはこの限りでないことを付加したにすぎないものである。

なお、被告のこの点についての主張は、原裁判所で抗弁として主張すべき性質のものであり、いずれにしろ本訴ではもはや審理すべきでない(民事執行法二四条二項)。

(二)  被告の主張1(二)記載の各事実は否認する。

被告は、資本金一億円、年間売上約四〇億円に達する企業であり、一九七六年以来、西ドイツのハンブルク市に駐在員事務所を置き、販売活動を行なつてきた。

したがつて、本件管轄合意以外にも本件ライセンス契約の裁判管轄の連結点は、西ドイツに存する。

また、ミュンヒュンは、ドイツ特許庁・ヨーロッパ特許庁等が存在するため、この地の弁護士には、特許問題に精通し、かつ英語の堪能な者も多いのであるから、前記の実態を有する被告がミュンヒュンで適切な弁護士を選任することは困難ではない。

よつて、ミュンヒェンを合意管轄地に定めることは不合理ではない。

(三)  被告の主張1(三)は争う。

2  被告の主張2は争う。

送達条約・共助法にもとづく期日の通告を受けながら、防禦権を放棄した被告に対する判決が、欠席判決という理由で承認を拒絶されるならば、原告の司法上の救済が閉ざされる結果となり不当である。

3(一)  被告の主張3(一)のうち、(1)記載の各事実は認め、同(2)ないし(4)記載の事実は、いずれも否認する。

被告は、同(2)、(3)において、市場における事情変更や本件ライセンス契約の債務不履行を主張するが、かかる主張は原裁判所で抗弁として主張すべき性質のものであり、本件外国判決の内容及び成立手続の公序とは、何ら関係のない実体上の問題であるから、もはや、本訴で主張することはできない(民事執行法二四条二項)。

なお、同(2)主張の特許権等は、いずれも原告所有のものであり、同(3)主張の市場の変化については、本件ライセンス契約によつて原告が被告に独占的実施権を許諾した以上、市場の変化の予測を誤つた場合のリスクは被告において負担するのが当然である。

(二)  被告の主張3(二)の事実のうち、原告が原裁判所に本件ライセンス契約書の原本(英文)のみ提出して、ドイツ語訳文を提出しなかつた事実は認め、その余の事実は訴状末尾に合意管轄の旨を記載した事実を除き否認する。

原告が本件ライセンス契約書のドイツ語訳文を提出しなかつた理由は、ドイツ民訴法一四二条三項により、外国語の書証については、裁判所が裁量により翻訳の提出を命じうるところ、原裁判所が翻訳の提出命令を出さなかつたからである。

ドイツ裁判所構成法一八五条は、法廷における弁論、準備書面及び裁判所の判決をドイツ語で行うことを要請するに止まり、書証について常にドイツ語訳文を付することまで義務付けるものではない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1、2記載の各事実(本件外国判決及び訴訟費用額確定決定の確定)については、当事者間に争いがない。

なお、<証拠>によれば、一九七九年五月八日、原裁判所において訴訟費用額が七六八一・二四ドイツマルクと暫定的に確定された後、同年一一月二七日、ドイツ民訴法七二四条、七二五条に基づき、五一八九・九四ドイツマルクについて執行文が付与されたことが認められる。

二民訴法二〇〇条一号(裁判権の存在)の条件について

1  本件管轄合意の成立

(一)  請求原因3(一)のうち、本件管轄合意が成立した事実及び被告主張1(一)のうち、右合意を約した本件ライセンス契約一六条の原文(英文)が、被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  ところで、合意が成立した事実が認められるとしても、右合意の国際的裁判管轄の連結点としての意味、有効性等の問題を判断するためには、その前提として、右法律判断に適用されるべき準拠法を決定することが必要である。

そこでまず、この点につき検討するに、この問題は、我が国からみて、判決国たる西ドイツに裁判管轄権があつたか否か(民訴法二〇〇条一号)という観点から、本件管轄合意の連結点としての資格を評価するのであるから、我が国の国際民訴法が準拠法になるものと解すべきである。

しかしながら、我が国際民訴法上、管轄の合意における意思表示の解釈についての明確な基準は存在しないので、国内民訴法の規定を参照しつつ、合理的国際慣行をも考慮した条理に従つて決すべきである。

(三)  まず、本件ライセンス契約一六条のうち、アズ・ロング・アズ・クローズを除いた部分の意味について検討するに、右部分は、我が国の国際民訴法上、<証拠>によつて認められる本件ライセンス契約の全趣旨に照らして、本件ライセンス契約から生じる紛争について、原裁判所に専属的合意管轄を定めたものと認めることができる。

2  本件管轄合意の付款

(一)  ところが、被告は、本件管轄合意には、契約当事者双方がともに仲裁を望まない場合に、はじめて合意管轄が生じる旨の停止条件が存在すると主張するので、以下この点につき検討する。

なお、原告は、かような付款の主張は、被告が原裁判所において抗弁として主張すべきものであつて、本訴においてもはや審理すべきでないと主張するが、被告の右主張は、本件管轄合意が有効であることを前提として、別個の妨訴事由たる仲裁契約の存在を主張するものではなく、本件管轄合意の効力発生を停止する条件が存在するとしてその効力の発生自体を争うものであるから、本訴においては、被告の右主張を、本件管轄合意の有効性の問題として、我が国際民訴法の立場から審査すべきであると解される。

(二) そこで、本件管轄合意における付款の存否、内容について判断するに、なるほど、前掲乙第一号証によれば、アズ・ロング・アズ・クローズの主語が「the parties」であり、動詞が「do not want」となつていることから、右クローズが「両当事者がともに仲裁を望まない場合」に限り、原裁判所に管轄を定める趣旨のように読めないことはない。

(三)  ところで、本件ライセンス契約においては、特定の仲裁人若しくは仲裁機関又は、仲裁地の指定その他仲裁契約や仲裁手続の準拠法等についても全く指定がなく、特定の仲裁手続を当事者が予定していたことを認めるに足る証拠はないので、右契約において、当事者間に、特定の仲裁人又は仲裁機関での仲裁に付託する合意が成立していないことは明らかである。

(四)  右のように、具体的な仲裁手続を予定していない場合であつても、民訴法七八八条に照らせば、我が国際民訴法上もなお有効な仲裁契約が成立していると認められる余地がある。

しかし、本件のような渉外的取引において、具体的手続の取極めのない仲裁契約の成立が認められるならば、紛争当事者は、つぎのとおり極めて不安定な地位に置かれることになる。

すなわち、紛争発生後に当事者間で、仲裁人の選定又は仲裁地指定の合意が成立すれば、右仲裁人の裁量又は仲裁地の常設仲裁機関の規則若しくは仲裁地の国の法に従つて仲裁手続を進めることが可能であるが、右合意が成立する保障はなく、かかる合意が成立しない場合には、国際取引上の紛争のための仲裁においては事実上手続は頓挫をきたさざるを得ない。

現に、弁論の全趣旨によれば、被告は、原告が原裁判所に訴えを提起した後に、東京の国際商事仲裁協会に仲裁の申立をしようとしたが、仲裁機関、仲裁地等の取極めがないため、同協会の指示により、原告の同意を得るまで右申立を見合せた事実が認められる。

さらに、このように右の仲裁契約によつて、紛争が解決できないため、当事者の一方が裁判による解決を求めて提訴した場合、他方当事者は、右の仲裁契約の存在を理由に、妨訴抗弁を主張することができるので、結局、訴訟による解決の機会をも喪失する結果となる。

また、本件ライセンス契約に関係のある我が国、西ドイツ、スイスがいずれも加入している外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約五条一項aによれば、外国仲裁判断の承認及び執行は、仲裁契約が無効であるときはこれを拒否することができるのであるから、前記のような最小限の内容しか定めていない仲裁契約においては、仲裁判断の承認執行についても仲裁契約の有効性をめぐつて紛争が生ずる虞れが強い。

以上のとおり、具体的手続の取極めのない仲裁契約の成立を認めることは、渉外的取引の安全を著しく害する結果となりかねず、かような不安定な立場に置かれる結果となることは、本件ライセンス契約において、特に原裁判所を具体的に指定して裁判管轄の合意をなし、紛争解決の安定をはかろうとした当事者の意思に副うものとは考えられない。

(五)  このことは、次のことからも裏付けられる。すなわち、<証拠>によれば、ヨーロッパ金属工業連合機構の司法委員会の構成員によつて作成された特許権実施許諾契約ひな形においては、裁判管轄の合意とともに、具体的な仲裁手続の取極のない仲裁条項が付加される場合には、裁判による解決を原則とし、「当事者が個々の事案につき合意したときは、仲裁裁判所の裁判を受けることができる」旨の当然の注意規定とする趣旨で付加されているに止まり、拘束力のある仲裁契約とは解していないことが認められる。そして、裁判管轄の合意と、白紙的な仲裁条項との関係を右のように解することは、前記(四)の検討に照らして、渉外的取引の安全の観点から、極めて合理的であり、当事者の通常の意思に副うものと考えられる。

(六)  以上の検討に照らせば、本件アズ・ロング・アズ・クローズは、紛争の発生した時点で、当事者が個々の事案につき仲裁人の選定をも含む仲裁契約を締結することによつて、紛争を仲裁に付する余地を留保する趣旨に止まり、拘束力のある仲裁契約とする意思であつたとは、認め難い。

したがつて、我が国際民訴法の立場からも、本件ライセンス契約一六条に挿入されたアズ・ロング・アズ・クローズをもつて、本件管轄合意に停止条件を付したものと認めることはできないものと言わなければならない。

3  本件管轄合意の適法性

(一)  我が国際民訴法上、専属的裁判管轄の合意を、裁判管轄を基礎づける連結点として是認しうるためには、①当該事件が我が国の裁判権に専属的に服するものではなく、②指定された外国の裁判所が当該事件を受理することの二つの要件をみたせば足り、その合意がはなはだしく不合理で公序法に反するときには、例外的に無効として連結点としての資格を認めないことができるものと解される(最判昭和五〇年一一月二八日、民集二九巻一〇号一五五四頁参照)。

(二)  そこでまず、管轄の合意の原則的な適法性の要件を検討するに、請求原因3(一)のうち、本件外国判決がライセンス供与の対価たるロイヤルティーの支払請求によるものであること及び原裁判所が原告の本件訴えを受理した事実は当事者間に争いがない。そして、ロイヤルティーの支払請求事件について、我が国に専属的裁判管轄を定める法令は存在しないし、その他、本件訴訟について、我が国の専属的裁判管轄権に服せしめるべき特段の事情も認められないから、結局本件管轄合意は、前記①②の要件を満たし我が国際民訴法上、原則として有効と認められる。

(三)  ところが、被告は、本件管轄合意は原告の利益に偏し著しく不合理なものであるから、無効と解すべきである旨主張するので、この点につき判断する。

管轄の合意が本来適用されるべき強行規定を免れる目的でなされた場合や、一方当事者が経済的優位を利用して、他方当事者に対し自己に偏益する裁判管轄を認めさせたような場合には、民訴法二〇〇条三号の公序要件とは別個に、実体法上の公序に反するものとして、民法九〇条を類推適用して、その合意を無効とすべきであるところ、本件記録中の商業登記簿謄本によれば、被告は、本件外国判決の言渡された昭和五四年当時、資本金一億円の企業であつたことが認められること、<証拠>によれば、昭和五一年以来、被告は、西ドイツ、ハンブルク市に駐在事務所を設置し、ここに日本人駐在員を置いて、電子工業部品分野の営業活動をしているものと認められることなどの事情に照らすと、西ドイツを裁判管轄地に選定したことは合理性があるし、ハンブルクとミュンヒェンとの距離を考慮に入れたとしても、被告がハンブルク駐在所を通じて、代理人を選任し、証拠の収集その他の裁判の追行をする上で著しい支障があつたものとは認められない。

よつて、本件管轄合意が、公序法に反する不合理なものであるとは、とうてい認められないものといわなければならない。

4  本件管轄合意の錯誤無効

被告は、本件管轄合意を、前記の停止条件付であると誤信して締結したから、錯誤により無効である旨主張するので、この点につき判断する。

右主張は、前記付款の主張と同様に、本件管轄合意の有効性の問題と性質決定できるから、我が国際民訴法の立場から、本訴において審査すべきものと解されるところ、我が国際民訴法上、管轄の合意につき意思表示の瑕疵がある場合の準則は明らかでないので、民訴法二五条の解釈を参照しつつ条理により処理するのが相当である。

ところで、民訴法二五条においては、管轄の合意に錯誤があつた場合、管轄の合意は訴訟手続を直接組成しないことから、民法の意思表示の規定が類推される余地があると解されるものの、訴訟係属後、少くとも応訴管轄が生じた後には、手続の安定性の要請が働くから、もはや、私法の意思表示の規定を類推適用することは許されず、錯誤無効を主張することはできないと解されるところ、事件の国際性に照らして、手続の安定がより強く要請される我が国際民訴法上も外国判決が確定した以上、管轄の合意につき錯誤があつたとしても、もはや私法の意思表示の規定によつて、その無効を主張することは許されないものと解すべきである。

(右のように解すると、我が国に、訴訟が提起された場合には、管轄合意の錯誤無効を顧慮しうるのに、外国判決の承認要件としての裁判管轄(いわゆる間接的一般管轄)の判断においては、これを顧慮しないことになつて、直接的一般管轄の基準と間接的一般管轄の基準とが一致しない結果となるが、手続的な制約から右のような違いが生じることはやむを得ないものと解される。)

よつて、被告の前記主張は、認めることができない。

以上により、我が国際民訴法の立場から、原裁判所には裁判管轄権が存在したものと認められる。

三民訴法二〇〇条二号(適法な送達)について

1  請求原因3(二)記載の事実(共助法に基づく送達)は当事者間に争いがない。

2 被告は、外国判決が欠席判決である場合には、民訴法二〇〇条二号の要件を欠く旨主張するが、同条同号は欠席判決の場合であつても、公示送達によらない送達によつて、被告に防禦の機会が与えられたならば、これを適法なものと承認することを前提としていることが明らかである。そして、被告の側に応訴に著しい困難があつた場合には、同条三号の要件において、審査すれば足りると解されるところ、後述四2のとおり、いまだ右著しい困難があつたものとはいい難い。

3  よつて、前示争いのない事実によれば、民訴法二〇〇条二号の要件を具備するものと認められる。

四民訴法二〇〇条三号(公序)について

1 本件外国判決が、特許権のロイヤルティー支払に関するものであること、被告は前記三1のとおり命令の送達をうけながら、応訴せず、被告欠席のまま、本件外国判決が言渡されたこと、本件外国判決の正本及び費用額確定決定正本が、共助法にもとづき被告に送達されたことは、当事者間に争いがない。

2  被告は、その主張2において、本件訴訟に応訴することが著しく困難だつたことを理由に原判決の成立が手続的公序に反する旨主張するのでこの点につき判断するに、確かに<証拠>によれば、昭和五三年一一月二四日に、本件訴訟の訴状とともに被告に送達された答弁の催告書においては、被告は訴状送達から二週間以内に、原裁判所に所属の弁護士を選任した上、右弁護士を通じて防禦の意思ある旨を裁判所に書面で届け出るよう催告されたことが認められる。

しかし、前記二3(三)認定のとおり、被告はハンブルク市に駐在事務所を設置していたのであるから、右事務所を通じて二週間以内に催告された手続をとることは不可能ではないし、ドイツ民訴法二三三条、二三四条によれば、被告が障碍事由により右二週間の不変期間を遵守できなかつたときは、右二週間の終了から一年間は、原状回復の申立てとともに、催告された手続の追完が可能だつたのである。のみならず、<証拠>によれば、昭和五四年八月二八日に本件外国判決が被告に送達された際には、故障の申立てによつて、欠席前の訴訟状態に復することができる旨の教示文書が送達されたことが認められる(その方式及び趣旨により外国の公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される<証拠>によれば、本件外国判決は、外国に送達すべき欠席判決に対する故障申立て期間の特別な決定(ドイツ民訴法三三九条二項)により、一九八〇年(昭和五五年)二月六日に至るまで確定しなかつたことが認められる。)。

右のとおり、被告には、本件訴訟の訴状が送達された昭和五三年一一月二四日から、本件外国判決が確定した同五五年二月六日に至るまでの間に、十分防禦の機会が与えられていたにもかかわらず、前記1の争いのない事実及び弁論の全趣旨に照らして、防禦のために何らの措置も講じなかつたものと認められるから、前記主張の失当なことは明らかである。

3(一)  被告の主張3(一)のうち(1)の事実(本件ライセンス契約の内容及び、被告の第一回分の支払)については当事者間に争いがない。

(二)  被告はその主張3(一)において、原告の債務不履行の態様及び本件訴訟に至るまでの交渉の態様が信義則に反することを理由に、本件外国判決の公序違反を主張するが、前示認定の各事実に照らすと、右信義則違反の各事由は、いずれも、被告が原裁判所において主張する機会を正当に与えられていたにもかかわらず、懈怠により主張しなかつたものと認められるから、我が国際民訴法上の公序に何ら反する事由には当たらず、被告の右主張は、それ自体失当である。

4  本件外国判決の詐取

被告は、原告が欺罔によつて本件外国判決を詐取したものである旨主張するので、この点につき判断する。

(一)  原告が原裁判所に提出した訴状には、本件ライセンス契約の原文(英文)のみを添付して、そのドイツ語訳文を付さなかつたことは当事者間に争いがなく、また右訴状の末尾に「受訴裁判所の管轄権は合意されたものである(=K1(16))。」旨の記載をなし、英文契約書16条との対照を示した事実は、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

さらに、<証拠>によれば、原告は、右訴状において、「当ライセンス契約のドイツ語訳は追つて補充する」との記載をしたことが認められる。

しかし、<証拠>によれば、ドイツ民訴法上、外国語をもつて作成された書面の提出は許されない訳ではなく、ただ裁判所は、裁量により右書面につき、権限を与えられた翻訳者の作成する翻訳を添付すべき旨を命ずることができるとされており、原裁判所は、本件ライセンス契約のドイツ語訳の添付をあえて命じなかつたものと解されるから、原告が、本件ライセンス契約のドイツ語訳を付さなかつたこと自体は違法ではないし、<証拠>によれば、仲裁契約の存在は、ドイツ民訴法の解釈上妨訴抗弁とされ、訴訟手続上主張されて始めて問題とされるものであり、被告欠席の手続においてはこれを考慮すべき根拠はないことが認められるから、前示各事実によつて、原告が管轄を欺罔によつて詐取しようとしたものとは認めることができない。

(二) また、被告は、原告が被告をして紛争の解決が仲裁によつて行われるものと思い込ませ、原告の訴えは原裁判所において却下されるものと誤信させ、被告の訴訟手続への関与を妨げたと主張するが、被告が誤信していたと認めるに足りる的確な証拠はないのみならず、前記四2のとおり被告は、本件外国判決正本の送達を受け、本件訴えが原裁判所で却下されず、実体判断がされたことを明瞭に認識したのであるから、期間内にドイツ民訴法三三八条以下に定める故障の申立をすることにより右訴訟手続に関与しえたのであつて、その主張の失当なことは明らかである。

(三)  よつて、原告が欺罔によつて本件外国判決を詐取したものとは、とうてい認められない。

5  以上により、本件外国判決は、その内容及び成立手続のいずれの面からも、公序に反するものとは認められない。

五民訴法二〇〇条四号(相互の保証)について

1  請求原因3(四)のうち、ドイツ民訴法における外国判決の承認・執行に関する規定については、当事者間に争いがない。

2  民訴法二〇〇条四号所定の「相互ノ保証アルコト」の意義については、当該判決をした外国裁判所の属する国において、右判決と同種類の我が国の裁判所の判決が同条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力が認められることをいうと解されるので(最判昭和五八年六月七日民集三七巻五号六一二頁)、以下、財産法上の争いに関するわが国の判決が、西ドイツにおいて、我が民訴法二〇〇条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力が認められるものか否かを検討することとする。

3  <証拠>によれば、近時の西ドイツの判例(例えば、一九六七年一一月一五日ドイツ連邦最高裁判決、BGHZ,49,50、一九六八年五月八日ドイツ連邦最高裁判決、BGHZ,50,100など)は、前記ドイツ民訴法上の「相互の保証」の意味について、当該判決国における西ドイツの判決の執行が、西ドイツにおける当該外国判決の執行より「本質的により大きな困難を伴うものでない」場合には、これを肯定する態度をとり、とくに、前示一九六七年判決は、法規上は、外国判決の承認において実質審査主義を採るシリアとの間において、シリアの裁判実務では形式審査に止まつていることを根拠に、西ドイツとの相互の保証を肯定したことが認められる。

したがつて、<証拠>を併せ考えると、法規上も西ドイツの承認要件とほとんど同一の要件を採用し、外国判決の承認に際して形式審査主義(民事執行法二四条二項)を採用する我が国の財産法上の判決に対しては、西ドイツにおいて、相互の保証あるものとして、その効力が認められる蓋然性は、極めて高いものというべきである。

よつて、西ドイツにおいては、我が国の財産法上の判決が、我が民訴法二〇〇条各号と同様の条件のもとに、その効力が認められるものと判断して差し支えない。

なお、<証拠>によれば、従前西ドイツにおいては、日本との間には相互保証がないとするのが通説的見解とされていたことが認められるが、右見解は単にその前例がないことを根拠とするのみで、確たる根拠に基づいているものではないことが認められ、前記判断を左右するに足りるものではない。

4  もつとも、本件外国判決が欠席判決であることから、本件外国判決の承認にあたつては、我が国の欠席判決もドイツにおいて同様の条件で承認されることが必要であると解されるので、この点につきさらに検討するに、前記ドイツ民訴法三二八条一項二号は、規定上当然に、欠席判決であつても、適法な送達があれば承認されることを前提としているものと解され、学説もこれを認めているものと解される(例えばSTEINJONAS, Kommentar zur Zivilprozeßordnung 19 Aufl., 1969, S. 1405)。

5  よつて、本件外国判決については、相互の保証の要件を具備するものと認められる。

六ところで、本件外国判決には、従たる裁判として訴訟費用額確定決定が付されているが、決定であつても、外国裁判所の裁判であり、かつその基礎は本案たる本件外国判決にあるから、右決定の承認についても民訴法二〇〇条を準用して、本件外国判決と同一の条件でその効力を承認しうると解するのを相当とする。ところで、西ドイツにおいては、訴訟費用額確定決定については、本案の裁判が承認の対象となる場合には、これに従たる裁判としてドイツ民訴法三二八条の承認の対象となると解されるから、我が国の訴訟費用額確定決定も、同条の条件のもとで効力を認められるものと解される。よつて、前示のとおり、ドイツ民訴法三二八条の解釈適用については、我が国の承認要件とほぼ同一の条件であると認められる以上、訴訟費用額確定決定についても、相互の保証があると考えられ、右決定もまた本案たる本件外国判決と共にこれを承認・執行することができるものと解される。

七以上のとおり、本件外国判決及び訴訟費用額確定決定は、民訴法二〇〇条の条件を具備するから、原告の請求は理由がある。

よつて、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官猪瀬俊雄 裁判官満田明彦 裁判官中島 肇)

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