名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)3591号 判決 1983年10月07日
原告
名古屋市信用保証協会
右代表者理事
杉戸正彌
右訴訟代理人
池内勇
被告
株式会社蒼画堂
右代表者
菅内良三
被告
菅内良三
同
菅内日出男
右被告三名訴訟代理人
岡本弘
矢田政弘
主文
一 被告らは連帯して原告に対し、金七三二万二一二九円及び内金七一八万四一〇九円に対する昭和五二年一二月一〇日からその支払の済むまで年14.6パーセントの割合による金員の支払をせよ。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因及び抗弁に対する認否として、
一 原告は、信用保証協会法に基き中小企業者が録行等金融機関より融資を受けるについて、その債務を保証する事を主たる業務として、中小企業者に対する金融の円滑化を図る事を目的として設立された特殊法人である。
二 被告株式会社蒼画堂(以下「被告会社」という。)は、昭和五二年二月一九日付で原告に対し、訴外株式会社駿河銀行(名古屋中日ビル支店、以下「訴外銀行」という。)からの金員借受けについて、信用保証委託の申入をしたから、原告はこれを承諾して訴外銀行に連帯保証をした。
被告等は委託申入に際し、次の事を約諾した。
1 被告菅内良三と被告菅内日出男は、被告会社が原告に負担する債務の支払について、原告に連帯保証をした。
2 被告会社は、委託者が借入金債務の履行を怠つた時は、その延滞額に対し延滞期間に応じ、年3.65パーセントの割合を以つて計算された額を延滞保証料として原告に支払う。
3 原告が代位弁済した時は年14.6パーセントの割合による損害金を支払う。
三 よつて、被告会社は訴外銀行から、昭和五二年二月一九日に金七〇〇万円を次の約定で借受けた。
弁済期日 昭和五二年五月一七日
利息 年八パーセント
四 然るに被告会社は、昭和五二年五月一七日に金七〇〇万円を支払わないため、元本金七〇〇万円について訴外銀行から原告に代位弁済の請求があつたから、原告は昭和五二年一二月九日に、同金額と、同金額に対する昭和五二年五月一八日から同年九月一四日迄年八パーセントの割合による利息金一八万四一〇九円を加算した金七一八万四一〇九円を弁済した(昭和五二年九月一五日以降の利息は免除した)。
五 被告会社が、訴外銀行への支払を延滞した事により、被告等は延滞保証料として金一三万八〇二〇円(延滞額金七〇〇万円に対する昭和五二年五月一八日から同年一二月九日迄年3.65パーセントの割合による金一四万四二〇〇円から内入のあつた金六一八〇円を差引いたもの)を原告に支払わなければならなくなつた。
六 以上により、原告は被告等に対し、金七一八万四一〇九円と、同金額に対する昭和五二年一二月一〇日以降完済に至る迄年14.6パーセントの割合による約定損害金と、延滞保証料金一三万八〇二〇円の支払を求める。
七 被告らの時効に関する主張は争う。
と述べた。
被告訴訟代理人は
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求め、請求の原因に対する認否及び抗弁として、
一 請求の原因第一項は認める。
二 同第二項につき、被告会社は認め、被告菅内両名は争う。
三 同第三項につき、被告会社は否認し、被告菅内両名は不知。
四 第四項は不知、第五項以下は争う。
五1 主債務者たる被告会社の原告に対する保証委託行為は同会社の営業のためになされたものであるから、原告主張の求償権債権も保証料債権もいずれも商事債権であり、五年の商事時効に服する。
2 ところで原告主張の求償債権は訴外銀行が昭和五二年二月一九日に貸し付けた七〇〇万円の貸金請求権が原告に移転したものであるから弁済期日は同年五月一七日であり、これは代位弁済によつても変更されるべきではないから、結局原告主張の求償債権の弁済期日は昭和五二年五月一七日である。また原告としては被告らの意見に無関係に、被告会社の債務不履行により代位弁済をなし得、事前求償もなし得るのであるから、原告は同銀行が主張し得る履行期日を自己に移転し又は移転すべき債権の履行期日と主張できなければならない。従つて原告主張の求償債権は少なくとも昭和五二年五月一七日には行使可能となつた。
3 原告主張の保証料債権は、被告会社が訴外銀行に対する借入金債務の履行を怠つた時、即ち昭和五二年五月一七日に行使可能になつた。
4 よつて原告主張の各債権は原告の本訴提起前の昭和五二年五月一七日から五年の経過によつて時効消滅したので、被告らは昭和五八年八月三〇日の本件口頭弁論期日において右時効を援用した。
と述べた。
証拠関係<省略>
理由
一原告主張の請求原因事実は以下の通り対応する証拠<省略>によつて全部認定することができる。
二次に被告らの時効の主張について判断する。
1 被告会社の原告に対する信用保証委託行為は同被告の営業のためになされたものと推定されるから、原告の本訴請求債権は同被告の商行為によつて生じた債権というを妨げず、従つて五年間これを行なわないことにより時効によつて消滅すると解される。
2 ここで弁済をなした保証人の主債務者に対する求償債権の性格について検討するに、右求償権成立のための要件は保証人が現実の出捐によつて主債務者の債務を消滅させることである(民法第四五九条第一項)から、右求償権は保証人の弁済によつて新たに発生したものであり、従つて本件の場合に保証人たる原告が被告らに対する求償権を取得したのは前記の通り昭和五二年一二月九日(前記甲第九号証及び同第一〇号証)である。
即ち右求償権は保証人がその代位弁済によつて独自に取得した債権と解すべきであつて債権者の主債務者に対する債権が保証人に移転したものではなく、この理は当事者が「債権移転」(甲第一〇号証)の語を用いていても同様である。この場合に所謂弁済による代位として弁済者に移転するのは右の如く取得された求償権の効力を確保するための担保権その他の権利であり、右弁済によつて消滅した筈の債権そのものではないのである。保証人の弁済の前後に存在する主債務と求償債務は同一性を欠くのであるから、消滅時効の計算の点においてもこれを債権譲渡や債務引受と同視することは相当でない。
本件の場合に原告が本訴を提起したのは昭和五七年一一月一六日である(本件記録によつて明らかである。)から、これは被告らに対する求償権取得(前記昭和五二年一二月九日)から未だ五年を経ていず、従つて右債権が時効によつて消滅した旨の被告らの主張には理由がない。
3 なお本件の場合に主債務者たる被告会社等に破産、銀行取引停止処分等一定の事由が生じた場合に保証人たる原告は事前求償ができる旨の約定が付されていたのである(前記甲第一号証第四条)が、被告会社が銀行取引停止処分を受けて原告・被告会社間の信用保証委託契約上原告が弁済前の事前求償をなし得るようになつたのは昭和五三年二月一六日(右甲第一号証及び調査嘱託の結果)であつて実際には原告の弁済の後であつたから、契約上事前求償ができることになつていたからといつて被告会社の訴外銀行に対する履行期日が直ちにそのまま原告の求償権の行使可能な日となる訳ではない。
4 更に原告主張の保証料債権についても、これは主債務者(被告会社)の債務不履行時から発生するものではある(甲第一号証第二条)が、債務者側にとつてその履行期が到来するのは原告が金融機関側に代位弁済して求償権を取得した時であると考えられるから、本件の場合にその消滅時効が進行を始めるのは前同様に昭和五二年一二月九日と解すべきである。従つてこの保証料債権についても前2と同様にして被告らの時効消滅の抗弁は採用できない。
三以上の事実及び判断によれば、原告の本訴請求はいずれも理由があることに帰するからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を、仮執行の宣言については同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決した次第である。 (西野喜一)