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名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)914号 判決 1983年4月20日

原告 日立クレジット株式会社

右代表者代表取締役 小林信市

右訴訟代理人弁護士 野島達雄

同 大道寺徹也

同 富田俊治

右訴訟復代理人弁護士 中根常彦

被告 藤原シゲ子

右訴訟代理人弁護士 坂本哲耶

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金七七万〇五〇〇円及びこれに対する昭和五六年一〇月一日から完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は電気製品等の割賦販売並びにローン利用販売等の業を営むものであるところ、昭和五六年三月一五日、被告から、被告が訴外「呉服のたつみ屋」こと田中巽(以下訴外田中という)より購入する呉服代金の支払にあてるため訴外住友生命保険相互会社(以下訴外住友生命という)から金員借入をなすにつき、左記約定にて信用保証の委託を受け、同月一八日、同訴外会社に対し、次項掲記の借受金につき連帯保証した。

原告が被告の右借受債務を代位弁済したときは、被告は右代位弁済金及びこれに対する代位弁済日の翌日から完済まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を原告に支払う。

2  被告は同月三一日、訴外住友生命から、前記呉服代金支払資金八〇万円を次の約定にて借り受けた。

(一) 弁済方法 アドオン方式による利息金一〇万七二〇〇円を付加した元利合計金九〇万七二〇〇円につき、昭和五六年四月から昭和五八年三月まで毎月七日限り金三万七八〇〇円宛割賦弁済する。

(二) 特約 被告が右割賦金の支払を一回でも怠ったときは期限の利益を喪失し、残債務全額の支払義務が生じる。

3  ところが被告は、昭和五六年六月七日になすべき割賦金の支払を怠ったため期限の利益を喪失したので、原告は同年九月三〇日、未経過利息金六万一一〇〇円を控除した右借受残債務金七七万〇五〇〇円を訴外住友生命に対し代位弁済した。

4  よって原告は被告に対し、右代位弁済金七七万〇五〇〇円及びこれに対する代位弁済日の翌日である昭和五六年一〇月一日から完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実のうち、各契約年月日は否認し、その余の事実は認める。右契約年月日はいずれも昭和五六年五月九日である。

2  同3の事実は不知。

三  抗弁

1  本件の信用保証委託契約は本件の借入契約と一体をなしてローン契約を構成するところ、

(一) 原告は、被告において購入した本件の呉服物を受領し得ないことを知りながら、被告の娘の訴外藤原幸代(以下訴外幸代という)に対し右呉服物が四日以内には被告に交付される旨詐言を弄して同女を誤信させて被告代理人として本件のローン契約を締結させたものである。

そこで被告は原告に対し、昭和五七年六月一四日、本件口頭弁論期日において、右ローン契約申込の意思表示を詐欺によるものとしてその取消をなした。

(二) 本件のローン契約(信用保証委託契約部分)第八条には、本件の売買契約上の見本と受領現物が異なっていたときは被告は原告に対し商品の交換を申し出るか、ローン契約を解除することができる旨の定めがあるところ、本件においては、被告は呉服物を受領していないのであるから、右条項掲記の場合にも増して解除が認められるべき筋合である。

そこで被告は原告に対し、昭和五七年六月一四日、本件口頭弁論期日において、本件のローン契約を右条項の趣旨に則り解除する旨の意思表示をなした。

(三) 本件ローン契約(信用保証委託契約部分)第四条には、本件のローン契約手続完了後ただちに本商品は被告に引き渡されますという文言があり、これは原告が被告に対し本件の呉服物の引渡債務を保証したものと言うべきところ、被告において右呉服物を受領しないうちに訴外田中(たつみ屋)は倒産し、右引渡債務は履行不能となった。

そこで被告は原告に対し、昭和五八年二月二三日、本件口頭弁論期日において、原告の右保証債務の履行不能を事由として本件ローン契約を解除する旨の意思表示をなした。

2  原告の社員訴外後藤一三(以下訴外後藤という)は訴外田中とともに被告方に赴き、同訴外人の信用に問題があり、しかも被告が未だ本件の呉服物を受領していないことを知りつつ、被告の娘の訴外幸代から商品受領確認書を徴したうえ、同訴外人をして被告代理人として本件のローン契約を締結させたものであり、また本件のローン契約は1記載のとおり、見本と現物が異なる場合には原告に対し商品交換を申し出、若しくは右ローン契約解除をなし得る旨の条項、被告が当該商品の引渡をローン契約締結後ただちに受ける旨の条項等、本件の売買契約と密接不可分な内容を有している。このような場合に、被告が訴外田中の倒産により本件の呉服物を受領し得ないにも拘らず、本件保証委託契約に基づく求償債務をたてにとって原告が被告に対し本件の請求をなすことは信義則に反し許されない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実はいずれも否認する。

被告と訴外田中との間の本件呉服物の売買契約、被告と訴外住友生命との間の金銭消費貸借契約、被告と原告との間の信用保証委託契約はそれぞれ別個独立の契約で、いずれも何らの瑕疵なく締結されている。

仮に被告が本件呉服物を未受領としても、右売買契約上の抗弁事由を他の契約において主張することは許されないものである。

また、被告主張のローン契約第八条はあくまでも見本売買の際の見本と現物との食い違いの場合に限られるものである。

2  抗弁2の事実は否認する。

被告は商品受領確認書に署名・捺印したうえ、昭和五六年七月には本件の借受債務の返済につき振替決済再請求依頼に同意し、同月六日被告の銀行口座に金三万八〇〇〇円を入金(同月二七日内金三万七八〇〇円が振替決済)している。

然るに今になって原告の求償権行使に対し商品不受領を理由に拒絶する被告の所為こそ信義則に反するものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1及び2の事実は、その契約日時を除き当事者間に争いがなく、《証拠省略》によると請求原因3の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  そして、右事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  原告は電気製品等の割賦販売並びにローン利用販売等の業を営むものであるが、呉服販売を営む訴外田中と昭和五五年七月頃ローン利用の代理店契約を結び、以来訴外田中は原告の代理店として継続して、呉服類の買主との間に原告のローンを利用する契約(なでしこローン契約と称された)を取り結んできた。

2  而して右のローン利用契約は、原告と提携した融資機関が原告を通じて訴外田中に代金を支払って右代金相当額を買主に貸し付けたこととし、買主は右融資機関の集金業務委託先である原告を通じて右借受金を割賦返済すべき義務を負い、右借受債務につき原告に保証委託し、原告が右債務の連帯保証人となる形で行なわれた。

そして、右のローン契約においては、買主が訴外田中から購入した商品は買主に引き渡されるものの、右ローン契約上の買主の債務を担保するため原告に所有権留保される旨、また前記借受債務の支払を怠るなどした場合には原告において売買契約の解除若しくは所有権に基づく商品引渡請求をなし得る等の定めがあった。

3  被告は昭和五六年三月五日、娘の訴外幸代とともに訴外田中の呉服店に赴き、翌年一月の成人式用の同女の晴着にすると言うことで着物・長襦袢・帯を代金八一万四〇〇〇円で購入し、頭金一万四〇〇〇円を支払ったうえ、その余の八〇万円については支払利息一〇万七二〇〇円は訴外田中負担としてローンを組むこととし、着物の仕立上がり後割賦弁済してゆくこととした。なお、被告は訴外田中から商品を購入したのはこのときが最初であった。

そこで訴外田中は右のローンについての合意に基づき、訴外住友生命から被告への金八〇万円の貸付契約と被告の原告に対する保証委託契約とを兼ねたなでしこローン契約書の所定事項を記入し、当初の約三か月分は支払利息分として自ら支払う予定にして昭和五六年四月から一か月金三万七八〇〇円宛のローンを組む旨記載し、被告名の三文判を作って被告名義の振込のための銀行預金口座を設けたうえ、右ローン契約書の口座名義人として被告名下に被告の押印をし(但し右契約書の購入者住所氏名欄は不記載)、原告に右契約書等を送った。

原告は右契約書の記載内容につき被告に電話確認したが、被告は右の内容をすべて了承した。

4  その後原告は訴外田中が原告の代理店としてなしたローン契約にかかる債務の支払遅滞が際立って多くなったことから、担当社員に買主に当って債務残高確認書、商品受領確認書を作るよう指示し、昭和五六年五月九日、被告方へ原告社員訴外後藤一三が訴外田中の妻とともに訪れた。

そしてその場で、訴外田中において支払利息分として四ないし六月分の割賦金を支払い、同年七月七日以降被告において割賦金を支払うことが確認され、訴外田中の妻が四日以内に前記着物等の購入商品は必ず被告に届ける旨確約したことから、被告の娘訴外幸代において金八〇万円の残高確認書、商品受領確認書、前記ローン契約書の被告の住所・氏名欄の記入を被告に代わってなしたうえ、訴外田中の妻の持参した被告名の三文判を受け取り、これで被告名下にそれぞれ押印し、また同女から振込支払に使うものとして被告名の前記預金口座の通帳を受け取った。

5  ところが、約束の日を過ぎても訴外田中は被告に商品を届けて来ず、被告は同訴外人に催促の電話をするなどしたが、連絡もつかないまま時日を経過し、同年七月分の第一回の割賦支払については原告の督促に応じ、商品受領を期待して原告に振込送金したものの、その後訴外田中の店は閉店となっていることが判明し、同訴外人への連絡の当てもなくなったため商品受領はすでに不可能と考え、原告に対し割賦金の支払を拒むに至った。

6  なお、訴外田中は同年六月九日倒産して逐電し、詐欺罪で検挙され、本件の商品受領は現在までなされていない。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によると、本件の貸付契約と保証委託契約を併せたなでしこローン契約は昭和五六年三月五日、被告と原告代理店である訴外田中との間で成立し、その遅延損害金等の右ローン契約に伴う定型約定については同年五月九日の右契約書作成の際に合意を見たものと言うことができる。

三  被告は右ローン契約は原告の詐欺によって締結されたものである旨主張するが、右契約にかかる事情は二に認定のとおりであり、詐欺の事実を認むべき証拠は見出し得ない。

また、《証拠省略》によると、右ローン契約(保証委託部分)第八条には買主が見本またはカタログにより契約した場合には商品納入時に確認し見本と現物が異なっているときは直ちに原告に商品交換を申し出るか契約解除をすることができるとの定めがあることが認められるところ、被告は右条項若しくはその趣旨に基づく右ローン契約の解除を主張するが、商品未受領の場合を右条項でカバーするのはその趣旨からして無理があり、右主張は認め難い。

さらに、《証拠省略》によると、右ローン契約(保証委託部分)第四条には「本商品は契約手続完了後ただちに買主に引き渡されますが」との文言があることが認められ、被告はこれをもって原告が商品引渡を保証したものである旨主張するが、右文言に続いて、その所有権はローン契約上の債務完済に至るまで原告に留保される旨記載されていることに照らすと、原告が商品の所有権を有するが債務完済前でも買主においてすぐに占有し得るとの趣旨を超えて右条項を解釈するのは困難であるから、右主張はにわかに採用し難い。

そこで原告の本件請求が信義則に反するものであるか否かにつき検討する。

前記二に認定のとおり、原告はローン利用契約を業とする会社であり、その代理店である訴外田中の信用調査をする機会が十分与えられ(《証拠省略》によると、にも拘らず右の調査はほとんどなされていないことが窺われる)、同訴外人の経営状況等を把握し得る立場にあるのに対し単なる一顧客に過ぎぬ被告には訴外田中の信用状況を調査する方途もないこと、被告が本件のローン契約を結ぶに当っては売買代金を割賦弁済すると言うのがその率直な意思であり、同時履行の抗弁権まで放棄してしまうような契機は窺われないのに対し、本件のローン契約上、商品の所有権は原告に移転したこととなっているのに結局これを被告に引き渡し得ない結果になっていること、さらには、右のように原告に商品の所有権が留保されたり、《証拠省略》によると被告がローンの支払を怠ったときには原告において売買契約を解除し得る一方、原告は商品の瑕疵については無関係に債権行使をなし得るなど原告の立場が十分に保護されていることに鑑みると条項上記載のない商品不受領の場合は原告がその負担をするものと考えるのが合理的であること、前記のごとくなるほど観念的には本件の売買契約と保証委託契約は別個独立なものとはなっているものの、ローン契約の条項上両契約は極めて密接な関係を持つ形とされていること、以上の事実を勘案すると、訴外田中において被告に本件の商品を引き渡さなかったことの損失は原告が負担するのが公平に適うものと言うべく、右の事情の下において、求償権行使が売買契約上の抗弁には論理上左右されないことを理由に被告に対し右の履行を求めることは信義則上許されないものと言うほかない。

なお、被告が商品受領確認書に署名・捺印し、また昭和五六年七月六日に割賦金を振込支払した経緯は前記二に認定のとおりであるから、右事実は右の判断に何らの消長を来たすものでもない。

四  してみれば被告の信義則を根拠とする抗弁は理由があるから、原告の本訴請求は結局理由がないものとしてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 金馬健二)

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