名古屋地方裁判所 昭和58年(ヨ)1755号 決定
1 申請の理由1ないし3及び同4のうち、被申請人が、イ´号、イ´´号各物件を製造、販売している事実及びイ号物件については、被申請人が昭和五八年八月一〇日頃に至るまで、これを製造、販売していた事実は当事者間に争いがない。
2 イ号物件について
申請の理由5の(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。
右の事実によれば、イ号物件は、本件考案の構成要件のすべてを具備しており、また、その作用効果も本件考案のそれと同一であるから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。
なお、被申請人は、申請外日本フルハーフ株式会社から警告を受けた後である昭和五八年八月一〇日頃以降、イ号物件の製造、販売はしていない旨主張するが、これを認めるに足りる疎明はない。
また、本件疎明資料によれば、イ号物件については、申請の理由8(保全の必要性)の事実も一応認められる。
よつて、本件申請のうち、イ号物件の製造、販売の差止めを求める部分は理由がある。
3 イ´号、イ´´号各物件について
(一) 申請の理由6の(一)、(二)及び(三)の(1)の事実並びに同7の(一)、(二)及び(三)の(1)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで、まず、申請の理由6の(三)の(3)及び同7の(三)の(3)の点、すなわち、イ´号、イ´´号各物件においては、幌枠と枠体の上辺両端部との間にガススプリングを介在装着しているのに対し、本件実用新案においては、屋根と枠体及び前壁の上部との間にシリンダーを起伏自在に介在装着することをその構成要件としているから、右ガススプリングが、右構成要件にいう「シリンダー」に該当するか否かを検討する。
本件疎明資料によれば、一般に、シリンダーとは、円筒形容器内でピストンが往復運動し、所要の仕事をする構造のものをいうものと理解されていることが一応認められ、右構成要件にいう「シリンダー」をこのような広い意味に理解すれば、あるいは、右ガススプリングも右要件に該当するといい得る余地があろう。
しかしながら、本件実用新案に係る実用新案公報(昭五四―一二八〇七号、疎甲第二号証の一)の考案の詳細な説明欄には、「屋根部まで開放できるようにしたものもあるが、その開閉操作は手動で行なうので多大の労力を費やし、また自動で行なうようにしたものは操作装置を荷台の後部または中央部に装備しているので貨物の積載量が減少されると共に、積み卸し方向が限定される欠点があつた。そこで本考案は屋根部の開閉を自動化し、その開閉操作を行なうシリンダーを荷台後面の門型枠体および荷台前壁の上部に装備することにより貨物の積み卸し方向が限定されず後部、側部および上部の何れの側からも可能にしたものである。」との記載(一頁二欄一行目ないし一一行目)及び「屋根を開閉するシリンダーを枠体及び荷台前壁の上部に枢着したので、屋根の開閉が自動的に行なえて」との記載(二頁三欄一四行目ないし一六行目)等があり、更に、申請人が本件実用新案に係る出願の審査過程において提出した実用新案登録異議答弁書(疎乙第二〇号証)においても、屋根の開閉を手動によつて行う従来技術に対し、本件考案は、シリンダーを装着する構成によつて屋根の開閉が自動的に行えるという作用効果を有するに至つたとの趣旨の記載がある。
これらの点、すなわち、右考案の詳細な説明欄の各記載及び出願の経過を参酌すると、本件考案は、「屋根部の開閉を自動化し、その開閉操作を行なうシリンダー」に関するものであり、右のような趣旨のシリンダーを考案の要旨の一つとしたものと解すべきである。
そうだとすると、イ´号、イ´´号各物件に装着されているガススプリングが、屋根ないし幌枠の開閉を自動化する機能を有せず、その開閉は手動により行う構造であることは前記のとおり(当事者間に争いがない。)であるから、右ガススプリングは、要旨外のものと解するのが相当である。なお、被申請人は、この点に関し、右ガススプリングが、幌枠を閉じるとエネルギーが蓄積され、開放される際に、このエネルギーが幌枠の自重に対抗して開放動作を軽減する作用効果を有する旨主張するが、仮にそうだとしても、これをもつて、右ガススプリングが、幌枠の開閉を自動化する機能を有するものとは到底いえないから、右主張も採用し難い。
したがつて、右ガススプリングは、本件考案の構成要件にいう「シリンダー」に該当しないから、イ´号、イ´´号各物件は、その余の点について判断するまでもなく、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべく、被申請人がこれらを製造、販売することは、何ら本件実用新案権を侵害するものではない。
よつて、本件申請のうち、イ´号、イ´´号各物件の製造、販売の差止めを求める部分は理由がない。
4 以上の次第であるから、本件申請のうち、イ号物件の製造、販売の差止めを求める申請は正当として認容し、その余は被保全権利について疎明がないというべきであり、保証を立てさせて疎明に代えることは相当ではないから失当として却下することとする。
〔編註〕本件における申請の理由は左のとおりである。
1 申請人は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案」といい、その考案を「本件考案」という。)の権利者である。
記
(一) 登録出願日 昭和四六年七月一二日
(二) 出願公告日・公告番号 昭和五四年六月四日(昭和五四―一二八〇七)
(三) 考案の名称 貨物自動車における荷台屋根開閉装置
(四) 登録日 昭和五六年五月二八日
(五) 登録番号 第一三八一七五三号
(六) 実用新案登録請求の範囲
「荷台1の後面に門型枠体2を立設し、荷台前壁3との間に両側屋根4、4´を上面中央において起伏自在に枢着すると共に、該屋根4、4´と前記枠体2及び前壁3の上部との間にシリンダー5、5´を起伏自在に介在装着したことを特徴とする貨物自動車における荷台屋根開閉装置」(別添実用新案公報参照)
2 本件考案は、次の構成要件からなる貨物自動車における荷台屋根開閉装置である。
(一) 荷台1の後面に門型枠体2を立設し、
(二) 荷台前壁3との間に両側屋根4、4´を上面中央において起伏自在に枢着すると共に、
(三) 該屋根4、4´と前記枠体2及び前壁3の上部との間にシリンダー5、5´を起伏自在に介在装置した。
3 本件考案は、右の三要件よりなる装置であることによつて次のような作用効果を奏する。
(一) 荷台の後面に門型枠体を立設し、該枠体と荷台前壁との間の上面中央において両側屋根を起伏自在に枢着し屋根を開閉するシリンダーを枠体及び荷台前壁の上部に枢着したので、貨物の積みおろしが両側面から上面にかけて容易にできる。
(二) 荷台の後面が開口し、屋根を開閉するシリンダーも支障とならず後面からもできる等車体の向きに関係なく貨物の積みおろしが行え作業能率が著しく向上する。
(三) シリンダーは荷台上に直接装置されないので荷台面は全面有効に利用でき貨物の積載量が減少することがない。
4 被申請人は、別紙第一ないし第三目録記載の物件(以下、第一目録記載の物件を「イ号物件」、第二目録記載の物件を「イ´号物件」、第三目録記載の物件を「イ´´号物件」という。)を製造、販売している。
5 イ号物件について
(一) イ号物件は次のような構造上の特徴を有している。
(1) 荷台1の後面に門型枠体2を立設し、
(2) 荷台前壁3との間に両側屋根4、4´を上面中央において起伏自在に枢着すると共に、
(3) 該屋根4、4´と前記枠体2及び前壁3の上部との間にシリンダー5、5´を起伏自在に介在装着した構造を有する貨物自動車における荷台屋根開閉装置である。
(二) イ号物件は、右の構造上の特徴を有することにより前記3記載の本件考案と同一の作用効果を奏するものである。
(三) イ号物件と本件考案とを対比すると、イ号物件は、本件考案の構成要件のすべてを具備しており、また、その作用効果も本件考案のそれと同一であるから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するものであり、被申請人はイ号物件を製造、販売することにより、申請人の本件実用新案権を侵害している。
6 イ´号物件について
(一) イ´号物件は、次のような構造上の特徴を有している。
(1) 荷台1の後部に後方枠体2bを立設し、
(2) 荷台前部に立設された前方枠体2aとの間に幌枠4を、枠体上辺の両端近くに前後の枠体に掛けわたすように連結固着された縦梁3の各々の外側に起伏可能にヒンジにて枢着すると共に、
(3) 該幌枠4と前記枠体2a・2bの上辺両端部との間にガススプリング5を介在装着し、
(4) 幌枠4に操作杆6を固着し、ロープ7を該操作杆に、ロープ8を該幌枠4の外端に固着した荷台幌枠開閉装置。
(二) イ号物件は、右の構造上の特徴を有することにより、次のような作用効果を奏する。
幌枠4は枠体の上辺両端付近に固着された縦梁3に枢着され、かつ、枠体の両端と幌枠との間にガススプリング5が介在装置され、幌枠4はロープ7を下方に引くことにより開かれ、ロープ8を下方に引くことにより閉じられる。また、幌枠は九〇度開いた状態でストツプし、側面から貨物の積みおろしができる。
(三) イ号物件は、本件考案の構成要件を具備している。
(1) 右(一)の(1)は、前記2の(一)の要件を充足している。
(2) 右(一)の(2)は、前記2の(二)の要件を充足している。
ただ、イ´号物件の場合は、幌枠は屋根の両端近くで枢着されているが、前記2の(二)の要件にいう「上面中央」とは、シリンダーを荷役の支障とならず、かつ、幌枠を開閉できるような作用効果を奏するための構成の限定にすぎないから、荷役の支障とならないようにシリンダーを枠体上に設置し、かつ、幌枠を開閉し得るようにシリンダーを幌枠と側端間に介在装着するために側端に対して幌枠が内方に設置されていれば右要件にいう「上面中央」であると解すべきである。
そして、イ´号物件の幌枠は、側端に対し内方に設置され、かつ、幌枠の枢着位置と側端間にシリンダーが介在装着されているから、イ号物件の幌枠は、右要件にいう「上面中央」に枢着されているものというべきである。
(3) 右(一)の(3)は、前記2の(三)の要件を充足する。
ただ、イ´号物件の場合は、ガススプリングが介在装着されているが、前記2の(三)の要件にいう「シリンダー」には、「流体を密閉した円筒形の容器」が含まれ、この「流体」にガス等の気体も含まれることは明らかであるから、右ガススプリングは右「シリンダー」に包含される。
(四) イ´号物件の奏する右(二)の作用効果は、本件考案の作用効果と同一である。
(五) したがつて、イ´号物件は、本件考案の構成要件のすべてを具備しており、また、その作用効果も本件考案のそれと同一であるから、イ´号物件は本件考案の技術的範囲に属するものであり、被申請人はイ´号物件を製造、販売することにより、申請人の本件実用新案権を侵害している。
7 イ´´号物件について
(一) イ´´号物件は、次のような構造上の特徴を有している。
(1) 荷台1の後部に後方枠体2bを立設し、
(2) 荷台前部に立設された前方枠体2aとの間に幌枠4を、枠体上辺の中心より全長の約1/4の長さ分両端寄りの位置に前後の枠体に掛けわたすように連結固着された縦梁3の各々の外側に起伏可能にヒンジにて枢着すると共に、
(3) 該幌枠4と前記枠体2a・2bの上辺両端部との間にガススプリング5を介在装着し、
(4) 幌枠4に操作杆6を固着し、ロープ7を該操作杆に、ロープ8を該幌枠4の外端に固着した荷台幌枠開閉装置。
(二) イ´´号物件は、右の構造上の特徴を有することにより、次のような作用効果を奏する。
イ´´号物件において、幌枠4は荷台の後面の門型枠体と荷台前壁の上面中央で起伏自在であり、荷物の積みおろしが両側面から上面にかけて容易にできる。
更に、荷台の後面が扉となつているので開口し、屋根を開閉するシリンダーも荷役の支障とはならないため、後面からも荷物の積みおろしができる。また、両側後面が開くので自動車の向きに関係なく荷物の積みおろしができる。このため作業能率が向上する。
また、更に、シリンダーは枠体及び荷台前壁の上部に枢着したため荷台面は全面有効に利用できる。すなわち、荷物の積載量が減少することがない。
(三) イ´´号物件は、本件考案の構成要件を具備している。
(1) 右(一)の(1)は、前記2の(一)の要件を充足している。
(2) 右(一)の(2)は、前記2の(二)の要件を充足している。
ただ、イ´´号物件の場合は、幌枠は、枠体上辺の中心より全長の約1/4の長さ分(約一〇センチメートル)程度外れて枢着されているが、このような構成も、前記2の(二)の要件にいう「上面中央」に枢着されているものというベきであり、その理由は前記6の(三)の(2)で述べたとおりである。
(3) 右(一)の(3)は、前記2の(三)の要件を充足する。
ただ、イ´´号物件の場合は、ガススプリングが介在装着されているが、前記2の(三)の要件にいう「シリンダー」には、右ガススプリングも包含されることは、前記6の(三)の(3)で述べたとおりである。
(四) イ号物件の奏する右(二)の作用効果は、本件考案の作用効果と同一である。
(五) したがつて、イ号物件は、本件考案の構成要件のすべてを具備しており、また、その作用効果も本件考案のそれと同一であるから、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属するものであり、被申請人はイ号物件を製造、販売することにより、申請人の本件実用新案権を侵害している。
8 被申請人は、名古屋市近辺において、イ号、イ´号、イ´´号各物件を製造、販売しており、申請人は、本件実用新案権に基づき、被申請人の右侵害行為の差止め等を求める本訴を提起すべく準備中であるが、被申請人の現在の右各物件の販売数量は多数に上つており、このまま本案判決の確定を待つにおいては、回復し難い損害を被るので、本件申立てに及ぶものである。