名古屋地方裁判所 昭和58年(ヨ)2129号 決定
当裁判所の判断
一 申請の理由1、3及び同2のうち申請人の商号が取引者及び需要者の間に「浦野設計」なる通称、略称下に広く認識され信用を得てきたことを除く事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 そこでまず、申請人の商号と本件商号が類似するか否かについて判断するに、
申請人の商号である「株式会社浦野設計」の主要部分は「浦野設計」であり、本件商号の主要部分は「サンウラノ設計」である(但し、右両商号中「設計」部分は、申請人、被申請人の両者とも設計監理業務をその営業とすること、疎明によれば、設計監理業務を営業とする者は「設計」なる文字をその商号中に用いる例が多いことが一応認められることからすれば、比較的自他識別力を有しないと認められる。)というべきところ、右両主要部分を対比すると次のとおりである。
1 外観においては申請人の商号は漢字であるのに対して、本件商号の「サンウラノ」の部分は片仮名であつて両者は類似しない。
2 称呼においては、申請人の商号は「ウラノセツケイ」であり、本件商号は「サンウラノセツケイ」であつて、「ウラノセツケイ」を共通にするが、本件商号は右「ウラノセツケイ」に「サン」を冠することにより、全体の語調、音感に相違をきたしているのであつて、右「ウラノセツケイ」を共通にすることによつて直ちに称呼が類似しているものと即断することはできない。
3 観念においては、申請人の商号である「浦野設計」は主宰者たる個人の氏名を商号中に使用したものと観念されるのが一般である(疎明によれば、設計監理業務を営業とする者の商号には申請人の商号の如く主宰者たる個人の氏名を使用したものと観念されるものが相当数存することが一応認められる。)のに対し、本件商号は、被申請人の主宰者の姓である「ウラノ」に、英語で太陽の意味を表す「サン」を冠し、これらをすべて片仮名書きにすることにより、単に、主宰者の氏名を商号中に使用した右「浦野設計」とは異なる観念を生ずるものというべきであるから観念において両者は類似するものではない。
以上の外観、称呼、観念の各対比からすれば、申請人の商号と本件商号とは、その主要部分において類似していないから、全体として非類似のものであるというべきであり、申請人が申請人の商号の略称として主張する「浦野設計」とも非類似のものであるというべきである。
なお、申請人は、本件商号も「ウラノ設計」と略称されるのが一般的である旨主張するが、被申請人において右略称を使用していることを認めるに足りる疎明は存しないし、本件商号が「ウラノ設計」と略称されることが一般的であると考えることもできないから、申請人の右主張は失当である。
三 ところで、申請人は申請の理由5及び同6において、申請人の営業と被申請人の営業の誤認、混同を惹起すべき事由及びその具体例を主張する。
しかしながら、疎明によれば、申請人及び被申請人の営業である設計監理業務は、店頭商品売買等の営業の内容にそれ程個性のないものと異なり、発注者と受注者との間の信頼関係に基礎を置く委任又は請負業務であること、設計監理業務を営業する者は、その商号中に主宰者たる個人の氏名を使用する例が多いことから、外観、称呼等において類似する商号を使用する者がまま見受けられるのにもかかわらず、設計監理等の委任ないし請負契約は、当事者の慎重な調査と信頼を前提として締結されるため、その間に誤認、混同が生じる例があまり存しないこと、特に、官公庁の指名競争入札においては、指名業者は整理番号を付されるなどして厳格に区別され、商号、本店所在地、代表者氏名等が類似しているからといつて締約上の誤認、混同が起こる可能性は存しないことが一応認められる。
そして、申請人が申請の理由6において主張する事由のうち(二)ないし(四)は、仮に存するとしても、いずれも申請人の設計監理契約の締結に重大な妨げとなるものでないことはその態様自体から明らかであり、同(一)の事由は、本件においてこれを認めるに足りる疎明は存しない(申請人代表者作成の報告書―疎甲第六号証―は、右申請の理由6(一)に沿うものであるが、具体性に欠け、前記認定に照らし、直ちに採用し難い。)から、申請の理由6の主張は、前記判断を左右するものではない。
従つて、申請人と被申請人の営業活動に誤認、混同が生じ、あるいは生じる虞があるということはできない。
申請人は、この点について、商号あるいはその略称が広く認識されていることにより受注の機会が増大する旨主張し、本件疎明資料中にはそれに沿う疎明資料も存するが、申請人の商号と本件商号は類似するものでないことは前説示のとおりであり、また、単に、当該商号あるいはその略称が周知の商号あるいはその略称に類似するということのみで、営業主体を誤認したまま契約締結まで進捗するということは、前記認定の設計監理業務の業態からして到底首肯することができないから、申請人の右主張も理由がない。
四 以上説示のとおり、申請人の商号と本件商号とは類似の商号ということはできず、かつ、被申請人の営業活動は、申請人のそれと誤認、混同を生じるものではないと認められるところ、右に加えて疎明によれば、被申請人が本件商号を使用するに至つた経緯は、被申請人の主張1(一)記載のとおりであることが一応認められること(右のうち、被申請人の旧商号、その命名者、被申請人代表者の姓については当事者間に争いがない。)を併せ考えれば、被申請人に、本件商号を使用することについて不正競争の目的あるいは不正の目的があるものとは認められない。
五 そうすると、被申請人が本件商号を使用することは商法二〇条、二一条に該当するものではなく、申請人の商号が本法施行の地域において広く認識されているかについて判断するまでもなく不正競争防止法一条一項二号に該当するものでもない。
従つて、申請人の本件申請は被保全権利の疎明がないことに帰着し、本件においては保証を立てさせて疎明に代えることは相当でないから、申請人の本件申請を却下する。