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名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)1417号 判決 1985年8月30日

原告(反訴被告)

中部運輸株式会社

被告(反訴原告)

有限会社京都南レッカー・サービス

主文

第一本訴につき

一  被告は原告に対し金一二〇万九四八五円及びこれに対する昭和五七年八月一三日より支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告は被告に対し別紙交通事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。

三  原告のその余の請求は棄却する。

四  訴訟費用は四分し、その一を原告の、その三を被告の各負担とする。

五  本判決は第一項に限り仮に執行することができる。

第二反訴につき

一  被告の反訴請求を棄却する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(申立)

第一本訴請求事件

一  原告

1 被告は原告に対し金二七一万八九七〇円およびこれに対する昭和五七年八月一三日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 主文第二項と同旨。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

4 第一項につき仮執行宣言。

二  被告

1 原告の請求は棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二反訴請求事件

一  被告

1 原告は被告に対し金二九八万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年八月一三日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2 反訴費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言。

二  原告

1 被告の請求は棄却する。

2 反訴費用は被告の負担とする。

(主張)

第一本訴請求事件

一  請求原因

1 当事者

(一) 原告は、運送業を営むものであり後記の交通事故(以下本件事故と称する)の被害車両の所有者である。

(二) 被告は、事故車両の救援活動を業務とするもので本件事故の加害車両の所有者である。

2 本件事故の発生

(一) 日時・場所

日時 昭和五七年八月一三日午後〇時四〇分頃

場所 京都府向日市上植野町地内

名神高速道路下線四九一ポイント地点

(二) 車両及び関係者

原告側 営業用トレーラー車(名古屋一一く〇一―六一、以下原告車という。)

所有者 原告

運転者 三浦敬一

被告側 クレーン車(京八八や一一―九四、以下被告車という。)

所有者 被告

運転者 三木茂生

(三) 事故の態様

(1) 本件事故発生前の事情

原告車は、三浦が運転中昭和五七年八月一三日午後〇時一〇分頃本件事故現場の道路において同一方向に進行中の訴外木下運送の大型トラツク(広島一一く五三―八四)に後方から追突し(以下第一事故という。)その衝撃によりギヤーロツク(第五速入り)の状態となり自走不能となつたので救援を求めたところ被告車が事故車救援に来た。

(2) 事故発生状況

イ 被告車は、三木が運転し原告車を牽引するためその前面にバツクで接近したが三木が後方確認を怠り漫然後退したため、クレーン用ブームを原告車運転席に突き当て運転台部分を押しつぶし変形させる事故(以下第二事故という。)を発生させた。

ロ 次いで、被告車は、原告車がトレーラー車であるため、トレーラー部分(後部のもの)を固定し、トレーラー部分をトラクター部分(前部のもの)から引離す作業に着手して原告車前面の前方に被告車の後部を停止させて、原告車の前部車軸に牽引ロツトを差込みクレーンで引上げ作業をしたところ、原告車がギヤーロツクの状態のまま車軸を回転させたことによりエンジンが始動し前方へ暴走して被告車後部に追突(以下第三事故という。)せしめた。

ハ 右事故原因は、被告車の運転者三木が原告車牽引に際し、同車がギヤーロツクの状態で自走不能である事実を承知していたのであるから、ギヤーロツクを解消し又はエンジン、動力伝導のシヤフトを取りはずしたうえ吊り上げ作業をすべき注意義務があるのにこれを怠り、そのまま車輪を前方に回転させる作業をしたためエンジンを始動せしめて暴走させたことによるものである。

3 損害額

(一) 原告車両修理代金 金一三六万八九七〇円

(二) 休車補償 金一三五万〇〇〇〇円

(一日三万五〇〇〇円×四〇日分)

合計 金二七一万八九七〇円

4 責任原因

被告は加害車を所有し営業のため従業員である三木を運転者として救援作業中、同人の作業上の不注意により原告車を損傷し、かつ暴走させて損害を与えたのであるから民法第七一五条、第七〇九条により賠償責任を負う。

5 被告の損害賠償請求の主張

本件事故は、被告の従業員である三木茂生の作業上の過失に基因することが明白であり、原告運転者三浦は本件事故発生時原告車の運転をしておらず、被告の管理下の作業中に発生した事実は争いがないのに、被告は原告に対し次のとおり損害賠償を求めている。

車両修理代 金一一三万〇〇〇〇円

休車補償 金一四三万一二二〇円

合計 金二五六万一二二〇円

6 結論

右の次第で原告は被告に対し本件事故に基づく損害賠償金二七一万八九七〇円及びこれに対する本件事故発生当日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を請求すると共に、原告は被告に対する債務不存在の確認を求める。

二 請求原因に対する答弁

1 請求原因1(一)、(二)は認める。

2 同2の(一)、(二)は認め、同(三)の(1)は、原告車がギヤーロツクの状態となり自走不能となつた点は不知、その余は認め、同(三)の(2)イ、のうち被告車は三木が運転し原告車を牽引するためその前面にバツクで接近しクレーン用ブームを原告車運転席に突き当てた事実は認めその余は争い、同(三)の(2)ロ、のうち被告車がトラクター前面の前方に停止させたこと及び原告車が被告車の後部に追突した事実は認め、その余は否認し、同(三)の(2)ハ、はすべて争う。本件事故は原告側の過失(後記反訴請求原因記載のとおり。)によつて発生したものである。

3 同3は否認する。

4 同4のうち、被告が被告車を所有し営業のため従業員である三木が被告車の運転手として救援作業中であつた事実は認め、その余は争う。

5 同5のうち被告が原告に対して損害賠償を請求している事実は認め、その余は否認する。原告の責任原因及び被告の損害額は反訴請求原因記載のとおりである。

第二反訴請求事件

一 反訴請求原因

1 当事者

本訴請求原因1と同じ

2 交通事故の発生

(一) 日時、場所 本訴請求原因2(一)と同じ

(二) 車両及び関係者 同2(二)と同じ

(三) 事故の態様

(1) 原告車は本件事故現場の道路において訴外木下運送の車両に追突し(以下第一事故という。)、被告は原告車の運転手三浦より救援を求められ、被告の従業員三木は被告車を運転し、同日午後〇時一七分頃本件事故現場に到着した。

(2) 三木は原告車を牽引するため同車の前面に被告車の後部を接近させ停止させたが、この時クレーン用ブームが原告車の運転席の上部にあたつた(以下第二事故という。)。

(3) 右第二事故発生後間もなく、原告車のトラクター部分(前部のもの)が突然前進し被告車の後部に追突(以下第三事故という。)し、被告車に損傷を与えた。

第三事故の原因は次のとおり被告の従業員三木らが牽引作業に着手する以前に原告の従業員三浦の過失によつて発生した。すなわち、

イ 原告車は前部のトラクター部分と後部のトレーラー部分とからなり、中間をカプラ(連結器)で結合されているが、トレーラー部分の路面は後方に傾斜していた。したがつて、右カプラのロツクをはずす際には、トレーラー部分のブレーキをかけ、アウトリガー(地上に固定させるための脚部)を完全に操作してトレーラー部分を固定しなければならない。しかるに、三浦は右ブレーキをかけず、アウトリガーを完全に固定させないまま、カプラのロツクをはずしたため、トレーラー部分が突然後退し、その際トレーラー部分の前部がトラクター部分の後部にずり落ちてトラクター部分を押出し、被告車の後部に追突した。

ロ 右トラクター部分のエンジンはジーゼルエンジンであるから駐車する際は不意にエンジンがかからないようデコンプ(減圧装置)を引つ張つておく必要があり、この点は運転手の常識であるのに右三浦はこの措置をとらなかつたため、前項の理由により押出されたトラクター部分のエンジンがかかり暴走して右追突による被害を増大したものである。

3 責任原因

本件事故は原告の従業員の三浦が、原告の事業のため原告車を操作するにあたり、運転手としてなすべき注意義務を怠つた過失により発生したものであるから、原告は民法七一五条により被告のこうむつた損害を賠償する義務がある。

4 損害

(一) 被告車修理代金 金一四四万一〇〇〇円

(二) 休車補償 金一五四万円

(一日三万五〇〇〇円の四四日分)

5 結論

右の次第で被告は原告に対し本件事故に基づく損害賠償金二九八万一〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生当日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 反訴請求原因に対する答弁

1  反訴請求原因1は認める。

2  同2の(一)(二)は認める。

同2の(三)(1)は認める。

同2の(三)(2)は認める。

同2の(三)(3)は争う。第三事故は被告が救援活動を開始しその管理下に発生したものであるから原告が過失を問われる余地はない。

同3は否認する。

同4は知らない。

(証拠)

本件記録中、証拠関係目録記載と同一であるから、これを引用する。

理由

第一  本訴請求について

一  請求原因1の(一)(二)の事実(当事者)及び同2の事実(本件事故の発生)中(一)(二)の各事実(日時場所、車両関係者)は当事者間に争いがない。

二1  請求原因2の(三)(1)の事実(本件事故発生前の事情)中、第一事故が発生し、原告の従業員三浦が被告に救援を求め之に応じて被告従業員三木が被告車を運転して、本件事故現場に来たことは当事者間に争いがなく、証人三浦敬一の証言によると、原告車は第一事故の衝撃によりギヤーロツクの状態となり自走不能となつたものと認められ、また請求原因2の(三)(2)のイのうち第二事故発生の事実は当事者間に争いがなく、証人三木茂生の証言によれば右事故は被告会社従業員の三木が後方確認をしないで被告車を後退させたために発生したものと認められる。

三  以下第三事故について検討する。

1  前記第二事故が発生した後、被告車が原告車の前面で停止中、原告車が被告車の後部に追突し、両車に損傷が生じたことは当事者間に争いがない。

2  証人三浦敬一、同橋本経之の各証言、証人三木茂生の証言によつて成立を認める甲第一号証の一中三木茂生作成部分、右橋本証言により成立を認める甲第一号証の一中橋本経之作成部分及び甲第一号証の二・三並びに弁論の全趣旨を総合すれば次の事実を認定でき、証人三木茂生の証言及び被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できない。

(一) 被告車は事故車を牽引するためのクレーンを後方に設置してあるクレーン車であり、原告車は自走のためのトラクター部分とこれとカプラ(連結器)で連結されるトレーラー部分(荷物積載部分)とからなるトレーラー車である。なおトレーラー部分の車輪は後部のみに着いており前部はトラクター部分のシヤシーにまたがつている。

(二) 被告は前記のように三浦より救援の要請を受け、三木の運転する被告車が先行し、次いで被告会社代表者三木政一が運転し被告従業員二名が同乗するトラクター一台及び被告会社従業員一名の運転する後尾車一台とが本件事故現場に到着した。

(三) 本件事故現場は名神高速道路上でたまたま混雑しており、被告側は救援作業を急ぎあわてており前記第二事故を起し、三木は第二事故を起したことも気付かず三木政一の指摘ではじめて右事故に気付き、再び被告車を少し前進させて停止し、引き続き原告車の救援活動に入つた。

(四) 被告側は三木茂生を除く四名が三浦の手伝いのもと、原告車のトレーラー部分をトラクター部分から分離すべく、トレーラー部分のアウトリガー(トレーラー部分の前部を地上に固定させるための脚部)を装着し、カプラのピンをはずし、被告車のクレーンにより原告車のトラクター部分をつりあげたところ、トラクター部分の車輪が廻転しギアロツクの状態となつていたところから押しかけと同様になつてトラクター部分のジーゼルエンジンがかかつて自走し、被告車の後部に追突し、原告車のトラクター部分の前部と被告車の後部が破損した。

以上につき被告は、第三事故は、三浦がトレーラー部分のアウトリガーを操作したが十分に固定されず、カプラのピンをはずしたため、斜面にあつたトレーラー部分が後退しその前部がトラクター部分を押し出したと主張し、前記三木証言及び被告代表者三木政一本人尋問の結果中には右主張にそう部分がある。しかし、右各供述部分は前記認定証拠に照らしにわかに措信できず、仮に三浦が右の措置に出て(三浦はアウトリガーを操作した事実は認められる。)それが第三事故の一因となつたとしても、被告側は本件現場に到達後、被告代表者を指揮者としてすでに救援活動に入つておりその管理下に入つていたものと認められ、三浦は救援活動を補助する意思で手伝つていたものと認められるから、その責任を原告側に転嫁できない。

また被告は、三浦がトラクター部分にエンジンがかからないようにデコンプ(エンジンの減圧装置)を操作しなかつたためにトラクター部分が自走したと主張するが、本件トラクター部分について右主張が適合するかどうか明らかでないうえ、右デコンプ操作をするかしないか又はその確認は、被告側が行うべきものと解されるから、被告の右主張も採用できない。

四  よつて本件事故の責任原因について考えるに、第二事故は被告の従業員三木茂生が被告車を後退させるにあたり後方確認を怠つた結果発生させたものであるから、これによつて生じた原告車の損傷により原告のこうむつた損害を賠償する義務があることは明らかである。

第三事故についても、被告代表者三木政一の指揮下において同人並びに被告の従業員四名及びこれを補助した三浦の行為によつて生じたものであり、原告車のトラクター部分はギヤーロツクの状態となつていたのであるから、右作業を開始するにあたり、ギヤーロツクの状態を解消した上でするか、又はエンジンの動力伝導シヤフトを取りはずしたり、トラクター部分の運転席においてクラツチペダルを踏んだりいわゆるデコンプを操作するなどしてトラクター部分が自走しないよう安全を確保する義務を怠つた過失があるから、第三事故によつて生じた原告車の損傷によつて原告のこうむつた損害をも賠償する義務がある。

五  そこで原告の損害について検討するに、証人橋本経之の証言、弁論の全趣旨により成立を認める甲第二号の一及び弁論の全趣旨を総合すると、原告車は第一ないし第三の事故により、主としてトラクター部分の前面に損傷が生じ、その修理に金一三六万八九七〇円を要するものと認められる。そして、右損害のうち被告の責に帰すべき第二及び第三の事故によつて生じた部分はどれかについては判然としないが、右証拠によれば、第一事故の損傷は外形上はトラクター部分の正面のパネル及びバンパーの凹損にとどまり、第二、第三の事故によるそれはトラクター部分の右ルーフ部分及びフロントガラス破損等やや広範囲に及んでいるものと認められるところ、一方第一事故ではギヤロツクにより自走不能となつた事実もあつたのであるから、その割合は五割とするのが相当である。

次に休車損についてみると、前記甲第二号証の一によれば、原告車の修理個所は多数に及ぶものと認められ、またトラクターという特殊車でもあるところからその修理所要日数は三〇日とするのが相当である。そして、その代替費用は同じ特殊車である被告車の一日宛費用が被告の主張によつても金三万五〇〇〇円であること等を併せて考えると、右と同額とするのが相当であり、しかして第二、第三の事故による代車損害金としては右合計額の五割の金五二万五〇〇〇円とするのが相当である。

六  以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、右総計金一二〇万九四八五円及びこれに対する本件事故の日である昭和五七年八月一三日より支払済にいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。

七  しかるとこは、被告は原告に対し、右第三事故に関し右事故は原告の従業員三木の作業上の過失によるものであるとして被告車に生じた損傷により生じた車両修理代及び休車補償料の支払を請求していることは当事者間に争いがないところ、その発生原因は被告代表者を指揮者として開始された原告車の救援活動下において、もつぱら被告従業員三木らの過失によつて生じたものであること前記のとおりであるから、本件債務不存在確認を求める請求は正当として認容すべきである。

第二  反訴請求について

本請求原因はその帰するところは、前記第三事故は原告の従業員三浦の過失によつて生じたというものであるところ、その発生原因は被告代表者を指揮者として開始された原告車の救援活動下において、もつぱら被告従業員三木らの過失によつて生じたものであること前記本訴請求において説示したとおりで、結局本反訴請求はこれを認容する余地はなく、これを棄却するほかない。

第三  よつて訴訟費用の負担につき民訴法九二条、九八条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅野達男)

交通事故目録

一 日時・場所

1 日時 昭和五七年八月一三日午後〇時四〇分頃

2 場所 京都府向日市上植野町地内

名神高速道路下線四九一ポイント地点

二 車両および関係者

1 原告側 営業用トレーラー車(名古屋一一く〇一―六一)

所有者 原告

運転者 三浦敬一

2 被告側 クレーン車(京八八や一一―九四)

所有者 被告

運転者 三木茂生

三 事故の態様

1 被告車がバツクし、クレーン用ブームと原告車の前面とが衝突した。

2 右事故後、原告車が被告車に追突した。

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