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名古屋地方裁判所 昭和59年(ヨ)318号 決定 1985年5月20日

債権者 高木順海 外三名

債務者 株式会社大竹製作所

主文

一  債権者らの本件仮処分申請をいずれも却下する。

二  申請費用は債権者らの負担とする。

事実及び理由

一  債権者らの申請の趣旨及び申請の理由の大要は別紙(一)記載のとおりであり、これに対する債務者の答弁及び申請の理由に対する反論の大要は別紙(二)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

まず、本件仮処分申請について保全の必要性の有無を判断するに、本件仮処分申請は、債務者に対し、別紙(一)添付の別紙目録一ないし七記載の各物件(全自動式脱装置)の製造、販売又は販売のための展示の差止め等を求め、かつ、債務者の右各物件等に対する占有を解いて名古屋地方裁判所執行官に保管を命ずる裁判を求めるものであるから、右は民訴法七六〇条所定の仮の地位を定める仮処分、いわゆる満足的仮処分を求めるものと解される。このような製造、販売等の差止め等を求める満足的仮処分申請について、その保全の必要性の有無を判断する場合においては、右仮処分が往々にして債務者の企業活動等に対し回復困難な打撃を与えることがあることから、当該仮処分命令が発令されないことによつて仮処分債権者の被るべき不利益と当該仮処分命令が発令されることによつて仮処分債務者の被るべき不利益とを考慮し、両者の比較考量の上に立つて判断するべきである。

そこで、債権者らが、債権者ら主張に係る本件特許発明1、2を実施して、全自動式脱装置を製造、販売しているか否かをみるに、本件全疎明資料によるも、右実施の事実を認めるに足りない。

この点に関し、債権者らは、高木製作所名で本件特許発明1、2を実施している旨主張する。しかしながら、債権者らが本件特許発明1、2の実施品の組立、整備、点検を行つていると主張する建物は、疎甲第二五号証の一ないし六によれば平家建のプレハブ状の建物で、高木製作所と記載された木札が掲げられてはいるが、その扉には株式会社新日本農機(以下、単に「新日本農機」という。)と記載されており、また、右扉は閉じられていて内部の状態を窺い知ることはできないことが一応認められる。したがつて、右疎明資料によつても右建物が債権者らの製品組立、整備、点検のための工場であるとは認め難い。

また、疎甲第二八号証の一ないし三によれば、「高木順海さん達」が訴外株式会社岐阜ベルト等から「全自動式脱プ装置(風圧真空式籾摺機)」用の部品の納入を受けていることが一応認められるが、右「高木順海さん達」が債権者ら個人を指すのか、あるいは新日本農機を指すのかという点は、疎甲第二八号証の四、五の「高木順海さん達、或は、株式会社新日本農機」等が訴外日本通運株式会社等に右装置の海外輸出の代理業務を委託している旨のあいまいな記載及び前記のとおり債権者らの製品組立、整備のための工場が存在する旨の疎明がないこと等に照らし、必ずしも明確ではなく、また、右「全自動式脱プ装置(風圧真空式籾摺機)」が本件特許発明1、2の実施品であるのか否かといつた点も不明である。

したがつて、右疎明資料をもつてしても債権者らが本件特許発明1、2を実施している事実を認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる疎明資料はない。

次に、債権者らは、債権者らが実施していないとしても、債権者らの同族会社ともいうべき新日本農機が本件特許発明1、2に係る実施品ライスペラー「むきむき」を製造、販売しており、この点から本件においては保全の必要性を認めるべきである旨主張する。

しかしながら、疎甲第五号証の一ないし四により新日本農機が販売していることが一応認められる右ライスペラー「むきむき」が、本件特許発明1、2の実施品であるか否かの点は、現段階では本件記録上、必ずしも明らかではなく、また、疎甲第二六号証によれば新日本農機の代表取締役が債権者高木順海であり、債権者高木茂が取締役に、債権者高木誠海が監査役にそれぞれ就任していることが一応認められるが、そうであるからといつて、債権者らとは別個の法人格を有する新日本農機と債権者らとを同一視することは、特段の事情のない限り、許されないものというべきところ、本件において、右特段の事情を認めるに足りる疎明はない。

したがつて、債権者らの右主張も理由がない。

以上、要するに、債権者らが、現在、本件特許発明1、2を実施している事実ないしはそのための準備を現実に行つていたとの事実を窺うことはできないから、債務者が別紙(一)添付の別紙目録一ないし七記載の物件(全自動式脱装置)を製造、販売することによつて債権者らが被るべき損害は、本件特許権の実施料相当額の金員の支払を受けることができないこと等による金銭的な損害に限られるものと考えられるのであり、本件記録上も債権者らに右以外の損害が発生することを窺うことはできない。

これに対し、本件仮処分命令が発令されることによつて債務者の被る不利益をみるに、債務者は、その売上げ中のかなりの部分を占める前記各債務者製品の製造、販売が禁止されることにより、債務者の行う企業活動に重大な支障が生ずることが予想され、回復し難い打撃を被ることが、本件記録上、窺える。

更に、債権者らは、本件特許発明1の出願日(昭和五二年六月三日)以前の昭和四九年二月一九日以降、本件特許発明1の考案を具備した装置を訴外松浦工業株式会社で五〇〇台製造し全国的に販売したこと、また、昭和五〇年八月には、債務者に対し、本件特許発明1についての技術説明を行つた旨主張し(債権者提出の昭和五九年七月四日付第一回準備書面添付第六図中の説明書、同日付第三回準備書面)、債権者高木順海は、これに副う上申書(疎甲第一八号証、同第三一号証)を提出している。右は、本件特許発明1が特許出願前に公然実施された発明であることを明言するものであり、右特許発明が特許の要件(特許法二九条一項二号)を欠缺し、無効たるべき瑕疵を有する権利であることを自認するものといわざるを得ない。

以上の両当事者間の事情等を総合し、比較考量すると、本件仮処分申請は、その保全の必要性を欠くものというべきである。

三  よつて、債権者らの本件仮処分申請には保全の必要性が存しないから被保全権利の存否について判断するまでもなく理由がないので、これをいずれも却下することとし、申請費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 加藤義則 高橋利文 綿引穰)

別紙(一)

申請の趣旨

一 債務者は、別紙目録一ないし七記載の物件を製造、販売又は販売のため展示してはならない。

二 債務者の別紙目録一ないし七記載の既製品及び半製品(前項の完成品の構造を具備しているが、いまだ製品として完成するに至らないもの)、その製造に使用する機械器具一切に対する占有を解き、名古屋地方裁判所執行官にその保管を命ずる。執行官はその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

三 執行官は、右物件を封印その他の方法によりその使用及び販売ができないようにしなければならない。

との裁判を求める。

申請の理由

第一被保全権利の存在

一 債権者らは、次の特許権1、2(以下「本件特許権1、2」といい、その発明を「本件特許発明1、2」という)を有している。

1(一) 出願日        昭和五二年六月三日

(二) 出願公告日と公告番号 昭和五五年一月一七日(昭五五―一八二一)

(三) 発明の名称      全自動式脱装置

(四) 登録日と登録番号   昭和五五年八月二九日(第一〇一〇四五三号)

(五) 特許請求の範囲

吸込口から脱ケーシング中心部へ吸込まれた籾がさらにドーナツ状に配設された脱フアン内周端から同フアン内へ吸込まれて穀に亀裂が形成された後、前記脱フアン外周端から飛び出して前記脱ケーシング内周面の始点側へ導かれる籾の移動軌跡の前記脱フアン内周始点付近へ籾を導くように、前記脱ケーシングの移動軌跡始点直近に前記吸込口を開口したことを特徴とする全自動式脱装置

2(一) 出願日        昭和五二年六月四日

(二) 出願公告日と公告番号 昭和五六年一月一六日(昭五六―一九三八)

(三) 発明の名称      全自動式脱装置

(四) 登録日と登録番号   昭和五六年八月二五日(第一〇六〇一五一号)

(五) 特許請求の範囲

吸込口22から脱ケーシング16中心部へ吸込まれた籾がさらにドーナツ状に配設された脱フアン18内周端から同フアン18内へ吸込まれて穀に亀裂が形成された後、前記脱フアン18外周端から飛び出して前記脱ケーシング16内周面Sの始点Aへ導かれる籾の移動軌跡Pの前記脱フアン18内周始点Pa付近へ籾を導くように、前記脱ケーシング16の移動軌跡P始点直近に前記吸込筒22を開口させるとともに、脱ケーシング16内の脱フアン18により脱された少量の未脱籾を含む脱完了米から籾穀を選別するための籾穀選別機構部のあとに、同選別機構部から取り出された米粒に含まれる前記未脱籾を選別して前記脱フアン18側へ還元するための未脱籾の選別還元装置を配設したことを特徴とする全自動式脱装置

二 本件特許発明1、2の構成要件及びその目的とする作用効果は次のとおりである。

1 本件特許発明1について

(一) 本件特許発明1は、全自動式脱装置に関するもので、吸込口から脱ケーシング中心部へ吸込まれた籾がさらにドーナツ状に配設された脱フアン内周端から同フアン内へ吸込まれて穀に亀裂が形成された後、前記脱フアン外周端から飛び出して前記脱ケーシング内周面の始点側へ導かれる籾の移動軌跡の前記脱フアン内周始点付近へ籾を導くように、前記脱ケーシングの移動軌跡始点直近に前記吸込口を開口したというものである。

(二) しかして、本件特許発明1は、右のような全自動式脱装置であることによつて次のような作用効果をあげることを目的とするものである。

すなわち、従来の全自動脱装置においては、吸込口から脱フアン内へ導かれた籾のすべてを脱ケーシング内周面の始点側へ導くことができず、未脱籾が、脱ケーシング内周面の途中へ導かれたり、直接脱ケーシングの吐出口へ移送されたりしたため、脱率が悪くなつていたが、本件特許発明1により、未脱籾を脱ケーシング内周面始点側へ確実に導くことができるので、脱率を高めることができる。

2 本件特許発明2について

(一) 本件特許発明2は、全自動式脱装置に関するもので、

(イ) 吸込筒22から脱ケーシング16中心部へ吸込まれた籾がさらにドーナツ状に配設された脱フアン18内周端から同フアン18内へ吸込まれて穀に亀裂が形成された後、前記脱フアン18外周端から飛び出して前記脱ケーシング16内周面Sの始点A側へ導かれる籾の移動軌跡Pの前記脱フアン18内周始点Pa付近へ籾を導くように、前記脱ケーシング16の移動軌跡P始点直近に前記吸込筒22を開口させるとともに(なお、この点は本件特許発明1と同一である)、

(ロ) 脱ケーシング16内の脱フアン18により脱された少量の未脱籾を含む脱完了米から籾穀を選別するための籾穀選別機構部のあとに、同選別機構部から取り出された米粒に含まれる前記未脱籾を選別して前記脱フアン18側へ還元するための未脱籾の選別還元機構部を配設した。

という二要件からなつている。

(二) しかして、本件特許発明2は、右の二つの要件からなる全自動脱装置であることによつて次のような作用効果をあげることを目的とするものである。

すなわち、従来の真空式脱装置には、機箱1の右側に取着した第一脱ケーシング2に対し、駆動軸3により積極回転可能に内装した第一脱フアン4の中心部へホツパー5から籾を供給して前記第一脱フアン4により籾の95―98%を一次脱した後、同脱完了米を移送パイプ6により第二脱ケーシング7内の第二脱フアン8へ導いて同第二脱フアン8により前記脱完了米をさらに脱し得るように構成したものがあつた。ところが、この脱装置には、2―5%の未脱籾を脱するために、一次脱した脱完了米全部を第二脱フアン8に通さなければならないので、米粒が傷ついたり割れたりし易く、米粒の品質を低下させるという欠陥があつた。本発明の目的は、このような従来の技術に存する欠陥を解消して、米粒の損傷を極力避け得るようにするとともに、脱フアンから飛び出した籾を脱ケーシング始点側へ確実に導くことにより脱率を高めることができる。

三 債務者は、別紙目録一ないし七記載の全自動脱装置(以下、単にイ号ないしへ号及びチ号物件という)を業として製作し、販売し、販売のため展示している。

四1 イ号ないしへ号及びチ号物件の構成を分説すると、

(一) イ号ないしへ号及びチ号物件はすべて、吸込口から脱ケーシング中心部へ吸込まれた籾がさらにドーナツ状に配設された脱フアン内周端から同フアン内へ吸込まれて穀に亀裂が形成された後、前記脱フアン外周端から飛び出して前記脱ケーシング内周面の始点側へ導かれる籾の移動軌跡の前記脱フアン内周始点付近へ籾を導くように、前記脱ケーシングの移動軌跡始点直近に前記吸込口を開口するとともに、

(二) イ号ないしへ号及びチ号物件は、脱ケーシング内の脱フアンにより脱された少量の未脱籾を含む脱完了米から籾穀を選別するための籾穀選別機構部のあとに、同選別機構部から取り出された米粒に含まれる前記未脱籾を選別して前記脱フアン側へ還元するための未脱籾の選別還元機構部を配設したもの

である。

2 そして、その作用効果は、右(一)は前記二1(二)と、右(二)は前記二2(二)と同じである。

五 イ号ないしへ号及びチ号物件は、本件特許発明1、2の技術的範囲に属し、イ号ないしへ号及びチ号物件が本件特許発明1、2を侵害していることは明らかである。

六 よつて、債権者は、債務者に対して、特許法第一〇〇条に基づき、イ号ないしへ号及びチ号物件の製造、販売又は販売のための展示を差し止める権利を有する。

第二保全の必要性

一1 債権者らは本件特許発明1、2の脱機構部を備えた全自動脱装置(もみすり機)を高木製作所名で製作している。

2 その製造販売システムは次のとおりである。

(一) 高木製作所が部品製造を発注する下請業者は次のとおりである。

(1) 装置本体について

松浦工業株式会社

津田鈑金株式会社

天竜工業株式会社

(2) 脱用フアンについて

信越通信株式会社

(3) ウレタンシートについて

岐阜ベルト株式会社

(4) 回転計について

有信販売株式会社

(5) エンジンについて(仕入先)

豊和機械株式会社

(6) モーターについて(仕入先)

東芝モーター株式会社

升重株式会社

(二) 右(一)の部品を高木製作所が組立、整備、点検する。

(三) 製品は高木製作所から株式会社新日本農機、海洋商事株式会社に販売され、また、高木製作所が直接ユーザー(主に農家)に販売する。

二 また、債権者らは、本件特許発明2の脱機構部未脱籾還元装置を備えた全自動脱装置(もみすり機)を製造販売すべく準備中である。

三 債務者が主張しようとするところは、本件特許発明1、2の脱機構部を備えた全自動脱装置を製造販売しているのは株式会社新日本農機であつて、債権者らではないから仮処分における保全の必要性がないというものと思われる。しかし事実は前記一のとおり債務者の主張は前提を欠くものである。

四 仮に、債務者の主張するが如き事実関係(債権者らは製造しないで株式会社新日本農機が製造しているとのこと)を前提としたとしても、なお債権者らには仮処分の保全の必要性があるというべきである。

すなわち、債権者らは株式会社新日本農機に専用実施権を設定しているわけではなく、債権者らが本件特許発明1、2を実施するについて何らの法的障害はない(現に自ら実施していることは前記一のとおりである。)。

また、株式会社新日本農機は債権者らの同族会社であり、その経営はもちろん、存廃そのものすら債権者らの意によつて決することのできる会社である。したがつて、株式会社新日本農機が製品を多量に売り上げられれば債権者らはそれに比例して多額のロイヤリテイー(特許法上の通常実施権を設定したとして)を得ることができるし、また、債権者らが株式会社新日本農機に対して差止の義務を負うものということもできるのである。

したがつて、このような株式会社新日本農機と債権者らの関係を考えれば債権者らに保全の必要ありというべきである。

なお、仮りに、株式会社新日本農機がその名義で本件と同様な仮処分申請をしたとするならば、債務者は株式会社新日本農機には専用実施権はないなどと称して保全の必要性はないという詭弁を弄することは当然予想されるところである。したがつて、株式会社新日本農機又は債権者らのいずれかの者に保全の必要性を認めなければ法的妥当性を欠くことは誰の目にも明らかであるところ、さらにいずれの者に保全の必要性が高いかといえば、右具体的事情を考慮すると特許権者である債権者らであることも明らかである。

別紙目録一~七、同添付図面<省略>

別紙(二)

申請の趣旨に対する答弁

債権者らの本件仮処分申請を却下する。

との裁判を求める。

申請の理由に対する答弁及び主張

一 債権者の権利とその内容

1 第一項の、債権者の有する本件特許権1、2についてはいずれも認める。

2 第二項の、本件特許発明1、2の構成要件ならびにその目的が債権者主張のとおりであることはいずれも認める。

二 債務者の製品

1 第三項については、認める。ただし、ハ号物件については昭和五七年九月に製造販売を中止している。

2 第四項1について、債権者が主張するイ号ないしへ号及びチ号物件の構成については否認する。

3 第四項2について、債権者が主張する債務者製品イ号ないしへ号及びチ号物件の作用効果は否認する。

4 第五項は争う。イ号ないしへ号及びチ号物件は本件特許発明1、2の技術的範囲に属するものではない。

5 第六項については否認する。

三 保全の必要性について

債務者製品イ号ないしへ号及びチ号物件が、本件特許権1、2を侵害するものであるか否かはさて措き、債権者は、仮処分によつてその侵害の差止めを求めるべき保全の必要性を欠くものであるから、本件申請は被保全権利の存否の判断をまつまでもなく却下されるべきものである。

第一に、債権者は本件特許権を実施していない。特に、現在、債権者にあつてはその製造工場もなく、本件特許発明については全く実施されていないので、債権者がいう回復し難い重大な損害を受けるおそれは全くなく、保全の必要性がない。

第二に、仮に債務者が本件仮処分を受ければ、信用の著しい失墜によつて、現在債務者売上げの約三割を占めるもみすり機のみならず、他の機械の製造販売数にも大きく影響し、信用の回復、損害の回復は著しく困難となるおそれがある。

四 債務者の主張

本特許権は当然に無効であり、かかる権利に基づく差止請求は権利の濫用であつて許されない。

特許法二九条は、特許出願前に日本国内において公然知られた発明(第一項第一号)、又は公然実施をされた発明(第一項第二号)は特許を受けることができない旨定めている。

本特許権についてこの要件を検討すると、本特許権は昭和五二年六月三日ないし同月四日の出願に係るものであるが、原告はすでに昭和四九年に本特許権を公然実施していること及び昭和五〇年に多数の者へ技術説明したことを自認している。したがつて、本特許権は出願前日本国内で公然実施をされ、かつ公然知られた発明である。

以上により、本特許権は特許法一二三条一項一号によつて疑いもなく無効となるべき権利であり、係る当然無効となるべき権利に基づく差止請求が認められるならば、善意の第三者は不測の損害を被ることとなり、特許法の目的に反することとなる。

よつて、当然無効の本件特許権に基づく本件権利行使はまさに権利の濫用であり、許されない。

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