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名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)13号 判決 1986年9月19日

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

水野幹男

鈴木泉

岩月浩二

被告

株式会社名星

右代表者代表取締役

明瀬拡豊

被告

株式会社太陽ホーム

右代表者清算人

米田親良

主文

一  被告らは原告に対し、各自金六〇二万二五〇〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金六〇二万二五〇〇円及びこれに対する昭和五八年一〇月六日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(原告の請求原因)

一  被告株式会社名星(以下「被告名星」という。)、被告株式会社太陽ホーム(以下「被告太陽」という。)及び訴外株式会社菱重観光開発(以下「訴外菱重」という。)は、いずれも不動産の売買、仲介等を営むことを目的とする会社であり、これら三社は相互に人事、営業面等において密接な関連を有している。

二  原告は、被告太陽、訴外菱重の仲介により、昭和五七年一一月二一日被告名星との間に、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)につき被告名星を売主、原告を買主とし、代金六〇二万二五〇〇円で売買する旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、左記のとおり右代金を被告名星に支払つた。

昭和五七年一一月二一日 金一万円

同  年一二月一二日 金三一万二五〇〇円

昭和五八年 一月三一日 金七〇万円

同  年一〇月 六日 金五〇〇万円

三1  被告名星、被告太陽及び訴外菱重は、共謀のうえ、本件土地が前記売買代金額を大幅に下回る価値しか有さないことを熟知しながら、後記2のとおり原告の無知につけこみ、本件土地が短期間に大幅に値上がりし、銀行預金より確実に利益が上がる旨申し向けて原告を欺罔し、その旨誤信した原告をして、時価(金九九万九〇〇〇円程度)の六ないし七倍という代金額で本件土地の売買契約を締結させたうえ、売買代金六〇二万二五〇〇円を出捐させた。

2(一)  原告は、昭和五七年一一月一八日頃、被告太陽の「尾形」と名乗る女性から電話を受けたが、同女は原告に対し、「マイホームの建設のためには財形貯蓄より効率の良い方法がある。一度話を聞いてほしい。」として、土地の購入方を勧めた。

(二)  被告太陽の営業部課長と名乗る鈴木克昌は、昭和五七年一一月二〇日午後八時頃原告方を訪れ、「土地には、幼年期、青年期、老年期があり、伊勢の土地は幼年期から青年期に入る土地で、確実に値上がりする。銀行貯蓄よりも有利である。財産を物で持つことは金で持つより不便であるので、皆んながいやがるが、物(土地)で持つた方が儲が大きい。」などと説明したうえ、分譲地(本件土地を含む。)の区画図面を示して、「伊勢団地のこの場所なら今空いている。付近に伊勢道路ができる計画があるので、急速な値上がりが見込める。他のセールスマンが売却しているといけないので、会社に電話して確かめてみる。」と言つて、原告宅の電話を使用して会社に電話をかけ、原告に対し、右分譲地があたかも次々と売却されているかのように印象づけ、本件土地を購入するように勧誘した。更に、右鈴木は、購入をためらう原告に対し、「わが社(被告太陽)はローン開始前に権利証を渡す方法をとつているため、お客に権利証が渡らないことはない。ローンを組めるのは、わが社に信用があるからだ。」などと言つて被告太陽の信用力を誇示し、本件土地と別紙物件目録(二)記載の土地(以下「南勢土地」という。)の購入を深夜一二時頃に及ぶまで執拗に勧めた。

そこで、原告は、右鈴木の執拗かつ巧妙な勧誘に乗つて、同日本件土地を代金六〇〇万円、南勢土地を代金二〇〇万円で購入することを決め、右鈴木に対し手付金二万円(両土地各金一万円宛)を支払つた。

(三)  原告は、昭和五七年一一月二一日鈴木克昌との間に、本件土地及び南勢土地につき被告太陽を売主、原告を買主とする売買契約書を作成したが、右契約書には代金額及び手付金額のみが記入されたにとどまる。

そして、原告は、その後、鈴木から中間金を支払つてほしい旨の連絡を受けたので、同年一二月一二日本件土地の中間金として金三一万二五〇〇円を被告太陽に支払つた。

(四)  その後、鈴木克昌は、被告太陽の担当者として、被告太陽の宅地建物取引主任と名乗る堀信補を紹介したが、右堀は昭和五七年一二月末頃原告に対し、残代金の支払方法として、「南勢土地の代金は手形で支払つてもらい、本件土地の代金はローンを使つて支払つてもらう。」旨の提案をしたので、原告は、昭和五八年一月七日南勢土地の残代金につきこれを五年間の割賦払とし、これに見合う六〇通の約束手形を被告太陽宛に振出交付した。

(五)  その後、本件土地の残代金の支払については交渉が途絶えていたところ、原告は、昭和五八年四月頃に至り堀信補から南勢土地の所有権移転登記手続に必要な書類を取り揃えるように連絡を受けた。

そして、原告は、その頃、土地の値上がりに不安を持ち、被告太陽に電話をかけたところ、鈴木克昌と営業部のアドバイザーと名乗る前田伊佐子が原告方を訪れ、右両名は、電卓を持ち出し、もつともらしく計算したうえ「銀行利息より約二五万円得ですよ。三年位ではこの程度ですから、できるだけ長く持つていて下さい。」などと説明して原告を安心させようとした。更に、原告が右両名に対し、転売の可否を問い正したところ、右両名は「転売したいという場合は、二か月位待つてくれれば転売します。安心して下さい。」と回答して原告を信用させた。

(六)  原告は、昭和五八年六月頃堀信補から、「オリエント・リースから金を借りるため、一緒に面接に行つてほしい。」と言われたが、その際、堀は原告に対し、「株式会社菱重観光開発宅地建物取引主任」という肩書の名刺を差し出したので、原告が、被告太陽と訴外菱重との関係を問い正したところ、堀は会社名が訴外菱重に変更された旨説明した。

その後、原告は、堀から被告名星の営業部長山口純史の紹介を受け、本件土地の残代金五〇〇万円につきオリエント・リース株式会社(以下「オリエント・リース」という。)から融資を受けるため、右山口とともにオリエント・リース名古屋支店へ赴いたが、その途中、山口は、「面接のときは土地を見てきたと言つてもらいたい。転売するというと借りられないので、財産として持つていると言つてほしい。」と原告に指示した。そして、原告は、山口とともにオリエント・リースの融資担当者と面接し、同担当者の質問に対して山口に指示されたとおり回答した。

(七)  原告は、その後、堀信補からオリエント・リースからローンが受けられることになつた旨の連絡を受け、昭和五八年九月二六日頃オリエント・リース名古屋支店に赴き、融資担当者である石橋俊昭、山脇清臣と面接したが、その際、オリエント・リース側にある本件土地の売買契約書の売主欄が被告名星となつているのに気付き、「原告の持つている売買契約書は売主が被告太陽となつている。何故、被告太陽から被告名星に名前が変つているのか。」と尋ねると、山脇清臣は、「それはたいした問題ではない。被告名星に変えてもらえばよい。」と答え、被告名星の山口純史にその旨電話連絡した。

そこで、原告は、本件土地の契約書のことが心配になり、翌九月二七日右山口純史に電話をかけて、「原告の持つている売買契約書は売主が被告太陽になつているので、被告名星に直してほしい。買つた価格の六〇〇万円以上で買戻してくれる旨の保証をしてほしい。」旨を要請したところ、山口は、「原告の言う特約をつけてもよいが、そうすると、オリエント・リースを通して被告名星にしか売れない。他に高く買つてくれるところがあつても転売できない。それでもよければ特約をつける。」と述べ、更に、「今そのような特約をつけなくても、二年、三年後でも特約はいつでもつけられる。土地はほぼ一〇〇パーセント値上がりするから、心配はいりません。」と述べて、本件土地があたかも金六〇〇万円以上で転売できるかのように原告を欺罔した。

(八)  堀信補は、昭和五八年九月二八日原告方に被告名星との売買契約書を持つて現われ、原告との間に本件土地の売買契約書を作成したが、その際、堀は、原告の所持していた本件土地に関する被告太陽との間の売買契約書を受け取り、その場で表紙に×印をつけて破棄し、これを持ち帰つた。

(九)  原告は、昭和五八年一〇月六日、本件土地の残代金を支払うため、オリエント・リースから金五〇〇万円の融資を受け、これを被告名星の山口純史に支払つた。

(一〇)  以上のとおり、被告太陽、被告名星及び訴外菱重は、時価の六分の一以下の価値しかない土地であることを熟知しながら、共同して、土地が短期間に値上がりし、利殖を図ることができるかのように顧客に申し向けて欺罔し、その旨誤信した顧客に土地を売りつけるという詐欺的商法を採りいれ、組織的に山林等を暴利で販売することを業としていたものであり、不動産取引の実態に疎い原告は右顧客の一人として、被告らの詐欺行為により本件売買契約を締結させられたものである。

3  よつて、被告太陽、被告名星及び訴外菱重は、共同不法行為者として原告の被つた後記損害を賠償する義務があるものというべきである。

四  原告は、被告らの詐欺行為により本件土地が金六〇〇万円以上の価値を有するものであり、かつ、その転売利益が得られるものと誤信させられ、かつ、本件売買契約に基づいて金六〇二万二五〇〇円を出捐させられたが、右金員は被告らの欺罔行為がなければ出捐されなかつたものであるから、原告は被告らの不法行為により右金員と同額の損害を被つたことになる。

五  よつて、原告は被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として金六〇二万二五〇〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五八年一〇月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(被告らの請求原因に対する認否)

一  被告名星

1 請求原因一項のうち、被告名星が不動産の売買、仲介等を営むことを目的とする会社であること、被告名星と訴外菱重とが一時人事面において関連していたことは認めるが、その余の事実は争う。

2 同二項の事実は認める。

3 同三項の事実はいずれも否認する。

4 同四項の事実は否認する。

二  被告太陽

1 請求原因一項のうち、被告太陽が不動産の売買、仲介等を営むことを目的とする会社であることは認めるが、その余の事実は争う。

2 同二項のうち、被告太陽が本件売買契約を仲介したことは否認する。

3 同三項の事実はいずれも否認する。

4 同四項の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一被告名星及び被告太陽がいずれも不動産の売買、仲介等を営むことを目的とする会社であることは当事者間に争いがない。

二1  <証拠>を総合すると、本件売買契約成立の経緯として次の事実を認めることができる。

(一)  被告名星は、昭和五二年八月二四日不動産の仲介、売買及び管理等を営むことを目的とし、明瀬拡豊、井上正男、山口純史らによつて設立された資本金一〇〇〇万円の会社であり、また、被告太陽は、昭和五四年一一月一二日不動産の売買、仲介等を営むことを目的とし、米田親良、近藤友子(米田親良の妻で、後に米田と改姓)らによつて設立された資本金四〇〇万円の会社である。

(二)  原告は、△△工業株式会社に勤務するサラリーマンであるが、昭和五七年一一月一八日頃、被告太陽の「尾形」と名乗る女性から電話で、「マイホームの建築のためには財形貯蓄より効率の良い方法がある。一度話を聞いてほしい。」として土地の購入方を勧誘され、これに関心を示した。

(三)  被告太陽の営業部課長であつた鈴木克昌は、会社の指示に基づき昭和五七年一一月二〇日午後八時頃原告方を訪れ、原告から貯蓄の状況及び財形方法などを聞き出したうえ、「銀行貯蓄よりも土地を購入した方が有利である。土地には、幼年期、青年期、老年期があり、伊勢の土地は幼年期から青年期に入る土地で、確実に値上がりする。」などと説明し、分譲地(本件土地も含む。)の区画図面を示して、「被告太陽は本件土地を含む一帯を伊勢団地として売り出しているが、伊勢団地のうちこの場所(本件土地)なら今空いている。伊勢道路が付近にできる計画があるので、急速な値上がりが見込める。他のセールスマンが売却しているといけないので、会社に電話して確かめてみる。」などと言つて、原告宅の電話を借用して会社に電話をかけ、原告に対し、右分譲地があたかも伊勢団地として宅地造成工事が計画され、次々と売却されているかのように印象づけ、本件土地を購入するよう勧誘した。更に、右鈴木は購入をためらう原告に対し、「わが社(被告太陽)はローンを組む前に権利証を渡すから、会社がつぶれても客に権利証が渡らないことはない。ローンが組めるのはわが社に信用があるからだ。」と言つて、被告太陽の信用力を誇示し、かつ、転売する際には被告太陽において協力するなどと申し向け、本件土地と南勢土地の購入方を深夜に及ぶまで執拗に勧めた。

これに対し、原告は、右鈴木の執拗かつ巧妙な勧誘に乗つて、本件土地及び南勢土地を購入しておけば、将来、鈴木の言うように値上がりによる転売利益が得られるものと思い、土地の現状及び実勢価格を調査することもなく、同日、利殖を図る目的で、本件土地を代金六〇二万二五〇〇円、南勢土地を代金二三一万四〇六〇円で購入することを決め(ただし、いずれも被告太陽の指定価格である。)、鈴木に対し手付金二万円(両土地各金一万円宛)を支払つた。

(四)  前記鈴木克昌は、昭和五七年一一月二一日原告方に、売主欄に被告太陽の記名押印のある不動産売買契約書及び重要事項説明書を持参し、原告との間に、本件土地を代金六〇二万二五〇〇円、南勢土地を代金二三一万四〇六〇円で各売買する旨の不動産売買契約書を作成して、同契約を締結したうえ、右契約書及び重要事項説明書を原告に交付した。

(五)  原告は、その後、前記鈴木克昌から中間金の支払を請求され、昭和五七年一二月一二日中間金として本件土地につき金三一万二五〇〇円を、南勢土地につき金三三万四〇六〇円を被告太陽に支払つた。

(六)  その後、前記鈴木克昌は、被告太陽の担当者として、宅地建物取引主任の資格を有する堀信補を原告に紹介した。そして、右堀は、昭和五七年一二月末頃原告に対し、残代金の支払方法につき、本件土地の分についてはローンを組んで支払うことを、南勢土地の分については手形により割賦払することを提案してこれを勧めたので、原告はこれに同意し、右手続をとることを堀に依頼した。

(七)  原告は、昭和五八年一月下旬頃、土地の値上がりに不安を抱き、被告太陽に電話をかけたところ、前記鈴木克昌と営業部のアドバイザーと称する前田伊佐子が原告方を訪れた。そして、原告が右鈴木及び前田の両名に対し、新聞紙上に公表された地価の公示価格及び地価上昇率に基づき本件土地等を利殖目的でローンを利用して購入所持することについての不安を訴えると、右両名は原告に対し、「新聞記事は公示価格であり、実際の土地価格の上昇率は公示よりも高い。」と説明し、電卓で色々と計算してみせたうえ、「三年間で銀行利息より二五万円位得ですよ。三年ではこれ位だから、できるだけ長く持つていて下さい。」と言つて、原告を安心させようとした。更に、原告が右両名に対し、転売の可否を問い正したところ、右両名は、「転売したい場合には二か月位待つてくれれば転売します。」と言い、その旨原告を信用させた。

(八)  原告は、前記堀信補から中間金の支払を請求され、昭和五八年一月三一日中間金として本件土地につき金七〇万円を、南勢土地につき金四七万円を被告太陽に支払つた。

(九)  ところで、被告太陽は、昭和五七年一二月二六日宅地建物取引業法違反で愛知県知事から営業停止処分を受けたため、その営業ができなくなつた。そこで、被告太陽の代表者米田親良は、これを打開するため、被告名星の代表取締役である明瀬拡豊の勧めに従つて、休眠会社である株式会社名古屋不動産取引会を買い取り、その商号を「株式会社菱重観光開発」(訴外菱重)と変更し、昭和五八年二月以降訴外菱重の名義で従前同様の不動産取引の営業活動を継続した。なお、訴外菱重の商号変更、本店移転の各登記は同年二月四日付で行われ、訴外菱重の取締役には木村佳玄、明瀬拡豊、志水義祐、池田憲治、近藤政子が、同代表取締役には木村佳玄が各就任した。

(一〇)  原告は、昭和五八年二月初め頃前記堀信補の請求に基づき南勢土地の残代金を割賦支払するため、金額二万五〇〇〇円の手形を六〇通被告太陽宛に振出した。

(一一)  原告は、昭和五八年四月頃前記堀信補から南勢土地の所有権移転登記手続に必要な書類を取り揃えるよう連絡を受け、同書類を交付したところ、被告太陽は、南勢土地につき同年四月一八日受付で前所有者株式会社丸十産業から同被告への所有権移転登記を経由したうえ、同年五月二日受付で原告への所有権移転登記手続を了した。

(一二)  原告は、昭和五八年六月頃前記堀信補から、「金を借りるため、オリエント・リースへ一緒に面接に行つてほしい。」と要請されたが、その際、堀は原告に対し、「株式会社菱重観光開発宅地建物取引主任」という肩書の名刺を差し出したので、原告が被告太陽と訴外菱重との関係を問い正したところ、堀は商号が訴外菱重と変更された旨説明した。

その後、原告は、右堀から、本件土地の所有者であつた被告名星の取締役兼営業部長である山口純史の紹介を受け、本件土地の残代金五〇〇万円につきオリエント・リース名古屋支店から融資を受けるため、右山口及び堀とともにオリエント・リース名古屋支店へ赴いたが、その途中、山口は原告に対し、「面接のときは現地を見たと言つてくれ。転売すると言うと、金が借りられないから、財産として持つていると言つてくれ。」と指示した。

そして、原告は、右山口及び堀とともにオリエント・リースの融資担当者と面接し、同担当者の質問に対して山口に指示されたとおり回答し、金五〇〇万円の融資を依頼した。

(一三)  その後、原告は、前記堀信補からオリエント・リースの融資が受けられることになつた旨の連絡を受け、同人の指示に基づき昭和五八年九月二六日頃オリエント・リース名古屋支店に赴き、融資担当者である石橋俊昭、山脇清臣に面接して右融資手続をとつたが、その際、オリエント・リース側にある本件土地の売買契約書の売主欄が被告名星となつているのに気付き、「原告の持つている契約書の売主は被告太陽となつているが、売主が被告名星に変つているのは何故か。」と尋ねると、山脇清臣は、「それはたいした問題ではない。契約書の売主を被告名星に変えてもらえばよい。」と回答した。

そこで、原告は、本件土地の契約書のことが心配になり、同年九月二七日被告名星の山口純史に電話をかけ、「原告の持つている契約書の売主を被告名星に直してほしい。被告名星が原告の買つた六〇〇万円以上で買戻してくれる旨の保証をしてもらいたい。」と要求したところ、山口は、「特約をつけてもよいが、そうすると、オリエント・リースを通して被告名星にしか売れない。他に高く買つてくれるところがあつても転売できない。それでもよければ特約をつける。今特約をつけなくても特約はいつでもつけられる。土地はほぼ一〇〇パーセント値上がりするから、心配はいらない。」と原告に回答した。

(一四)  前記掘信補は、昭和五八年九月二八日原告方に売主欄に被告名星の記名押印ある不動産売買契約書及び重要事項説明書を持参して現われ、原告との間に本件土地を代金六〇二万二〇〇〇円で売買する旨の不動産売買契約書を作成したうえ、右契約書及び重要事項説明書を原告に交付した。その際、右堀は、原告の所持していた本件土地についての被告太陽との不動産売買契約書を回収して、これを持ち帰つた。

(一五)  原告は、昭和五八年一〇月六日本件土地の残代金を支払うため、オリエント・リースから金五〇〇万円の融資を受け、これを被告名星の山口純史に支払い、本件土地を原告とその妻である操川涼子名義に所有権移転登記手続をとつてくれるよう右山口に依頼した。

そして、被告名星は、本件土地につき同年一〇月七日受付で同被告から原告及び操川涼子名義への所有権移転登記手続を了し、また、オリエント・リースは、本件土地につき同日受付で債権額金五〇〇万円の抵当権設定登記、所有権移転請求権仮登記及び停止条件付賃借権設定仮登記を経由した。

このように認めることができる。

2  次に、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  被告太陽は前記1(一)のとおり昭和五四年一一月一二日設立されたところ、その実質的経営は代表者である米田親良が行なつていたが、その業務は不動産の売買及び仲介を主とするものであつた。そして、被告太陽は右業務として、岐阜、三重両県下に所在する山林等を安く買受け、これを図面上小区画に分割して「何某団地」という名称を付し、宅地造成工事が計画されているかのように装つて、土地の値上がりで利殖が図れるかのように顧客に説明し、これを利殖目的を有する顧客に売り込むことを行なつてきたが、本件土地及び南勢土地もその中の一つであつた。

(二)  被告太陽は、右団地名を付した分譲地を販売するに当たり、次のような方法をとつていた。すなわち、女子事務員がまず無差別に客となるべき者に電話をかけ、貯蓄状況及び財形方法を尋ねたうえ、土地の保有による利殖を勧め、これに関心を示した者の自宅に営業部員を派遣して土地の購入を勧誘するというものであるが、右営業部員は、社員研修を施されたうえ、土地区画図面、各区画の販売価格表(右販売価格は代表取締役である米田親良ら幹部が決定したものである。)、売込方法を記載したアプローチブック(銀行預金等の金利と土地の値上がり率を対比させ、土地値上がりによる利殖ないし土地保有の有利さを示す資料等を編集したもの)などを所持して訪問販売に出かけ、専ら土地の保有及び転売による利益を強調して土地の売り込みを行なうというものである。

なお、被告太陽は、社員研修及び社員講習を開催して販売指導を行なつていたが、その内容は専ら土地の値上がりによる資産増及び転売利益を強調して売込みを行なうという技術指導に終始し、土地の立地条件を具体的に説明したり、その開発計画を示したりするようなことはなかつた。このように認めることができる。

3  更に、<証拠>によると、本件土地の昭和五八年一一月七日現在における正常価格(適正な取引価格)は金九九万九〇〇〇円(一平方メートル当たり六四〇〇円)であつて、本件土地は、幅員約四メートルの県道に約一五メートルにわたつて接面し、奥行一二メートルの台形の形状で、北側には幅員約八メートルの別荘地進入路(私道)があり、西側と北側に法面及び擁壁があつて県道よりも約四メートル高い画地であるが、本件土地は原告及びその妻以外の第三者によつて現場事務所の敷地として使用されており、一般住宅の敷地としての利用には難があることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

三右二1認定の各事実によれば、被告太陽は被告名星からその所有にかかる本件土地の売買を委託されていたものと認めることができ、更に、右二1ないし3認定の各事実及び<証拠>によれば、被告太陽の営業部課長鈴木克昌は被告太陽の営業方針に従つて、同被告が作成した土地区画図面及び販売価格表に基づき本件土地が伊勢団地として宅地造成工事が計画され、適正価格の六倍以上に当たる金六〇二万二五〇〇円相当の価値を有し、将来その値上がりが期待でき、それにより利殖を図ることができるかのように申し向けて原告を欺罔し、その旨誤信した原告をして昭和五七年一一月二一日被告太陽との間に本件土地につき代金六〇二万二五〇〇円とする売買契約を締結させたこと(なお、本件土地の売買を委託した被告名星は昭和五八年九月二八日原告の要求に基づき被告名星を売主、原告を買主とし、代金を金六〇二万二〇〇〇円とする不動産売買契約書を改めて作成し、被告太陽による契約の締結を承認した。)そして、原告は、本件土地の販売価格が適正価格の六倍以上もするものであることを知つていたならば、本件土地を買受ける意思は全くなかつたのであるが、右鈴木の言を信用し、少くとも本件土地が金六〇〇万円以上の取引価格を有し、将来その転売利益が得られるものと誤信し、専ら利殖を図る目的で本件売買契約を締結し、金六〇二万二五〇〇円を出捐するに至つたものであることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

更に、前記二1ないし3認定の各事実及び<証拠>を総合勘案すると、被告名星は、本件土地が事務所敷地として使用されているにもかかわらず、これが更地であるかのように偽つたうえ、被告太陽が前示のとおり本件土地を伊勢団地として適正価格の数倍以上の値段で顧客に売りつけることを予期しつつ、その販売を被告太陽に委託し、かつ、本件土地の残代金五〇〇万円の支払につき前記のとおり錯誤に陥つている原告とオリエント・リースとの間に金銭消費貸借契約を斡旋し、本件売買契約の成立ないしその履行過程に加功し、被告太陽の詐欺行為を利用して本件土地の売買代金額を不法に利得したものと認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうだとすると、被告太陽、被告名星は詐欺による共同不法行為者として原告の被つた後記損害を賠償する義務があるものというべきである。

四そこで、原告の被つた損害につき判断するに、原告は被告らの詐欺行為により金六〇二万二五〇〇円相当の損害を被つた旨主張するが、前記二1(一五)認定のとおり原告は本件売買契約に基づき本件土地の所有権を取得し、原告及びその妻操川涼子名義に所有権移転登記を経由していること、更に、前記二3認定のとおり本件土地の正常価格は昭和五八年一一月七日現在金九九万九〇〇〇円と評価されていることが認められ、これらの事実に照らすと、原告がその主張のとおり本件売買契約の締結により金六〇二万二五〇〇円まるまるの損害を被つたものではないといえそうにも見える。

しかしながら、弁論の全趣旨及び本件記録によると、原告は被告名星に対し、昭和五九年一月二〇日送達の訴状副本をもつて本件売買契約を詐欺によるものとして取消す旨の意思表示をしたことが認められ、前記三認定のとおり被告名星は被告太陽による詐欺行為を知つてこれを利用したものと認められるから、右詐欺を理由とする原告の右取消の意思表示は有効なものであり、本件土地の所有権は右取消の時に被告名星に復帰したものであつて、その結果、原告は被告名星に支払つた売買代金六〇二万二五〇〇円の損害を被つたものというべきである。

なお、原告は被告に対し、右取消による原状回復として不当利得によりその返還請求権を行使することができるけれども、右返還請求権があるからといつて、原告に生じた右売買代金相当の損害が回復されたとはいえず、一般に売主が買主を欺罔して売買契約を締結し、売買目的物が引渡された場合には、特段の事情のない限り買主において自ら必要ともしない売買物件を引取るべき義務はないから、その契約を取消し、支払つた売買代金額の返還を不法行為または不当利得のいずれを原因としても請求でき、両請求権が競合するものというべきである(大判大正三年五月一六日刑録二〇輯九〇三頁、大判昭和六年四月二三日民集一〇巻二一七頁、最判昭和三八年八月八日民集一七巻六号八三三頁など参照)。

五以上の次第で、被告らは原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として金六〇二万二五〇〇円及びこれに対する本法行為により最終的に右金員の支払を得た日である昭和五八年一〇月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を各自支払う義務があるものというべきである。

よつて、原告の本訴請求は右金員の支払を求める限度において正当としてこれを認容すべきであるが、本件損害は商行為によつて生じた債務とは認められないから、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官猪瀬俊雄 裁判官玉田勝也 裁判官中島 肇)

別紙物件目録

(一) 伊勢市上野町字追分壱九五九番九

宅地 壱六五・壱七平方メートル

(二) 三重県度会郡南勢町伊勢路字越ケ瀧壱参〇壱番六弐

山林 壱六五平方メートル

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