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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)2898号 判決 1986年10月27日

原告 二村一成

右訴訟代理人弁護士 池内勇

同 大野博昭

被告 真丸特殊印刷株式会社

右代表者代表取締役 根岸寅夫

右訴訟代理人弁護士 織田幸二

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告「被告の昭和五九年八月二日開催の臨時株主総会における取締役として根岸寅夫、田邊勲及び三宅誠香を、監査役として鳥丸義久をそれぞれ選任する旨の各決議は存在しないことを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

1  本案前につき 主文と同旨の判決

2  本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は原告所有土地を占有し、原告との間に右土地の賃貸借、同解除の成否等につき係争中であり、このため原告は被告に対し建物収去土地明渡等請求訴訟(名古屋地方裁判所昭和五九年(ワ)第一九七一号)を提起している。

2  被告は、請求の趣旨記載の決議(以下「本件決議」という。)の存在を主張している。

3  しかしながら、右決議のための臨時株主総会は開催されたことはなく、右決議は存在しない。

4  原告は右訴訟の追行等につき被告会社を代表する者が何れの者であるかを明らかにするために、本件決議の不存在確認を求める必要がある。

二  被告の本案前の主張及び答弁

1  原告は、被告会社の株主でも役員でもなく、会社内部において役員交替が有効になされているものとして株主、役員間に何らの争いがないのに、被告に対する債権者にすぎない原告が右株主総会決議の存在を争うことについては訴の利益がない。

2  請求原因1、2の事実は認める。

3  同3の事実のうち昭和五九年八月二日開催の臨時株主総会が開催されていない事実は認めるがその余は争う。同4についても争う。すなわち、被告は訴外多賀勝己の実質的な個人会社であり、従前より株主総会、取締役会が開催された事実はない。昭和五九年三月、根岸寅夫は訴外多賀勝己より株式を全部譲渡され、会社経営を全面的に委任され代表取締役に就任したが、訴外多賀勝己が同年四月行方不明となり一部債権者より被告会社の資産の搬出がなされたりして会社経営に混乱を生じたことから、役員交替についての手続が遅延し、昭和五九年八月一八日においてはじめて登記手続がなされた。右のとおり単に登記手続上役員交替決議がなされたとして申請された日時が実際と異なるとしても、単に被告の債権者に過ぎない原告としては、右のように会社内部において役員交替が有効になされている以上、あえて株主総会決議の不存在確認を求める利益はなく、仮に何らかの利益があるとしても、単に形式上の瑕疵のみから請求を認容されるべきではない。

第三証拠関係《省略》

理由

一、1 株主総会の決議が不存在の場合には無効の場合と同様、これを主張しうる者、方法、機間に制限がなく誰でも何時でも訴によらない方法によってもこれを主張することができ、また、誰でも必要があれば確認の利益を有する限り、右不存在確認の訴を提起することができるものであるところ、原告において右確認の利益を有するか否かについて検討する。

2 原告は請求原因1(当事者間に争いがない。)のとおり被告に対して土地の所有者として物権的或いは債権的請求権に基づき建物収去土地明渡訴訟(以下「別訴」という。)を提起している者であり、被告の株主又は取締役の地位にはない第三者であるが、本件決議は、被告の取締役三名、監査役一名を選任するものであり、被告の内部機関構成に関するものでありその決議内容自体第三者である原告の何らかの権利、利益を害するものとはいえず、原告は右決議不存在確認の訴を提起すべき法律上の利益を有するものとは考えられない。

3 もっとも原告の提起した別訴において、被告を代表する者として本件決議により取締役に選任されたとする根岸寅夫が被告代表取締役として応訴し訴訟代理人を選任したが原告は本件決議の不存在を理由に右根岸寅夫の被告会社代表取締役の地位を争い右訴訟代理人選任の効力が問題となったことは当裁判所に顕著な事実であり、右訴訟追行上原告は被告を正当に代表する者を明らかにするために本件決議の不存在を右訴訟において主張したことは理由のあるところである。しかるところ、右別訴において受訴裁判所は「根岸寅夫を取締役に選任する株主総会開催の事実はなく、かつ右総会開催の時点までに同人が株式の譲渡を受けているとしても右会社の株式譲渡制限の規定により、右譲渡は会社に対してその効力を生ぜず同人のみが株主としてなした株主総会の決議はいずれにしても不存在であり同人は被告の代表取締役の地位を有しない」ことを理由に同人が被告を代表してなした訴訟代理人への代理権授与については効力がないものとして民訴法八七条、五三条により代理権欠缺補正命令がなされ右命令は確定したが、右補正がなされずその後は右訴訟においては、原告の主張どおり訴外多賀勝己が被告の代表者であるとして訴訟が進められていることも当裁判所に顕著な事実である。原被告間には右訴訟によって係争となっている法律関係以外に特段の取引等が現在存在することは認められず、右訴訟追行については本訴と同一内容の原告の訴訟上の主張が採用されているのであり、改めて独立の訴である本訴提起の必要性は認められない。

4 以上のとおりであって、(右3の別訴において受訴裁判所が「 」内のとおり認定した事実は、《証拠省略》によるとこれを認定することができるとはいえ)会社の株主でも取締役でもない第三者たる原告は、本件決議によってその権利又は利益を害されたものともいえず、特に独立の訴によって対世的にその不存在確認を求めるだけの法的利益を有しないものというべきである。

二  よって、本訴につき訴の利益を欠くとする被告の主張は理由があり、本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村恒)

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