名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)3732号 判決 1988年2月26日
反訴原告(再反訴被告)
山本泰功こと趙登濟
反訴被告(再反訴原告)
濱田福司
主文
一 反訴被告は反訴原告に対し、金四六万七五〇〇円及びこれに対する昭和五九年四月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴原告は反訴被告に対し、金二五三万九三四一円及びこれに対する昭和六一年七月三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告及び反訴被告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、反訴・再反訴を通じてこれを六分し、その五を反訴原告、その余を反訴被告の負担とする。
五 この判決は、第一、第二項につき、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 反訴請求の趣旨
1 反訴被告は反訴原告に対し、金三三三万円及びこれに対する昭和五九年四月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 反訴請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
三 再反訴請求の趣旨
1 反訴原告は反訴被告に対し、金三一三万六七九五円及びこれに対する昭和六一年七月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
3 仮執行宣言
四 再反訴請求の趣旨に対する答弁
1 反訴被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
第二当事者の主張
一 反訴請求原因
1 反訴被告は左記交通事故を惹起した。
(一) 日時 昭和五九年四月一五日午後九時三六分頃
(二) 場所 名古屋市守山区大字守山字山屋敷一六番地
県道名古屋多治見線路上
(三) 反訴被告運転車両 普通乗用自動車(尾張小牧五五ほ五六八八)(以下「反訴被告車」という)
(四) 反訴原告運転車両 普通乗用自動車(岐三三ぬ五七九〇)(以下「反訴原告車」という)
(五) 態様 反訴原告が前記日時場所において反訴原告車を運転して西進中、反訴被告車が右県道の南側から突然反訴原告車の進路へ出てきたために、反訴原告車が避けきれず、反訴被告車に衝突した。
(六) 過失 反訴被告の右方確認義務違反
2 反訴原告は本件事故によつてその所有する反訴原告車を全損し、三〇〇万円相当の損害並びに弁護士費用三三万円の合計三三三万円の損害を蒙つた。
3 よつて、反訴原告は、反訴被告に対し、本件事故による損害賠償金三三三万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年四月一五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 反訴請求原因に対する認否及び反訴被告の主張
1 反訴請求原因1(一)ないし(四)の各事実及び(五)のうち反訴原告が右(一)(二)の日時場所において反訴原告車を運転して西進中、反訴被告車に衝突したことは認め、その余は否認する。同(六)は争う。
2 本件事故の態様は道路交通法違反をして警察のパトロールカーに追われ高速で逃走西進中の反訴原告車が、本件事故現場において転回しようとした反訴被告車に衝突して逃走したものであり、反訴原告が通常の速度で前方を注意して運転しておれば本件事故は発生せず、本件事故は反訴原告の一方的過失によるものである。
三 再反訴請求原因
1 交通事故の発生
(一) 発生日時 昭和五九年四月一五日午後九時三六分頃。
(二) 発生場所 名古屋市守山区大字守山字山屋敷一六県道名古屋多治見線上
(三) 反訴原告運転車両
反訴原告車
(四) 反訴被告運転車両
反訴被告車
(五) 事故の態様 反訴原告が夜間飲酒した上、反訴原告車を運転して迫越し禁止違反をしたのを、パトロールカーに現認追跡され、信号無視、速度違反をしながら逃走中、パトロールカーの追跡をふり切るため、故意に、前照灯を消して無灯火で、しかも毎時四〇キロメートルの速度制限を三〇キロメートルも超過した時速約七〇キロメートルの速度で前方を注視せずに進行していたところ、本件事故現場において転回しようとした反訴被告車の右側面に反訴原告車の前部を衝突させたものである。
2 反訴原告の責任
本件事故は、反訴原告の前方注視義務違反等の一方的過失により生じたものであり、反訴原告は反訴原告車の運行供用者であるから、反訴原告は、反訴被告に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条、民法七〇九条により損害賠償の義務を負う。
3 反訴被告の損害
(一) 人身損害
(1) 休養損害金七八万七八九八円
反訴被告は、自故事時、中京ガス機器株式会社に勤務していたが、本件事故により右鎖骨骨折、右肩、胸部背部打撲症等の傷害を受け、昭和五九年四月一五日から同年一〇月三日までヤトウ病院に入院し、同月二〇日に退院するまで一八三日間就労できなかつた。
本件事故前三か月間の平均賃金に右日数を乗じ健康保険の傷病手当金として受領した金五一万九〇二二円を控除すると
七一四一円×一八三日=一三〇万六九二〇円
一三〇万六九二〇円-五一万九〇二二円=七八万七八九八円
となる。
(2) 入院慰藉料金一六七万二〇〇〇円
(3) 入院雑費金一七万二〇〇〇円
一日一〇〇〇円×一七二日=一七万二〇〇〇円
(二) 物的損害金五〇万四八九七円
反訴被告は本件事故によりその所有する反訴被告車(車名三菱シグマ、昭和五三年式)を損傷し、廃車のやむなきに至つた。
右車両は昭和五八年七月二〇日、代金七四万七〇〇〇円で中古車販売業者から購入したものであり、車両時価の算定方法としての定額法によつて事故当時の時価を算定すると次のとおりである。
残存割合 〇・一
償却率 〇・三三三
七四万七〇〇〇円×(一-〇・一)×(一-〇・三三三×9/12)=五〇万四八九七円
(三) 右(一)(二)の損害を合計すると金三一三万六七九五円となる。
4 よつて反訴被告は反訴原告に対し、本件事故に基づく損害賠償金三一三万六七九五円及びこれに対する再反訴状送達の翌日である昭和六一年七月三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
四 再反訴請求原因に対する認否
1 再反訴請求原因1(一)ないし(四)は認め、(五)は否認する。
2 同2は否認する。
3 同3は不知。
但し、(二)の反訴被告車の時価額算定方法として定額法によることに異議はない。
第三証拠
本件記録の調書中の各書証目録、各証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
理由
一 反訴請求原因1(一)ないし(四)、再反訴請求原因1(一)ないし(四)(本件事故の日時、場所、反訴原告車、反訴被告車)の各事実及び反訴原告が右日時場所において反訴原告車を運転して西進中、反訴被告車に衝突したことは当事者間に争いがない。
二 本件事故現場の状況及び事故の態様
1 成立に争いがない甲第一号証、第二号証の一、二、第四ないし第一三号証、第一五ないし第一八号証によれば次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場付近道路は市街地にあり、見とおしがよく、街路灯が設置(点灯)されており、路面は平坦で舗装されており、速度制限時速四〇キロメートル、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止、駐車禁止の交通規制がなされていた。
(二) 反訴原告は、追い越しのためのはみ出し禁止違反を警察官に現認され、警察用車両(パトロールカー)に追跡されて逃走中、前記一の日時場所において前照灯の蓋が閉まつた状態で、反訴原告車(白色車体)を運転して小幡交差点方面から守山交差点方面へ向けて、前記制限速度を超過する時速約七〇キロメートルの速度で西進中、前方注視を怠つたため、折から進路前方を小幡交差点方面に向かうため転回中の反訴被告車を発見するのが遅れブレーキを踏んだが間に合わず、反訴被告車の右側部と反訴原告車の右前部が衝突した。
反訴原告は本件事故後、現場から逃走した。
2 以上によれば、反訴原告は、前方不注視、制限速度超過等の過失があると認められるから民法七〇九条による責任があり、また反訴原告は反訴原告車の運行供用者であると認められるから人身損害については更に自賠法三条による責任があると認められる。
3 しかし前記認定事実及び前掲各証拠によれば、反訴被告についても道路を転回する際、右後方を十分確認すべき義務があるのにその確認が不十分な状態で反訴被告車を運転した過失があり、民法七〇九条による責任が認められる。
4 以上認定の事実を総合すると、当事者双方の過失割合は、反訴原告八五パーセント、反訴被告一五パーセントと認めるのが相当である。
三 反訴原告の損害
1 成立に争いのない乙第二号証の一ないし四及び反訴原告本人尋問の結果によれば、本件事故により反訴原告所有の反訴原告車(リンカーン・コンチネンタル・マークV一九七九年式)はフロント部を大破するなどして全損となつたこと、同車両の本件事故直前の時価は約二九〇万円であり、同車両の本件事故後のスクラップ(残存)価格は約五万円であると認められ、したがつて本件事故による反訴原告車の損害は二八五万円と認めるのが相当である。
2 過失相殺
右1認定の損害につき前記認定の過失割合で過失相殺をすると四二万七五〇〇円となる。
285万×(1-0.85)=42万7500(円)
3 弁護士費用
弁論の全趣旨によれば、反訴原告は本件事故による損害賠償請求のため弁護士に訴訟代理を委任したことが認められる。
本件事案の難易度、請求認容額、その他一切の事情(本件事故時からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得させないことを含む)を総合すると、金四万円が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用として反訴被告に負担させるのが相当と認められる。
4 右2、3の各損害額を合計すると金四六万七五〇〇円となり、反訴被告は本件事故に基づく損害賠償金として反訴原告に対し金四六万七五〇〇円の支払義務を負うことになる。
四 反訴被告の損害
1 人身損害
(一) 成立に争いがない甲第二二号証の一、二、第二八号証の一、反訴被告本人尋問の結果によれば、反訴被告は、本件事故により右鎖骨骨折、右肩胸部背部打撲症、外傷性頸部症候群、左第五助軟骨骨折、右上腕擦過創の傷害を受け、昭和五九年四月一五日から同年一〇月三日まで入院治療を受けたことが認められる。
(二) 休業損害
前記認定事実、反訴被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二四号証及び弁論の全趣旨によれば、反訴被告は本件事故前、中京ガス機器株式会社に勤務し、同年一〇月二〇日に同社を退職するまで一八三日間就労できなかつたこと、本件事故前三か月の反訴被告の一日当たりの平均賃金は七〇六三円であること、反訴被告は健康保険の傷病手当金として五一万九〇二二円を受領していることが認められる。
したがつて反訴被告の休業損害は
(21万5520+21万6288+21万0940)÷91=7063(円)
7063×183=129万2529(円)
となり、右金額から右既受領健康保険金を差し引くと七七万三五〇七円となる。
129万2529-51万9022=77万3507(円)
(三) 入院雑費
前記のとおり反訴被告は本件事故により一七二日間入院し、そのための一日当たりの入院雑費は金九〇〇円と認めるのが相当である。
900×172=15万4800(円)
(四) 傷害慰藉料
以上認定の反訴被告の受けた傷害の内容・程度、治療経過等を総合すると、本件事故による反訴被告の傷害慰藉料は金一六〇万円と認めるのが相当である。
2 物的損害
反訴被告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二五号証の一、二、第二六号証の一ないし三によれば、本件事故により反訴被告所有の反訴被告車が損傷し、廃車のやむなきに至つたこと、右車両は昭和五八年七月二〇日(本件事故より約九か月前)反訴被告が中古車販売業者から代金六八万円で購入したことが認められる。
同車両の時価算定方法として当事者間に争いのない定額法により、本件事故当時の同車両の時価を算定すると次のとおりとなる。
68万×{1-0.1(残存割合)}×{1-0.333(年償却率)×9/12(9か月)}=45万9153(円)
3 以上1(一)ないし(四)、2の各損害を合計すると
77万3507+15万4800+160万+45万9153=298万7460(円)
となる。
4 過失相殺
反訴被告にも前記認定の過失があるので前記認定の過失割合で右3認定の損害につき過失相殺をすると
298万7460×(1-0.15)=253万9341(円)
となり、反訴原告は反訴被告に対し、本件事故に基づく損害賠償金として二五三万九三四一円の支払義務を負うことが認められる。
五 以上認定の各事実を覆すに足る証拠はない。
したがつて反訴原告の本件反訴請求は反訴被告に対し本件事故に基づく損害賠償金四六万七五〇〇円及びこれに対する本件事故日である昭和五九年四月一五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、反訴被告の再反訴請求は、反訴原告に対し本件事故に基づく損害賠償金二五三万九三四一円及びこれに対する再反訴状送達の翌日である昭和六一年七月三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであり、反訴原告・反訴被告のその余の請求は理由がないからこれらを棄却すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 神沢昌克)