名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2158号 判決 1987年7月27日
原告
丸美シャトー高辻管理者
西垣努
右訴訟代理人弁護士
大脇保彦
同
鷲見弘
同
大脇雅子
同
飯田泰啓
同
相羽洋一
同
谷口優
同
原田方子
同
土方周二
同
林肇
被告
加藤良弘
右訴訟代理人弁護士
島田芙樹
主文
一 原告は、被告の有する別紙不動産目録一記載の区分所有権及び同目録二記載の敷地利用権について競売を申し立てることができる。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、二項同旨。
2 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 別紙不動産目録の(一棟の建物の表示)欄記載の建物(以下「シャトー高辻」という。)には、別紙区分所有者目録記載のとおり延べ五四名の区分所有者がおり、全員で右建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体(以下「本件団体」という。)を構成し、規約を定めている。
2 原告は、昭和六一年四月二〇日に招集された本件団体の集会において、区分所有者及び議決権の各過半数の決議をもつて管理者に選任された。
3 被告は、別紙不動産目録一、二各記載の区分所有権及びその敷地利用権(以下「本件区分所有権等」という。)を有するシャトー高辻の区分所有者である。
4(1) 被告は、次のとおりシャトー高辻の建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした。
(2) 被告はいわゆる暴力的組織である平野家一家徳心会佐藤組組長佐藤文雄(徳心会副会長)が経営する飲食店の従業員であつた。
被告は、昭和五四年六月一三日、シャトー高辻九〇二号室の区分所有権を取得したのであるが、同五九年一二月頃から玄関に佐藤組の組事務所の看板を掲げ、佐藤組長他組員十人余を出入りさせており、佐藤組の配下であるかあるいは、佐藤文雄の言いなりになつて働くダミー的存在である。
(3) ところで、地元の暴力的組織である導友会の内紛に端を発した浜健組と徳心会との抗争が激しくなつた昭和六一年五月一四日未明、シャトー高辻北側のガソリンスタンド駐車場に止めてあつた佐藤組の乗用車のボンネットに短銃で弾丸五発が撃ち込まれる事件が発生した。その際すぐ近くに止めてあつたシャトー高辻二〇三号室に居住する近藤邦夫所有の乗用車が巻き添えで五発の銃撃を受けている。
(4) さらに同年六月一三日未明と同月一六日未明の二回にわたつて前記九〇二号室の表玄関ドアや側面の外壁を短銃でそれぞれ八ないし一〇発射撃される事件が発生した。
(5) 以上の一連の抗争事件から、所轄の瑞穂警察署は右第一回目の発砲事件以来シャトー高辻周辺のパトロールを強化し、同月一四日以降は機動隊を動員し、延べ合計一二名の警察官によりシャトー高辻に張り付きで警戒に当たりそれは今日もなお継続している。右第二回、第三回目の発砲事件は右警戒のすきを突いた無法かつ大胆極まるものであり、特に重大である。
5 被告がシャトー高辻内の専有部分に佐藤組の事務所を設けて暴力的組織の関係者の出入りを許していることにより、将来ともシャトー高辻を舞台とした右のごとき暴力的組織による抗争事件が再発し、他の区分所有者らの生活の平穏が著しく害されるおそれが十分にある。
6 右のごとき被告が佐藤文雄と一体となつて専有部分を佐藤組事務所として使用していることや佐藤文雄組長以下組員の行動等により、シャトー高辻の居住者は、常に恐怖におののきながらの生活を余儀なくされている。すなわち居住者は室外に自由に出ることさえままならず、来訪者も訪れにくくなつたばかりか共用部分の利用を阻害されているのである。
7 そして前記4(4)記載のような無法な抗争事件が、警察官の厳重な張り付き警戒態勢下で発生したことからすれば、被告の専有部分である九〇二号室の一時的使用禁止等の方法によつては、右の共同生活上の著しい障害を除去し、区分所有者からの平穏な共同生活の維持を図ることはきわめて困難である。
(1) そこで、被告を除くシャトー高辻の区分所有者は、規約の定めにしたがい、同年六月二八日の臨時集会において、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数をもつて、被告の有する本件区分所有権等について競売を請求すること及び右競売の請求については、シャトー高辻の管理者である原告に対し訴訟提起を委ねることを決議した。
(2) なお、右に先立つ同月一八日、訴外安藤浩太郎は、被告専有部分である九〇二号室に右集会の通知書を届けた。
8 よつて、原告は、被告を除く他のシャトー高辻の区分所有者全員のために、建物の区分所有等に関する法律第五九条に基づき、被告の有する本件区分所有権等について競売を請求する。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実は認める。
4(1) 同4(1)の事実は否認する。
(2) 同(2)の前段の事実及び後段の事実中、被告が昭和五四年六月一三日本件区分所有権等を取得したこと、同室の入口に昭和五九年一二月頃から昭和六一年六月下旬まで佐藤組の組事務所の看板が掲げられ、組員が出入りしていたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告は、訴外佐藤文雄の配下でもそのダミー的存在でもなく、同訴外人に右九〇二号室を賃貸したものにすぎない。右室を賃借した同訴外人が右看板を掲出し、組員を出入りさせていたもので、同訴外人は、昭和六一年六月下旬には組事務所を閉鎖して同室から退去した。
(3) 同(3)ないし(5)の各事実は認める。
5 同5の事実は否認する。訴外佐藤文雄は、右室から既に退去しているので、今後同種の抗争事件が再発することはあり得ない。
6 同6の事実は否認する。
7 同7の前段の事実は否認する。
(1) 同(1)の事実は不知。
(2) 同(2)の事実は不知。
第三 証拠<省略>
理由
一請求の原因1、3の各事実並びに同4の事実中、(2)の前段の事実及び同後段の事実中、被告が昭和五四年六月一三日本件区分所有権等を取得したこと、同室の玄関に昭和五九年一二月頃から昭和六一年六月下旬まで佐藤組の組事務所の看板が掲げられ、組員が出入りしていたこと及び同(3)ないし(5)の各事実は当事者間に争いがない。
二<証拠>によれば、原告は、昭和六一年四月二〇日に開催された本件団体(丸美シャトー高辻管理組合)の集会(総会)において、規約の定めにしたがい区分所有者及び議決権の各過半数の決議をもつて管理者に選任されたことが認められ、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
三<証拠>によれば、次の事実が認められ、右認定に反する<証拠>は、右各証拠と比較してたやすく信用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
1 本件不動産は、訴外佐藤文雄が昭和五二年に代金を全額支出して購入し、当時の内妻訴外近藤洋子の名義で所有権移転登記を経由したものであるが、訴外佐藤文雄は、昭和五四年に、自己所有のスナックを経営させていた被告に本件不動産の所有権移転登記手続をなし、同時に被告からはいつでも所有権移転登記手続ができるような書類を作成させて預かり保管しており、その管理、処分権は完全に訴外佐藤文雄が有している。
2 訴外佐藤文雄は、暴力的組織である平野家一家徳心会副会長兼同会佐藤組組長であるが、昭和五九年一二月頃からは本件不動産に右組員を居住させ、事実上組事務所として使用していたため、前記一認定のとおり対立する暴力的組織から三回にわたり拳銃による襲撃を受けた。
3 訴外佐藤文雄は、右事件後シャトー高辻九〇二号室から組員を退去させ、以後空室のままにしているが、シャトー高辻の区分所有者らは、かねてから組員らの出入りに不安を募らせていたうえ、右襲撃事件を経験してからは、訴外佐藤文雄が本件不動産の実質的管理、処分権を有している限りいつなんどき同様な事件が発生し、これに巻き込まれるかも知れないとの不安に怯えており、同訴外人がこれを他に譲渡するとしても、再び同様な暴力的組織の関係者に譲渡されはしないかとの強い懸念を抱いている。
4 右事件後、シャトー高辻の区分所有者がその区分所有権を売却しようとしたが、右事件のため売買が成立しなかつた事例があり、訴外佐藤文雄が事実上本件不動産を所有していることがシャトー高辻の区分所有者らに重大な経済的損失をも与える結果となつている。
以上の事実及び前記一の事実によれば、被告は、本件区分所有権等の所有名義を有するとはいえ、実質的管理、処分権は完全に訴外佐藤文雄に掌握され、同訴外人に一切の処分を委ね、本件不動産を同訴外人とその配下の組員らの事務所として使用させたため、多数の警察官警戒の最中においてさえ、繰り返しシャトー高辻及びその付近が対立する暴力的組織の大胆で非常に危険な抗争の場とされたことにより、他の区分所有者らの平穏を著しく害し、シャトー高辻の評価を著しく下落させたものであり、訴外佐藤文雄が本件区分所有権等の実質的な管理、処分権を保有する限り、今後も同様な事件の発生する危険があることは否定できないから、被告は、シャトー高辻の保存に有害な行為及びその管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をなしたもので、これによる区分所有者の共同生活上の障害は著しく、かつ、使用禁止の請求等の方法によつてはその障害を除去して区分所有者の平穏な共同生活の維持を図ることが困難であると認められるから、建物の区分所有等に関する法律五九条一項に規定する要件を具備すると認められる。
四<証拠>によれば、
被告を除くシャトー高辻の区分所有者らは、昭和六一年六月一八日、被告の専有部分である九〇二号室に本件団体の集会の開催通知書を届けた外、本件団体から委任を受けた訴外安藤浩太郎は、同日頃、訴外佐藤文雄と面会して右通知書を交付するとともに被告に弁明の機会を与えたい旨話して被告に対する連絡方を依頼し、さらに後日、電話で同訴外人及び被告の意向を確かめたところ、同訴外人は、「自分が所有者だから被告のことは無視してもよいし、自分は総会に欠席するが、決議には異議をいわない。」旨答えた。
そこで、被告を除くシャトー高辻の区分所有者らは、昭和六一年六月二八日、臨時集会を開催し、規約に従い区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数をもつて本件区分所有権等について競売を請求すること及び右競売の請求については、シャトー高辻の管理者である原告に対し被告を除くシャトー高辻の区分所有者らのために訴訟を提起することを委ねるとの決議をなした。
以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
五してみると、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官猪瀬俊雄)