名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2273号 判決 1986年11月27日
原告
西知多農業協同組合
右代表者理事
石川代三
右訴訟代理人弁護士
越智禮保
被告
愛知県信用保証協会
右代表者理事
篠塚行夫
右訴訟代理人弁護士
鈴木匡
右同
大場民男
右同
吉田徹
右同
鈴木雅雄
右同
深井靖博
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 名古屋地方裁判所昭和六〇年(ケ)第三三〇号不動産競売事件につき、同裁判所の作成した別紙配当表中、配当順位二位の行の利息、損害金、元本、合計欄、配当欄を、利息六九万八四一五円、損害金二三〇万三四七一円、元本一〇〇〇万円、合計一三〇〇万一八八六円、配当一三〇〇万円と変更し、配当順位三位の行を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨の判決。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、古川泰治(以下「訴外人」という。)に対し、
(一) 昭和四九年一二月二一日、二五〇万円を、利息は年九・五パーセント、損害金は年一四・六パーセントとし、
(二) 同年一二月三〇日、七五〇万円を、利息は九・三パーセント、損害金は年一四・六パーセントとし、
それぞれ貸付けた。
2 原告は、同年一二月二三日、名古屋法務局瀬戸出張所受付第二六七五五号をもつて所有者古川圭子の別紙物件目録記載の物件につき、前項の各債務を担保するため極度額一三〇〇万円の根抵当権設定の登記手続を了した。
3 原告は、昭和六〇年六月二一日、当裁判所に対し、1項の債権回収のため、被担保債権七五〇万円及び付帯金として、前項の物件の競売を申立てた。
4 原告は、昭和六一年六月一九日、右競売事件において、前項の被担保債権に元本二五〇万円及びその利息二三万九七八六円と損害金五九万五六〇七円を加え、元本一〇〇〇万円として債権計算書を提出した。
5 当裁判所は、昭和六一年七月一一日、同事件の配当手続において、その売却代金につき別紙のとおりの配当表(以下「本件配当表」という。)を作成した。
6 しかし、次の理由により、三三三万三五〇七円について、原告の債権が被告の債権に優先する。
(一) 競売手続において、執行裁判所は、配当の終期を定めてこれを公告し、かつ、債権者に対して債権の届出を催告しなければならず、この催告を受けた債権者が故意又は過失により届出をしなかつた場合等は損害賠償の責めを負うべきものとされている。
(二) 原告は、本件競売手続中、右催告を受けず、従つて、直接に配当要求の終期を知ることなく、この点において他の債権者と甚だしく権衡を失する。
(三) 競売手続において、申立債権者とその他の債権者との関係については、差押の登記前に登記した担保権者は当然に配当に与ることのできる利害関係人とされ、配当要求をしないでも配当に与れるもので、例えば、剰余の有無は根抵当権にあつては極度額により計算されるものであることからすれば、債権計算書において被担保債権を増額することは何ら不公平と見るべきでない。
(四) 申立債権額が登録免許税の基準となる点についても、申立債権者以外の債権者が同税の負担なくして配当を受け得ることを考慮すれば、実体法上の被担保債権を主とすべきものであり、付随的な同税の多寡によることを論ずるのは本末顛倒である。
7 原告は、被告に対する配当順位三位の配当につき、三三三万三五〇七円を限度として異議の申立をした。
8 よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし5、7を認める。
2 同6は争う。担保権者は、競売の申立をするに際し、被担保債権の額を明らかにしなければならず、執行手続の途中で被担保債権の額を拡張して配当に与るためには、配当要求の終期までに拡張額につき二重に競売の申立をし、開始決定を受けるべきで、配当要求の終期後に債権計算書によつて拡張することは許されない。
三 抗弁
1 被告は、被告と訴外株式会社東名レジャーセンターとの間の昭和五六年一月三〇日信用保証委託契約に基づき、昭和五八年一二月八日訴外商工組合中央金庫に対して代位弁済をなしたことにより、右会社に対し、金九七〇万一〇四五円及びこれに対する昭和五八年一二月九日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による損害金の求償金債権を取得したところ、被告と訴外古川圭子との間の前記信用保証委託契約同日連帯保証契約により、右古川に対し、右求償金債権と同額の保証債務履行請求権を有するに至つた。
2 そこで被告は、右保証債務履行請求権に基づき、右古川の所有する訴状添付別紙物件目録記載の不動産につき、昭和六〇年四月八日名古屋地方裁判所において、不動産仮差押決定(昭和六〇年(ヨ)第五一七号)を得、更に同保証債務履行請求権につき、昭和六〇年八月二八日瀬戸簡易裁判所において、仮執行宣言付支払命令(昭和六〇年(ロ)第三四八号)を得た。
3 しかして、被告は、原告が前記不動産について昭和六〇年五月一五日開始決定を得た名古屋地方裁判所昭和六〇年(ケ)第三三〇号不動産競売事件につき、配当要求の終期である昭和六〇年九月一二日までに、前記仮執行宣言付支払命令に基づき、元金九七〇万一〇四五円及びこれに対する昭和五九年八月九日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による損害金の債権届出をなした。
四 抗弁に対する認否
抗弁をすべて認める。
理由
一請求の原因1ないし5及び7並びに抗弁1、及び3は当事者間に争いがない。
二競売申立債権者が、請求債権を後に拡張できるか否かは、議論のあるところであるが、次に示す理由により、申立後の請求債権の拡張は許されないものと解するのが相当である。
(一) 民事執行規則一七〇条四号において、競売申立債権者が被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは、競売申立書にその旨及びその範囲を記載しなければならないものとしたのは、申立担保権者に、申立の段階で担保権実行の範囲を被担保債権の全部とするか、その一部にするかを選択させ、競売手続を進める最初の段階で、後記のような各基準となる債権額の上限を確定させようとしたものと考えられること。
(二) 被担保債権額が、登録免許税の額の基準だけでなく、過剰競売や無剰余の判断基準などとなる(原告は、剰余の有無は、根抵当権にあつては、極度額によつて計算されるから、増額によつて影響はない、とするが、債権者が被担保債権の額を示した以上、右額により剰余の有無を決すべきである。そうしないと、逆に過剰競売となる虞が出てくる。)ものであるところ、申立後にその範囲の拡張を許すことによつて、右の諸判断が誤つていたことにもなり兼ねず、一つ一つ段階を踏んで確実に処理することが要請される執行手続を不安定なものにし、あるいは混乱させる虞があること。
(三) 申立債権者としては、被担保債権全額について担保権の実行ができるのに、主に登録免許税の節減の目的で、あえて、その実行の範囲を限定した以上、その後において、競売手続を取消す必要も生じかねない債権額の拡張を許してまで、右申立債権者を保護をする必要性に乏しいこと。
(四) 被担保債権者が債権の一部について担保権の実行をした後、残部についても右実行の必要が生ずれば、右手続中において残部につき新たに競売申立をなすことも可能であること(時期的な制限はあるが)。
(五) 他の債権者が、裁判所から、配当の終期を定めた上での債権届出の催告をされるのに、申立債権者がその催告を受けないまま、申立後、請求債権を拡張できないのは、公平を欠くという批判も、事件についての主導権を握る申立債権者とその手続を利用して自己の権利を実現しようとする債権者とを同様に扱う必要がないから、当たらないこと。
(六) 差押の登記前に登記をした担保債権者が配当要求をしないで債権全額について配当に与れるのに、申立債権者が申立債権を拡張して債権全額について配当に与れないのは不公平であるとの批判も、届出をしなかつた債権者には、これによつて生じた損害の賠償責任もあり、必ずしも不公平とは云えないこと。
三よつて、右の解釈のもとに作成された本件配当表は適法であり、その変更を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官福井欣也)