名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2959号 判決 1988年2月26日
原告
寺輪賢治
被告
柴田正己
主文
被告は原告に対し、金九二六万五一三六円及びこれに対する昭和五八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告は原告に対し、金一二九三万二三九七円及びこれに対する昭和五八年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和五八年二月一七日午前九時三五分ころ
2 場所 名古屋市中川区一柳町一丁目二〇番地先県道交差点付近
3 加害車両 普通貨物自動車(名古屋四六て三三―六九)
右運転者 被告
4 被害車 原告
被害者両 自動二輪車(名古屋む九八―三八)
5 態様 原告が被害車両を運転して一柳通から八田町に向かつて走行中、前記交差点手前の道路の左側に加害車両が停車していたので、中央寄りに進路を変更し、加害車両の側方を通り過ぎようとしたところ、突然停車中の加害車両が発進し、右折進行して、被害者両の左側部分に接触させ、被害車両もろとも原告を転倒させ、これにより原告が傷害を負つたものである(以下「本件事故」という。)。
二 責任原因
一般不法行為責任(民法第七〇九条)
本件事故は、被告が後方・側方注意義務及び安全運転義務に違反し、漫然発進、右折した過失により惹起したものである。
三 損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
本件事故により、原告は、外傷性左股関節脱臼、頭部打撲症、左腓骨骨折、左下腿開放創、頸椎捻挫等の傷害を負つた。
(二) 治療経過
入院 石塚外科・整形外科(名古屋市中川区高畑一丁目一三六番地)
昭和五八年二月一七日から昭和五九年一月二八日まで(三四六日間)
通院 名古屋腋済会病院(名古屋市中川区松年町四丁目六六番地)
昭和五九年一月一一日から症状固定日の昭和六〇年五月四日まで(四八〇日間・実日数二九三日)
(三) 後遺症 後遺障害等級第一二級七号該当
左股関節痛(左股内側・外側の疼痛は安静時・夜間時もあり、左膝と前外側の疼痛がある。特に歩行時に疼痛がある。)、腰痛(長距離歩行のときにある。)、左下腿・足部知覚障害
なお、右ほか可動域、周径、歩行に異常がある。
2 治療関係費
(一) 治療費 金三二二万四九五一円
(二) 入院雑費 金二七万六八〇〇円
入院中一日八〇〇円の割合による三四六日分
(三) 入院付添費 金一一六万六九一二円
(四) 通院交通費 金一九万一一六〇円
3 逸失利益
(一) 休業損害 金二二七万五七四九円
原告は、事故当時学生アルバイトとして一か月平均八万四二八七円の収入を得ていたが、本件事故により、約二七か月間休業を余儀なくされ、その間の収入を失つた。
(二) 学費 金七〇万円
原告は、本件事故当時名城大学理工学部の一年生として在学していたが、本件事故により二年間の休学を余儀なくされた。昭和五八年度の学費前、後記各三二万円計六四万円、同五九年度の休学については、在籍料として年六万円、合計七〇万円を大学に納入した。
(三) 将来の逸失利益
原告(昭和三八年九月二〇日生まれ)は前記後遺障害のため、その労働能力を一四パーセント喪失したものであるところ、症状固定とされた昭和六〇年五月四日当時満二一歳であり就労可能年数は四六年間と考えられるから、収入の基準を賃金センサス昭和五九年度産業計・企業規模計の男子労働者旧大・新大卒二〇~二四歳の平均賃金二三二万八五〇〇円として、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式(係数二三・五三四)による年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金七六七万一八四八円となる。
4 慰謝料 金四二〇万円
入・通院分 金二五〇万円
後遺障害分 金一七〇万円
5 弁護士費用 金一〇〇万円
四 損害の填補 金七七七万五〇二三円
原告は次のとおり支払を受けた。
1 自賠責保険金 金二〇九万円
2 被告から治療費等 金五六八万五〇二三円
五 本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。
第三請求原因に対する被告の答弁
一はすべて認める。
二は認める。
三の1(一)及び(二)は認める。ただし原告の受治療行為が本件交通事故と相当因果関係にある傷害の治療のため真に必要であつたか否かは不知。同(三)も不知。同2の(一)、(三)及び(四)は認めるが全額が相当因果関係のある損害とはいえない。同(二)は不知。同3の(一)はアルバイト収入の点は認め、その余は不知、同(二)は認めるが因果関係を争う。休学手続をとれば在籍料の支払のみで足りる。同(三)の原告の年齢及び算定の基礎とした数値は認めるが、就労可能年数をもつて後遺障害による逸失利益算定期間とすることは争う。同4は争う。同5は不知。
四は認める。
第四被告の主張
過失相殺
本件事故の発生については原告にも信号機の設置されていない交差点を直進するに際し制限速度時速四〇キロメートルのところを時速約四五キロメートルで走行し、かつ、左前方の安全確認を怠つた過失があるから、損害賠償額の算定にあたり二割の過失相殺がなされるべきである。
第五被告の主張に対する原告の答弁
争う。原告において、被告車が右折進行するものと予想することは全くできない状況にあり、これに対応する余裕はなく原告に過失は全くない。
第六証拠
記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
第一事故の発生
請求原因一の事実は、すべて当事者間に争いがない。
第二責任原因(一般不法行為責任)
請求原因二の事実は当事者間に争いがない。
第三損害
1 受傷、治療経過等に関する請求原因三1(一)(二)の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立とも争いのない甲第一一号証の一・二並びに第一二号証の一及び原本の存在につき争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同号証の二並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告には請求原因1(三)の後遺症が残り、かつ、その程度は自賠責後遺障害等級第一二級七号に相当するものであることが認められる。
2 治療関係費
(一) 治療費 金三二二万四九五一円
右費用を要したことは当事者間に争いがない。
(二) 入院雑費 金二四万二二〇〇円
原告が三四六日間入院したことは、前記のとおり当事者間に争いがなく、右入院期間中一日平均七〇〇円の割合による合計二四万二二〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。右金額を超える分については、本件事故と相当因果関係がないと認める。
(三) 入院付添費 金一一六万六九一二円
右費用を要したことは当事者間に争いがない。
(四) 通院交通費 金一九万一一六〇円
右費用を要したことは当事者間に争いがない。
3 逸失利益
(一) 休業損害 金二二七万五七四九円
原告が事故当時学生アルバイトとして一か月平均八万四二八七円の収入を得ていたことは当事者間に争いがなく本件事故により事故当日から少なくとも二七か月休業を余儀なくされ、その間合計二二七万五七四九円の収入を失つたことは、前記争いのない治療の経過に関する事実に照らしこれを推認するに難くない。
(二) 学費 金一二万円
原告が本件事故により二年間の休学を余儀なくされ学費等七〇万円を支出したことは当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば正規の手続により休学すれば、在籍料二年分一二万円(一年分六万円)の支出で足りるところ、原告において一年間は事実上の休学であつたため、右七〇万円の支出を要したものと認められるから、本件事故と相当因果関係のある損害としては、在籍料二年分の一二万円とするのが相当である。
(三) 将来の逸失利益
当事者間に争いのない原告が昭和三八年九月二〇日生まれであること、事故時に大学一年生であつたところ、二年間の休学を余儀なくされたことからすると原告が大学を卒業して就労可能となるのは満二四歳時からと認められ、前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、少なくとも満六七歳までの就労可能年数四三年間につきその労働能力を一四パーセント喪失するものと認められるから、昭和六一年度の賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・男子労働者旧大・新大卒二〇~二四歳の賃金年収二四七万四四〇〇円により原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して事故時の現価を算定すると、六八四万五八七二円(円未満切り捨て)となる。
(計算)
事故時の現価=2,474,400×{(利率5%,年数5+43の単利年金現価率)-(利率5%,年数5の単利年金現価率)}×0.14=2,474,400×(24.1263-4.3643)×0.14=6,845,872
4 慰謝料 金四二〇万円
本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療の経過、入・通院の期間及び後遺障害の内容程度その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰謝料額は金四二〇万円とするのが相当であると認められる。
5 なお、被告は、原告の受治療行為がすべて本件事故と相当因果関係にある傷害の治療のため真に必要であるか否か、ひいて治療費及び通院費についても全額が相当因果関係のある損害といえるか否かについてこれを争うが、相当因果関係の存在についてこれを揺るがすに足りる的確な証拠はない。
第四過失相殺
前記の争いのない本件事故の態様と原本の存在及び成立ともに争いのない甲第一七ないし第一九号証によれば、本件事故の発生については被告の過失が大きく寄与していることは明らかであるが、原告にも前方安全確認義務に反する過失なしとせず、前記の被告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の一割を減ずるのが相当と認められる。
第五損害の填補
請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。
よつて、原告の前記損害額合計金一八二六万六八四四円から一割を減じた金一六四四万〇一五九円から右填補分七七七万五〇二三円を差し引くと、残損害額は金八六六万五一三六円となる。
第六弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金六〇万円とするのが相当であると認められる。
第七結論
よつて、被告は原告に対し、金九二六万五一三六円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五八年二月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条及び第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 上野精)