大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)4041号 判決

一 請求原因1、同2のうちの本件登録商標の内容及び同3の一の各事実については、いずれも当事者間に争いがなく、また、いずれも成立に争いのない甲第一ないし第四号証によれば、原告が本件登録商標の商標権者であることが認められる。

二 そこで、次に、被告が被告製品の包装袋等に使用している被告商標が本件登録商標に類似しているか否かについて、その判断要素である外観、観念及び称呼の順に従い、検討する。

1 外観上の対比

前掲甲第一号証、成立に争いのない甲第五号証及び原本の存在及び成立とともに争いのない乙五号証の一ないし五によれば、本件登録商標は別紙目録一記載のとおり白黒に塗り分けられた角柱形線で「バイミツクス」と片仮名で横記したものであり、被告商標は別紙目録二及び三記載のとおり「ハイ・ミツクス」若しくは「ハイミツクス」とゴシツク体の片仮名で横記し、あるいは別紙目録四記載のとおり「HIMIX」とゴシツク体の英文字で横記したものと認められる。もつとも、原告は、本件登録商標は右角柱形線で表記されたものに限定されず、甲第一号証の商標公報に表示されているものは一引用例にすぎない旨主張する(被告の主張に対する原告の反論1(一))が、商標は特定の商品を表示するものとして文字、図形、記号等から構成されるものであり、商標法の採用する登録主義からいえば、商標権の対象となる商標はこれらを用いて公報に具体的に表示されたものに限られ、したがつて、類否の判断も公報上のそれを基準としてなされるべきことは当然であるから右主張は失当であり、また、本件登録商標の右文字形態は極めて特殊なものであつて、視覚上強く人の印象に残るものといい得るところ、前掲乙第五号証の一ないし五によれば、出願人は、本件登録商標の登録出願後、右商標は商標法三条一項三号、四条一項一六号に該当する旨の拒絶理由の通知を受けたこと、これに対する意見書の中で、出願人自身、「本願の商標は白黒に塗り分けた角柱形線で「バイミツクス」と片仮名文字に横記したものであります。」と述べて、自ら本件登録商標の特徴が右文字形態にあることを明らかにし、その結果、登録査定を受けたこと、以上の事実が認められる(これを覆すに足りる証拠はない。)のであつて、これらを総合すれば、本件登録商標にあつては、右文字形態が他との識別力を持つ重要な外観上の要素の一つであると認めるのが相当である。

そこで、右認定事実を前提に本件両商標を外観上対比すると、被告商標のうち英文字で横記された別紙目録四記載のものは、文字自体において本件登録商標とその外観において全く異なり、また、片仮名文字で横記された同二、三記載のものは、冒頭の一文字を除くその余の文字自体は共通であるから、一見して両者を混同するおそれが全くないとはいえないが、視覚上最も強い印象を抱きやすい冒頭の一文字が「バ」と「ハ」で異なつているほか、本件登録商標にあつては前記認定のとおり白黒に塗り分けられた角柱形線というかなり特殊なデザイン文字で表記されているのに対し、被告商標においては普通のゴシツク体で表記されているにすぎず、右のような特徴を有しないのであつて、全体的に観察した場合に受ける印象は明らかに異なつており、外観上、通常の注意力を有する取引者らにとつて、本件両商標が紛らわしく、混同を招きかねないものということはできない。

2 観念上の対比

次に、本件両商標を観念上対比するに、本件両商標ともそれ自体独立の意味を有しない創造語であつて、一つのまとまつた観念を直ちに生ぜせしめるものではないが、共に語尾部分として、「混ざつた」、「混合した」を意味する英語の「ミツクス(MIX)」を用いているところ、本件両商標が複合肥料を表示するものとして用いられていることからすると、この部分に関する限り、取引者らは、本件両商標から「複合」肥料、すなわち、「種々の化学成分を有する」肥料という共通の観念を容易に連想することができるといえるが、この部分自体は、商品の品質を普通に使用される方法で表示したありふれたものにすぎないと考えられるから、右語尾部分を語頭部分と切り離して右語尾部分のみをもつて本件類否の判断の重要な要素とするのは相当でない。そして本件両商標は、その語頭部分において、本件登録商標にあつては「バイ」、被告商標にあつては「ハイ(HI)」と異なる語が用いられているところ、右「ハイ(HI)」なる語は、英語で「高度の」あるいは「高級な」を意味する「HIGH」を容易に連想させるため、被告商標においては、前記語尾部分の「ミツクス」とあいまつて、取引者らに一種の誇称としての「高級な複合肥料」との観念を連想させることとなるのに対し、前記「バイ」なる語は、「~によつて」を意味する英語の「BY」あるいは「生物学」を意味する英語の「BIOLOGY」等を連想させはするが、必ずしも一義的ではなく、それが前記語尾部分の「ミツクス」と繋がつた場合、本件登録商標は、被告商標と異なつて、全体として取引者らに対し意味のある観念を想起、連想させることがないと解され、この理は、拒絶理由通知に対する前記意見書(前掲乙第五号証の三)において、出願人自身も認めているところであるから、結局、本件両商標は、観念上においても共通するところはないというべきである。

3 称呼上の対比

次に、称呼上本件両商標を対比するに、両商標を一連の語として称呼した場合、本件登録商標は「バイミツクス」の称呼が生じ、被告商標は「ハイミツクス」の称呼が生ずるところ、両称呼はいずれも五音からなり、そのうち第一音において「バ」と「ハ」の相違はあるものの、これに続く第二音から第五音までの「イミツクス」のすべてを共通にしている。

このように五音中語頭部分を除く四音を共通にする場合、一般的には、混同を招くおそれがないではなく、とりわけ、共通の語尾部分のみでは当該商品に関して意味内容を容易に連想させ得ないような場合には、一連の語として発音され、異なる語頭部分が全体の語の中に吸収されてしまい称呼上の類似性を否定することができない事例も存するものと解される(成立に争いのない甲第一四ないし第一九号証によつて認められる各審決例も、このような意味で肯認することができる。)。

しかしながら、本件両商標は、前記観念上の対比において検討したとおり、共に語尾部分として「ミツクス」という、商品との関連においてその意味、内容を容易に連想し得る独立の部分を共有し、かつ、同部分自体はありふれたものであるため、取引者らにおいては、これを称呼する際に、その語頭部分に識別の重点を置いて発音し、又は聞き分けて銘記するのが取引経験則上通常であると認められるところ、本件両商標の語頭部分の称呼を対比するに、本件登録商標の「バイ」に対し被告商標は「ハイ」で二音中一音が異なり、かつ、その語勢、語調の相違をも考慮すると、識別力の高いこの部分において称呼上の混同が生ずるおそれはないので、取引上の混同のおそれを判断するのに重要というべき離隔的観察によるときは、全体としても、本件両商標は、称呼上類似する点はないと判断するのが相当である。

4 したがつて、いずれの観点によつても、被告商標は本件登録商標に類似するものとはいえず、これを使用する被告の行為が原告の商標権を侵害するものではないというべきである。

三 以上の次第で、原告の被告に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも失当であるからこれらを棄却する。

〔編註〕 本件に関する商標は左のとおりである。

目録一

<省略>

目録二

<省略>

目録三

<省略>

(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!