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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)4262号 判決 1988年9月16日

原告

安間秀

被告

服部誠司

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して被告服部誠司は金五八二万八五五七円、被告後藤賢次は金五一二万九五五七円及びこれらに対する昭和六〇年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一〇六四万六七九六円及びこれに対する昭和六〇年一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告両名)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和六〇年一月一九日午後一〇時二〇分ころ

(二) 場所 愛知郡日進町大字三本木字大根一番地先県道名古屋豊田線路上

(三) 甲車 普通乗用車(名古屋三三そ三九九八)

(四) 右運転者 被告服部誠司

(五) 右所有者 被告服部誠司

(六) 乙車 自動二輪車(宮崎み一五〇六)

(七) 右運転者 被告後藤賢次

(七) 右所有者 被告後藤賢次

(九) 右同乗者 原告(昭和三八年一一月一日出生・事故時二一歳・男性)

(一〇) 事故態様 前記路上を西から東へ向かう乙車が、同方向を先行する甲車を追従走行中、右折しようとした甲車の運転席ドア付近に乙車の前部が衝突したため、原告は乙車後部座席から放り出されて、路上に転倒した。

2  責任原因

被告らは、それぞれ自己が所有する自動車を運転して運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償補償法第三条に基づき、かつ、共同不法行為者として原告に対し、各自連帯して損害賠償責任を負う。

3  傷害及び治療経過等

(一) 傷害

原告は、右1記載の事故(以下「本件事故」という。)により、右大腿骨転子間粉砕骨折、頭部外傷及び胸部・腹部打撲傷の傷害を負つた。

(二) 治療経過

原告は、右傷害の治療のため、次のとおり入院及び通院をした。

(1) 入院

昭和六〇年一月一九日から同月二三日までおりど病院、同月二三日から同年五月一二日まで及び同年八月二六日から同年九月五日まで国立名古屋病院(通算入院日数一二五日間)

(2) 通院

昭和六〇年五月一三日から同年八月二五日まで及び同年九月六日から同年一〇月九日まで国立名古屋病院(実通院日数一〇日間)

(三) 後遺障害

原告の傷害は、昭和六〇年一〇月九日、症状固定の診断を受け、右下肢短縮(一・七センチメートル)による歩行障害の後遺障害が残存し、右後遺障害については、自賠責調査事務所により自動車損害賠償保償法施行令別表後遺障害等級第一三級九号の認定を受けている。

4  損害

(一) 入院雑費 一二万五〇〇〇円

一〇〇〇円×一二五日

(二) 入通院交通費 三万七〇三〇円

転院タクシー代(一回) 一万六四九〇円

通院入退院バス代(一三回) 二万〇五四〇円

(三) 入通院慰謝料 一五〇万円

入院一二五日・通院一三九日間(実通院日数一〇日)の慰謝料としては一五〇万円が相当である。

(四) 留年に伴う損害

原告は、大学在学中であつたが、本件事故による入院治療のため、学年末試験をいつさい受けられなかつたので、一年間留年をせざるを得なかつた。そのため次の損害を被つた。

(1) 受講料再納付分 六万円

昭和六〇年四月から同六一年三月までの右再納付分(一五〇〇円(一単位)×四〇単位)

(2) 授業料 七四万三五〇〇円

(3) 通学交通費 三六万円

三万円(月額)×一二か月

(4) 逸失利益 二四二万六五〇〇円

昭和六〇年賃金センサス大学卒男子平均賃金の一年分

(五) 後遺障害による逸失利益 五〇〇万六〇三九円

年平均賃金 二四二万六五〇〇円(右(四)(4))

労働能力喪失率 九パーセント

右喪失年数 稼働全期間

稼働年数 四四年

右ホフマン係数 二二・九二三

二四二万六五〇〇円×〇・〇九×二二・九二三

(六) 後遺障害慰謝料 一四〇万円

右後遺障害の慰謝料としては一四〇万円が相当である。

(七) 弁護士費用 九〇万円

(八) 損害のてん補

原告は、被告服部の自動車損害賠償責任保険より保険金として、一九一万一二七三円の支払を受けた。

よつて、原告は、被告らに対し、本件交通事故の損害として、各自金一〇六四万六七九六円及びこれに対する昭和六〇年一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

被告服部

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実中、自己所有の自動車を運転して運行の用に供していたことは認め、その余は否認する。

3  同第3項の事実は知らない。

4  同第4項の事実のうち、(一)の事実は、入院日数一二四日、一日当たり六〇〇円の限度で認め、(二)の事実及び(八)の事実は認める。その余の事実は知らない。

被告後藤

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項の事実中、自己所有の自動車を運転して運行の用に供していたことは認め、その余は否認する。

3  同第3項の事実は認める。

4  同第4項の事実のうち、(一)、(二)及び(八)の事実は認め、その余の事実は否認する。

三  抗弁及び被告らの主張

被告服部

1  免責及び過失の競合

(一) 被告服部は、右折する際に、右折の合図の遅滞及び右後方安全不確認の違反をしていたが、本件事故現場の道路は追越しのための右側部分はみ出し通行禁止区間(以下「はみ出し禁止区間」という。)であるから、右義務違反をもつて過失と目すべきではない。

被告服部は、右側車線を後藤車両が走行していた旨の認識を有していたとしても、右の右折に危険を生じないほど後藤車両はかなり後方を走つていたのであるから、被告服部には過失がないか、過失があつても本件事故の直接原因ではない。

(二) 被告後藤は、はみ出し禁止区間にもかかわらず、右側車線を走行して服部車両を追い越そうとし、時速四〇キロメートルの制限速度を上回る時速五〇ないし八〇キロメートルの速度で進行し、かつ、前方を注視していなかつたから、被告後藤には安全運転義務違反の過失がある。

2  好意同乗

原告は、被告後藤との交遊関係に基づき、無償で被告後藤の車両に乗つていた好意同乗者であつたから、信義則上、損害額の二割について減額されるべきである。

3  留年に伴う損害について

原告が、大学一、二年在学中に取得した単位数は四〇単位程度であり、卒業に必要な単位数一二〇単位の半分にも満たず、本件事故がなくても留年する蓋然性が極めて高かつたから、右損害と本件事故との間には因果関係がない。

被告後藤

1  免責及び過失の競合

(一) 被告後藤は、駐車車両を避けようとして道路中央に寄つて運行したところ、続いて服部車両が減速の上道路左端によつたため、引き続いて右車両の右側方を走行しようとしたのであるから、被告後藤の走行には何ら過失がない。仮に、何らかの過失があつても本件事故の直接原因ではない。

(二) 被告服部は、右折する際に、減速した上道路左側に寄つた後、右折の合図を出さず、右後方安全を確認せずに、突如右折を開始して後藤車両の進路を妨害したから、被告服部には安全運転義務違反の過失がある。

2  好意同乗

原告は、被告後藤との交遊関係に基づき、無償で被告後藤の車両に乗つていた好意同乗者であつたから、信義則上、損害額の五割について減額されるべきである。

3  留年等に伴う損害について

被告服部の3と同旨。なお、原告が、一、二年生の間に四〇単位程度しか取得できなかつたのは、ボクシング部に属していたことによるものであるところ、三年生時に同部の部長になつていることからすると、二年間で更に八〇単位以上の単位を取得する見込はなく留年は必至の状況にあつた。

四  抗弁に対する認否

好意同乗による減額の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因について

1  請求原因第1項の事実及び第2項の事実中、自己所有の自動車を運転して運行の用に供していたことはすべての当事者間に争いがなく、右の事実と後記のとおり本件事故が被告両名の過失の競合によつて生じたものであることからすれば、被告らにおいて本件事故に関し、自動車損害賠償保償法第三条に基づき、かつ、民法第七一九条の共同不法行為者としての責任を負うことが明らかである。

2  同第3項の傷害及び治療経過の事実につき判断するに(被告後藤との関係では争いがない)、原本の存在及び成立ともに争いのない甲第二号証ないし第六号証、成立につき争いのない甲第一〇号証及び原告の本人供述並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、右大腿骨転子間粉砕骨折、頭部外傷及び胸部・腹部打撲傷の傷害を負つた事実、右傷害の治療のため、請求原因第3項記載のとおり入院及び通院をした事実(ただし、おりど病院は昭和六〇年一月二〇日入院、したがつて、通算入院日数は被告服部の自認する一二四日間である)、原告の傷害は、昭和六〇年一〇月九日、症状固定の診断を受け、右下肢短縮(一・七センチメートル)による歩行障害の後遺障害が残存した事実及び右後遺障害は自賠責調査事務所において自動車損害賠償保償法施行令別表後遺障害等級第一三級九号の認定を受けた事実をそれぞれ認めることができ、右認定に反する証拠はない。

3  請求原因第4項の損害に関する事実につき判断する。

(一)  入院雑費

被告後藤との関係では争いがない。

被告服部の関係で右の点につき判断するに、前記2で認定したように、原告は一二四日間本件事故により被つた傷害の治療のため入院したものであるところ、右日数における入院雑費として、経験則上一日につき一〇〇〇円を下回らない金員を支出したものと推認できるから、右の損害として一二万四〇〇〇円とするのが相当である。

(二)  入通院交通費

入通院交通費三万七〇三〇円についてはすべての当事者間に争いがない。

(三)  入通院慰謝料

入通院の日数及び傷害の態様・程度に照らし一五〇万円が相当である。

(四)  留年に伴う損害

(1) 右の事実のうち、本件事故と原告の留年との間の因果関係の有無につき判断するに、前掲甲第一〇号証、原告の本人供述及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告が本件事故当時通学していた大学では、卒業するのに一二〇単位の取得が必要であつたこと、原告は右大学の一、二年生の間に四〇単位前後を取得していたこと、原告は本件事故による入院のため三年生の学年末試験及び同追試験を全く受験できなかつたこと、原告は、その後の昭和六一年次及び同六二年次の試験において卒業に必要な単位を取得し、同六二年三月に右大学を卒業していることが認められる。

右の事実からすれば、結局原告は、本件事故により受験できなかつた学年末試験を除き、前後四年の学年試験で卒業に必要な単位を取得し、卒業したわけであるから、本件事故と右留年との間における相当因果関係の存在が十分推認できるものと言わねばならない。

なお、被告後藤は、原告が、本件事故当時ボクシング部に属し、三年生時には部長にもなつていて(この点は原告の本人供述により明らかである。)四年間で卒業に必要な単位を取る見込みがなく、原告の留年と本件事故の間には因果関係がない旨主張し、これに沿う証拠として、乙ロ第三号証ないし同第五号証を提出しているが、右第三号証は、原告が本件事故当時寄宿していた寮の所有者が、原告が四年以内に卒業するのは無理である旨の話をたまたま聞いたとするにとどまるものであつて、所詮風聞憶測の域を出ない内容であり、原告の留年と本件事故との間の因果関係に疑念を生ぜさせるものには程遠く(右第三号証の作成者が原告の卒業見込みにつき判断し得る知識を持ちあわせていないことは、同人の地位及び右書面の内容より明らかである。)、また、右第五号証(右第四号証はこれと同一内容のものである。)は、その証拠能力に関する疑念はさておいても、結局、前記推認の基礎となつた前掲認定事実をかえつて裏付けるものともいえるものであつて、右各乙ロ号証は、前記推認を覆すに足りないものと言うべきであり、もとよりボクシング部に関係していたとの事のみをもつて留年必至とみることはできない。

(2) 留年等に伴う損害に関する事実のうち、損害の額及び内容に関する(1)ないし(4)の事実につき判断するに、原本の存在及び成立ともに争いのない甲第八号証の一ないし三、前掲甲第一〇号証、原告の本人供述及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、本件事故に伴い、受講料再納付分六万円、授業料七四万三五〇〇円及び通学交通費として三四万八八〇〇円を下回らない支出を余儀なくされた事実及び一年間卒業期日が遅れた事実を認めることができ、原告の当初の卒業見込時における原告の年齢性別に相当する大学卒男子の平均賃金が、昭和六〇年度賃金センサスにおいて年額二四二万六五〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実である。

(3) 右によれば、原告が留年により被つた損害が、三五七万八八〇〇円である事実を認めることができる。

(五)  後遺障害による逸失利益

既に見たように、原告に後遺障害のあることは明らかであるが前掲甲第一〇号証成立に争いのない甲第九号証の一ないし三及び原告の本人供述によれば、これにより原告が就職に際し減収を余儀なくされたと認めるに足りず、右証拠によれば、原告は勤務先において昭和六二年度賃金センサス第一巻第一表に示される大卒者の平均年収二四五万九九〇〇円(当裁判所に顕著である。)を超える二九四万円の年収を得ていることが明らかであるから、原告主張の後遺障害による逸失利益の損害を認めることは相当でなく、この点は慰謝料において考慮するのが相当である。

(六)  後遺障害慰謝料

原告の後遺障害の内容、程度及び右(五)で説示した点を総合考慮すると、右の慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。

(七)  弁護士費用

後記認定の認容額、訴訟の難易度等に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての弁護士費用としては、五〇万円が相当である。

(八)  損害のてん補

原告が自動車損害賠償責任保険から一九一万一二七三円の支払を受けていることは当事者間に争いがない。

二  抗弁及び被告らの主張について

1  免責及び過失の競合

被告両名の右抗弁事実につき判断するに、前掲甲第一〇号証、成立に争いのない乙イ第一号証、原本の存在及び名古屋調査事務所の作成部分につき成立に争いがなくその余の部分につき弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙イ第二号証、原告の本人供述及び被告両名の各本人供述を総合すれば、被告服部は、右折して前方の駐車場に進入する際に、減速した後、右後方を追行している被告後藤運転車両のあることを認識しながら、右後方安全を確認せずに、右折の直前にその合図を出し右折を開始して後藤車両の進路を妨害したこと、被告後藤は、はみ出し禁止区間にもかかわらず、右側車線を走行して服部車両を追い越そうとし、時速四〇キロメートルの制限速度を上回る少なくとも時速五〇キロメートル程度の速度で進行したことが認められ、これらの事実からすると、被告服部及び被告後藤には共に安全運転義務違反があり、右義務違反の過失が競合して本件事故を発生させた事実が認められる(被告両名の過失内容につき、細かい点で前掲各証拠は矛盾する部分もないではないが、いずれも細部の事実の食い違いであり、仮に右事実の矛盾点、食い違いを斟酌しても、右認定を覆すに足らないものと言うべきである。)。

したがつて、被告両名が共同不法行為の関係に立つことは明らかであるから、その余の事実を判断するまでもなく、被告両名の右抗弁は理由がない(被告両名の過失割合や本件事故への寄与度等は、被告両名の原告に対する責任そのものを何等左右しないことは明らかである。)。

2  好意同乗

前掲甲第一〇号証、原告の本人供述及び被告後藤の本人供述を総合すれば、本件事故当時、原告は、被告後藤との交遊関係に基づき、無償で被告後藤の車両に同乗していた事実が認められるから、被告後藤との関係においては所謂好意同乗者として本件事故による損害のうち慰謝料について二割を減額するのが相当である。なお、被告服部については、運転者と同乗者との人的つながりを理由とする好意同乗減額の性質にかんがみ、これを考慮すべき筋合いではない。

三  結論

以上によれば、原告に対し、被告両名が共同不法行為者として連帯して支払うべき損害賠償額は、被告服部につき、<1>入院雑費金二万四〇〇〇円、<2>入通院交通費金三万七〇三〇円、<3>慰謝料金三五〇万円(入通院分金一五〇万円・後遺障害分金二〇〇万円)、<4>留年に伴う損害金三五七万八八〇〇円の合計金七二三万九八三〇円から、てん補分一九一万一二七三円を控除した金五三二万八五五七円に弁護士費用五〇万円を加算した金五八二万八五五七円及びこれに対する事故日である昭和六〇年一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金であり、被告後藤については、<1>入院雑費金一二万五〇〇〇円、<2>入通院交通費金三万七〇三〇円、<3>慰謝料金二八〇万円(前掲三五〇万円から二割を減じたもの)、<4>留年に伴う損害金三五七万八八〇〇円の合計金六五四万〇八三〇円から、てん補分一九一万一二七三円を控除した金四六二万九五五七円に弁護士費用金五〇万円を加算した金五一二万九五五七円及びこれに対する前同遅延損害金となる。

よつて、原告の本訴請求は右認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条及び第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 上野精)

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