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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)4305号 判決 1991年9月06日

原告

吉川正吾

早稲田清治

宮沢富夫

近藤明

山田卓郎

吉沢弘善

伊藤正郎

宮崎武

森寛

山田繁雄

中本智

片桐正博

水野潔

西東敬行

高橋寿恵吉

戸塚清

鎌田定男

加藤幸夫

谷田川潤也

小田五夫

岩田登

川村宰司

高橋優

中上秀雄

西尾卓朗

右二五名訴訟代理人弁護士

尾関闘士雄

松本篤周

長谷川一裕

鍵谷恒夫

猪子恭秀

被告

名鉄運輸株式会社

右代表者代表取締役

村上光男

右訴訟代理人弁護士

高橋正蔵

奥村敉軌

浦部康資

主文

一  被告は原告らに対し、別紙債権目録の各原告に対応する認容金額欄記載の金員をそれぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同伊藤正郎、同吉沢弘善と被告との間に生じたものは、それぞれにこれを一〇分してその二を被告の、その余を右原告らの各負担とし、右原告らを除くその余の原告らと被告との間に生じたものは全部被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の求める判決

被告は原告らに対し、別紙債権目録の各原告に対応する請求金額欄記載の金員をそれぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らがその雇用者たる被告に対し、被告の採用する時間外及び深夜労働に対する割増賃金の計算方法は労働基準法(以下「労基法」という。)三七条一項、同法施行規則に違反しており、適法な計算方法によれば割増賃金の未払があるとして、賃金請求権に基づき右未払金の支払を求める事案である。

一争いのない事実

1  被告は主として一般路線貨物自動車運送業を営む株式会社であるが、原告らはいずれも被告の従業員であり、昭和五九年三月一六日から同六二年三月一五日まで、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同伊藤正郎、同吉沢弘善は運行の職務(路線、ローカル、フェリー運行車に乗務する職務)に従事し、その余の原告らは運行以外の事務、現業、集配等の職務に従事した。

2  被告は、昭和五九年三月一六日改正の給与規程(本件給与規程という)二四条において、時間外勤務手当及び深夜勤務手当の一時間当たり賃金を次式により算出するものとしている。

時間外勤務手当

深夜勤務手当

被告における一日の所定労働時間は八時間であり、一年間における一か月平均所定労働時間は一九〇時間である。

3  職務給

本件給与規程一一条によれば、職務給は職員の従事する職務内容を運送、運行に区分し、「職務給表」により運送については業績給を、運行については乗務本給を支給するものであるが、同規程細則3によれば、その具体的計算方法は以下のとおりである。

(一) 業績給

(1) 店所を勤務地別に別紙店所区分表のとおりa〜eに区分し、各人の運送の職務を別紙資格要件表のとおり細分したうえ資格要件に従って振り分ける。

(2) 店所単位の物的生産性に基づき次式により業績指数を算出し、右指数によって別紙職務給表のとおり業績ランクをS、A、B、C、Dに区分する。

(業績指数算出式)

ただし、一か月の出勤及び休日出勤日数(出勤等日数という)が二四日に満たない場合は、右の業績指数を出勤等日数/二四に置き換えて業績ランクの算定を行う。

(3) 業績給の支給金額は、(1)、(2)による勤務地別店所区分、職務別資格要件、業績指数により別紙職務給表に定める月額を支給する。ただし、一か月の出勤等日数が二四日と異なる場合は、右の月額を二四で割り、出勤等日数を掛けた金額を支給する。

(二) 乗務本給

(1) 店所を勤務地別に別紙店所区分表のとおり、a〜eに区分し、各人の職務によって資格要件を運転士と見習運転士に振り分ける。

(2) 各人の運転距離及び荷作業重量に基づき次式により業績指数を算出し、右指数によって別紙職務給表のとおり業績ランクをS、A、B、C、Dに区分する。

(業績指数算出式)

運転距離(高速道粁+一般道粁×1.75)+荷作業重量(荷積屯数×15.00+荷卸屯数×10.00)×係数

ただし、一か月の出勤等日数が二四日に満たない場合は、右の業績指数を出勤等日数/二四に置き換えて業績ランクの算定を行う。

(3) 乗務本給の支給金額は、(1)、(2)による勤務地別店所区分、職務別資格要件、業績指数により別紙職務給表に定める月額を支給する。ただし、一か月の出勤等日数が二四日と異なる場合は、右の月額を二四で割り、出勤等日数を掛けた金額を支給する。

4  運行手当

本件給与規程二五条によれば、路線、ローカル、フェリー運行車に乗務する職員(運行乗務員という)の深夜勤務時間に対する割増相当額として運行手当が支給される。運行手当は運転手当、ワンマン運転手当、けん引手当、フェリー乗船手当、荷作業手当からなり、荷作業手当は、荷作業重量一トンにつきワンマン運行で五五円、ツーマン運行で三八円の割合で算出した金額が支給され、その余の手当は別紙運転手当表、同ワンマン運転手当表、同けん引手当表、同フェリー乗船手当表により算定支給される。

5  運行乗務員の労働時間

(一) 本件給与規程二八条によれば、運行乗務員の労働時間は標準運行時間(運転時間、荷作業時間、点呼・点検・給油・洗車時間、車上仮眠時間、フェリー乗船時間)、手待時間(総労働時間から標準運行時間を差し引いた時間)、運行外作業時間(運行の前後に集配、現業等の作業に従事した場合の実労働時間)により算定するものとされ、標準運行時間は以下のとおり定められている。

(1) 運転時間

一般道路 運転粁÷四〇粁/時間

高速道路 利用区間粁÷七〇粁/時間

(2) 荷作業時間 荷積・荷卸重量×一六分/トン

(3) 点呼・点検・給油・洗車時間 一運行につき二時間

(4) 車上仮眠時間 二人乗務の非運転時間

(5) フェリー乗船時間 出港から寄港までの乗船時間

(二) 同規程二九条によれば、運行乗務員の労働時間中、車上仮眠時間、フェリー仮眠時間(フェリー乗船時間から二時間を差し引いた時間)及び手待時間については、実労働時間に対し賃金支給率を三分の一とするが、実務計算上は実労働時間に換算するものとし、換算率は一〇分の4.667とするものとしている。

6  被告の給与計算期間は前月一六日から当月一五日までであるところ、昭和五九年四月から同六二年三月まで(昭和五九年三月一六日から同六二年三月一五日まで)の原告らの各月ごとの出勤等日数、総時間外労働時間、深夜労働時間、本人給及び付加給・職務給・能率給(ここでは生産奨励給、集配能率給、運賃歩合給、運行能率給をいう。)の各支給額は、それぞれ各原告に対応する別紙認容金額計算表のA欄、B欄、深夜時間欄、E欄・F欄・G欄記載のとおりである。

また、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同吉沢弘善に対する時間外勤務手当・運送深夜勤務手当支給額は右各原告に対応する別紙認容金額計算表の時間外支給額欄・運送手当欄記載のとおりであり(原告伊藤正郎については、運送深夜時間がないので運送手当の支給はない)、その余の原告らに対する時間外勤務手当・深夜勤務手当支給額は、各原告に対応する右計算表欄外の時間外割増賃金・深夜割増賃金支給額合計欄に記載したとおりである(ただし、原告鎌田定男に対する深夜勤務手当支給額は、右計算表の深夜支給額欄に記載した金額から欄外記載の運行手当支給額を差し引いた運送深夜勤務手当の金額についてのみ争いがない)。

二争点

原告らは、時間外勤務手当及び深夜勤務手当の計算方法は別紙計算式記載の「原告主張の計算式」によるべきであり、本来各原告に対応する別紙請求金額計算表記載の数値及び計算結果により、同表の時間外請求額及び深夜手当請求額欄記載の金額の割増賃金が支払われるべきところ、その一部しか支払われていないと主張するのに対し、被告は右計算方法は別紙計算式記載の「被告主張の計算式」によるべきであり、割増賃金の未払分は存在しないと主張する。そこで、原告らと被告の主張の対立点を整理すれば以下の三点となり、これが本訴における争点である。

1  時間外勤務手当の一時間当たり賃金額を算定する際、本件給与規程においては、職務給は出来高払制その他の請負制によって定められた賃金に当たるものとして、総労働時間で割り0.25を掛けているが、月によって定められた賃金として月間所定労働時間で割り、1.25を掛けるべきか。

(一) 原告の主張

歩合給とは生産高の一定歩合を賃金として支給するものであり、出来高給とは労働時間ではなく仕事の量によって賃金を支払うものであるが、職務給は、本件給与規程上職務要素による基本給として位置付けられており、その計算に当たっても勤務地別の店所区分及び職務別の資格要件により基本的な金額が算定されているから、その基本的性格は固定給に属するいわゆる職務給(各職務についてその必要とする知識、技術、努力、責任の度合や作業条件などの職務の困難度と重要度等を評価要素として職務の相対的価値を評価しその価値に応じて決める賃金)にほかならない。業績指数による差は各店所区分及び資格要件ごとにみると最大金八〇〇円にすぎず、各月額に対して一パーセント程度変動するにすぎないのであり、名目的に僅少の差を設けることによって時間外勤務手当の支給額を減額することは不当であり違法といわなければならない。

(二) 被告の主張

基本給であれば固定給であるという論理必然性はなく、職務給の額についても地域、職種により格差を設けることはむしろ合理的であり、それがあることによって歩合給たり得ないというものではない。職務給は生産性に応じて支払われる給与項目としての歩合給の一種であるが、被告の給与体系には他にも生産性に応じて支払われる給与項目として能率給があり、能率給においてはかなりの格差が生じ得ることから、職務給における格差を右の程度に止めたものである。

2  運行乗務員に支給される運行手当をもって、深夜勤務時間に対する割増相当額とすることの適否

(一) 原告の主張

深夜勤務時間に対する割増相当額と認められるためには、単に給与規程上その旨の定めをすれば足りるというものではなく、深夜勤務時間の割増賃金にふさわしい実質を備えることが必要であり、具体的には深夜の労働時間の長さ及びその労働者の一時間当たり賃金との対応関係をもつことが必要である。しかるに、運行手当は運行乗務員が貨物自動車の走行をしたこと、ワンマン走行をしたこと、荷作業をしたことなどの作業の量に対応して昼夜の区別なく支払われるものであり、深夜勤務時間の割増賃金にふさわしい実質を備えるものとはいえず、その実質は歩合給である。

なお、本件給与規程に改正される前の昭和五四年四月一六日改正の旧給与規程においては、路線乗務手当(運転手当、荷作業手当、直集配料、途中積卸し料、横持料、待機手当、ワンマン運行手当、けん引手当)が時間外勤務時間に対する割増相当額として支給されており、深夜勤務手当は別に支給されていた。

(二) 被告の主張

運行手当は、給与規程の抜本的改正に伴い、運行乗務員の深夜勤務時間に対する割増相当額として、本件給与規程において設けられたものであり、従前の路線乗務手当とは全く別のものである。

運行手当は、走行距離、作業重量に基づいて計算するという点において深夜勤務に対する割増手当の計算方法として特殊なものであるが、その故に深夜勤務手当としての実質を有しなくなるというものではない。被告は、運行手当の名目による深夜勤務時間の割増手当相当分の支払額が労基法所定の計算式による割増手当額を下回ることがないよう、常に両者を比較監視しており、実質的に労基法違反の状態は生じていない。

3  標準運行時間制の採用及び手待時間の時間換算は、脱法的に「みなし労働時間制」を導入したことになるか。

(一) 原告の主張

(1) 労基法三七条の趣旨は、同法三二条一項による一日八時間労働の原則の例外である時間外労働について、割増賃金の支払を義務付けることにより、時間外労働を抑制するところにある。したがって、時間外勤務手当支給の対象となる時間は実際の労働時間が八時間を超えているかどうかが基準となるが、実際の労働時間の把握が困難な職種については、計算上の労働時間を算出しその時間労働したものとみなす「みなし労働時間」制をとることが認められている。しかしながら、みなし労働時間は例外であるから、その制度を採用しなければならない必要性があり、かつ、みなし時間の計算も実際の労働時間を下回ることがないように合理的に定められなければならない。

(2) 被告においては、標準運行時間を超える労働時間は手待時間とされ、時間換算により0.4667倍されて計算されるから、手待時間と評価されない0.5333の部分は切り捨てられることになる。したがって、標準運行時間制度は部分的な「みなし労働時間」制にほかならず、本来「みなし労働時間」制を採用することができない職種について、部分的にせよ「みなし労働時間」制をとることは脱法的行為として許されない。被告においては、運行乗務員の実際の労働時間を把握することは可能であるから、「みなし労働時間」制を採用することはできない。

(3) 標準運行時間は実態に適合していない。すなわち、運転時間については、順調に走行できたとして始めて達成できるものであり、ラッシュ、事故、天候不良などによる道路渋滞を全く評価していないし、荷作業時間については、積み込む荷物が届くまでの待機時間及び荷物の仕分け作業時間を考慮しておらず各営業店所の作業実態に適合していない。にもかかわらず、標準運行時間を超えた労働時間はその実質を問わず手待と評価し、賃率にして三分の一しか支給しないこととしたものであり、不当な制度である。

(4) 被告は、標準運行時間により手待とみなされた時間について賃率を三分の一にするのではなく、時間換算をしている。賃率を下げるだけであれば、所定労働時間内に手待時間が相当あり、時間外労働時間に実労働時間がかなりある場合、その時間外労働時間については割増賃金を支払わなければならない。ところが、時間換算をすることにより、所定労働時間内の手待時間が時間として0.4667倍されるため、本来は時間外労働時間として評価されるべき時間が所定労働時間内に組み込まれることになり、その分の割増賃金の支払を免れることになり、不当違法である。

(二) 被告の主張

(1) 運輸業界においては、運行乗務員の労働時間を実労働時間と手待時間の二つに区分している。手待時間とは、休憩ではないが精神的肉体的に非常に苦痛の少ない休憩に匹敵するような時間を意味する。手待時間の賃率をどう定めるかは労使の協議に委ねられており、被告においては賃金支給率を実労働時間に対し三分の一と定めている。

(2) 原告らの主張する「手待時間と評価されない時間」というのは、手待時間の賃率を実労働時間の三分の一と定め、かつ、計算を簡便にするため時間換算したことの結果にすぎず、「手待時間と評価されない時間」なるものは発生していないから、標準運行時間は「みなし労働時間」ではない。

(3) 運行乗務員の実際の労働は管理者の指揮下で労務を提供するものではないため、労働時間自体の把握は可能であるが、途中の作業形態を把握すること、すなわち手待時間を把握することは極めて困難である。そこで、手待時間を算定するために採用されたのが標準運行時間制度である。被告の標準運行時間制度は、点呼・点検・給油・洗車時間については十分に余裕のあるものであるし、運転時間についてもほぼ実態と合致している。また、荷作業時間についても手待時間と評価すべき時間が相当程度存在することは明らかである。

第三争点に対する判断

一争点1について

1  労基法三七条一項の規定による割増賃金の計算は、通常の労働時間の賃金の一時間当たり金額に二割五分を最低とする一定の割増率及び労働時間数を乗じて行われ、労基法施行規則(規則)一九条はその一時間当たり金額の求め方を賃金の種類ごとに規定しているが、日によって定められた賃金についてはその金額を一日の所定労働時間数で除した金額(同条二項)、月によって定められた賃金についてはその金額を月における所定労働時間数で除した金額(同条四項)であるのに対し、出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における総労働時間数で除した金額(同条六項)である。右規定の趣旨は、請負給の場合には一定の労働時間に対応する一定の賃金が定められておらず、常に実際の出来高等に対応する賃金が請負給として支払われるから、時間当たり基礎賃金額の計算方法上も日給、月給等の場合と異なり、実際の支払賃金総額と総労働時間数によって算定することとしたものである。総労働時間数は実労働時間の総数であり、所定労働時間の内外を問わず、時間外又は休日労働時間数も含まれる。また、日給制や月給制によって賃金が定められている場合には、通常の労働時間の賃金に二割五分以上の加給をした金額が支払われなければならず、一時間当たりの金額に掛けるべき割増率は1.25であるのに対し、出来高払制その他の請負給制によって賃金が定めらている場合には、時間外における労働に対しても通常の労働時間の賃金(右割増率の一に相当する部分)は既に支払われているから、割増部分に当たる金額、すなわち時間当たり賃金の二割五分以上を支給すれば足りるのである。

2  右規定の趣旨に照らして、職務給が規則一九条六項にいう請負制によって定められた賃金に当たるか否かについて検討するに、業績指数だけをみれば、業績給については店所ごとの物的生産性(取扱重量)を所属職員の個別総労働時間数を物差しとして各職員に配分するものであり、乗務本給については職員個人の物的生産性(運転距離及び荷作業重量)に応じて指数が算出されているから、業績指数がそのまま支給金額に反映されていれば、職務給は実際に行われた労働に対する賃金が支給されるものとして請負給に当たるものと考えられる。しかしながら、職務給においては、業績指数を算出しSABCDの五段階にランク分けしたのち、職務給表へのあてはめが行われることによって、同一店所に勤務し、同一職務に従事する同一資格者であり、かつ一か月の出勤等日数が二四日である限り、必ずDランクの金額の支給を受け得るし、出勤等日数が二四日と異なれば、職務給表の金額を二四で割り出勤等日数を掛けた金額が支給されるのであるから、少なくともDランクの金額については請負給とはいえず、職務給表の金額を二四で割った金額が一日の所定労働時間八時間に対応する日によって定められた賃金に当たるといわなければならない。

3  次に、業績ランクによって変動する部分について検討するに、各ランク間の金額は二〇〇円刻みであり、最低のDランクと最高のSランクとの間の差額が八〇〇円にすぎないことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告は昭和五七年七月から、勤務地をaないしeの五ランクに分け(地域分けは職務給の別紙店所区分表と同一)、地域ごとに異なる金額(aランクは日額金二三〇円、bランクは日額金二〇五円、cランクは日額金一六〇円、dランクは日額金一一五円、eランクは日額金七〇円)を当該地域に勤務する従業員に支給する地域別業績給を導入した。被告は地域別業績給は請負給に当たるとして、割増賃金算定に当たり総労働時間で割り割増率も0.25としていたが、同年一二月六日、一宮労働基準監督署の監督官から被告一宮支店に対し、割増率を1.25に改めるよう是正勧告がなされた。これを受けて被告は、昭和五八年四月一六日に給与規程及び同細則を改正し、割増賃金計算式のうち地域別業績給の部分を所定労働時間で割り1.25を掛ける方式に改め、昭和五八年六月分給与支給時に昭和五七年九月分にさかのぼって差額を支給した。

(二) 被告は、原告らが所属する全日本運輸一般労働組合名鉄運輸支部に対する昭和五八年三月二八日付け労働条件等改訂申入書において、業績給及び乗務本給を年齢勤続による本人給、精励手当、家族手当、通勤費と並ぶ固定給的賃金として位置付けていたが、「残業計算は変動給の取扱い」と付記し、割増賃金算定の関係でのみ請負給として扱う旨表明していた。また、右申入書によれば、改定のポイントとして、事務、現業、集配乗務職については、固定給の一部である能力給を職務給(業績給)に移行し、残業単価の引き下げを行い、これによって生じた原資を、生産奨励給(店所別の時間当たり純収入に基づいて算定し、個々人の労働時間に応じて比例配分する給与)ないし集配能率給(集配運転士につき、個別の稼働実績に基づいて算定し、個別の労働時間に応じて支給する給与)として配分することを掲げていた。

(三) 被告が職務給の業績ランク間格差を二〇〇円刻み最大八〇〇円としたことに特別の根拠はなく、若干の格差を設けさえすればよいとの認識であった。

以上の事実に照らして考えれば、職務給の本質は固定給(日給)であり、業績ランク別の最大八〇〇円の変動部分は、請負給(常に実際に行われた労働に対する賃金が支払われる)とはいえないものを、それらしく見せかけるための装飾的部分であり、労基法の定める割増賃金の支払いを免れるための操作といわざるをえない。したがって、右変動部分についても請負給として扱うことは相当でなく、全体として固定給として扱うべきであり、時間外勤務時間及び深夜勤務時間に対する一時間当たり割増賃金額は、別紙計算式「裁判所の採用する計算式」の時間外単価及び深夜単価記載の計算方法により算出すべきである。

二争点2について

1  本件就業規則上、運行手当は運行乗務員の深夜時間に対する割増相当額として支給する旨定められていること、運行手当のうち荷作業手当については荷作業重量一トン当たり何円という定め方が、その他の運転手当等については走行距離一キロメートル当たり何円という定め方がされており、作業等が深夜に行われたか否かの区別なく支給されるものであることは、先に争いのない事実として掲記したとおりであり、<証拠>によれば以下の事実を認めることができる。

(一) 被告の昭和五四年四月一六日改正の旧給与規程には路線乗務手当という賃金項目があり、会社の指示によって路線運行車に乗務した職員に対し、運行に付帯する作業を行った場合その作業内容に応じて支給するものとされていた。路線乗務手当は、運転手当(就行路線の片道運転手当算定粁程及び車種に応じて支給する)、荷作業手当(積込み又は取卸し作業に従事したそれぞれの重量に応じて支給する)、直集配料(自車又は他車の積載貨物を直集又は直配した場合、その作業内容に応じて支給する)、途中積卸し料(運行途中において追積み、荷卸しをした場合、その店所数に応じて支給する)、横持料(集約等を目的として店所間の横持作業を行った場合、その重量に応じて支給する)、待機手当(業務の都合により、発着地において運行を待機し荷扱い等の作業に従事した場合に支給する)、ワンマン運行手当(交替運転士又は助手を添乗させないで運行した場合、運転粁に応じて支給する)、けん引手当(トレーラー車をけん引して運行した場合、そのけん引粁に応じて支給する)からなり、時間外勤務時間に対する割増相当額として規定していた

(二) 旧給与規程から本件給与規程への改正に当たり、時間外勤務時間に対する割増賃金については労基法所定の計算式で算出することとしたため、路線乗務手当は時間外勤務時間に対する割増相当額としては不要になったが、被告は、直集配料、途中積卸し料、横持料、待機手当については、それぞれの作業を賃金面で評価する必要があると判断し、同一名称で基準賃金内の給与項目である運行能率給(乗務諸手当)として残し、支給基準も同一とした。運転手当、荷作業手当、ワンマン運行手当、けん引手当については、深夜勤務時間に対する割増賃金を労基法所定の計算式で算出し支給する原資を得るためには廃止の必要があったが、一キロメートル走行すれば何円という形で端的に仕事に対する評価がなされる賃金項目の廃止については、乗務員の抵抗が大きかったため、被告は、運転手当等の支給基準を半額にして深夜勤務時間に対する割増相当額として残すことにより双方の要求を満たすこととした。

2 右認定事実によれば、運行手当が独立した歩合給たり得る実質を有することは否定し得ないが、同時にそれは、仕事の性質上恒常的に深夜勤務をせざるを得ない路線乗務員に対してのみ支払われるものであり、集配運転士を含むその他の職員には本来支給されないものであること等に照らすと、就業規則においてそれが路線乗務員についての深夜勤務時間に対する割増賃金であることを明示することにより、賃金体系上そのようなものとして位置づけることも法律上可能であり、本件においてこれを違法とするに足りる事情を認めることはできない。

ところで、労基法三七条は使用者に対し深夜労働に対する割増賃金の支払を命じているが、同条所定の額以上の割増賃金の支払がなされる限りその趣旨は満たされるのであり、同条所定の計算方法を用いることまでも要求するものではないから、労働者は使用者に対し、法所定の計算方法による割増賃金額が支払額を上回る場合にその差額の支払を請求することができるにとどまる。<証拠>によれば、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同伊藤正郎、同吉沢弘善に対して昭和五九年四月から同六二年三月までに支払われた運行手当の額は、右各原告に対応する別紙認容金額計算表運行手当欄記載のとおりであることが認められ、一方労基法所定の計算方法による割増賃金額は同計算表深夜割増賃金欄記載のとおりであり、原告早稲田清治の昭和五九年九月分を除き、いずれも運行手当支給額が労基法所定の計算方法による割増賃金額を上回る。なお、原告鎌田定男は集配運転士であり、運行乗務員でないことについては当事者間に争いがないが、<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、同原告に対しては運送深夜時間の深夜勤務手当に替えて運行手当の支給がなされたものであり、その額は同原告の別紙認容金額計算表欄外記載のとおりであることが認められるから、同原告につき労基法所定の深夜割増賃金額と支給額との差額を算出する際には、運送深夜勤務手当のほか右運行手当支給額を差し引くべきものである。

三争点3について

1  原告らは、標準運行時間を超える労働時間は手待時間とされ、時間換算により0.4667倍されて計算されるから、手待時間と評価されない0.5333の部分は切り捨てられることになるのであり、標準運行時間制度は部分的な「みなし労働時間」制にほかならず、本来「みなし労働時間」制を採用できない職種について、部分的にせよ「みなし労働時間」制をとることは脱法行為として許されない旨主張するが、右「手待時間と評価されない時間」なるものは、手待時間の賃率を実労働時間の三分の一と定め、かつ、計算を簡便にするため時間換算をしたことの結果にすぎず、標準運行時間制度を「みなし労働時間」制と解することはできない。

2  労基法三七条は、時間外勤務時間につき通常の労働時間の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金の支払を命じるにとどまるのであり、通常の労働時間に対する賃金は、労働時間であれば必ず同一額の賃金を支払わなければならないわけではなく、労使の合意に基づき、労働時間を何らかの基準に基づいて区分し異なる賃金額の定めをすることも許されるから、本件において問題とすべきは、標準運行時間以外の手待時間について賃率を三分の一にするのではなく時間換算する(所定労働時間内の手待時間が時間として0.4667倍される)ことにより、本来は時間外労働時間として評価されるべき時間が所定労働時間内に組み込まれることになり、被告が本来支払うべき割増賃金の支払を免れているか否かである。

しかし、<証拠>によれば、被告が手待時間の実労働時間に対する換算率を三分の一ではなく0.4667とした理由は、手待時間はすべて所定労働時間内に発生したものとして計算処理するためであることが認められる。

そうだとすれば、時間換算をしたからといって、本来は時間外労働時間として評価されるべき時間が所定労働時間内に組み込まれ、被告が部分的に割増賃金の支払を免れる結果になるという非難は当たらないから、計算の便宜のため前記の時間換算をすることに何らの違法もない。

別紙計算式

凡例

A=(出勤+休日出勤)日数

B=(運行+運送)時間外時間

C=換算後の運行時間外時間+運送時間外時間

D(月間総労働時間)=8A+B

E=本人給+付加給(役付手当、精励手当、特務手当、調整加給)

F=職務給(業績給又は乗務本給)

G(能率給)=生産奨励給+集配能率給+集金手当又は運賃歩合給+運行能率給(直集料、直配料、途中積込料、途中荷卸料、横持料、特業手当)

原告主張の計算式

時間外単価=(E+F)/190×1.25+(G+運行手当)/D×0.25

時間外手当=時間外単価×B

深夜単価=(E+F)/190×0.25+(G+運行手当)/D×0.25

深夜手当=深夜単価×深夜時間

被告主張の計算式

時間外単価=E/190×1.25+(F+G)/D×0.25

時間外手当=時間外単価×C(運行乗務員以外の者についてはB)

深夜単価=E/190×0.25+(F+G)/D×0.25

深夜手当=深夜単価×深夜時間

裁判所の採用する計算式

時間外単価=(E/190+F/8A)×1.25+G/D×0.25

時間外手当=時間外単価×C(運行乗務員以外の者についてはB)

深夜単価=(E/190+F/8A)×0.25+G/D×0.25

深夜手当=深夜単価×深夜時間

3  原告らは、本件給与規程における標準運行時間は原告らの作業実態に適合していない旨主張する。しかしながら、<証拠>によれば、車両運行の作業については、特別の場合を除いて、標準運行時間は作業の実態に照応していることが認められ、荷作業については、いわゆる手待ち時間と評価することにつき問題のある実態部分が全くないとはいえないが、標準運行時間と実態との間に標準運行時間を用いた労働時間の把握を違法とする程の著しい乖離があることを認めるに足りる証拠はない。

実時間外労働時間と標準運行時間に従って換算処理された時間外労働時間との間に数値上大きな差が生ずるのは、多分に手待ち時間に対する賃率の影響によるものであり、必ずしも標準運行時間そのものの問題ではないと考えられる。

4  したがって、運行乗務員については、換算処理後の運行時間外時間と運送時間外時間を足した時間数に一時間当たりの賃金額を掛けて時間外割増賃金を算定すべきところ、<証拠>によれば、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同伊藤正郎、同吉沢弘善の昭和五九年四月から同六二年三月までの期間の換算処理後の運行時間外時間と運送時間外時間を足した時間数は、右各原告に対応する別紙認容金額計算表時間外時間C欄記載のとおりであることが認められる。

四結論

以上認定判断したところにより原告らの昭和五九年四月から同六二年三月までの各月ごとの時間外割増賃金額、深夜割増賃金額を計算すれば、各原告に対応する別紙認容金額計算表の各該当欄記載のとおりであり、原告らの請求の範囲内において支給額との差額を計算すると、原告らの本訴請求は別紙債権目録の各原告に対応する認容金額欄記載の金額の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却する。

(裁判長裁判官清水信之 裁判官遠山和光 裁判官後藤眞知子は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官清水信之)

別紙債権目録 (単位 円)

原告  請求金額  認容金額

吉川正吾 三二二万六九〇四 四六万四一四一

早稲田清治 三八二万〇三九七 六一万一七七七

宮沢富夫 三三八万二二〇七 三七万一九四三

近藤明 三五七万四六七〇 三九万四七六〇

山田卓郎 三八七万四九〇五 四二万四〇二二

伊藤正郎 二二五万〇〇一一 三〇万五八〇〇

吉沢弘善 三四九万五二五四 四二万一一四八

宮崎武 七八万〇八〇四 七七万一七二四

森寛 七一万四七三六 六九万八五一八

山田繁雄 九六万六五七〇 八八万九二七〇

中本智 五〇万八六九九 五〇万〇五二五

片桐正博 九八万三七一六 九七万三四九一

水野潔 五四万九四六七 五四万三八六三

西東敬行 八二万八〇〇四 八〇万九六八六

高橋寿恵吉 八一万二二七一 八〇万一九二八

戸塚清 五〇万八五八二 五〇万八〇六五

加藤幸夫 九八万六二〇五 九八万〇一七一

谷田川潤也 八五万九三一九 八五万二九八七

小田五夫 一〇三万八九六五 一〇二万一一一九

岩田登 一〇〇万四一七九 九八万三七〇六

川村宰司 三五万八二一八 三五万七六四一

高橋優 五一万〇八二六 五〇万四四九七

中上秀雄 五二万七七〇四 五二万三一三三

西尾卓朗 九四万一五三三 九一万六二八一

鎌田定男 九六万八三一二 八二万九七六三

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