名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)2356号 判決 1991年12月20日
愛知県安城市上条町小薮九五番地
原告
兼松真純
右訴訟代理人弁護士
塩見渉
右訴訟復代理人弁護士
花村淑郁
右輔佐人弁理士
伊藤毅
愛知県愛知郡東郷町大字春木字白土一番地の一一四五
被告
松本節男
右訴訟代理人弁護士
富岡健一
同
植村元雄
右訴訟復代理人弁護士
石上日出男
同
瀬古賢二
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 請求
一 被告は、別紙物件目録の一、二項記載の装置(以下「被告装置」という。)を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡・貸渡しのために展示してはならない。
二 被告は、その事務所及び工場に存する被告装置及びその半製品を廃棄し、同装置の製造に必要な金型、機械及び工具を除去せよ。
三 被告は、原告に対し金二〇万円及びこれに対する昭和六二年七月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
四 仮執行の宣言。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、特許権侵害を理由として、被告装置の製造、販売等の差止及び廃棄等並びに二〇万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告の特許権
原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有している。
(一) 発明の名称 コンクリート離型油の塗布方法
(二) 出願日 昭和五六年八月一九日
(三) 公告日 昭和五八年一〇月三日
(四) 登録日 昭和五九年六月二七日
(五) 登録番号 第一二一五〇四九号
2 本件特許請求の範囲
本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という)の「特許請求の範囲」の記載は、本判決添付の特許公報(以下「本件公報という。)の該当欄記載のとおりである。
3 本件発明の構成要件
本件発明は次の構成要件からなるものである。
A 水と離型用の油を使用すること。
B 水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で噴霧装置のノズル部に導くこと。
C その水と離型用の油とを霧化及び分散作用を行わせながら噴孔から流出させてコンクリート型枠の表面に付着させること。
D 前記AないしCを特徴とするコンクリート離型油の塗布方法。
4 本件発明の作用効果
従来、コンクリート製品を脱型するためそのコンクリート型枠の表面に離型油を塗布しているが、この場合の離型油としては、例えば界面活性剤等乳化剤を添加して水と油とを混合した水溶性離型油か、又は油をそのまま使用するようにしている。ところが、前者の場合、乳化剤の使用によって水溶性離型油が生コンクリートの含有水分中に溶け込んで硬化を妨げるばかりでなく、その硬化しきれない生コンクリートが型枠に付着するので常にこれを除去するための掃除が必要であり、したがって、非常に手間が掛かって作業能率が悪いという欠点があった。本件発明は、右のような乳化剤の使用に起因する生コンクリートの型枠への付着現象を解消すると共に、油の塗り過ぎを無くして良好なコンクート製品が容易に得られるコンクリート離型油の塗布方法を提供するものである(甲一)。
5 被告装置及び被告方法
被告は、業として被告装置(ただし、三つ又分水金具の下端のホースの長さについては争いがある。以下同じ。)を製造、販売しており、その使用態様は、別紙物件目録の三項記載のとおりである(以下、この使用態様を「被告方法」という。ただし、三つ又分水金具で合流した水及び離型油がその下端のホース内を分離した状態でノズル部に導かれるか否かについては争いがある。)。
二 争点に関する当事者の主張
1 原告
(一) 被告の行為
被告方法は、後記(二)のとおり本件特許の技術的範囲に属するものであり、かつ、後記(三)のとおり被告装置を被告方法以外の方法の実施のために用いることは非経済的・非実用的であるから、被告装置は、本件発明の実施にのみ使用する物に当たるというべきである。
(二) 本件発明と被告方法との対比
被告方法は、次のとおり、本件発明の技術的範囲に属する。
(1) 被告方法は、離型用の油と水を使用するもので、構成要件Aを備えている。
なお、構成要件は、離型油を界面活性剤等乳化剤を全く使用していないものに限定するものではない。
(2) 離型油には水溶性と不水溶性の二種類しかなく、本件明細書の記載は右のことを当然の前提として記載されているのである。したがって、構成要件Bにいう「水と離型用の油を混合させることなく分離した状態」とは、不水溶性離型油の水中における油粒子の状態をいうものであり、本件明細書の「発明の詳細な説明」において、「この間(注・油と水が合流してからノズル部に至るまでの間)水Wと油Oは、水Wに油Oが浮遊して混合されることなく分離した状態」(本件公報2欄二四~二六行)といい、また、それが連続してホース内を流れノズル部に導かれる様子を「帯状の浮遊状態」(同3欄一九~二〇行)というのも、前記のような状態を説明するものにすぎない。逆にいえば、「混合」とは、水溶性離型油が水に溶けた状態を指すもので、水中の油粒子の大きさが光の反射される確率が最大である一ないし〇・一ミクロン(この時最も白濁した牛乳状となる。)あるいはそれ以下の粒子となる場合を指すものである。本件明細書の「発明の詳細な説明」における、本件発明に使用する離型油には「界面活性剤等乳化剤を全く使用していない」旨の記載も、水溶性離型油との比較において、油を水溶性にするための乳化剤を使用していないことを強調したにすぎないものである。
被告方法は、水と離型用の油とを三つ又分水金具まで別々のホースで導き、その下流のホース内において一体として移動させるものであるが、被告方法においては不水溶性の離型油が用いられるから、水と離型用の油は、当該ホース内においては混合せず、分離した状態でノズル部に導かれるもので、構成要件Bを備えている。
(3) したがって、被告方法においても、ノズル部まで分離して導かれた水と離型用の油とは、噴孔から霧化し分散して噴出され、コンクリート型枠に付着するもので、構成要件Cを備えている。
(4) 被告方法は、右(1)ないし(3)の作用を特徴とするコンクリート離型油の塗布方法であるから、構成要件Dを備えており、本件特許の技術的範囲に属する。
(三) 被告装置の用途について
被告装置を被告方法以外の方法の実施のために用いることは、以下のとおり非経済的・非実用的である.すなわち、仮に、水溶性の離型油を用いるのであれば、タンクを水と油とに分けた被告装置を使用する必要はない。のみならず、水溶性の離型油を用いる場合には、乳化剤の使用によって水溶性の離型油が生コンクリートの含有水分中に溶け込んで硬化を妨げるばかりでなく、その硬化しきれない生コンクリートが型枠に付着するので常にこれを除去するための掃除が必要であり、非常に手間が掛かって作業能率が悪いという従来の欠点をそのまま放置するものであり、非経済的・非実用的な使用方法である。したがって、被告装置につき、被告方法と異なり、水溶性の離型油を使用することは、常識的にありえず、同装置の本来の機能を全く無視し、それを損なう使用の仕方であるといわなければならない。
2 被告
(一) 被告方法
被告方法は、離型油として界面活性剤を添加した水溶性の離型油(例えば、被告商品名「トーリーズS-1」-以下「被告離型油」という。)を使用し、離型油と水をコンプレッサで加圧して合流させる等の機械的撹拌により、三つ又分水金具及びその下流のホース内で混合乳化してノズル部に導いている。
(二) 本件発明と被告方法との対比
(1) 本件明細書の「特許請求の範囲」の「離型用の油」「水と離型用の油を混合させることなく・・ノズル部に導き」(本件公報1欄一四~一五行)との記載及び同じく「発明の詳細な説明」の「乳化剤の使用に起因する生コンクリートの型枠への付着現象を解消する」(同2欄五~七行)「界面活性剤等乳化剤を全く使用していない」(同4欄八~九行)等の記載に照らすと、「特許請求の範囲」にいう「離型用の油」は、「界面活性剤等乳化剤を全く使用していない純粋な油」をいうものと解すべきである。これに対し、被告方法は、前記のとおり水溶性の離型油を使用するものであるから、構成要件Aに該当しない。
(2) 被告方法は、三つ又分水金具及びその下流のホース内で離型油と水を混合乳化してノズル部に導くものであるから、構成要件Bに該当しない。
なお、本件においては、被告離型油の成分が直接の問題ではなく、これを被告装置により水と一緒にした場合に、ノズル部に到達する前に水と混合するか否かという点が問題であるところ、これが肯定されることは明らかである。
(三) 被告装置の用途について
原告は、水溶性の離型油を用いた場合の欠点を挙げているが、右の欠点は被告離型油には当てはまらない。すなわち、被告離型油には界面活性作用を有する脂肪酸と非イオン系界面活性剤とを添加しているが、従来の水溶性の離型油よりも添加量が少なく、乳化剤による悪影響を著しく減少させる効果を奏するものであり、それ故に実用性を有するものとして高く評価されている。
なお、被告離型油は従来の水溶性の離型油よりも乳化剤の添加量が少ないため、二槽二ホースの吹き付け装置を使用することが必要であり、被告離型油を使用する場合にも被告装置の実用性がある。
第三 争点に関する判断
一 被告装置を用いる場合の離型油について
証拠(甲五、乙一、五、七ないし九、一五、被告本人、検証結果、鑑定結果)及び弁論の全趣旨によれば、(一)(1) 被告は、被告装置を用いる場合に使用する離型油として、被告の製造、販売に係る被告離型油を予定しており、このことを前提として被告装置を販売していること、(2) 被告離型油は、鉱物油約九〇パーセントにトール油脂肪酸であり界面活性作用を有する「ハートールFA-1P」約八ないし一〇パーセント、ナフテン酸及び非イオン系界面活性剤である「アミコールCDE-2」を極く少量添加して製造したものであること、(二)(1) 水道水五五立方センチメートルをメスシリンダーに取り、これに被告離型油五〇立方センチメートルを静かに注いだ場合には、水は下部に、油は上部に分離しているが、水には少しの油が混合されている状態となったこと、(2)
これに手で少し振動を加えた場合には、上部で混合乳化が生じて白濁したこと、(3) 更に振動を加えた場合には全体に混合乳化が生じて白濁したこと、(4)
これをその後一〇分間静止状態に置いた場合にも右(3)の状態に変化は生じなかったこと、また、(三)(1) 被告離型油二〇立方センチメートルをメスシリンダーに取り、これに水道水八〇立方センチメートルを徐々に注入したところ、混合乳化が生じて白濁したこと、(2) これを一〇分間静止状態に置いた場合には、二層に分かれ、上が茶色がかった濃い乳白色であり、下が薄い乳白色であったこと、(四) 鉱物油(商品名「トーリーズG-一〇〇〇」)二〇立法センチメートルをメスシリンダーに取り、これに水道水八〇立法センチメートルを徐々に注入したところ、水と油は乳化せず、油は水の上部に浮遊していたこと、以上の事実が認められる。
右の事実及び証拠(乙九)によれば、被告離型油は、これを水溶性離型油に分類すべきか不水溶性離型油に分類すべきかはともかくとして、鉱物油に比してより多く水に対して親和性を有するものと認めることができる。
二 被告方法について
証拠(検乙一ないし三、検証結果)によれば、(一) 被告装置の水タンクに水道水を入れ、油タンクに被告離型油を入れ、各流量調整弁を緩め、エアーコンプレッサにより圧力を加えると、三つ又分水金具部分で合流した水と被告離型油は混合乳化して白濁したこと、(二) 右金具から約一五センチメートルノズル寄りの部分で採取した液体は、ビーカーに入れて約一〇分間静止状態に置いた結果、上部に濃い乳白色の層ができたが、下部も上部に比して淡くはあるが乳白色になっていたこと、(三) 被告装置を使用して、(1) 水八対被告離型油二の割合で噴霧実験をしたところ、水と被告離型油が合流する三つ又分水金具部分の直後で混合乳化が始まり、液は白色がかった茶色となり、ノズル部では白濁して甘酒色になったこと、(2) ほぼ水五対被告離型油五の割合で同様の実験をしたところ、ほぼ右(1)と同様の結果であったこと、(3) 水七対被告離型油三の割合で同様の実験をしたところ、ほぼ右(1)と同様の結果であったこと、以上の事実が認められる。
右の事実によれば、被告装置において被告離型油を使用した場合には、三つ又分水金具部分で合流した水と離型油は、混合乳化を始め、右部分に続くホース内で更に混合の程度を増してノズル部に達するということができる。
三 被告方法の構成要件該当性について
前記の事実によれば、構成要件Bは「水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で噴霧装置のノズル部に導くこと」であり、被告装置のノズル20は右「ノズル部」に当たるというべきであるから、被告方法が構成要件Bを充足するというためには、水タンク2から供給された水と油タンク3から供給された離型油とが、三つ又分水金具18内で合流した後ノズル20に到達するまでの間に、「混合することなく分離した状態」にあることが必要であることは多言を要しないところ、被告離型油を被告装置によって使用した場合には、三つ又分水金具部分で合流した被告離型油と水は、直ちに乳化を始め、右部分に続くホース内で更に乳化の程度を高め、乳濁液(エマルション)の状態となってノズル部に達するということができるので、被告離型油と水は、分離した状態ではなく混合した状態でノズル部に達するものというべきである。
ところで、原告は、離型油には水溶性と不水溶性の二種類しかないのであるから、構成要件Bにいう「混合させることなく分離した状態」とは、不水溶性離型油の水中における油粒子の状態をいうものであり、逆にいえば、「混合」とは、水溶性離型油が水に溶けた状態を指すものである旨主張し、本件明細書の「発明の詳細な説明」における記載を挙げて、これも右のような状態を説明するものにすぎない旨主張している。しかしながら、本件明細書の「発明の詳細な説明」には、従来の方法として、「界面活性剤等乳化剤を添加して水と油を混合した水溶性離型油か、又は油をそのまま使用する」方法を挙げ、両者の欠点を指摘した上、本件発明が油と水を分離した状態でノズル部まで導くものであることを強調した説明の記載はあるけれども、「混合」又は「分離」という用語を原告主張のように解すべきことを窺わせる記載は見出せない(甲一)。また、本件明細書の実施例に関する説明図第1図には、油と水が合流した後、油が上に水が下に二層に分かれた状態でノズル部に達するように書かれており(甲一)、原告の主張に沿うものではない。更に、原告本人も、従来の不水溶性離型油には、これを水溶性にする目的ではなく水と馴染みやすくするためにではあるが、微量の界面活性剤が添加されている旨供述しているところ、本件全証拠をもってしても、何パーセント以上の界面活性剤を添加したものを水溶性の離型油といい、何パーセント以下の界面活性剤を添加したものを不水溶性の離型油というのかという点について、明確な基準があったことを認めるに足りず、構成要件Bの「混合」あるいは「分離」との用語を解釈するに当たって、原告の主張するような基準によるべきものとすることはできない。なお、本件において前記構成要件該当性の判断に当たっては、被告装置の三つ又分水金具からノズル部までの間に、被告離型油と水とが「分離した状態」にあるか否かだけが問題であるから、仮に被告離型油と水とが「混合」した状態にあって「分離」した状態にはないとすれば、「混合」の安定性の程度については、問題にならないものというべきである。
以上に述べたところによれば、被告方法は、構成要件Bを充足しないので、他の構成要件該当性について検討するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属しないというほかない.
四 被告装置の実用性等について
原告は、被告離型油が水溶性であるとすれば、被告装置において被告離型油を使用することは、非経済的・非実用的である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。かえって、証拠(乙一〇ないし一二、一五、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、<1> 被告装置で使用されることが予定されている被告離型油は、被告が、従来の水溶性の離型油よりも脂肪酸及び非イオン系界面活性剤の添加量を少なくするなどの改良を加えたものであること、<2> これを被告装置によって塗布した場合には、本件発明の作用効果(前記第二の一4)において指摘されているような欠点が現れないこと、<3> 被告離型油を塗布するための装置が被告装置のように二槽二ホースの構造であれば、水との混合割合の調整が容易になること、<4> 被告離型油を一槽一ホース構造の装置を用いて塗布する場合には、離型油と水との混合が不十分で、仕上がりにむらが生じること、<5> 被告は、被告離型油に関するパンフレットにおいても、被告離型油は被告装置を用いて塗布すべき旨を明記して、被告離型油及び被告装置を販売していること、以上の事実が認められる。右の事実によれば、被告装置において被告離型油を使用することは、決して非経済的・非実用的ではないし、現に実用化されているものというべきである。したがって、原告の前記主張は採用することができない。
五 結論
以上に述べたところによれば、被告装置は、本件発明の技術的範囲に属しない被告方法を実施するためにも使用することができ、現にそのために使用されているものであるから、被告装置が本件発明の実施にのみ使用する物であるということはできず、原告の本訴請求はすべて理由がない。
(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 杉原則彦 裁判官 後藤博)
物件目録
一 この装置は、コンクリート離型油をコンクリート型枠へ吹き付ける装置である。
二 このコンクリート離型油吹付装置は、別紙第1図ないし第3図に示すとおりで、次の構造を有している。
1 円筒形混合タンク1内部を仕切り、水タンク2(大)と油タンク3(小)を設け、各上部には、注油口4及び注水口5を設けている。
2 混合タンク1上部の加圧空気口6とエアコンプレッサ7とを空気調整弁8を有するホース9で連結してある。
3 水タンク2及び油タンク3の各底部の吐出口10、11に、それぞれ逆止弁12、13及び流量調整弁14、15を有する耐油・耐圧ホース16、17の一端を連結し、各他端を三つ又分水金具18の左右端に連結してある。
4 三つ又分水金具18の下端に約二メートルの耐油・耐圧ホース19の一端を取り付け、その他端にノズル20及び噴孔21を取り付けてある。
三 この装置の使用態様は、次のとおりである。
1 注水口5から水タンク2に水を、注油口4から油タンク3に離型油をそれぞれ注入する。
2 コンプレッサ7で混合タンク1内の水及び離型油の上面を加圧すると、水が水タンク2から、離型油が油タンク3から、それぞれ別々に各ホース16、17を通じて三つ又分水金具18内に導かれ、そこで両者が合流し、該金具18の下端より通ずる約二メートルのホース19の中を分離した状態でノズル20に導かれ、噴孔21より霧化してコンクリート型枠の表面に吹き付けられる。
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭58-44455
<51>Int.Cl.3B 28 B 7/38 B 05 D 1/02 1/34 E 04 G 19/00 B 28 B 21/76 識別記号 庁内整理番号 6417-4G 6816-4F 7048-4F 2101-2E 6542-4G <24><44>公告 昭和58年(1983)10月3日
発明の数 1
<54>コンクリート離型油の塗布方法
<21>特願 昭56-130821
<22>出願 昭56(1981)8月19日
<55>公開 昭58-31708
<43>昭58(1983)2月24日
<72>発明者 兼松真純
安城市上条町小藪95
<71>出願人 兼松真純
安城市上条町小藪95
<74>代理人 弁理士 伊藤毅
<57>特許請求の範囲
1 水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で噴霧装置のノズル部に導き、その水と油とを霧化及び分散作用を行わせながら噴孔から流出させてコンクリート型枠の表面に付着させるようにしたことを特徴とするコンクリート離型油の塗布方法。
発明の詳細な説明
本発明は、良好なコンクリート製品を容易に得るためのコンクリート離型油の塗布方法に関するものである。
従来、コンクリート製品を脱型するためそのコンクリート型枠の表面に離型油を塗付しているが、この場合の離型油としては例えば界面活性剤等乳化剤を添加して水と油とを混合した水溶性離型油か、又は油をそのまゝ使用するようにしている。ところが前者の場合、乳化剤の使用によつて水溶性離型油が生コンクリートの含有水分中に溶け込んで硬化を阻たげるばかりでなく、その硬化しきれない生コンクリートが型枠に付着するので常にとれを除去するための掃除が必要であり、従つて非常に手間が掛つて作業能率が悪いという欠点があつた。また後者の場合には、油の塗り過ぎ等無駄な使用量が多く、かつ水溶性離型油に較べて価格が高いこともあつて不経済であり製造コストが高くつくばかりが、塗り過ぎによつてコンクリート製品の表面に気泡が多くできたり或いは油のしみができる等良好な製品が得られないという欠点があつた。
本発明の目的は、上述のような乳化剤の使用に起因する生コンクリートの型枠への付着現象を解消すると共に、油の塗り過ぎを無くして良好なコンクリート製品が容易に得られるコンクリート離型油の塗布方法を提供するにある。
すなわち、本発明は、水と離型用の油を混合させることなく分離した状態で噴霧装置のノズル部に導き、その水と油とを霧化及び分散作用を行わせながら噴孔から流出させてコンクリート型枠の表面に付着させるようにしたことを特徴とするコンクリート離型油の塗布方法である。
以下本発明を図面により説明する。
第1図において、1は水貯槽、2は離型用の油貯槽で、夫々の貯槽1及び2の底面に流量調整バルブ3、3を備えた導管4及び5が接続され、これら導管4及び5は管6を介して噴霧装置のノズル部7に接続している。しかして、貯槽1の水Wと貯槽2の油Oを流量調整バルブ3、3により約水5、油1の割合になるようコントロールして管6を経てノズル部7に導く。この間水Wと油Oは、水Wに油Oが浮遊して混合されることなく分離した状態になつている。
そして、ノズル部7に導かれた水Wと油Oを噴孔8より流出させることによつてコンクリート型枠10の表面に付着させるのである。
さらに詳述すれば、ノズル部7において分離状態にある水Wと油Oは噴孔8から噴出されるときにノズル部7の霧化作用及び分散作用を受けて微粒となり第2図イに示すように空気中に噴出される。第2図ロは空気中に噴出された微粒9を拡大して示すもので、水の粒の表面を油の膜が包みこんだ状態になつている。第3図はこの微粒9が形成される過程をさらに判り易く解説したものである。すなわち、本発明においては水Wと油Oが一定比率で帯状になつてノズル部7に導かれ、このノズル部7に導かれた水Wと油Oは噴孔8から流出する際に一諸にねじ切れて霧状になり空気中に飛散せしめられる。この状態はちようど金太郞飴を小さく切断した場合と同じように水の粒の表面に予かじめ設定された比率分の油が付着した状態になつている。そして空気中に飛散した水が表面張力により粒状になるときその表面に付着した油が水の表面を包みこんで完全なW/O型の微粒9が形成されるのである。このようにして得られた微粒9は第2図ハ、ニに示すようにコンクリート型枠10にぶつかり表面の油膜を該型枠10に付着させると同時につぶれて水はすぐに油と分離し、型枠10の表面に付着することなく大きな水滴となつて流れる。
すなわち、本発明においては、水Wと油Oとを混合させることなく水に油が浮遊した帯状の状態で噴霧装置のノズル部に導き、その水と油とを帯状の浮遊状態を保ちつつノズル部の霧化作用及び分散作用によつて一諸に空気中に噴出させることによつて、水の粒の表面を油の膜で包みこむ型の微粒を形成し、その微粒の表面の油膜のみをコンクリート型枠の表面に付着させることに成功したのである。
従つて、本発明によれば、油は水によつてコンクリート型枠の表面に対する拡散作用が助長され、かつ塗り過ぎることなく適量を均一に付着させることができるから、コンクリート製品の表面に油による気泡が生じたり、しみができる等油の塗り過ぎによるところの従来欠点を確実に解消できて良好なコンクリート製品が得られる上、水を使用した分だけ油を節約することができて経済的でありコストを安くすることができる。
さらに本発明によれば、界面活性剤等乳化剤を全く使用していないから、コンクリート型枠の表面に付着した水は油とすぐ分離して流れることになりコンクリート製品の脱型具合がすこぶる良好となる。そして、コンクリート型枠の表面に水が付着していてこの水が生コンクリートに溶け込んでも乳化剤を使用していないから従来のように生コンクリートの硬化を阻たげるような悪影響を及ぼすようなことがなくなり、それ故に硬化しきれない生コンクリートが型枠の表面に付着することも皆無となつて面倒な除去作業が省略でき、作業能率を著しく高めることができる等の多大なる効果を有するものである。
図面の簡単な説明
第1図はこの発明の方法を実施する―例を略示する説明図、第2図はこの発明の方法によりコンクリート型枠の表面に油を付着させる際の説明図、第3図は微粒9を形成する過程の説明図である。
W……水、O……油、7……ノズル部、8……噴孔、10……コンクリート型枠。
第1図
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第2図
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第3図
<省略>
第1図
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第2図
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第3図
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特許公報
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