名古屋地方裁判所 昭和62年(行ウ)8号 判決 1987年7月27日
愛知県岡崎市青木町一五番地二
原告
近藤信行
愛知県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地
被告
岡崎税務署長
田中厳
右指定代理人
柳田義雄
同
尾崎慎
同
長谷川武一
同
吉野満
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和六一年二月二八日付けでした原告の昭和五七年分、昭和五八年分及び昭和五九年分所得税の各更正並びに過少申告加算税の各賦課決定をいずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
主文同旨
(本案に対する答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、塗装工事の請負を業とするいわゆる白色申告者であるが、昭和五七年、同五八年及び同五九年の各年分の所得税について、原告のした確定申告並びにこれに対する被告の同六一年二月二八日付各更正及び各過少申告加算税の各賦課決定(以下両者を併せて「本件課税処分」という。)の内容は、別表記載のとおりである。
2 原告は、本件課税処分を不服として、昭和六一年四月三〇日、被告に対して、異議申立てをしたが、同年七月二四日、これを棄却する決定がなされたので、更に国税不服審判所長に対して審査請求したところ、同年一二月二三日付で棄却の裁決がなされ、同裁決書謄本は、昭和六二年一月七日原告に送達された。
3 しかし、本件課税処分は、原告の所得金額を過大に見積もったもので、違法である。すなわち、被告は、原告と同業の青色申告者の平均値をもって、原告の所得金額を推計しているところ、収入金額の材料費に対する割合が実際の三、四倍に及ぶなど、実情を無視した推計が行われている。
4 よって、原告は、本件課税処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
国税不服審判所長は、原告の審査請求に対し、昭和六一年一二月二三日付をもって棄却の裁決をなし、同裁決書謄本は、昭和六二年一月五日岩津郵便局から原告に送達されたので、同日に原告は裁決のあったことを知ったものであるところ、行政事件訴訟法一四条一項、四項は、審査請求に対する裁決を経た処分の取消を求める訴えは、裁決のあったことを知った日は又は裁決の日から起算して三か月以内に提起すべきことを規定しているので、本件訴えは、遅くとも昭和六二年四月四日までに提起しなければならないにもかかわらず、同月七日に提起されている。
仮に、原告が請求原因2項で主張するとおり、原告が右裁決のあったことを知ったのが同年一月七日であったとしても、同年四月六日までに本件訴えを提起すべきであったから、この場合においても、同様である。
したがって、本件訴えは、いずれにしても出訴期間経過後に提起された不適当なものであるから、却下されるべきである。
三 被告の本案前の主張に対する原告の反論
前記裁決書には三か月の出訴期間を教示した記載がなく、口頭での教示もなかったので、法律に疎い原告が、右期間を尊守できなかったとしても止むを得ないというべきである。もし教示がなされておれば、原告が右期間内に本件訴えを提起したことは疑いない。
原告は、本件課税処分を知った同僚、友人、会社などから、脱税をしていたのかと疑いをかけられ、名誉を侵害されるとともに、自己の将来に重大な悪影響を受けており、これらを回復するには、出訴期間を徒過した訴えといえども、本件課税処分が違法であることについては審理をうけ、正しい判決を得る必要がある。
理由
一 まず被告の本案前の主張について検討するに、行政事件訴訟法一四条一項、四項は、行政処分につき審査請求をすることができる場合において、審査請求をした者は、これに対する裁決があったことを知った日から三か月以内にその取消訴訟を提起しなければならない旨規定しているところ、原告の本件訴えは、国税通則法七五条三項に基づいてなされた審査請求に対する国税不服審判所長の裁決を受けた後、当初なされた本件課税処分の取消しを求めるものであることが、原告の主張自体から明らかである。
ところで、原告は昭和六二年一月七日に右裁決書謄本の送達を受けたことを自認しているので、特段の事情の認められない本件においては、同日に右裁決のあったことを知ったものと認めるべきものであるが、前記三か月の出訴期間の起算日は初日を算入すべきものと解すべきであり(最高裁判所昭和五一年(行ツ)第九九号、同年五二年二月一七日第一小法廷判決、民集第三一巻第一号五〇項参照)、したがって原告は、遅くとも昭和六二年四月六日までに本件訴えを提起しなければならなかったものである。
しかるに、本件訴えの提起日が昭和六二年四月七日であることは、本件記録上明らかであるから、本件訴えは、出訴期間を尊守しない不適法なものといわざるを得ない。
右の点につき、原告は、裁決に際し、出訴期間の教示がなくまた、出訴期間を経過した訴えといえども、実体について判断されなければ、原告の蒙った名誉侵害等の回復がされない旨反論するが、裁決には、再審査請求をすることができる場合を除き、いわゆる教示制度を定めた規定はなく、出訴期間自体は、行政事件訴訟法一四条により明定されているところであるから原告が裁決に際しその教示を受けなかったとしても、出訴期間の懈怠を正当化することはできないのみならず、右出訴期間の制度は、行政処分が通常多くの関係者に影響を与えるところから、一定の期間経過後は、その効力を争えなくすることにより、法的に不安定な状態を除去し、行政の円滑な遂行を計ることを目的とするものであって、その合理的な存在理由に照らすと、右出訴期間を懈怠した者が、法的救済を求めるるつき一定の制約を受けるのも止むを得ないものというべきであり、原告の主張は採用することができない。
二 よって、本件訴えは、不適当なものとして却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 加藤幸雄 裁判官 森脇淳一)
別表
<省略>