名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2498号 判決 1989年8月30日
原告
国
被告
朴斗龍
主文
一 被告は、原告に対し、金一五二〇万七五九三円及びこれに対する昭和六〇年八月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
(一) 日時 昭和五七年一二月三日午後三時二〇分ころ
(二) 場所 三重県伊勢市東大淀町四四番地の一 金属屑商達城商店敷地内(以下「本件事故現場」という。)
(三) 加害車両 車種 普通貨物自動車(車台番号 KL三四〇―四二五九八)
(四) 右所有者 被告
(五) 右運転者 被告
(六) 被害者 達城好隆こと徐進源(昭和五六年九月二日生れ)
(七) 態様 被告は、自己所有の加害車両を公安委員会の運転免許を受けずに運転し、本件事故現場に赴き、金属屑等の積載物の重量を計量するため、同所に設置されている計量台の上に同車を停止させて計量した後、同車を発進させた際、同車左前方を歩行中の被害者を同車左前輪で轢過した。
(八) 結果 被害者は、頭蓋骨粉砕骨折により死亡した。
2 被告の責任
被告は、本件事故当時、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。
3 損害
(一) 被害者の損害
(1) 逸失利益 金一一七五万四六九一円
被害者は、昭和五六年九月二日生れで、本件事故当時満一歳の男子であり、本件事故に遭わなければ、一八歳に達したときに就業し、六七歳まで四九年間就労可能であつた。
よつて、男子一八歳の年齢別平均給与月額金一一万七二〇〇円を月収とし、これに一二を乗じた年間収入額から生活費として五〇パーセント控除した額に、被害者の死亡時の年齢に対応する新ホフマン係数一六・七一六を乗じて算定すると、逸失利益は次のとおり金一一七五万四六九一円となる。
11万7200×12×(1-0.5)×16.716=1175万4691
(2) 慰謝料 金二五〇万円
(二) 被害者の遺族の損害
被害者の父である訴外達城政美こと徐琦錫(以下「政美」という。)及び被害者の母である訴外達城芳子こと李芳子(以下「芳子」という。)は、本件事故による被害者の死亡によつて、次の損害を被つた。
(1) 文書料 金四八〇〇円
診断書金三〇〇〇円、明細書金一〇〇〇円及び登録済証書金八〇〇円の合計額
(2) 葬儀費 金四〇万円
(3) 慰謝料 金四五〇万円
(三) 以上(一)、(二)の合計額(以下「総損害額」という。)は金一九一五万九四九一円であるところ、葬儀費として国民健康保険から給付を受けた金二万円及び葬儀費として被告から支払を受けた金一〇万円を総損害額から控除すると、残額は金一九〇三万九四九一円となる。
4 被害者の権利承継
政美及び芳子は、被害者の前記3(一)の損害賠償請求権を、法定相続分に従い、各二分の一の割合で、相続により承継した。
5 自賠法七二条一項に基づく損害のてん補
加害車両には、自賠法に基づく責任保険契約及び責任共済契約が締結されていなかつたため、政美は自己のため並びに芳子の代理人として、原告(所轄庁 運輸省地域交通局)に対し自賠法七二条一項に基づき損害のてん補を請求した。そこで、原告は、被害者側の過失も斟酌した上、業務委託者である訴外富士火災海上保険株式会社をして、政美及び芳子に対し、昭和六〇年八月一日、損害てん補金一五二〇万七五九三円を給付した。
6 自賠法七六条一項に基づく代位
右給付の結果、原告は、自賠法七六条一項に基づき、右てん補額を限度として、政美及び芳子が被告に対して有する損害賠償請求権を取得した。
なお、原告は、被告に対し、昭和六〇年九月一日到達の納入告知書により前記債権金一五二〇万七五九三円の納入告知をなした。
7 よつて、原告は、被告に対し、右金一五二〇万七五九三円及びこれに対する前記5の損害てん補の日の後である昭和六〇年八月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実は知らない。
4 同4の事実は認める。
5 同5の事実は知らない。
6 同6の事実は知らない。
三 抗弁(過失相殺)
本件事故発生については、被害者の監督義務者である母芳子及び父政美(以下「被害者側」という。)にも、次のとおり過失があるので、損害賠償額の算定にあたり過失相殺をすべきである。
1 被害者は、本件事故の二か月前位から歩き始めた一歳三か月の幼児であり、この時期の幼児に対しては、一段と高度な両親の監視が要求される。
2 芳子の過失
(一) 政美と被告が計量のために事務所に入つたとき、政美は、事務所の土間にいた被害者を見て、芳子に対し、「危ないから子どもを連れていけ。」と注意したのであるから、芳子は、被害者を事務所から住宅に連れていくべきであつたのに、それをしなかつた。
(二) 芳子は、被害者を事務所から作業場に出さないように監視する義務があつたのに、それを怠つた。
3 政美の過失
(一) 政美は、芳子が前記注意に従わなかつたのであるから、芳子に対し、もつと強く注意して被害者を事務所から住宅に連れていかせるべきであつたのに、これを怠つた。
(二) 政美は、事務所内で計量を終えた後、被告に続いて事務所から作業場に出たが、この時事務所の出入口の引戸を完全に閉めるべきであつたのに、完全に閉めなかつた。
(三) 政美は、被告に対し、加害車両を移動させるように指示したが、加害車両の移動を指示するについては、被告に代わつて見通しの悪い加害車両の前部を確認した上で指示を出すべき注意義務があつたのに、これを怠つた。
4 本件事故の予見可能性
被告にとつて、本件事故の予見可能性は、次のとおり低かつた。
(一) 本件事故現場は、鉄屑が積んであつたり、計量台も備えてある金属廃品を扱う場所であつて、危険な場所であり、そのような危険な場所に幼児の存在を予測することは一般に相当困難である上、本件においては、被告が事務所の中で被害者を見たときには、被害者の側には母親である芳子がついており、芳子は、後で被告が加害車両から積荷を降ろす等の作業を開始しようとしていたことを知つていたのであるから、一般人であれば、当然に芳子が事務所外での作業の危険性を考えて、絶対に被害者を事務所から外にでないように監視するであろうと期待するのが通常であるので、本件事故現場に被害者がいることを予測するのは困難であつた。
(二) 被告は、事務所から出て加害車両の回りを一周しただけで運転席についており、その間わずかな時間しか経つていないのであるから、被害者がそのわずかな時間に事務所から出てきて加害車両の左前方に移動していたことを予測することは困難であつた。
(三) 本件事故現場付近にいた政美及び訴外大屋茂夫(以下「大屋」という。)も被害者が事務所から出てきたことに気付いていないのであるから、被害者が事務所から出てくることを予見することは困難であつた。
(四) 被告が加害車両の運転席に座つたときに前方ミラーで同車前方を確認しても、その時には、被害者が未だ前方ミラーで確認できる範囲にはいなかつた可能性が十分ある。
5 したがつて、本件事故発生についての被害者側の過失と被告の過失との割合は、被害者側八割、被告二割とするのが相当である。
四 抗弁に対する認否
1 過失相殺に関する主張は争う。
本件事故発生については、政美には、過失がなく、芳子には、被害者を作業場に出さないように監視する義務を怠つたことについて過失があるが、事務所出入口は、直接公道に面しているような構造ではないところから、それほど厳重な監督を要するものとは考えられず、その過失の程度は小さいものといわなければならない。
2 被告の過失
加害車両は、同車前部が運転席から死角になるところから、死角解消のため、同車の左前部に同車の前部を写し出す前面ミラーが取りつけられていて、運転席から前面ミラーを見れば、一目瞭然にして同車の前部が視認できるものである。被告は、加害車両を発進させるにあたつては、幼児が同車前部に立ち入つてくることを予測し、前面ミラーで同車前部の安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、前面ミラーを見さえすれば、被害者が同車の前部にいることを容易に発見できたのに、同車前部には人がいないものと軽信して前面ミラーで同車前部の安全を確認することなく、同車を発進させた過失により、本件事故を惹起したものである。
3 したがつて、被告の過失は極めて大きいものであるのに対して、政美には過失はなく、芳子の過失は小さいことから、被害者側の過失割合は、二割以下とするのが相当である。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因について
1 請求原因1(交通事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。
2 請求原因2(被告の責任)の事実は当事者間に争いがない。
したがつて、被告は、本件事故により生じた損害について、自賠法三条本文による賠償責任がある。
3 請求原因3(損害)(一)及び(二)の事実は、成立に争いのない甲第七号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、これを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
したがつて、総損害額は金一九一五万九四九一円となる。
4 請求原因4(被害者の権利承継)の事実は当事者間に争いがない。
5 請求原因5(自賠法七二条一項に基づく損害のてん補、金一五二〇万七五九三円)及び同6(自賠法七六条一項に基づく代位)の各事実は、成立に争いのない甲第二号証、第四、五号証、第六号証の一・二、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、これを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二 抗弁(過失相殺)について
1 前記一で認定した事実に、成立に争いのない甲第二号証、第五号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証の一ないし六、甲第一号証の七ないし一〇(後記措信できない部分を除く。)、第八号証(後記措信できない部分を除く。)、被告本人尋問の結果(後記措信できない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件事故現場の状況は、別紙事故現場見取図(第1図)及び同(第2図)のとおりである。
本件事故現場の入口は、県道伊勢魚見松阪線の北側に面し、入口の間口は約九・一メートルで、入口の東側が高さ約三・〇メートルの鉄製の塀となり県道と区分されている。
本件事故現場の入口東側は、入口から約一〇度の傾斜で高くなり、入口東側の柱から敷地内に約三・八メートル入つた地点で道路面より約〇・七メートル高くなり、その地点から水平となり、鉄板の計量台が設置され、計量器は、達城商店の事務所に設置されている。
達城商店の事務所は、右計量台から約〇・八メートル東側にあり、被害者家族の住宅と一体をなしており、事務所内自体はそれほど危険の生じる場所ではなく、住宅と事務所を一体として被害者家族の家庭生活範囲と見ることができ、また、事務所出入口は直接右県道に面していない。
本件事故現場の西側及び事務所の北側には、鉄屑等が山積みされている。
本件事故現場の中央部は幅約五・九メートルの通路となつて、奥の倉庫に続いている。
(二) 被告は、自動車解体業を営み、被告のもとで解体した自動車のエンジン部分から回収したアルミニウムの屑を政美に売るため、大屋を同乗させて、加害車両を運転して、本件事故当日午後三時過ぎころ、本件事故現場である達城商店に来て、入口からバツクで入つて同車を計量台に乗せ、エンジンを掛けたまま同車を降り、政美に対し、運んできた積荷の計量を行なうよう申し込み、政美と被告は計量のため事務所に入つた。
(三) 事務所の中では、土間にストーブが置かれ、その土間で被害者がよちよち歩いており、被害者の側には母親である芳子が座つていた。
政美は、被害者がストーブの置いてある土間でよちよち歩いてるのを見て、被害者がストーブにぶつかつたりするといけないので、芳子に対し、「危ないから子どもを連れていけ。」と注意したが、芳子は、被害者を自分の座つているところに連れて来て抱いただけで、被害者を事務所から住宅に連れて行くことなく、そのまま被害者と事務所にいた。
(四) その後、政美は積荷の計量を行ない、それが終ると、被告と政美は事務所を出たが、後から出た政美は、事務所の出入口の引戸を完全に閉めず少し開けたままにしておいた。
(五) 被告と政美は、事務所から出た後、加害車両の周りを同車の左前部から後部に回つて、同車の荷台の積荷を確認し、さらに同車の右前部に回つて、被告は運転席に乗つた。その時政美は、加害車両の運転席から西側約四メートルの位置(第2図の地点)に立つており、大屋は第2図の地点にいた。被害車両の左前方を被害者が歩行していたことは、被告だけでなく、政美及び大屋も気付かなかつたが、政美及び大屋の位置からは被害車両の左前方は見通し状況はよくなかつた。
(六) 被告は、加害車両の運転席に乗る前に、政美に対し、「この場で降ろそうか。」と聞いたところ、政美は、同車を後ろへ移動してもらうつもりで「移動させてください。」と言つたが、被告は、同車を前に移動させて、さらに、本件事故現場の西側の鉄屑等が山積みされている場所に積荷を降ろすように指示されたものと誤信した。なお、前記のとおり、計量台の少し手前から急斜面になつていて、そのすぐ前には塀があり、移動するについては、前進に摘するような状況ではなかつた。
(七) 加害車両は、全長七・四メートル、車幅二・一九メートル、車高二・五〇メートルのトラツクであり、同車前部が運転席から死角になるところから、死角解消のため、同車の左前部に同車の前部を写し出す前面ミラーが取りつけられていて、運転席から前面ミラーを見れば、一目瞭然にして同車の前部が視認できるものである。また、加害車両は、運転が難しい車種といえるものであるところ、被告が同車を運転したのは、本件事故当日と、その前日の二日のみであり、被告は同車の扱いに慣れていなかつた(ちなみに、被告は当時無免許であつた。)。
(八) 被告は、加害車両前部には人がいないものと軽信して前面ミラーで同車前部の安全を確認することなく、同車を前方に発信させたところ、同車左前方を歩行中の被害者を、第2図の<ア>の地点において同車左前輪で轢過した。
(九) 芳子は、被告及び政美が事務所から出ていつた後、事務所内において、片付け等しながら被害者の監督をしていたが一瞬目を離したすきに、被害者が一人で事務所から外に出て加害車両の左前方を歩行していたところ、折から被告が発進させた加害車両に轢過された。
以上の各事実が認められ、甲第一号証の七ないし一〇及び第八号証の記載内容中、並びに被告本人の供述中、右認定に反する部分は、前掲各証拠と対比してたやすく措進することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、被告は、事務所内で被害者の存在を認識していたのであるから、加害車両を発進させるにあたつては、被害者が同車前部に立ち入つてくることをも予測し、前面ミラーで同車前部の安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、前面ミラーを見さえすれば、被害者が同車の前部にいることを容易に発見できたのに、同車前部に人がいないものと軽信して前面ミラーで同車前部の安全を確認することなく、同車を発進させた過失により、本件事故を惹起したもので、被告の右過失が本件事故の最大の原因であるということができる。なお、被告は、同人にとつて本件事故の予見可能性は低かつたと主張するが、右認定事実によれば、この主張は採用できない。
3 他方、前記一の認定事実及び前記1の認定事実によれば、被害者は、本件事故当時一歳三か月の幼児であつて同人に事理弁識能力はなかつたものといわざるをえないが、被害者の母親である芳子は、計量台の上には加害車両がエンジンがかけられたまま駐車しており、かつ、事務所の出入口の引戸が少し開いていたのであるから、交通事故発生の危険をも予測し、被害者を事務所から作業場に出さないように監視すべき義務があつたのに、それを怠り、一瞬目を離したために、被害者が一人で事務所から外に出て加害車両の左前方を歩行中、折から被告が発進させた加害車両に轢過されたのであるから、本件事故の発生については監督義務者である芳子にも被害者に対する十分な監督を尽くしていなかつた過失があつたものというべきである。しかし、事務所出入口は、直接公道に面しているような構造ではなく、それほど厳重な監督を要するものとは考えられないから、芳子の右過失は被告の運転者としての前記過失に比較して小さいものといわなければならない。
なお、被告は、政美が芳子に対し、「危ないから子どもを連れていけ。」と注意したのであるから、芳子は、被害者を事務所から住宅に連れていくべきであつたのに、それをしなかつた点にも過失があると主張するが、前記1の認定事実のとおり、政美は交通事故発生の危険性を指摘したものではないし、事務所は、住宅と共に一体として家庭生活上利用している状態であり、事務所自体それほど危険の生ずる場所ではない上、芳子も片付け等しながら事務所に居たのであるから、右の点については芳子に過失があるものとはいえないので、被告の右主張は失当である。
また、被告は、<1>政美は、芳子が前記注意に従わなかつたのであるから、芳子に対し、もつと強く注意して被害者を事務所から住宅に連れていかせるべきであつたのに、これを怠つた点、<2>政美は、事務所内で計量を終えた後、被告に続いて事務所から作業場に出たが、この時事務所の出入口の引戸を完全に閉めるべきであつたのに、完全に閉めなかつた点、<3>政美は、被告に対し、加害車両を移動させるように指示したが、加害車両の移動を指示するについては、被告に代わつて見通しの悪い加害車両の前部を確認した上で指示を出すべき注意義務があつたのに、これを怠つた点にも過失があると主張する。しかし、右のとおり芳子が被害者を住宅に連れていかなかつたことについては芳子に過失がないから、<1>の点について政美に過失があるとはいえず、また、前記1の認定事実によれば、政美が事務所を出るとき、被害者は芳子と一緒に居たのであるから、<2>の点についても政美に過失があるとはいえず(前記のとおり、この点は芳子の過失の内容として評価されるべきである。)、さらに、車両を発進する場合に前後左右の安全を確認する義務は、運転者である被告に存するのであつて、また、前記1の認定事実によれば、政美が加害車両を誘導したとか、あるいは、前に移動するように指示したものでもないから、<3>の点に関する被告の主張もまた失当である。
4 以上の本件事故現場の状況、事故発生の態様、双方の過失内容等を勘案し、衡平の見地からみると、その過失割合は、被告において八割、被害者側において二割と認めるのが相当である(なお、芳子に前記過失があるとはいえ、芳子及び政美は、すぐ目の前で一歳三か月の被害者を加害車両により轢過、死亡させられたものであり、右過失に対する報いは十分受けており、その悲嘆と精神的苦痛は察するに余りあるところ、子供から一時目を離した母親の過失等をとらえて、本件事故の主たる原因が芳子及び政美にあるとする被告の主張は、本来末顛というべきである。)。
5 過失相殺後の損害額
過失相殺の基本となる損害額は、前記認定のとおり総損害額金一九一五万九四九一円であるから、これから過失相殺により二割を控除すると金一五三二万七五九三円となり、さらに、これから葬儀費用としてのてん補額合計金一二万円(弁論の全趣旨により認める。)を控除すると、結局、被告に対して賠償を求めうる損害額は金一五二〇万七五九三円となる。
三 結論
以上の事実によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 芝田俊文)
事故現場見取図(第1図)
<省略>
事故現場見取図(第2図)
<省略>