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名古屋地方裁判所一宮支部 平成15年(モ)4号 決定 2003年4月11日

主文

被告は、別紙文書目録1記載の文書を提出せよ。

理由

1  申立て及び当事者の主張

(1)  原告は、本件訴訟において、被告との間で、平成元年3月ころから平成13年12月まで、継続的に借入れ及び弁済を繰り返した結果、利息制限法の制限利率に引き直して計算すると、約41万2079円ほどの過払いになっていると主張し、この事実を立証するため、民事訴訟法(以下「民訴法」という。)220条3項後段に基づき、被告が所持する別紙文書目録2記載の文書の提出命令を求めた(なお、提出を求める文書は、昭和63年3月30日からのものとしている。)。

(2)  被告の主張のうち、法的に意義を有するものは必ずしも明確ではないが、平成4年3月16日以降の取引経過は開示したものの、それ以前のものについては、社内規定により、取引経過が記載された書類は、原則として、電磁的記録も含めて10年間保存した後に焼却処分をしているからこれを発見できないとして、文書の所持を争い、また、10年以上前の文書については、商法上の商業帳簿の保存期間を超えるから、そもそも提出義務がないとして争うものと解することができる(被告は、一般に文書提出命令が出されているのは、文書保存期間内のものであると主張しており、ここでいう文書保存期間内の趣旨は明確ではないが、上記のように解することができる。もっとも、提出義務がないとの根拠は必ずしも明確ではないが、この点は、後記2(2)ウで検討する。)。

2  当裁判所の判断

(1)  業務帳簿の性質について

貸金業者は、その業務帳簿に、債務者ごとに貸付けの契約について契約年月日、貸付けの金額、受領金額等を記載しなければならず(貸金業の規制等に関する法律[以下「貸金業法」という。]19条)、この記載内容からすると、業務帳簿又はこれに代わる書面(電磁的記録も含む。)は、貸金業者と債務者との間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書(民事訴訟法220条3号後段、231条)であるというべきである。

したがって、貸金業者である被告は、債務者である原告との間の金銭消費貸借取引について作成した業務帳簿等を提出する義務がある。

(2)  文書の所持について

ア  一件記録によれば、平成4年4月以降の取引額が、1年以上にわたって数万円程度にとどまっているのに対し、同年3月16日当時、原告の取引高及び残額が46万円となっていること、それ以降も、原告は、取引終了まで一度にそれだけの金額を借りたことがないこと、被告の顧客は会員番号が小さいほど取引開始時期が早いものと推認できるところ、原告の会員番号は、平成3年7月30日から取引を開始している顧客の会員番号よりも小さいことが認められ、これらを総合すれば、同年3月15日以前に原告と被告との間で金銭消費貸借契約が締結され、取引が存在したものと推認できる。これに加え、原告の記憶に基づく主張が平成元年3月30日がその取引の開始であり、一件記録によっても、それと異なる開始時点の存在を窺われないこと、また、一件記録によれば、原告と被告との間の継続的金銭消費貸借取引は、平成12年6月15日まで貸付けがなされ、平成13年12月26日まで原告が弁済をしていたことが認められることを併せて考えると、被告は、原告との間の平成元年3月20日から平成13年12月26日までの継続的金銭消費貸借取引に関する事項を記載した業務帳簿等を所持するものと推認できる。

イ  これに対し、被告は、平成4年3月15日以前のものは、社内規定により、書類に関しては廃棄処分を、電磁的記録に関しては消去処分を、それぞれ行って存在しないと主張し、一件記録中には、書類に関して、段ボールが山積した保管状況や、清掃センターで被告会社の書類を処分したことを示すものがある。

しかし、廃棄処分されたものが、原告と被告との間の平成4年3月15日以前の取引状祝に関する文書であるか否かは判然としないこと、電磁的記録は、これを保存しておくことに特に困難を伴うとは思われないこと、貸金業者は、借主から、利息制限法所定の制限利率を超過する利息の支払を受けた場合、過払金返還請求をされる可能性があり、現実にこの種の訴訟が提起されることは少なくない上、この返還請求権の時効期間は10年であり、通常、過払金が生じるのは、取引が開始されて一定期間が経過した時点であるから、10年以上を経過した取引経過が問題になることは十分予期できること、この種の訴訟において、貸金業法43条のみなし弁済等の貸金業者が主張する抗弁(現実に、被告は、本件訴訟において、みなし弁済を主張している。)や反輪の立証の観点からすれば、業務帳簿あるいはその電磁的記録が必要と思われること、貸金業法19条に規定される業務帳簿は、その記載内容に照らすと、商法上の会計帳簿に該当するというべきであり(商法32条1項、33条1項2号)、商法上の会計帳簿は、帳簿閉鎖時から10年間保存しなければならないとされていること(商法36条)などの事情を併せて総合すると、10年を経過してまもない平成4年3月15日以前の取引経過が記載された業務帳簿(電磁的記録を含む。)を破棄するなどの処分をしているとは考えにくく、被告の主張は採用できない。

ウ  被告は、この商法上の会計帳簿の保存義務期間を根拠に、貸金業法19条に規定される業務帳簿は、反対にその期間を超えて保存義務はないかのように主張しているが、これが、文書提出命令のいかなる要件に関連して主張するものかは、必ずしも明確ではない。

仮に、これ自体を文書提出義務を否定する根拠として主張するとすれば、商法上の文書の保存義務と民訴法上の文書提出義務は別個の義務であるから、文書提出義務を否定する理由にならないことは明らかである。

また、所持を否認する一事情として主張するものと解する余地もあるところ、イで検討した事情に照らすと、それをもって、文書を所持することについて、合理的な疑問を生じさせるほどのものとはいえない。

(3)  開示すべき文書の範囲について

なお、被告は、既に平成4年3月16日以降の取引経過の開示をしているので、提出命令の対象は、平成元年3月30日から平成4年3月15日までの取引経過にかかるものとするのが相当である。また、原告は、昭和63年3月30日からの取引経過が記載されたものの提出を求めているが、原告の主張によっても、平成元年3月30日以前に取引が存在したとは認められず、この点で、平成元年3月29日以前のものについては、提出命令の対象から除外するのが相当と判断した。

3  結論

以上によれば、原告の申立ては理由がある。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官 山崎秀尚)

(別紙)文書目録1

被告の業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条3項、17条2項に定める書面のうち、原告と被告との間の平成元年3月30日から平成4年3月15日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日、貸付金額、返済年月日及び返済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む。)

(別紙)文書目録2

被告の業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条3項、17条2項に定める書面のうち、原告と被告との間の昭和63年3月30日から平成13年6月20日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日、貸付金額、返済年月日及び返済金額)が記載された部分(電磁的記録を含む。)

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