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名古屋地方裁判所一宮支部 平成15年(ワ)12号 判決 2004年10月14日

長野県●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

瀧康暢

鈴木含美

大阪市浪速区難波中三丁目9番5号

福宝ビル

被告

フクホー株式会社

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人支配人

●●●

主文

1  被告は,原告に対し,230万8301円及び内221万3158円に対する平成15年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,原告に対し,252万8301円及び内243万3158円に対する平成15年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,貸金業者である被告及び株式会社オーシービー(以下「オーシービー」という。)とそれぞれ金銭消費貸借契約を締結して借入れと返済を繰り返してきた原告が,①利息制限法所定の制限利率を超える利息を支払ったが,被告は合併によりオーシービーの債権債務を承継したとして,被告及びオーシービーに対する過払金につき,被告に対し,不当利得の返還を請求し,②被告が取引経過の開示を拒絶し,本件訴訟において改竄した取引経過を提出したことが不法行為であるとして,損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)の請求をしている事案である。

1  前提事実

(1)  原告は,貸金業者である被告と,平成2年9月11日,金銭消費貸借包括契約を締結して30万円を借り入れ,以後,以下のとおり被告と金銭消費貸借包括契約を締結して,借入れと返済を繰り返してきた(争いがない。)。

平成4年8月3日 30万円(借入れ金額。以下同じ。)

平成5年8月10日 40万円

平成5年12月3日 50万円

平成7年6月20日 50万円

平成8年5月21日 50万円

平成10年1月9日 50万円

平成10年8月20日 50万円

平成11年3月8日 30万円

平成13年2月22日 30万円

(2)  原告は,貸金業者であるオーシービーと,平成6年4月25日,金銭消費貸借包括契約を締結して20万円を借り入れ,以後,以下のとおり被告と金銭消費貸借包括契約を締結して,借入れと返済を繰り返してきた(争いがない。)。

平成8年6月14日 50万円(借入れ金額。以下同じ。)

平成9年10月30日 50万円

平成10年7月23日 50万円

平成11年11月25日 50万円

平成12年5月23日 50万円

平成13年4月11日 50万円

(3)  平成14年11月1日,オーシービーは,被告に合併して解散し,オーシービーの債権債務は被告がすべて承継した(甲5)。

2  当事者の主張

(1)  被告及びオーシービーに対する過払金額(原告の期限の利益の喪失の有無)

(原告の主張)

ア(ア) 原告は,被告と,別紙フクホー法定金利計算書記載のとおり借入れと返済を繰り返してきた。原告が被告に対して,支払期日に遅れて返済したのは,同計算書の26番,79番,111番及び最終取引日の156番であり,111番,156番は既に過払いとなっているので,返済期日の遅れは問題とならい。

(イ) 原告は,オーシービーと,別紙OCB法定金利計算書記載のとおり借入れと返済を繰り返してきた。原告がオーシービーに対して,支払期日に遅れて返済したのは,同計算書の45番,48番及び最終取引日の96番の3回であり,96番については過払いとなっているので返済期日の遅れは問題とならない。

(ウ) 借主が,返済期日に遅れて返済することがあっても,貸主において,期限の利益を喪失させる旨の主張をして一括返済を求めず,何ら異議・留保を述べることなく翌月(次回)の返済を従前通りそのまま受領した場合,貸主は,借主の分割払いの申し出を受けて,弁済金を再び受け取った時点で,黙示ないしは明示の意思により遅延の効果(損害金の発生,期限の利益喪失)を免責したものといえる。被告は,原告が支払期日に遅れて返済をしても,一括返済を求めずに,それ以後も従前と同様に返済を受けていたことからすれば,原告に対し,期限の利益喪失につき宥恕,もしくは再度その利益を与えたものと解される。

イ(ア) 原告と被告との取引を利息制限法の法定利息で計算すると,別紙フクホー法定金利計算書記載のとおり107万6830円(元本101万2524円,利息6万4306円)の過払金が発生している。

(イ) 原告とオーシービーとの取引を利息制限法の法定利息で計算すると,OCB法定金利計算書記載のとおり73万1471円(元本70万0634円,利息3万0837円)の過払金が発生している。

ウ 被告及びオーシービーは,いずれも利息制限法の法定金利を超えて貸付をしていることを知りながら,原告より返済を受けていたのであるから,悪意の利得者である。

(被告の主張)

ア 原告と被告及びオーシービーとの間の各消費貸借契約において,初回の返済期日は借入れの翌日から起算して35日以内,2回目以降の返済期日は,約定返済金の支払をした日の翌日から35日以内と定められているから,約定支払期日内の返済においては,利息制限法に定める年18パーセントで,期限の利益を喪失した日以降は遅延損害金として年36パーセントを適用すべきである。

イ 原告は,被告に対し,平成4年(1992年)9月9日に,前回の支払をした日から37日目に入金しているから,期限の利益を喪失している。原告は,オーシービーに対し,平成9年(1997年)12月29日に,前回の支払をした日から60日目に入金しているから,期限の利益を喪失している。被告は,原告に対して残債務の一括請求を繰り返し催告したが,原告はこれに応じなかったものである。

ウ したがって,被告は原告と被告との取引の経過は乙1号証の11記載のとおりであり,過払金は6万7788円,原告とオーシービーとの取引の経過は乙2号証の8記載のとおりであり,過払金は9万0245円である。

(2)  みなし弁済の成否

(被告の主張)

被告は,貸付にかかる契約を締結した際,原告に対し,貸金業法第17条書面を交付し,弁済を受けた時に,同法18条書面を交付しているから,原告,被告間に利息制限法は適用されない。

(原告の主張)

被告は,平成16年1月16日の弁論準備手続において,みなし弁済の主張はしない旨陳述しているのに,再び同主張をすることは,時機に遅れた攻撃防御方法であり,却下されるべきである。

仮に,被告がみなし弁済の主張をすることを認めるとしても,被告は,18条書面を交付したことの証明を全くしていないから,みなし弁済は認められない。

(3)  原告が過払金の返還請求をすることが権利濫用にあたるか等

(被告の主張)

原告は,被告からの借入れが,利息制限法の制限利率を上回り,出資法が容認する利率であることを知っていたのであるから,利息制限法を持ち出すのは,契約当事者間の信義誠実の原則に反するものであり,また,権利濫用である。

正規に登録した貸金業者には,利息制限法の適用はないというべきである。

(原告の主張)

利息制限法は強行法規であり,利息につき貸金業者と私人との間でいかなる約束をしようとも,利息制限法の制限利息を超える利息の約束は無効であるから,原告の主張は権利濫用ではない。

(4)  被告の取引経過不開示及び改竄の有無等と不法行為の成否

(原告の主張)

ア(ア) 原告代理人は,原告より債務の整理を依頼され,平成14年9月13日に被告及びオーシービーを含む全債権者に対し,書面で取引経過全部の開示を求め,その後も被告及びオーシービーに対し,同年11月18日までの間に4回,取引経過全部の開示を求めたが,被告は一部の取引経過について開示するのみであり,原告代理人は,同年11月22日に行政指導を求める申告を行った。

貸金業規制法の趣旨,紛争の早期解決のための取引経過開示の必要性,貸金業者と債務者との経済力・情報力の格差,本件開示請求の経緯等を総合考慮すると,契約関係を支配する信義誠実の原則からして,少なくとも多重債務に陥るなど債務整理をする必要に迫られている債務者が,消費者金融業者に対し,残債務又は過払金の有無・金額を明らかにするために全取引経過の開示を求めたときは,消費者金融業者はこれに応じる義務があると解される。被告が,これに反して全取引経過の開示を拒否したため,原告は,意図的に権利を侵害された。

(イ)a 被告は,本訴に至り,過去に一括請求していた事実のあることを偽証するために,平成15年4月18日に提出した乙1号証の10に,「再々,一括請求するもフリコウ」との文字を書き加えて書証を改竄し,その後平成16年1月15日に乙3号証として提出した。

b 原告と被告の真実の取引経過は別紙フクホー法定金利計算書記載のとおりであるが,被告が開示した取引経過は,原告の返済につき,15個の取引(1996/6/19,1996/8/26,1997/4/25,1997/8/25,1997/11/25,1998/1/21,1999/3/30,1999/6/30,1999/8/30,1999/11/30,2000/1/31,2000/5/26,2000/8/30,2000/10/31,2001/3/28)が削除され,1個の取引日(1999/2/8)が改竄されている(甲20号証の赤色部分の取引)。

原告とオーシービーの真実の取引経過は別紙OCB法定金利計算書記載のとおりであるが,被告が開示した取引経過は,原告の返済につき11個の取引(1997/11/28,1998/2/27,1998/7/31,1998/11/6,1999/2/8,1999/4/30,1999/6/30,1999/12/28,2000/5/26,2000/8/30,2000/11/29)が削除され,2個の取引日(1998/12/6,1999/8/30)が改竄されている(甲21号証の赤色部分の取引)。

c 被告の証拠改竄行為は,信義誠実義務に反する違法な行為であり,これにより原告は,敗訴の危険に晒され,正当な裁判を受ける権利を侵害された。

(ウ) かかる被告の違法な行為に対し,50万円の慰謝料を請求する。

イ 被告は,原告の正当な請求に応じず,証拠の改竄をはかるなどして訴訟の進行を困難ならしめ,不必要な時間と手間を原告にかけることとなったため,原告は,弁護士に御頼して訴訟の遂行することを余儀なくされた。原告が支出した弁護士費用は被告が負担すべきであり,同費用は請求金額の10パーセントにあたる22万円が適当である。

(被告の主張)

被告が取引経過開示を拒否したことはない。

3  争点

(1)  被告及びオーシービーに対する過払金額(原告の期限の利益の喪失の有無)

(2)  みなし弁済の成否

(3)  原告が過払金の返還請求をすることが権利濫用にあたるか

(4)  被告の取引経過不開示及び改竄の有無等と不法行為の成否

第3争点に対する判断

1  被告及びオーシービーに対する過払金額(原告の期限の利益の喪失の有無)

(1)  証拠(甲15,18,19,乙1,2,株式会社UFJ銀行春日井支店の平成16年4月6日受付調査嘱託の結果,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,

ア 原告と被告及びオーシービーとの各消費貸借契約において,初回の支払期日は,借入れ日の翌日から起算して35日目,第2回目以降は前回の支払をした日の翌日から起算して35日目,1回の返済額は,利息額を最低金額とする旨定められていること,

イ 原告と被告との間で,別紙フクホー法定金利計算書の「年月日」欄記載の日に,同「借入金額」欄記載の借入れ及び同「弁済額」欄記載の返済がなされ,原告は,被告に対し,平成4年(1992年)9月7日の支払期日に返済を行わずに,2日後の同月9日に1万7800円の返済をしたこと(別紙フクホー法定金利計算書の26番),平成8年(1996年)7月24日の支払期日に返済を行わずに,翌日の同月25日に3万円の返済をしたこと(同79番),それ以外は,原告は,被告に対し,弁済期までに弁済を行っていたこと,

ウ 原告とオーシービーとの間で,別紙OCB法定金利計算書の「年月日」欄記載の日に,同「借入金額」欄記載の借入れ及び同「弁済額」欄記載の返済がなされ,原告は,オーシービーに対して,平成10年(1998年)10月5日の支払期日に返済を行わずに,翌日である同月6日に3万円の返済をしたこと(別紙OCB法定金利計算書の45番),平成11年(1999年)1月10日の支払期日に返済を行わずに,4日後の同月14日に2万円の返済をしたこと(同48番),それ以外は,原告は,オーシービーに対し,弁済期までに弁済を行っていたこと

がそれぞれ認められる。

(2)  被告の従業員である証人●●●は,被告は,前回の支払から35日目である支払期限に遅れると,36日目から店長が顧客に電話をして督促し,入金を促す,40日以上遅れた場合は,郵便で訪問予定状や一括払いを求める督促状を自宅に送る,原告に送った記憶がある,店長から,原告はよく遅れる客だと聞いていた,原告に対し,督促の電話や一括請求をしたことがあるなどと供述しているが,前記のとおり原告と被告との取引経過は別紙フクホー法定金利計算書記載のとおりで,原告が被告に対し,支払期日を遅滞して返済したのは同計算書の26番,79番及び過払いとなった後の111番,156番だけであり,遅滞した日数も最大で4日(111番)に過ぎず,原告はほぼ支払期日どおりに返済していたものであること,被告の提出した取引経過は乙1号証の11であるが,これを証拠によって認定した取引経過(別紙フクホー法定金利計算書)と比較すると,原告が主張する,15個の取引及び同計算書記載84番,108番の取引が削除されていることが認められ,意図的に削除したものと推認されることに照らすと,平成14年8月2日か3日ころに●●●から電話を受けるまで,被告から電話があったことはない旨の原告の供述の方が信用性が高く,これに反する●●●の供述は信用性に乏しい。

したがって,被告は,原告に対し,平成14年8月2日または3日以前に,支払期日が遅れたことにつき督促したり,期限の利益を喪失させて残額を一括請求したことを認めるに足りる証拠はない。また,オーシービーについては,期限の利益を喪失したとして残額について一括請求していたことを窺わせる証拠はない。むしろ,変わらず分割の弁済金を受領し続けていたことが認められる。これらの各事実を総合すると,被告及びオーシービーは,原告に対し,期限の利益喪失を宥恕したか,遅滞の効果を免責したものと認めるのが相当である。

したがって,原告と被告及びオーシービーとの取引を利息制限法の制限利率に引き直す際には,原告は期限の利益を喪失していないものとして,別紙フクホー法定金利計算書及び別紙OCB法定金利計算書記載のとおりに計算すべきである。

(3)  前提事実のとおり,被告及びオーシービーは貸金業者であるから,本件各貸付金の利率が利息制限法違反であり,原告から利息制限法所定の制限利率を超える利息金の支払を受けた場合,それが順次元本に充当され,過払金が生じた際には不当利得として返還しなければならないことを知っていたといえ,みなし弁済の要件を満たしていると認めるに足りる証拠もないから,被告及びオーシービーは,原告から支払を受ける際に,法律上の原因がないことを知りながら利得したものと解される。したがって,被告及びオーシービーは,民法704条の悪意の受益者であると認められる。

2  みなし弁済の成否

被告が,第3回弁論準備手続期日(平成15年8月8日)において,みなし弁済の主張,立証を行う旨述べ,第5回弁論準備手続期日(同年10月10日)において,みなし弁済に関する主張を記載した準備書面(同年8月26日受付)を陳述し,その立証として18条書面を提出するとしたものの,第4回口頭弁論期日(平成16年1月16日)において,同主張を撤回したものであることは当裁判所に顕著である。しかるに,被告は,弁論終結予定であった第10回口頭弁論期日(同年8月18日)において,原告の署名がある貸金業法18条にかかる受取証書の控えが発見されたとして,再度みなし弁済の主張をしているが,以上の経過のほか,一見記録により明らかである本件訴訟の経過に照らすと,被告がみなし弁済の主張をするのであれば,訴え提起の当初からすることが可能であったものと考えられ,一旦同主張をしたものの撤回し,再度弁論終結間際に同主張することは,重大な過失による時機に遅れた攻撃防御方法の提出と言わざるを得ず,かつ,訴訟の完結を遅延させるものである。したがって,被告のみなし弁済の主張は却下する。

3  原告が過払金の返還請求をすることが権利濫用にあたるか

利息制限法は,貸金業者が締結するものに限らず,すべての金銭消費貸借上の利息の契約について,私法上有効な利率の範囲を限定する強行法規であって,同法の制限を超過する部分の契約は無効となり,債務者が利息制限法所定の制限を超えて任意に利息・損害金の支払を継続し,その制限超過部分を元本に充当すると計算上元本が完済になった後に債務者が支払った金額は,不当利得として返還請求できることは判例上認められている。したがって,原告が過払金の返還を請求することは権利濫用にあたらないし,その他の被告の主張も理由がない。

4  被告の取引経過不開示及び改竄の有無等と不法行為の成否

(1)  債務整理をする必要に迫られた多重債務者が,債務整理を委任した弁護士を通じるなどして貸金業者に対して,残債務や過払金の有無・金額を明らかにするために全取引経過の開示を求めたときは,契約関係を支配する信義誠実の原則に照らし,貸金業者は,これを拒絶する合理的な理由がある場合でない限り,これに応じるべき義務があり,これに反して全取引経過の開示を拒否した場合には,不法行為が成立するものと解するのが相当である。

(2)  本件においては,原告より債務整理を依頼された原告代理人弁護士が,平成14年9月13日に被告及びオーシービーに対し,書面で取引経過の全部開示を求めたこと(甲1の2,甲2の2),被告及びオーシービーは,一部の取引経過を開示したこと(甲1の1,2の1),原告代理人弁護士は,被告及びオーシービーに対し,同年10月11日に書面で全部の取引経過の開示を求めるなど,同年11月18日までに合計4回取引開始時からの取引経過の開示を求めたこと(甲1の3,1の4,2の3,2の4),以上の措置によっても,全取引経過が開示されなかったため,原告代理人弁護士は,同月22日に被告及びオーシービーに対する行政指導を求めたこと(甲1の4,2の4),結局原告は本訴を提起したが,前記認定したとおり,原告は,数回を除いて期限に遅れることなく被告及びオーシービーに対して返済していたにもかかわらず,被告が本訴において提出した取引経過は,被告との間のものについては17個の取引が削除され,2個の取引の日付が改竄されていること(甲19,20,乙1の11,原告本人),オーシービーとの間のものについても,11個の取引が削除され,2個の取引の日付が改竄されていること(甲19,21,乙2の8,原告本人),被告及びオーシービーが本件訴訟前に開示した取引経過においても,同様に一部取引が削除されていること(甲1の1,2の1)が認められる。

なお,乙1号証の10と乙3号証は同一の契約書であるが,証人●●●によれば,契約書は4枚作成され,1枚は顧客,1枚は被告本社,2枚は店で保管するとのことであるから,被告が乙1号証の10を提出後に「再々一括請求するもフリコウ」「管理要」と書き加えて乙3号証として提出したとまで認めるに足りる証拠はない。もっとも,前記認定したとおり,平成14年8月2日ないし3日以前に被告が原告に対して督促や期限の利益を喪失させるべく一括して請求したことはなかったのであるから,乙3号証の「再々一括請求するもフリコウ」,「管理要」との書き込みは,本件訴訟になってから,自己に有利な証拠を捏造するためになされたものとの疑いが強い。

(3)  以上のように,被告が,本件不当利得返還請求訴訟において,一部取引が削除された取引経過を証拠として提出したことなどについて,何ら合理的な理由を説明していないことからは,意図的に取引経過を改竄して原告に開示するとともに,民事裁判における証拠として提出したものと認められ,それにより自己の過払金返還義務を免れようとしたものというほかない。被告のかかる行為は,取引経過の開示を拒否して信義則上の義務に違反したことにとどまらず,自己の営業上の利益を追求するためであれば,手段を選ばず,民事訴訟において虚偽の証拠を提出して裁判の公正を害し,故意に原告の正当な権利を侵害しようとしたものであり,違法性が高い。

原告は,被告の上記不法行為により,適時に債務整理をする機会を失い,過払金の返還に関し原告代理人に委任して本訴を提起せざるを得なくなっただけでなく,本訴においても,正当な権利を侵害される危険にさらされたものと認められ,原告の被告に対する過払金の金額,被告の行為の悪質性,本件における被告の応訴態度等に照らし,被告の不法行為により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は30万円,弁護士費用は20万円と認めるのが相当である。

第4結論

以上より,原告の請求は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき180万8301円(被告との間107万6830円,オーシービーとの間73万1471円),不法行為による損害賠償請求権に基づき50万円の合計230万8301円及び内221万3158円に対する平成15年2月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法64条ただし書,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 關紅亜礼)

<以下省略>

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