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名古屋地方裁判所一宮支部 平成19年(モ)103号 決定 2008年7月09日

名古屋市●●●

申立人(原告)

●●●

訴訟代理人弁護士

小出智●●●

瀧康●●●

鈴木含●●●

東京都千代田区●●●

相手方(被告)

株式会社オリエントコーポレーション

代表者代表取締役

●●●

訴訟代理人弁護士

●●●

●●●

"

主文

本件申立を却下する。

理由

第1本件申立の趣旨

申立人が提出命令を求める文書の表示,文書の趣旨,文書の所持者,証明すべき事実及び文書の提出義務の原因は,別紙1及び2記載のとおりである。

第2相手方の意見

本件申立に対する相手方の意見は,別紙3記載のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  本件事案は,申立人が遅くとも平成3年10月28日までに貸金業者である相手方との間で,継続的消費貸借契約を締結して,借入と返済を繰り返し,また,平成11年11月10日に,継続的消費貸借契約を締結して30万円を借り入れ,その後,借入と返済を繰り返したが,利息制限法の制限利率に引き直して計算すると,過払いが発生しており,相手方は利息制限法を超える利息で貸付をしていることを知りながら貸付を行っている悪意の利得者であるとして,申立人が相手方に対し,不当利得返還請求権に基づいて,不当利得金等の支払を求める事案である。

2  申立人が提出命令を求める文書は,「相手方が所持する,その業務に関する商業帳簿(貸金業法19条で作成・備置が義務づけられている債務者ごとの帳簿)又はこれに代わる同法施行規則所定の書面のうち,相手方と申立人との間の継続的消費貸借の取引開始時から,平成10年9月28日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日・貸付金額)が記載された部分の全部(電磁的記録を含む)」(以下「本件文書」という。)であり,相手方が貸金業法19条(あるいは同法施行規則)に基づき作成保存すべき文書であるから,民事訴訟法220条3号の文書に該当し,申立人が主張立証すべき事実を立証するために利用できる文書であると認められる。

3  ところで,相手方は,本件文書につき証拠調べの必要性がなく,開示済みのもののほか,文書が存在しない旨主張するので,以下検討する。

まず,一件記録によれば,以下の事実が一応認められる。

①  申立人と相手方との間には,カストマーズカード契約とアメニティカード契約が締結されており,前者については,相手方から甲第3号証の1の2(カード入金履歴)及び3(利息制限法計算シート)のほか,乙第1号証(入金履歴)及び第4号証(カード計算書コム)の資料が開示されており,後者については甲第3号証の2の2(利息制限法計算シート)の資料が開示されているところ,前者については,平成6年7月5日より前の取引内容につき,貸付記録が開示されておらず,入金記録だけが開示されている。

②  相手方は,業務帳簿をコンピュータやCD-ROMなどの記憶媒体を利用して管理しており,顧客とカストマーズカード契約などのクレジット取引を行った場合は,社内規程等によって,その取引ごとに「契約番号」を付し,当該取引に関する債権管理は,その契約番号をもって行うことにし,顧客からの問い合わせに対しては,コンピュータによって当該契約番号に基づきコンピュータ端末上で検索して回答している。検索するには,「契約一覧」という画面で,カード契約では,カード契約番号,カード名称,最新利用日,利用累計額,債務残高,弁済状況等が確認できるが,債務残高のある契約では,「契約一覧」の画面から,より詳細な取引情報として,カード契約では,カード会員契約日,カード発券にかかる情報,ショッピング及びキャッシングの利用累計額などがコンピュータ端末上で確認できる。

③  入金履歴については,現行コンピュータシステムに移行した平成2年1月5日以降分については,コンピュータ端末上で確認でき,それ以前の部分は,引継として半年間分の入力がされたので,平成元年7月1日以降分がコンピュータ端末上で確認できる。

④  相手方は,カード契約に基づき,ショッピング及びキャッシングの利用がなされると,利用ごとに個別に立替払契約や貸付契約が成立するものとして取扱い,個別の債務残高のあるものについて,貸付(契約)日,貸付(立替)金額,利息(分割払手数料)の額や貸付利率(分割払手数料率)等に関する情報を「カード計算書」の形で保管している。なお,クレジットカードを利用した立替払契約や貸付契約については,相手方は,個々の契約ごとに「売上連番」と呼ぶ整理番号を付して管理し,個々の弁済金も売上連番ごとに充当処理している。

また,相手方は,カード計算書につき,請求月ごとに当該記憶媒体に内容をコピーして「カード計算書コム」と呼んで保管しており,これには,個別の貸付契約又は立替払契約に関する貸付日,貸付金額,貸付利率,返済方法,当月請求金額,残存元本等が記載されている。

⑤  カード計算書の情報は,カード利用により個別に成立した立替払契約や貸付契約がそれぞれ完済することによって,債権管理や顧客からの問い合わせ対応が不要となるが,そのような不要なデータをコンピュータに保管したままであればコンピュータの負荷が大きくなり,稼働能力が下がって照会業務の効率を損ねるおそれがあることから,相手方は,完済から2か月を経過した時に,完済した売上連番の情報をコンピュータ上から削除している。もっとも,現行のコンピュータシステム設計は,充当先の個別の貸付債権が完済しても,入金履歴情報に自動的に反映させる設計にはなっていないため,個別の貸付情報が消滅した後も入金履歴だけは残存することになる。

相手方は,「カード計算書コム」の保管期間を,社内規程によって10年とし,10年が経過すると,備え付けのシュレッダーを使用して順次廃棄処分を行っていたが,平成18年3月の経過をもって廃棄対象となるカード計算書コムについては,最高裁判所の判決等を考慮して,廃棄を行っていない。

4  以上によれば,カストマーズカード契約については,平成6年7月5日より前の取引内容につき,入金記録は開示されているものの,貸付記録が開示されていないけれども,これは,個別の立替払契約や貸付契約が完済されたことから,コンピュータに入力された情報が削除されたことによるもので,相手方が開示したもの以外には,相手方が本件文書を所持していないというべきである。

すると,本件文書のうち,すでに開示されたものについては文書提出命令を認める必要性はなく,その余のものは相手方が所持していないので,本件請求は理由がない。

5  ところで,申立人は,「各契約について完済から何か月経過したかを管理して日々削除しているというのは不自然である」と反論するけれども,乙第6号証(報告書)において,相手方法務部課長は「記憶装置に保存できるデータ量が一定量に制限されることから,記憶装置に記録保存されるデータを,業務上特に使用頻度の高いデータに個別に選定せざるをえず,完済された売上データなどが一定期間経過後に記憶装置から削除される設計が採用された」旨を説明しており,上記説明によれば,相手方のデータ管理ないし削除につき不自然なところはない。

さらに,申立人は,「入金履歴は貸付記録の取扱と整合せず,別の取扱をする合理的説明がない」旨主張するけれども,乙第5号証(報告書)において,相手方法務部課長は「現行のコンピュータシステム設計においては,充当先の個別の貸付債権が完済となったことを入金履歴情報に自動的に反映させる設計,つまり,充当先の債権全部が完済されたときに自動的に当該入金履歴情報を消去する設計をしていないため,個別の貸付情報が消滅した後も入金履歴が残存している」と説明しており,入金履歴があっても貸付記録がない理由を明らかにしており,申立人の上記主張は理由がない。

6  以上のとおりであって,本件申立は理由がないから,これを却下することとし,主文のとおり決定する。

(裁判官 鬼頭清貴)

別紙1

本案 平成19年(ワ)第613号

申立人(原告) ●●●

相手方(被告) 株式会社オリエントコーポレーション

文書提出命令申立書

平成19年11月29日

名古屋地方裁判所 一宮支部 民事部 御中

申立人訴訟代理人弁護士 小出智●●●

上記当事者間の頭書事件につき,下記文書の提出命令を発せられたく申し立てる。

1 文書の表示

相手方が所持する,その業務に関する商業帳簿(貸金業規制法19条で作成・備置が義務づけられている債務者ごとの帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条第3項・17条第2項に定める書面のうち,相手方と申立人との間の継続的消費貸借の取引開始時から,平成10年9月28日までの期間内における金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日・貸付金額)が記載された部分の全部(電磁的記録を含む)

2 文書の趣旨

契約締結日から平成10年9月28日までの期間における申立人と相手方との間の借入の経過が記載されている。

3 文書の所持者●●●被告●●●

4 証明すべき事実

申立人と相手方は,平成3年9月30日,継続的金銭消費貸借契約を締結し,その後,平成10年9月28日までの間,借入と返済を繰り返した。その取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,少なくとも平成10年9月28日の時点で申立人は相手方に対して403,433円の不当利得請求権を有すること(甲5)。

5 文書提出義務の根拠

申立人と相手方の金銭貸付及び返済の事実を後日明確にするために貸金業規制法19条で,被告に作成義務を課した文書であり,民事訴訟法第220条第3号の法律関係文書(申立人・相手方間の消費貸借(挙証者と文書の所持者との間の法律関係)に関し作成されたもの)に該当する。

以上

別紙2

平成19年(モ)第103号 文書提出命令申立事件

(本案事件 平成19年(ワ)第613号 不当利得返還請求事件)

申立人(原告) ●●●

相手方(被告) 株式会社オリエントコーポレーション

意見書

平成20年3月13日

名古屋地方裁判所 一宮支部 民事部 御中

申立人代理人弁護士 小出智●●●

同 瀧康●●●

同 鈴木含●●●

相手方の主張に対する反論

第1 証拠調べの必要性について

相手方は,入金履歴には個々の貸付ごとに連番が振られ,返済額とその元利金の内訳が記載されているのであるから,合算により確実に貸付が復元出来るのであるから,代替証拠として十分であり,本件文書提出命令の申立には証拠調べの必要性がないと主張する。

しかし,入金履歴により復元できるのは貸付額のみであって,貸付利率や貸付日は復元できず,相手方の貸付年月日・貸付金額が記載された部分の文書は証拠として必要不可欠であり,証拠調べの必要性がある。

相手方は,貸付利率,貸付年月日は計算により推定できるため証拠調べの必要がないと主張するのかもしれないが,あくまでも推定に過ぎず,推定できるからといって貸付年月日・貸付金額が記載された部分の文書の証拠調べの必要性がないとはいえない。また,相手方が本案における第2準備書面にて主張する計算方法によると,どの連番の取引を計算の素材とするかによって異なった貸付利率が算出されてしまう(例えば,5001番を相手方主張の計算方法とおりに計算すると利率は22.598484%,5002番を計算すると利率は22.56%,5004番を計算すると利率は22.598447%となる。)。したがって,推定では正確な貸付利率すら算出できず,この点からも相手方の貸付年月日・貸付金額が記載された部分の文書は証拠として必要不可欠である。

第2 文書の存否について

1 相手方は,完済後何ヶ月かの経過を以てカード計算書の情報等をコンピューター上から削除すると主張し,CDロム等で保管していた貸付記録については10年間保管後に順次廃棄しており,顧客からの開示要求がなされた10営業年度以前に完済となった貸付については文書が存在しないと主張する。

しかし,カード計算書の情報は完済より2ヶ月経過後,その他の取引情報は完済より5ヶ月経過後,契約一覧における情報は契約形態別に一定期間経過後にコンピューター上から削除すると言うが,各契約について完済から何ヶ月経過したかを管理をして日々削除しているというのは不自然である。また,入金履歴については,平成3年10月分から提出されており(乙1),貸付記録の取扱と整合せず,別の取り扱いをなすかについての合理的説明もない。

第3 相手方による,本件と同様の取引履歴削除の主張を排斥して文書提出命令を認めた判例が多数下されており,参考判例として提出する。

1 大阪地裁決定 平成19年3月5日(参考1)

取引履歴の重要性を指摘し,これを敢えて廃棄する合理性は認められない等として文書提出命令を認めた。

2 大阪地裁決定 平成17年2月18日(参考2)

取引履歴保存の重要性を指摘し,これを敢えて廃棄する合理性を是認できないとして文書提出命令を認めた。

3 大阪高裁決定 平成17年5月12日(参考3)

上記大阪地裁決定の内容に加え,相手方が取引履歴削除に関して虚偽の主張をしていたことも指摘して上記決定を維持した。

4 札幌高裁決定 平成17年11月10日(参考4)

記録を廃棄したとすれば当然あるはずの資料が一切提出されていないことを詳細に指摘して,相手方の主張を排斥した。

5 熊本地裁山鹿支部 平成18年1月13日(参考5)

相手方が記録を廃棄することの不合理性,何等の具体的証拠が提出されていないことの不合理性を指摘して相手方の主張を排斥した。

6 福岡高裁決定 平成18年3月28日(参考6)

上記決定に加え,相手方の文書廃棄手続に関する具体的内容が明らかでなく,証拠も見当たらないことを指摘し,上記決定を維持した。

7 旭川地裁決定 平成18年5月1日(参考7)

廃棄に関する具体的証拠がないことなどを理由に相手方の主張を排斥し,簡易裁判所の決定を維持した。

8 徳島地裁決定 平成18年8月10日(参考8)

相手方の主張する廃棄に事実を裏付ける疎明資料がないとして,相手方の主張を排斥した。

9 広島高裁岡山支部決定 平成18年10月4日(参考9)

文書廃棄に関する具体的説明もなく,客観的資料を提出する努力もしないような場合に,当該主張を信用して廃棄の事実を認定することは著しく不公平であるとして,文書提出命令を認めた。

以上

別紙3

平成19年(モ)第103号 文書提出命令申立事件

本案事件平成19年(ワ)第613号 不当利得返還請求事件

申立人(原告) ●●●

相手方(被告) 株式会社オリエントコーポレーション

文書提出命令申立に対する意見

平成20年3月7日

名古屋地方裁判所一宮支部 民事部

相手方代理人弁護士 ●●●

同 ●●●

電話 ●●●

FAX ●●●

第1 意見の要旨

1 証拠調べの必要性がない。

2 開示済みのもののほか,文書が存在しない。

第2 証拠調べの必要性について(民訴法181条1項)

1 当然のことながら,文書提出命令の申立は,証拠調べの一環として行われるものであるから,文書提出命令の申立があった場合には,文書の存否ないしは同申立に関する民訴法220条以下に定める要件の存否の判断に先立ち,一般的な証拠調べの必要性を判断しなければならず(民訴法181条1項),証拠調べの必要性のない事項について文書提出命令の申立があった場合には,これらに関する判断をするまでもなく,当該申立を却下しなければならない。

2 文書提出命令の申立は,本来立証責任を負う当事者が自ら文書を証拠として提出するかわりに,裁判所の命令によって他人が所持する文書の提出を求めるもので,その内容によっては相手方にとって大きな負担となり,かつ,これに従わない場合,当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるという極めて強力な効果を有するものである。

3 従って,文書提出命の申立にかかる文書の存否についての判断はもとより,証拠調べの必要性についても,これを厳格に解さなければならず,当該書証の性質,当該訴訟における不可欠性,代替証拠の有無,要証事実が存在することの蓋然性,各当事者の公平性等を十分に考慮して判断しなければならない。

4 これを本件について見るに,本件取引のうち,一部貸付記録が破棄されて存在しないものがあるが,取引のすべての部分について,貸付記録の裏返しともいうべき入金履歴が残っており,当該入金履歴には,個々の貸付けについての連番ごとに,返済額とその元利金の内訳が記載されており,個々の返済額を合算する方法により確実に貸付けが復元できるのであるから,代替証拠として十分であり,かつ,本件訴訟の審理を行う上で,不可欠とも言えない。

5 以上により,本件文書提出命令の申立は,証拠調べの必要性がないものとして,却下されるべきである。

第2 文書の存否について

1 被告の貸付記録の保管及び破棄の状況は,乙第5,6号証の報告書のとおりである。

2 上記乙第5号証報告書にあるとおり(7頁参照),被告は,毎請求月ごとに作成され,コンピュータから削除後はCDロム等で保管していた貸付記録(乙第4号証)を,10年間(正確には作成後最初に到来する4月1日から起算して10年)保管した後順次廃棄しており,このため,顧客から貸付記録の開示要求がなされた10営業年度前に約定請求がなされていた貸付については開示可能であるが,それ以前に完済となった貸付については,記録が存在せず,開示ができない。(ただし,入金履歴による復元が可能であることはすでに述べたとおり。)

3 なお,原告は,貸金業法19条を引用して,被告が文書を所持しているはずである旨主張するが,同条に定める業務帳簿の保管期間は,完済後3年であり,被告は,上記法定期間を大幅に超えて約10年間これを保管した後,破棄しているのであるから,この点が理由にならないことはもちろんである。

4 以上により,本件文書提出命令の目的たる文書は,開示済みのもののほか,存在しない。

第3 以上により,原告の本件文書提出命令の申立は,速やかに却下されるべきである。

なお,被告を相手方とする文書提出命令申立を明示的に却下した最近の事例として,

名古屋地裁平成18年(モ)第688号事件(参考1)

福岡高裁平成19年(ラ)第42号事件(参考2)

金沢地裁平成19年(モ)第137号事件(参考3)

名古屋高裁金沢支部平成19年(ラ)第34号事件(参考4)

があるので,参考判例として提出する。

以上

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