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名古屋地方裁判所一宮支部 平成19年(ワ)413号 判決 2008年12月16日

原告

亡X1訴訟承継人 X2<他1名>

上記二名訴訟代理人弁護士

鈴木典行

舩野徹

小林輝征

被告

同訴訟代理人弁護士

加藤大喜

数井恒彦

西尾幸彦

山田博

髙橋俊光

岡崎秀樹

水越聡

主文

一  被告は原告X2に対し、二〇九万三一三〇円及びこれに対する平成一六年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X3に対し、二〇九万三一三〇円及びこれに対する平成一六年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを六分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決の主文第一項及び第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  被告は原告X2に対し、一二六五万一〇七二円及びこれに対する平成一六年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告X3に対し、一二六五万一〇七二円及びこれに対する平成一六年五月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  仮執行宣言

第二本件事案の概要等

一  本件は、亡X1(以下「亡X1」という。)が被告に対し、平成一六年五月一四日に発生した交通事故(以下「本件事故」という。)によって負傷し、脊柱関係と歯科関係の傷害を負ったところ、亡X1は、被告加入の保険会社との間で、平成一七年九月二〇日、示談(以下「本件示談」という。)を成立させ、七一九万七一八八円の支払を受けたが、本件示談は、脊柱関係の傷害をもとになされており、歯科関係について考慮されておらず、錯誤無効または債務不履行解除を主張して、既払金を控除した交通事故に基づく損害賠償の支払を求めるものであるところ、訴訟係属中に亡X1が死亡したことから、その相続人である夫の原告X2(以下「原告X2」という。)と長女の原告X3(以下「原告X3」という。)が訴訟を承継した事案である。

二  前提事実

(1)  本件事故の発生

平成一六年五月一四日午後二時四八分頃、愛知県犬山市字上舞台一八番地先市道上(以下「本件事故現場」という。)にて、被告が運転する自家用普通乗用自動車(《登録番号略》。以下「被告車」という。)と、原告X2が運転する自家用普通貨物自動車(《登録番号略》。以下「原告車」という。)とが衝突する本件事故が発生した。その態様は、原告車が、本件事故現場において、右折するために右ウインカーを出して停止して待機していたところ、被告車が原告車の後方に追突したというもので、原告車が損壊し、さらに原告車に乗車していた亡X1が受傷した。

(2)  被告の責任

被告は、被告車を運転中、前方を注視して運転をしなければならないところ、それを怠った過失(前方不注視)により本件事故を起こしたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。また、被告は、本件事故当時、自己のために被告車を運行の用に供していた者であり、本件事故は、その運行によって生じたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、これによって生じた人的損害を賠償する義務がある。

(3)  亡X1の傷害

亡X1は、本件事故によって、①全身打撲、左下腿挫創、左腓骨骨折、左拇指末節骨骨折、右下腿挫傷、右下腿皮下血腫、②下唇裂創、歯肉裂創、外傷性歯牙脱臼、歯槽骨骨折、上下顎骨骨折、頬骨骨折の傷害を受けた。

(4)  亡X1の治療の経過

亡X1は、本件事故によって生じた上記①の傷害(脊柱に関するもの)について、別紙一治療費等一覧(脊柱関係)記載のとおり、医療法人医仁会さくら病院(以下「さくら病院」という。)に、平成一六年五月一四日から同年八月六日まで入院(実日数八五日)、同年九月一日から平成一七年六月四日まで通院(実日数一〇七日)した。

また、上記②の傷害(歯科に関するもの)について、別紙二治療費等一覧(歯科関係)記載のとおり、さくら病院に、平成一六年五月一四日から同年八月六日まで通院(実日数七六日)した。

(5)  後遺障害

亡X1の上記①の傷害(脊柱に関するもの)は、さくら病院において治療を受け、平成一七年六月二日に症状固定となり、損害保険料率算出機構は、同年八月二五日、上記①の傷害について、自賠等級別表第二第一一級七号に該当するとの認定をした。

亡X1の上記②の傷害(歯科に関するもの)は、さくら病院において治療を受け、平成一六年八月六日に症状固定となり、損害保険料率算出機構は、平成一八年一一月二日、上記②の傷害について、自賠等級別表第二第一一級四号に該当するとの認定をした。この結果、亡X1の後遺障害は、現症について自賠等級別表第二併合第一〇級、既存障害について自賠等級別表第二第一四級二号の加重障害と認定された。

(6)  本件示談の成立

亡X1と、被告加入の保険会社との間で、平成一七年九月二〇日、本件事故につき、下記の内容を含む本件示談が成立し、亡X1は、既払金を含め、本件示談金七一九万七一八八円の支払を受けた。

亡X1は、本件事故によって生じた人身損害の一切の損害賠償金が七一九万七一八八円であることを認め、被告その他本件事故の賠償義務者からの既受領額(自賠責保険による支払を含む)二五四万七一八八円の他に、今後、保険会社より四六五万円を受領のうえは、本件事故の全ての賠償義務者に対してその余の損害賠償請求権を放棄し、裁判上・裁判外を問わず何ら異議の申立て、訴訟の提起等をいたしません。(甲二二)

(7)  亡X1の死亡と相続

亡X1は、本件訴訟係属中の平成二〇年六月五日、死亡し、同人の権利義務は、相続人である原告ら(原告X2は亡X1の夫、原告X3は原告X2と亡X1との間の長女)が各二分の一の割合で承継した。

三  当事者の主張

(原告らの主張)

(1) 錯誤無効(主位的主張)

本件示談に先立って、保険会社の担当者であるA(以下「A」という。)から示談案(甲二一)を示され、本件示談は同案のとおりの内容となったものであるが、亡X1はAから示談案について説明を受けることなく、甲二一の書面で給付額を認識したものであるところ、示談案は、本件事故後の入通院状況を正確に反映しておらず、しかも、傷害慰謝料については自賠責保険の基準を若干超えているものの、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料のいずれもが自賠責保険の基準どおりのものとなっており、本件示談の成立に際して亡X1が署名押印して差し入れた免責証書(甲二二)には「本件事故による人身損害の一切の賠償金」とある。

すると、亡X1は、本件示談を成立させるにあたり、①治療費及び入通院慰謝料は、本件事故後の入通院状況を正確に反映したものであること、②歯科関係についても後遺障害の有無が吟味されたものであること、③後遺障害に関する損害について、自賠責保険認定額しか認容されないことを動機として、明示または黙示に表示していたというべきである。

ところが、本件示談のもとになった示談案には、亡X1が本件事故によって入通院をした状況と明らかに異なっており、Aが参照した診断書の記載を見れば歯科関係の傷害も後遺障害が出ることは明らかであったし、後遺障害に関する損害につき自賠責保険認定額以上の額が認容され得ることは顕著な事実である。

以上によれば、本件示談の意思表示の内容となった①②③の点について錯誤があり、この点について錯誤がなければ、亡X1は本件示談を締結しなかったことは明らかであるし、一般人も亡X1と同様の状況におかれた場合には本件示談をしなかったことは明白である。

したがって、本件示談における亡X1の意思表示には要素の錯誤があり、本件示談は錯誤によって無効となる。

(2) 債務不履行解除(予備的主張)

仮に、本件示談が錯誤無効とならなかったとしても、本件示談を成立させるにあたり、上記(1)の①②③について十分かつ適切な説明を行うことは本件示談の目的達成の可否を判断するために必要不可欠なものであり、本件示談に付随する重要な債務であるにもかかわらず、保険会社の担当者であるAは、亡X1及び原告X2に対する①②③についての説明を怠ったものであり、この点について債務不履行があるから、亡X1は平成一九年一一月一六日付準備書面一をもって、本件示談を解除する旨の意思表示をする。

(3) 亡X1の損害額

① 亡X1は、本件事故によって、以下の損害を被った。

イ 亡X1が支払った治療費等 二五五万八一一〇円

亡X1は、本件事故によって、入院・通院治療を受け、別紙一及び別紙二記載のとおり、治療費等を支払った。

ロ 入院雑費 一二万七五〇〇円

一日当たり一五〇〇円で八五日分の一二万七五〇〇円

ハ 休業損害 三七一万三二六五円

亡X1は、本件事故に遭って負傷するまでは、炊事、洗濯等の家事一般をこなしていたが、本件事故後、家事一般を全く行うことができなくなった(亡X1の夫である原告X2が家事一般を行った。)。亡X1の事故当時の学歴計全年齢平均賃金は、年間三五〇万二二〇〇円であるから、一日当たり九五九五円となり、これに本件事故から症状固定時までの日数三八七日を掛けると、三七一万三二六五円となるので、休業損害は同額である。

ニ 通院交通費 七七〇〇円

亡X1は、本件事故によって、原告X2の運転する自動車で一〇七日間自宅からさくら病院に通院したが、亡X1の自宅からさくら病院までの距離を三キロメートル、ガソリン一リットル当たり一二〇円、ガソリン一リットル当たりの走行距離を一〇キロメートルとすると、本件事故によって生じた交通費は、七七〇〇円(端数切り捨て)である。

ホ 入通院慰謝料 二三〇万円

入院三・五か月、通院九か月であるから、入通院慰謝料は二三〇万円が相当である。

ヘ 装具代 四万五九三八円

亡X1は、頸椎装具を朝日義肢製作所に依頼した。

ト 後遺障害分 二一四四万六八一九円

亡X1は、本件事故に遭う前、朝、昼、夕食の準備、そのための買い物、洗濯等の家事全般を一人で行っていた。しかし、亡X1は、本件事故後、立ち続けることが困難になった。また、自宅室内の歩行の際には、室内に設置された手摺につかまらないと歩行もままならないようになった。さらに、外出の際には、外出先に用意してある車いすを使用して移動せざるを得ない状況にある。

亡X1は、本件事故後、歯にも障害を負い、発語が不明瞭となった。このため、本件事故の前と比較して、会話による意思の伝達に苦慮することになった。

このように、本件事故後、亡X1は、主婦としての仕事が不可能となっていることから、後遺障害一〇級と認定されたとしても、同級の労働能力喪失率が二七パーセントとされているが、労働能力喪失率は五〇パーセントを下回らないことは明らかである。

したがって、亡X1において発生する後遺障害分の損害は、慰謝料九〇〇万円、逸失利益一二四四万六八一九円(年収を学歴計全年齢平均賃金三五〇万二二〇〇円、労働能力喪失率五〇パーセント、症状固定時である六三歳から七二歳まで九年間に対応するライプニッツ係数七・一〇八で算出)となる。

② 亡X1は、本件示談の示談金七一九万七一八八円の支払を受けているところ、この示談は、錯誤によって無効となるべきものであるが、上記亡X1の損害に充当し、その結果、支払われていない亡X1の損害は、二三〇〇万二一四四円となる。

③ 弁護士費用

亡X1は、原告訴訟代理人らに対し、本件訴訟の追行を委任したが、弁護士費用としては、二三〇万円が本件事故と相当因果関係があると解すべきである。

④ 各原告の請求額

前記②と③を加算すると、被告が支払うべき金額は、二五三〇万二一四四円となり、原告らは二分の一ずつの相続分を有することから、原告らがそれぞれ被告に請求しうる金額は一二六五万一〇七二円となる。

(被告の主張)

(1) 錯誤無効の主張に対して

原告らの主張する①②③の動機は、本件示談が締結される当時、亡X1の動機になっておらず、動機として明示的または黙示的に表示されたこともない。

入通院慰謝料額は、総治療期間と入院日数に応じて算出され、特殊な事情がない限り、実通院日数が慰謝料額に反映することはない。本件では、実通院日数に誤りがあるものの、総治療期間には相違がないので、入通院慰謝料額が不利になっているわけではない。

なお、本件示談成立後、歯科関係の点を含めて、亡X1の後遺障害は併合一〇級と認定されたことから、担当者は亡X1に対し、併合一〇級に認定されたことに伴い、一一三万円の追加支払をする旨の案内をした。

(2) 債務不履行解除の主張について

Aは、甲二一、二二、二五を送付することによって、十分説明義務を果たしており、本件示談を解除しなければならないほどの重大な債務不履行に及んだ事実は認められず、債務不履行解除の主張は失当である。

(3) 亡X1の損害について

① 原告らの主張における亡X1の損害について

イ 治療費等

二五〇万一二五〇円は認めるが、その余は否認する。

ロ 入院雑費

一一万三三〇〇円は認めるが、その余は否認する。

ハ 休業損害

否認する。

ニ 通院交通費

否認する。

ホ 入通院慰謝料

一六四万〇五〇〇円は認めるが、その余は否認する。

ヘ 装具代

認める。

ト 後遺障害分(慰謝料、逸失利益)

否認する。

② 弁護士費用についても否認する。

四  本件の争点

(1)  本件示談の効力(錯誤無効、債務不履行解除)

(2)  本件事故の損害額

第三当裁判所の判断

一  錯誤無効の主張について

本件事故に基づく亡X1の傷害は、脊柱関係と歯科関係とに大別できるところ、後者については平成一六年八月六日に症状が固定し、前者については平成一七年六月二日に症状が固定したとして担当医がそれぞれ診断している。そして、被告の保険会社は、平成一七年八月二六日、亡X1の脊柱関係だけの「後遺障害等級認定票」を損害保険料率算出機構から受け取ったことから、同年九月八日、この認定票に基づき「損害賠償額(示談によるお支払額)のご案内」(甲二一)を作成して亡X1に送付した。この案内には、

「Ⅰ 傷害による損害について

1  治療費 二五〇万一二五〇円

総治療期間 三八七日間

平成一六年五月一四日から平成一七年六月四日

入院日数一〇三日

通院実日数六二日

2  看護料 〇円

3  雑費・その他 一五万九二三八円

入院雑費一一〇〇円×一〇三日=一一万三三〇〇円

頸椎装具代四万五九三八円

4  休業補償 〇円

5  慰謝料 一六四万〇五〇〇円

入院分七一万四〇〇〇円

通院分五九万八四〇〇円

一三一万二四〇〇円×一二五%=一六四万〇五〇〇円

6  傷害による損害額小計 四三〇万〇九八八円

Ⅱ 後遺障害(一一級七号)による損害について

7  逸失利益 一五四万四九二一円

年齢別平均給与額 二三万六四〇〇円

労働能力喪失期間 三年(係数二・七二三)

労働能力喪失率二〇%

二三万六四〇〇円×一二か月×二〇%×二・七二三=一五四万四九二一円

8  慰謝料 一三五万円

後遺障害一一級

9  その他 〇円

10  後遺障害による損害額小計 二八九万四九二一円

Ⅲ 総損害について

11  損害額合計 七一九万五九〇九円

12  減額 〇円

13  自賠責保険認定額 四五一万円

14  損害賠償額 七一九万五九〇九円

15  お支払済みの金額 二五四万七一八八円

さくら病院へ 二五〇万一二五〇円

朝日義肢製作所へ 四万五九三八円

示談による最終お支払額 四六四万八七二一円

→四六五万円」

との旨の示談案の記載があり、甲二五の説明文書とともに、亡X1に送付された。これに対して、亡X1は、同案について了承し、「人身事故の損害賠償に関する承諾書(免責証書)」(甲二二)に署名押印して本件示談が成立した。

以上をもとに、本件示談についての錯誤無効の成否について検討するに、交通事故に基づく損害賠償の示談につき、後遺障害についての等級認定を待ってこれに基づいて行うときは、特段の事情がない限り、前提となった等級認定をもとに、これ以外には当該交通事故に基づく後遺障害や等級認定が存在しないものとして、示談を成立させるものであって、前提となった等級認定や障害以外には、障害や別の等級認定がないことを前提とする旨の当事者の意思の合致があったと考えるのが、当事者の合理的な意思に沿うものであり、妥当な意思解釈であるというべきである。すると、本件では、上記特段の事情がないにもかかわらず、歯科関係の後遺障害やその等級認定の存在を当事者双方が失念したまま、本件示談を締結したものであり、他には障害や別の等級認定がないこととした当事者の意思表示につき錯誤があり、その限度では、原告ら主張の錯誤無効の①②の主張は理由があるというべきである。そして、その錯誤無効の効果としては、脊柱関係について成立した示談を無効とするだけの理由はないので、本件示談を全面的に無効とするのではなく、歯科関係の障害につき、一切解決したものとする旨の本件示談の効力が無効となり(一部無効)、亡X1は被告に対して、歯科関係の損害賠償を請求することができるものと解すべきである。

なお、原告らが主張する錯誤無効の③は、動機が表示されたものとは認められず、債務不履行解除の前提として原告ら主張の説明義務の存在も是認することはできない。

二  亡X1の損害について

上記のとおり、脊柱関係の損害については、本件示談で解決済みであるから、以下においては、原告らが請求することができる歯科関係に関する損害について検討する。

(1)  治療費等 〇円

亡X1の歯科関係の治療費等は、《証拠省略》によれば、三二万六五〇〇円であることが認められる。しかしながら、脊柱関係の治療費等は二二三万一六一〇円であり治療費等の総額は、二五五万八一一〇円となり、本件示談成立前の既払金二五四万七一八八円の内二五〇万一二五〇円がさくら病院に支払われていること(甲二一)に照らせば、すでに保険会社から治療費等についてはほぼ全額亡X1に支払われていて清算済みであり、亡X1につき歯科関係の損害が現存していることを認めるに足りる証拠はない。

(2)  入院雑費 〇円

歯科関係につき入院はなく、入院雑費は認められない。

(3)  休業損害 三六万四八〇〇円

歯科関係の通院実日数七六日につき、半日休業が生じて、一日当たりの休業損害額を九六〇〇円(学歴計全年齢平均賃金を参考に同額と判断する。)として、三六万四八〇〇円となる。

(4)  通院交通費 〇円

歯科関係の治療は、平成一六年五月一四日から同年八月六日までの間に七六日さくら病院に通院して行われたところ、亡X1は脊柱関係の治療のため平成一六年五月一四日から同年八月六日までさくら病院に入院していたのであるから、歯科関係について通院交通費は発生しておらず、通院交通費は認められない。

(5)  通院慰謝料 四〇万円

既払分一六四万〇五〇〇円の入通院慰謝料は、脊柱関係を前提として入院分七一万四〇〇〇円(入院日数一〇三日)・通院分五九万八四〇〇円(通院日数六二日)の二五パーセント増とする保険会社の試算のとおり支払われており(甲二一、二二)、通院実日数七六日を要した歯科関係の通院治療は脊柱関係の入院治療期間に行われているものの、既払分に評価されておらず、四〇万円が相当である。

(6)  装具代 〇円

歯科関係の装具代は認められない。

(7)  後遺障害慰謝料 一三〇万円

本件示談の前提となった一一級と歯科関係を併合して考慮された一〇級の差額を支払うべきところ、後遺障害慰謝料としては一〇級は五五〇万円・一一級は四二〇万円が相当であるから、一三〇万円を支払うべきである。

(8)  逸失利益 一七四万一四六〇円

一〇級の労働能力喪失率二七パーセントから一一級の労働能力喪失率二〇パーセントを差し引いた七パーセント分を支払うべきであり、年収三五〇万円(学歴計全年齢平均賃金を参考に同額と判断する。)、九年分のライプニッツ係数七・一〇八によって、一七四万一四六〇円を支払うべきである。

(9)  弁護士費用 三八万円

上記①ないし⑧までの合計は三八〇万六二六〇円となるところ、本件と相当因果関係がある弁護士費用は三八万円が相当である。すると、以上の合計額は、四一八万六二六〇円となる。

三  すると、原告らの請求は、上記四一八万六二六〇円につき相続分二分の一に応じた二〇九万三一三〇円とこれに対する本件事故の当日である平成一六年五月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を原告らが被告に対して求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとする。

(裁判官 鬼頭清貴)

別紙一 治療費等一覧(脊柱関係)《省略》

別紙二 治療費等一覧(歯科関係)《省略》

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